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・全能の書2


「こっちだよ!」
 全能の書発見の報を受けて、久世 沙幸(くぜ・さゆき)はノインの護衛をしながらそこへ向かっていた。ポイントについては一応確認はしている。
「やはり、まだ出てきますわね」
 藍玉 美海(あいだま・みうみ)が通路の先を見る。機甲化兵・改の姿がそこにはあった。
「今は相手にしてなんかいられないんだもん」
 目的が決まっていれば、無理に破壊せずとも、戦闘不能に持ち込めば問題はない。
 沙幸は機甲化兵・改に轟雷閃を纏わせた手裏剣を投げつける。狙いはやはり、他の箇所より装甲が薄い関節部だ。
 手裏剣は敵の脚部関節にヒットする。
 その手裏剣に対し、美海がサンダーブラストを撃ち込んでいく。それによって、電撃の効果を高め、敵の動きを止めようとする。
「そう簡単には止まらないみたい」
 再度、敵への攻撃を試みる。進行方向上に機甲化兵・改がいる以上、接近戦はやむを得ない。
 栄光の刀を抜き、轟雷閃を撃ち込み、刀を突き立てる。そこに、美海が雷術を流し込む事で、機甲化兵・改を倒す。
 前方を塞いでいた二体は、これで倒す事が出来た。
 そこを超えたところで、女性の後ろ姿が見えた。アルメリアだ。
 彼女がここにいるという事は、全能の書はもうすぐ近くまで来ている。
 いや、そうではない。
 通路の先を見ると、全能の書はもう目と鼻の先と言ってもいいほどに近付いていた。
「全能の書、捕捉完了」
 ノインの前で光が収束し、それが波動となって全能の書へと放たれる。
 だが、全能の書もそれを瞬時に打ち消す。
「被験体0073と認識。システムへの最大の脅威として、排除します」
 全能の書が、ノインに対して攻撃態勢に入る。
「出ましたわね」
 相手が攻撃を放つ前に、美海がブリザード、そして氷術を全能の書に放つ。身動きが取れないよう、氷付けにするためだ。
 だが、ノインの魔法を防いだほどだ。彼女に到達するまでもなく、打ち消されてしまう。
「システムの影響、軽微。優先事項、被験体0073の消去」
 ノインに対して、全能の書の攻撃が放たれる。
「さすがに、管理者なだけはある」
 ノインと魔力は拮抗、むしろ全能の書の方が上回っている。このままの競り合いは危険だ。
「どうして、こんな事をしているのですか?」
 エメが全能の書に問う。
「回答。マスターの指示の元、システム防衛のため。以上」
 すぐに彼女の周囲に光が浮かび始める。
 そして、それは波動砲となって放たれた。
「……ッ!!」
 それをかわす一行。
「戦うしか、ないのかよ……!」
 が歯を噛み締める。目の前にいるのが女性である以上、争いたくはない。
 だが、それは叶わない。
 感情のない、システムの一部に説得や感情論など通用し得ないのだ。
「やるしかないよ、周くん」
 レミが言う。
 機甲化兵・改を相手にする時には、周が金剛力で強化し轟雷閃を放ち、レミがそれに合わせてサンダーブラストを放てばよかった。
 だが、今回ばかりは勝手が違う。
「対象を殲滅します」
 全能の書の掌に、黒い球体が形成される。
 マイクロブラックホールのようなものだ。それが放たれれば、この場にいる者はひとたまりもない。
「システムの魔力を誘導し、あれを無効化する」
 すぐにシステムに干渉し、眼前のマイクロブラックホールを打ち消そうとするノイン。だが、そうする前にそれは放たれた。
「あたしにまかせて!」
 その球体に向かって飛び込んでいったのは、モーリオンだ。
「リオン!!!」
 いくら彼女が強くても、全てを飲み込む黒球には敵わない。彼女を止めるべく、エメとが前に出ようとする。
「だいじょうぶ」
 モーリオンが笑顔を向ける。
 彼女は、その黒球を――受け止めた。
「正体不明の力場操作を確認。詳細不明」
 厳密には、彼女はそれを受け止めたわけではない。重力場に干渉する事で、黒球を固定しているのだ。
「えい!!」
 黒球の回転が止まり、収縮して消滅した。
 これが覚醒した、モーリオンの新たな能力だ。
 重力操作の発展系とも言うべきか、引力、斥力、さらには力場そのものに干渉する。今の彼女なら、全能の書よりも安定したブラックホールのようなものも作り出せるのかもしれない。
 モーリオンがヒラニプラで雛型機甲化兵ウーノを一瞬で破壊出来たのは、この力によるものだ。元々の強化された身体能力のパワーに、重力そのものの操作。それによって、容易く破壊したのである。
「原因不明につき、新たな脅威と判断。これより、被験体0073と同等の危険度と判断し、最優先事項として消去します」
 再び、全能の書が大規模な魔法を放とうとする。
 凍てつく炎とは比べ物にならない、複数の術式を同時に発動させたおぞましいものを。
「ノイン、魔導力連動システムのネットワークは、まだ使えないのか?」
 口を開いたのは、葉月 ショウ(はづき・しょう)だ。彼はノインから力を借りようと、転送後に一緒に行動していたのだ。
「管理権が我に移れば可能だ。だが……」
 それが、今は敵の手中にある。
「だが、我が扱える魔力の総力が増えれば、今よりも干渉出来るようになるかもしれん」
 そこで、ショウと、パートナーのリタ・アルジェント(りた・あるじぇんと)がノインに対して魔力供給を行う。
 ノインは他者の魔力をも自分のものとして利用出来るらしい。だが、それはあくまでも緊急用であり、基本はシステムからの供給によって成り立っている。
 封印解凍、紅の魔眼で極限まで高める。
「殲滅します」
「アクセス完了!」
 全能の書が術式を発動するのと、ノインがシステムに干渉するのはほとんど同時だった。
 ノイン達に、全能の書の術式が迫る。
 光の波動というレベルではない。まともに浴びれば塵芥と化す、というよりはそれすら残らないほどの魔力が通路全体を包み込む。
 それで通路そのものが傷つかないのは、結界のせいだろう。
「術式を解除する」
 ノインが手をかざし、その光を弱めていく。
 さらに、
「目標変更。攻撃座標3623」
 消えかけたシステムの魔力を、全能の書に向けてぶつける。そしてその光が彼女を飲み込む。
「やったのか?」
 だが、全能の書は無傷だった。
「もう一歩のところで、システムの管理権を剥奪された」
 全能の書と、ノインの魔導力連動システムを巡る攻防は、互角だ。
 他の二つの状況によっては、彼女を倒さなくてはいけなくなる。