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紅葉ガリガリ狩り大作戦

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紅葉ガリガリ狩り大作戦

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歌とお弁当と動く木と


 紅葉狩りのためにと設けられたスペースの一画に、人だかりができていた。
 その中央で、あほ毛をぴこぴこ動かしながら咲夜 由宇(さくや・ゆう)がギターを弾いていた。
 その傍らでは、咲夜 瑠璃(さくや・るり)が歌を歌っている。
 最初は、由宇が一人でギターを鳴らしていたのだが、それに乗って瑠璃が歌を歌いだし、その声に惹かれて少しずつ人が集まってきたのだ。
 誰かに聞かせるために始めたことではないのだが、聞いてもらえるとそれはそれで嬉しいものである。そうして、二人で歌ったりとしていると、そこに御剣 紫音(みつるぎ・しおん)がギターを持ってやってきた。
「俺も混ぜてくれー」
「どうぞですぅ。あ、ギターですね。私もギターを持ってきたんですよ〜」
「やった。俺も音楽やろうと思って来たんだけどさ、やっぱ一人より大勢の方が楽しそうじゃん」
「そうですね〜。瑠璃ちゃんも、いいですか〜?」
「………(コクリ」
「どのような曲を演奏するんですか?」
「んー、そういやそういうのは決めてこなかったな。まぁ、フィーリングで」
「そちらのお二人は、一緒に歌を歌うんですかぁ?」
 紫音のすぐ後ろには、綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)の二人の姿があった。
 由宇の問いに、二人は顔を見合わせてから。
「わらわ達は……そうじゃのう、ここで紫音が歌を歌っている間に、何か危険が迫らないか見張っていることにしようかのぅ」
 と、アルス。
「そ、そやなぁ、なんやえげつない木ぃがおるゆう話やし、ここにはよう人も集まってるさかいに、私達が回りみとーよ」
 風花もそれに続き、そそくさと二人は離れていってしまった。
「どうしたんですかねぇ」
 瑠璃も首をかしげている。
「あー、たぶん、恥ずかしいんじゃないかな。歌うの」
「そうですか。みんなで歌えば恥ずかしくないと思いますけどねぇ」
「だよなー。歌なんて誰でも歌うんだから、恥ずかしがる必要なんて無いのに……ほら、あの子とか」
 と紫音がすっと指をさす先には、九条 イチル(くじょう・いちる)の姿があった。彼は、楽しそうに歌を歌いながら、どうやら散策をしているようだ。
「よし、せっかくだからあいつも誘うか」
 言うやいなや、紫音はイチルの元へ駆け寄っていき、気さくに挨拶を交わしたかと思うと半ば強引にここまで引っ張ってきた。
「え、えと、そのっ! ど、どういうことですか?」
 イチルは周囲をキョロキョロと見回している。まだ、先ほど歌を聴いていた人が結構残っている中、その中央に立たされて驚いているようだ。
「だーかーらー、歌だったら、俺達と一緒にしようぜ。ここにはなんと、ギターが二本もあるしな」
「歌……ですか、みなさんと?」
「おう」
「あ、嫌だったら全然断っても大丈夫ですよ」
 由宇が慌ててフォローを入れる。
「あ、いえ。そうですね、僕も一緒でいいですか?」
「もちろんだ」
「もちろんですぅ」
「……(コクリ」
「よし、それじゃさっそくなんかやってみるか。曲は……フィーリングで!」
 無茶振りにも程があるようなことを紫音が言い出して、ギターを鳴らし始める。
 最初こそ不ぞろいだったが、不思議と時間と共に調和が取れて瑠璃とイチルも知っているメロディーになっていた。
 そのうち、集まった人も歌いだしたりして、始終ハチャメチャなままみんなで歌を楽しむのだった。



