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【金の怒り、銀の祈り】うまれたひ。

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【金の怒り、銀の祈り】うまれたひ。

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*幸せの歌*



 警護班である辿楼院 刹那は、受付のミルディア・ディスティンと和泉 真奈とお茶をすすっていた。

「みんな楽しそうで良かったなぁ」
「ええ。私たちも後ほど、改めてお祝いを言いにいかなくてはいけませんわね」
「皆、あの機晶姫を祝うためだけに集まったのか」

 辿楼院 刹那が小さく呟くと、受付の二人は強く頷いた。

「……そうか。かたなしが楽しそうなのも、なんとなくわかるのぅ」

 出会ったばかりの友人だが、彼女が自慢げにルーノ・アレエやニーフェ・アレエのことを語っていたのを思い出す。
 とてもいい子達なんだよ!
 そう、説明の端々に必ず言っていた。彼女自身も、まだ付き合いが浅いのであろうというのは見て取れたが、そこまでする相手なのだろうかと、少しばかり不思議に思っていた。

「せっちゃーん!」
「む、かたなしか」
「大変、大変だよ!!」

 小鳥遊 美羽は、大急ぎで駆け込んできた。その後ろを、一足遅れてベアトリーチェ・アイブリンガーが追いかけてくる。
 意気が上がっている小鳥遊 美羽の代わりに、彼女が説明をした。一枚の封筒が握られていた。

「ルーノさん宛です。イシュベルタ・アルザスさんという方から」
「え! 本当!?」

 ミルディア・ディスティンは大声を上げて立ち上がる。それを聞いて、駆けてきたのは緋山 政敏(ひやま・まさとし)だった。

「アルザスからだって?」
「うん。今届いたの」
「みせてもらえないか?」

 言われるままに差し出すと、確かにカードには無骨な男の文字が書かれていた。カチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)リーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)も覗き込み、二人は頷いた。

「これは確かに、アルザスさんの筆跡ね」
「以前ルーノさん宛に送ったカードに、よく似ています」
「なんじゃ? 危うい奴からなのか?」

 辿楼院 刹那が問いかけると、緋山 政敏は首を振って少しうれしそうに笑った。

「逆だ。ルーノとニーフェの大事な人さ」
「でもプレゼントなら先に届いたのに、変ですね」
「案外、別のプレゼントかもしれないな」

 カチュア・ニムロッドの言葉に、緋山 政敏はうれしそうな声色で答えた。







 向日葵の形をした、かわいらしい陶器製のブローチを差し出したのは、サイドテールを可愛らしく向日葵で飾っているヴァーナー・ヴォネガットだった。

「ルーノお姉ちゃんに、これをプレゼントです。誕生月のお花です!」
「これは……ブローチですか?」
「はいです!」

 ヴァーナー・ヴォネガットからのプレゼントを早速つけてみようと、止め具のほうを見やると、メッセージが刻み込まれていた。

【ハッピー・バースデイ 8/28 ルーノ・アレエおねえちゃんが みんなと笑顔でいれますように】

 そう書かれていた。それを見つけて、思わず涙がこぼれそうになってきた。ヴァーナー・ヴォネガットはあわてずに、レースのハンカチを取り出してその目元をぬぐった。

「泣かないでください、皆、ルーノお姉ちゃんに笑って欲しいって思ってるんですよ?」
「ヴァーナー・ヴォネガット……ありがとうございます……」
「これは、わらわからじゃ。日本から取り寄せた饅頭だが、口にあうといいのだが……」
「悠久ノカナタ、ありがとうございます」

 箱を開けてもらい、銀髪の魔女の手から一つ茶色の饅頭を受け取ると、思わず頬に手を当てた。

「頬が落ちそう、というのはこういうのを言うのですね。とてもおいしいです」
「あと、ルーノへのプレゼントだ。ニーフェとおそろいになってる」

 レイディス・アルフェインが差し出したケースの中には、金色のロケットが入っていた。ニーフェ・アレエも既に首から提げており、そのデザインが全く一緒なのが見て取れた。

「ありがとうございます」
「いいんだ。君たち二人の思い出を入れるといい」
「私からは、エレンと作ったカサブランカのコサージュだよ! 制服にも似合うと思う!」

 秋月 葵が差し出したのは、透明なケースにしまわれた、白いカサブランカのコサージュだった。豪華すぎず、シンプルすぎず、かわいらしいコサージュになっていた。身につけて歩くのがもったいないくらいの出来栄えに、ルーノ・アレエは改めて秋月葵の手をとり御礼を口にする。

「ありがとう! 秋月 葵、エレンディラ・ノイマン」
「こっちは誕生日の花のキキョウよ」

 プリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)が、キキョウをメインとした小さなブーケを差し出す。それを受け取り、頭につけてもらった花冠が落ちそうになる。すかさず、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)がその手をとる。

「ほら。プレゼントが落ちちゃうよ」
「毒島……すみません」
「ほら、ニーフェが謝ってばかりじゃいけないって言われてるのに、君がそれをしてどうする。うれしいときはどうするんだい?」

