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七不思議 恐怖、撲殺する森

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七不思議 恐怖、撲殺する森

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    ★    ★    ★
 
「ふっふっふ。空にいればそう簡単には撲殺されないはず! というわけでドラゴンライダー音井博季、イルミンスールを哨戒いたします」
 レッサーワイバーンに乗った音井 博季(おとい・ひろき)は、余裕綽々で世界樹近くの低空を巡回していた。
「すみませーん、世界樹ってどちらの方向でしょうか」
「あっ、はい? それならこちらをまっすぐ……って、誰!?」
 突然声をかけられて反射的に答えてしまった音井博季であったが、よく考えたらここは空の上だ。驚きつつ横を見ると、そこをランスが飛んでいた。誰かが、音井博季を狙って投げた物か。では、今の声は誰の物だったのだろうか。
「ありがとうございます」
 ランスが、音井博季を追い越していく。
「光学迷彩か。姿を隠しても無駄だ。この必殺のライトブリンガーで……」
 音井博季はランスを持って姿を消しているだろう者にむかって、ライトブリンガーを放とうと身構えた。
「ごめんなさーい。ちょっと通りまーす」
 あたらな声がしたかと思うと、メイスがゴツンとレッサーワイバーンの頭をクリティカルヒットしていった。
「ぴぎゃあー!!」
 涙を流して悲鳴をあげたレッサーワイバーンが、火を口からだだ漏れさせながら気を失う。当然墜落である。
「申し訳ありませんでした。御挨拶遅れました。よろしくー」
 まさかと思うだめ押しで、棍がものすごい力で音井博季ごとレッサーワイバーンを打ち据えた。
「うわーっ!」
 まさにきりもみ状態となって墜落したレッサーワイバーンが、音井博季と共に地面を転がっていった。
 比較的低空だったのと、レッサーワイバーンがクッションとなったので大事には至らなかったが、その代わりどこをどう間違ったのかレッサーワイバーンの長い首と尾が複雑にこんがらがって、音井博季を巻き込んで奇妙なオブジェというか毛糸玉のようになってしまっていた。
 
    ★    ★    ★
 
「いったい、犯人の正体はなんなんだろうね。とにかく、イルミンスールを脅かす者は、ルカルカがイルミンガードとなって排除するんだから」
 空飛ぶ箒でゆっくりと移動しながら、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は森の中を移動していった。
「ちょっと、そこのたっゆん、止まりなさい」
 突然、日堂真宵たちが、ルカルカ・ルーの前に立ちはだかって叫んだ。手には、鎖に繋がれたベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの本体がぶら下げられている。本人は、もう諦めてどこかへ行ってしまったらしい。
「有りたっゆん、すべてここにおいていきなさい」
「新種のカツアゲ? まさか、あなた自身、もう持ってかれたとか」
 日堂真宵の言葉に、ルカルカ・ルーが彼女のささやかな胸を凝視して聞き返した。
「そんなことあるわけないじゃないの。小振りな方が身軽なの! 歴史的にも活動的な魔王はすべて小振りなんだから!」
 思わず、日堂真宵がわけの分からないことを言い返す。わけが分からず、ルカルカ・ルーが肩をすくめた。
「よろしい、ならばカレーよ。アーサー!」
 呼ばれて、アーサー・レイスが前に進み出た。
「我が輩はカレーが好きデース。我が輩はカレーが好きデース。我が輩はカレーが大好きデース。ヨーロピアンカレーが好きデース。グリーンカレーが好きデース。シーフードカレーが好きデース。ミルクカレーが好きデース。ドライカレーが好きデース。カレーライスが好きデース。カレー南蛮が好きデース。カレーパンが好きデース。カレーうどんが好きデース……」
 アーサー・レイスが、ルカルカ・ルーを前にして、手に持ったカレーを掲げながら何やら演説を始めた。また、何か悪いことでも覚えたらしい。
「イルミンスールで、ザンスカールで、ツァンダで、キマクで、タシガンで、ヒラニプラで、葦原で、ヴァイシャリーで、空京で、海京で……。パラミタで食されるありとあらゆるカレーが大好きデース。カレーライスのライスに、干しぶどうをちりばめるのが好きデース。サフランライスの黄色に、暗紫色の干しぶどうがばらばらと散らばるときなど心が躍りマース。タバスコを振りかけるのも好きデース。食べた人が悲鳴をあげて水をほしがるのを邪魔したときなど胸がすくような気持ちだったデース。甘党の女の子を追いかけるのはもうたまりまセーン。辛いと泣き叫ぶ相手にカレーを食べさせるのは最高デース。果敢に二倍カレーに挑む者たちを、だまして二十倍カレーで粉砕したときなど絶好調を覚えマース。我が輩はカレーを、地獄の様なカレーを望んでいマース。あなたたちはいったい何を望んでいマースか?」
「何も。しいて言えば、事件の解決を望んでいるんだもん。あなたたちが、事件の犯人なの?」
 当然のようにルカルカ・ルーが遠慮する。
「なんと、カレーを食べないというのデースか。よろしい、ならばカレーデース。さあ、おたべなサーイ」
 アーサー・レイスが手に持ったカレーライスの皿をルカルカ・ルーの顔めがけて近づけてきた。
「えいっ」
 ひょいと、ルカルカ・ルーが指先でカレー皿をひっくり返す。
「あちちちちち。熱いデース!」
 もろに自分のカレーを頭から被って、アーサー・レイスが逃げだしていった。
「アーサー……、もう役立たず。こうなったら、わたくしが戦うしかないようだわ」
 ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの本体をビュンビュン振り回しながら、日堂真宵が言った。
「しかたないよね。一度おとなしくさせてから話を聞いてもらうんだもん。さあ来なさい。どちらが真の撲殺の魔王か勝負してあげるんだもん」
 ブーメランを構えて、ルカルカ・ルーが日堂真宵を挑発した。
「届け、私の歌……(V)
 
 イルミンスールの森の中♪
 だれだ? だれだ? だれだ?♪
 背後に現れる謎の影♪

 ミステリアスなその正体♪
 きっと誰もが知りたがる♪

 貴方はだーれ?♪
 殴り倒すのはなーぜ?♪

 そっと私に教えて♪
 恥ずかしがらずに、さあ、おいでよ♪」
 まさに一触即発という状況に、突然歌が二人の間に割って入った。
 悲しみの歌に、意気消沈した日堂真宵とルカルカ・ルーがしょんぼりと地面にぶちまけられたカレーを見下ろす。
「ああ、もったいないお化けが出てしまいます」
「ほんとだよ。もったいないんだもん」
 さめざめと涙を流しながら、二人が逆さになったカレー皿を囲んだ。
「ほら、私のが作詞作曲した歌は効果あったよね」
「さあ。私の悲しみの歌の影響の方が大きかったと思いますが」
 姿を現した遠野 歌菜(とおの・かな)テスラ・マグメル(てすら・まぐめる)がそう言い合いながら、日堂真宵たちに近づいてきた。