 お弁当箱に、食材を詰めていく作業は最も重要な仕事だ。
 誰だってぐちゃぐちゃなお弁当は嬉しくない。色彩豊かで、綺麗に詰まったお弁当だからこそ、蓋を開けた時の楽しみがあるのだ。
 概ねそのような説明を受けて、芦原 郁乃(あはら・いくの)はお弁当箱にできあがった料理を詰める作業をしていた。
「桃花、これじゃあ、お寿司にタンポポを乗せる作業と変わらないよー。私もお弁当作りたーい」
 秋月 桃花(あきづき・とうか)は、料理をしている手を止めてニコニコしながら彼女の元にやってくる。
「お寿司に乗せるのは、タンポポじゃありません。食用菊です」
「いや、突っ込むところはそこなの?」
「早くしないと、待ってる人がいるんですよ」
「そうだよ。待ってる人がいるんだよ。神業と呼ばれたこの私のお弁当を!」
 と、何故か郁乃はガッツポーズをしてみせた。
「………そうですね。でしたら、これを」
 と、桃花はポケットからシールを取り出して郁乃に手渡した。
 それは円の上に三つのCがくっついた形のマークのシールだった。バイオハザードのシンボルマークである。
「必ず作ったお弁当には、そのシールを貼ってくださいね。隔離しますから」
「随分と、準備がよろしようで……」
「お気に召さないのなら、こちらもありますよ」
 次に出てきたのは、三つのメガホンがくっついたような黄色いマーク。放射能の発生を示すシンボルマークである。
「これ、売ってるんだ。あ、しかも百円だこれ」
「冗談はこのぐらいにして。今は人手が足りないので、お弁当におかずを詰める作業をお願いします」
「はーい」
 あくせく働く二人の下へ、紅秋 如(くあき・しく)がやってきた。
「お弁当って、ここでもらえる?」
「そうだよ。今お弁当箱につめてるから、ちょっと待ってて……お、ごっついカメラだね」
「ん、ああ、これ?」
「それって、やっぱり例のお弁当泥棒の木を撮影するため?」
「あー、違う違う。わしは普通に風景画を撮りに来ただけ。なんか騒がしいけど、やっぱその動き回る木とやらが理由だったのか」
「あー、うん、そだね。一応、このお弁当もお弁当を取られちゃった人の救済と、あとは囮用ってことで無料で配ってるのよ」
「俺はタダで弁当もらえてラッキーってわけだ」
「よかったねー」
 そう話している間に、お弁当におかずが詰め終わる。そのお弁当を渡そうとして、郁乃は割り箸が切れていることに気づいた。
「あ、ごめーん。ちょっと割り箸とってくるね」
「ん、ああ」
「予備の割り箸どこだっけー」
 郁乃が奥の方に消えていく。
「お弁当もらえるところって、ここでいいのかしら?」
 そう声をかけてきたのは、ヴィアス・グラハ・タルカ(う゛ぃあす・ぐらはたるか)だ。
 如はしばらくしてから、今話しかけられる人は自分しかいない事に思い至り返事をすることにした。
「ああ、ちょっと今割り箸を探してるから、待ってれば……随分と大量だな」
 ヴィアスは大きな袋を持ち、その中には大量のお菓子が入っていた。
「え、ああ、これ? こ、これは餌よ。ほら、食べ物を盗む木とやらがいるのなら、これだけお菓子を持っていれば安心でしょう?」
「そう、だな」
 何がどう安心なのかわからないが、とりあえず同意をしておいた。
「あんまり、貰い過ぎちゃだめだよ。他にもきっと欲しい人がいるかもしれないからね」
 そうヴィアスの後ろから声をかけたのは、白菊 珂慧(しらぎく・かけい)だ。
 珂慧は、大きな鞄を肩からかけており、さらに手にはスケッチブックがあった。
「あ、カッコイイカメラだね。写真を撮りに来たんですか?」
「ん、ああ。そうだけど、そっちは絵を描きに?」
「うん。でも、なかなかいい場所が見つからなくて、ふらふら歩いてたらお腹が空いちゃって」
「今日は特に人が多いからな、絵をかくのは時間がかかるから大変だろう」
「そうでもないよ。スケッチだしね。色をつけようと思うと、時間がかかっちゃうけど」
「でも、その荷物に入ってるんじゃないか?」
「うん。そうだよ。よくわかったね。でも、やっぱり色をつけるのは大変だから、今日はスケッチして、いいなぁと思ったらまた来ようと思ってるんだ。今日だけじゃなくて、この時期はいつでもここに入っていいらしいから」
「割り箸見つかったー、お待たせ!」
 息を切らしながら、郁乃が戻ってくる。
「おうっ、新しいお客さんだ! ちょっと待っててね、すぐ用意するから」
「さて、飯は手に入ったし、わしはもう行くぜ」
「うん。あ、もしいい写真が撮れたら、今度見せてよ」
「ん、ああ、いいぞ。それじゃあ、そっちもいい絵ができたら、見せてくれよな。もちろん、色を塗ったやつで」
「頑張ってみるよ」
 と、互いに軽く手を振って別れる。
 人に見せられるぐらい、いい写真が取れればいいのだが。なんて考えながら、如はとりあえずお弁当を食べるによさげな場所を探すのだった。