 毒島 大佐はにこやかに微笑みながら、ルーノ・アレエの顔をのぞきこむ。すると、口元を一生懸命に持ち上げる。

「ありがとうございます。皆さん」
「それじゃ、舞ちゃん、一緒にわたそ?」

 小鳥遊 美羽は橘 舞と小声で合図しあうと、二人で一緒に花束を差し出す。

「橘 舞、小鳥遊 美羽?」
「せーのっ!」

 小鳥遊 美羽の合図で、フィル・アルジェントがヴァイオリンを、ケイラ・ジェシータがウードを、五月葉 終夏がリュートを、ノーン・クリスタリアとニーフェ・アレエが竪琴を奏で、一同が一斉に声を合わせ歌い始めた。

 一般的な、誕生日を祝うその歌声は、夏の空に負けないくらいの輝きを持っていた。
 歌い終えた彼らに拍手を送ったのは、ルーノ・アレエだった。

「皆さん、ほんとに、ほんとに……っありがとうございます!」
「ルーノさん」

 ロザリンド・セリナが、一歩進み出て一冊の本を差し出す。受け取ると、一ページ一ページ丁寧にめくっていく。それが、自分のことを書いた本であると知ると、その速度が上がっていく。そして、それは半分にも満たないところで白紙となった。

「これは、ルーノさんの本です。ルーノさんがこれから出逢う、素敵なことをどんどん書いていってください。私からのプレゼントです」
「ロザリンド・セリナ……うれしい! どれも素敵なプレゼントだった! どれも、私にとって素敵な出逢い……私は、生まれてきて本当に良かった……貴方達に出会えて、本当に良かった」
 
 感動を分かち合っている中、緋山 政敏は手紙を渡そうと待ち構えている中、もう一つ渡すものがあったような気が……と思考をめぐらせる。

「あ、やばい。プレゼント忘れてきた」
「ちょ、政敏!!?」
「はぁ……貴方って人は……」
「や、待てよ……いい方法を思いついた。ルーノ!」

 緋山 政敏の呼びかけに、ルーノ・アレエは振り向いた。デジカメを構えると、動画の録画モードにする。

「お礼も兼ねて、メッセージを……今の気持ちを歌ってくれないか? アルザスに届けてみせる」
「政敏?」

 手抜きじゃないの? と言いたげなリーン・リリィーシアからの視線を無視して、歩み寄る。

「こういうのは気持ちが大事だ。どうだ?」
「はい。ニーフェ、一緒に歌いましょう」
「はいっ!」

 そして、姉妹が大きく息を吸い込むと、先ほどの祝いの歌のように、心温まる歌声が響く。歌詞は、以前仲間たちで作った

「〜〜♪♪
 風と生きる空の下、天が優しくあなたを包む
 川の流れをわたっていけば、海にたどり着く
 日が落ちれば、星が流れる
 光が差して、空に上ろう
 愛しい人と、想いを護ろう

 あなたとともに
 皆と戦うことをきめた
 あなたの歌は癒しの音色
 私の詩が届くよう願う〜〜♪♪」


 録画を終えると、OKのサインを出して、また参加者一同の歓声が沸き起こる。
 そこへ白い紳士……エメ・シェンノートが人の波を書き分けて歩み寄ってくる。本人は少し緊張したように顔をこわばらせていたが、その手にしているプレゼントを、確実に手渡せる距離までくると、歌い終えたルーノ・アレエに小さな声で語りかけた。

「ルーノさん、お誕生日、おめでとうございます」
「エメ……姿が見えないから……っ」
「? 大丈夫ですか?」

 急に頭を抑えたルーノ・アレエの頭に、手袋をした手のひらを載せる。その形を確かめるようになでながら、顔をのぞきこむ。苦しげな微笑が、大丈夫だと告げているように見えた。

「はい。姿が見えないから、来ていただけてないのかと思って……」
「貴女が他の方々と交流するのも大事ですから、控えていたんですよ。あ、こちらは私から」

 そういって、小さな包みを差し出す。その中には、エメラルドの四葉のクローバーが飾りについた腕輪だった。早速手にはめてみる。鮮やかな緑が、眩しいくらいだった。

「綺麗……エメ、ありがとうございます」
「貴女が生まれてきた日、そしてこれからが、良き日になりますように」
「良き日、良き日か。そうだな、今日は良き日だ」

 聞き覚えのない声に、一同が辺りを見渡した。そこには、見慣れぬ機晶姫の姿があった。ソア・ウェンボリスとケイラ・ジェシータが進み出て紹介をしようとする。

「荒野を迷っていた機晶姫さんなんだ」
「オーディオさんというらしいです」
「オーディオ?」
「Odio……そう。それが私につけられた名前」

 彼女がそう小さく呟くと、辺りは煙幕に包まれた。いきなりのことで、悲鳴があちこちから上がる。

「大丈夫よ、これは演出の一部だから」

 ブリジット・パウエルは、胸を張ってそう言い放った。その言葉に、ニーフェ・アレエが言葉を返した。

「え、そうなんですか?」
「え、貴方じゃないの?」
「私はそんな演出は聞いてませんが……」
「じゃ、これ……本物? ごほ、ごほっ!」


 ブリジット・パウエルの言葉に一同が突っ込みを入れようとしたが、煙幕を吸い込んでしまってほとんどの参加者が咳き込んでしまった。
 そして、爆音が聞こえ、辺りのものが銃器によって破壊されていくのを、一同はしゃがみこんで聞くしか術がなかった。