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灰色の涙

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灰色の涙

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終章


「どうされました、メニエス様?」
 シャンバラ大荒野、墜落したアークの残骸を見つめ、ミストラルはメニエスの顔を見る。
「こんな状況じゃ、もう何も残されてないわよね」
 その時、風に乗って一枚の紙片が飛んできた。
「なんだろ、これ?」
 ロザリアスがそれを反射的に掴んだ。
「ロザ、いいかしら?」
 メニエスがそれを手に取る。
「魔道書のページみたいね。何か、術式みたいのが書かれているわ……へえ」
 黒い笑みを浮かべる。
「一応は使えそうね」
 それは、全能の書の一部だった。アーク崩壊に際し、それだけが偶然にも彼女の手に渡ったのだ。
 いや、それは本当に偶然だったのだろうか――

            * * *

 アークでの戦いから数日後。
「リオン、これからどうするのですか?」
 エメはモーリオン・ナインに今後どうするのかを尋ねた。
「あたしは、しばらく空京にいることになるかなー」
 彼女は、司城達と空京に留まる事になったようだ。まだ彼女の能力はよく分かっておらず、見た目とは異なり精神はまだ幼い。
 いろいろな事を知ってから、彼女は一人立ちするのだろう。
「リオン様、これを」
 蒼が、モーリオンに軽帯電話を手渡す。これから彼女と連絡を取れるように。
「ありがと、蒼さん」
「蒼と呼んで下さい。今はリオン様の方が目上ですので、構いませんよ」
 そのまま、三人は歓談を始める。
 すると、そこにはノイン達も現れた。
「おっと、鈴木君達が来ましたね。ここのところ、あまり話せませんでしたからね」
 彼らは合流し、数日ぶりに話し込んだ。
 ノインは、空京で司城の助手をするとのことだ。元々、ワーズワースの助手だったのだから、それもありだろう。
 
 他の処遇については、それぞれ異なっている。
 ルチルやジャスパーは、それぞれの仲良くなったひなや緋音が蒼空学園という事もあり、司城の推薦で蒼空学園に入学することになった。
 ヘリオドールは円のいる百合園女学院に。
 五機精のクリスタルも、百合園生の誘いもあって、ヘリオドールと一緒に編入する事になった。
 エメラルドは、イルミンスールに。皆、それぞれ一人の少女として、自分の意思で決めた事だ。

「で、あたいらは相変わらず、ってところか?」
「仕方ないじゃない。別にここに至って都合悪いことなんてないでしょ」
 ガーネットとサファイアは、空京大学に残った。なお、二人ともなぜか大学生として登録されている。
「で、どうしてわらわだけ研究員待遇なのじゃ?」
 アンバーだけ、なぜか生徒ではなかった。
「あれだろ? お前、自家発電出来るから、研究にもってこいってことじゃねーか?」
「わらわの能力はそんなことに使うものじゃないわい!」

 同じ大学内では。
「司城さん、これを」
 ランツェレットが、司城に魔道書を手渡した。
「これは、あなたが持つべきです」
 存在の書と呼ばれるそれを、司城が受け取る。
「もし、魔力を安定させる術式について分かりましたら、それを組みこんだ魔道書を作って下さいませんか?」
「善処するよ。だけど、ボクは魔法には疎いからね。期待しないでよ」
 笑いながら言うが、司城の頭脳なら、やってのけそうだ。
 ランツェレットとしてはワーズワースの弟子になりたい気もするが、どうやらそれは叶わないようだ。
 今の司城は、もうワーズワースとしてではなく、司城 征として五機精やノインとも接している。
 むしろ、弟子入りするならノインの方がいいのかもしれない。

            * * *

 にゃん丸は、自室で今回のワーズワース関連の情報をまとめていた。
 PASDの一員としてではない。彼本来の、『隠密転校生』としての仕事のためだ。
「『シャンバラと地球は今よりも昔の時点で、交流があった』と。まあ、このくらいでいいか。あとは、十一年前のノーツ一家惨殺事件の真相と……」
 今回の一件で知った事を洗いざらい書いていく。もっとも、PASDのデータベースへの第一級アクセス権は持っていないため、自分の目で見たものだけだが。
「『魔導力連動システムや五機精の技術は現代の医療技術に転用し得るものかもしれない』と」
 そこまで書いて、彼はぼそりと呟いた。
「やれやれ、スパイ失格だねぇ……」
 レポートの末尾に、一文書き添えた。
『しかし五機精・試作型及びそのテクノロジーは飛空戦艦「アーク」の崩壊と共に失われた』

            * * *

「行くのか、平助?」
 新撰組一行は、藤堂 平助の旅立ちを見送ろうとしていた。
「まだ気持ちの整理がどうにもな。旅をして、いろいろな世界を見て回れば、何か得られるかもしんねーからな」
 平助の中にある憎しみはまだ消えたわけではないようだ。
 彼に対し、近藤が口を開く。
「この地でも試衛館の看板は掲げていてな……復讐にせよ何にせよ、用があるなら訪ねて来い。俺は逃げも隠れもせんさ」
「考えておきますよ、近藤さん」
 そう言って、彼は背を向ける。
「藤堂さん!」
 そんな彼を見送りに来た人物が、彼に言い放つ。
「まだ、決着はついたわけじゃありませんから。また、いつか勝負しましょう!」
 歌菜だった。
 一人の戦士、藤堂 平助との勝負を誓う。
「……腕、磨いとけよ」
 それだけ呟き、彼は去っていった。

「芹沢さん、あんたはどうするんだ?」
 原田が芹沢に尋ねる。
「芦原島ってとこにゃ、侍がいんだろ? しばらくはそこにでも身を置くことにでもするさ」
 鉄扇で仰ぎながら、言葉を続ける。
「まあ、若ぇヤツ見てんのも面白ぇし、そこにいりゃ勝負挑みてぇヤツは自分から来てくれんだろ。退屈しねぇで済みそうだ」

            * * *

「リヴァルト」
 リヴァルト・ノーツは一人で佇んでいた。
「『灰色』の事は、俺も残念です」
 刀真が彼に言う。
「どうしても……死んだとは思えないんですよ」
 リヴァルトが空を仰ぎ見る。
「お祖父さんが死んでも、彼女に異常はありませんでした。私にしても、先生にしても記号…どっちかが契約者だから、姉さんそっくりだったはずです。でも、私も先生も身体に異常はありません」
 契約者が死亡すれば、もう一方はただじゃ済まない。
「だから……生きてますよ。ただ、私達に『視え』ないだけで、もしかしたら近くにいるのかもしれません」
 リヴァルトの手には、光条兵器の柄が握られていた。
 墜落したアークの残骸の中から見つけたものだ。
「姉さん……」
 彼が呼んでも、姉と同じ姿をした『灰色』は決して現れない。
「もー、なにやってんの?」
 そこへ、エミカがやってきた。
「ほら、男だったらいつまでもメソメソしない。分かった?」
 バン、と彼の背中を叩いた。
「そんなんじゃ、おねーさんも、『灰色』さんも、悲しむよ」
 彼女なりに、リヴァルトを励ましているつもりらしい。
「ほら、先生、事後処理で困ってたよ。やることたくさんあるんだから、早く早く!」
「そんな引っ張らないで下さいよ」
 エミカに急かされるまま、リヴァルトは戻っていった。
「生きているかもしれない、か」
 そう呟いた時、刀真は視線を感じて振り向いた。
「……気のせいだな」
 一瞬、誰かが自分達の姿を見つめていたような気がした。だが、誰もその場にはいなかった。
 誰もいなくなったその場所を、一陣の風が吹き抜けた。