「ちょwwwwwwおまwwwwwなにマジになっちゃってんのwwwwww」
「てめぇ、さっきからうっとうしいんだよ! その何も入ってなさそうな頭ん中に紅葉詰めてやっから、頭出しやがれ」
「紅葉wwww頭ん中に紅葉wwwwwなにそれwwww意味wwwwわかんねwwwwwwww」
 喧嘩腰で睨みつける蒼灯 鴉(そうひ・からす)と、やたらwを多用して話すクロ・ト・シロ(くろと・しろ)には既に険悪なムードが漂っていた。
「こら、あんまり鴉を煽るんじゃありません」
 ラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)が間に入る。
「鴉も、そういうのはダメだよ」
 鴉をたしなめたのは、師王 アスカ(しおう・あすか)だ。
「ほら、お父さんももっと言ってあげて」
 アスカがラムズにそう催促すると、ラムズは少し困った顔をしながら、
「きっとお腹が空いてるんですね。お腹が空くと怒りっぽくなってしまいますから。そういえば、お弁当はルーツさんが用意してくださったんでしたっけ」
 と、ルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)に話をいきなり振った。
「へ? あ、ああ。紅葉狩りをテーマにしたお弁当を作ってきたぞ」
「へぇ、それは楽しみだね」
「お父さん、今日は私達は家族なんだから、〜さんなんて他人行儀な呼び方はだめだよ」
「あ、ごめんごめん」
 お弁当を盗む木を捕まえるために、ラムズとアスカが考えた作戦は親子のふりをするというものだ。少しでも、お弁当泥棒の警戒を薄めようという作戦なのだが、半分ぐらいはアスカの希望が混じっている気がしないでもない。
 既に前日に落とし穴を掘ってあり、彼らにお弁当泥棒が近づいてきたらそちらに追い込むというのが主な作戦だ。ただ、一般の人がその落とし穴に落ちないよう常に見張っている必要があり、おかげでルーツはあまり気を休める暇が無かったりする。上機嫌なアスカは気づいていないようだ。
「まぁ、仕方ないか。せいぜい、楽しんでくれればいいのだが……だとしたら、こちらには例の木は来ない方がいいのかもしれんな。落とし穴を掘った鴉には悪いが」
「どうかしたの、ルーツ?」
「いや、なんでもない。それより、そろそろお弁当にしようではないか。リクエストされた玉子焼きもしっかり入っているぞ」
「やっぱりお弁当には玉子焼きだよねぇ」
 嬉しそうな顔をするアスカ。
「アスカさ……アスカは食いしん坊ですね」
「もう、お父さんったら、ひどいなぁ」



 お弁当を盗む木を捕まえるため、という理由で今日はお弁当が無料で配られている。
 それでも、やっぱりお弁当は自分で作らないとね、と思う人は当然居るわけで、アリヤ・ユースト(ありや・ゆーすと)もそんな一人だった。
「今日は朝早くから、一哉と一緒にお弁当作ったんですよ」
 と、彼女はニコニコしながら持ってきたバスケットから、大きなお弁当箱を取り出した。
「おかげで、すごく眠いですよ……ふわぁぁ」
 大あくびをする杵島 一哉(きしま・かずや)
「別に作らなくても、もらえばいいではないか」
 そんな事を言うのは、空白の書 『リアン』(くうはくのしょ・りあん)である。
「ダメですよ。せっかくの紅葉狩りなんですよ。やっぱり、お弁当は自分で作らないと」
「おかげで、一人ふわふわしてるではないか」
 一哉は、先ほどから何度も眠そうに目をこすっている。
「一応私達は、例のお弁当泥棒を捕まえるつもりなのだろう?」
「涼しくなって心地いいから、眠くなってしまうんですよ。それに、私達がそうそう容易くお弁当を盗まれるわけが……はれ?」
 目の前に置いてあったはずのお弁当が消えて、アリヤが間抜けな声をあげる。
 正面に座っていたリアンが何故か上の方を見ているので、アリヤはその視線を追って頭の上にある木の枝に、包んだままのお弁当があるのを見つけた。
「やすやすと、取られてしまったようなのだが?」
「……っは!」
 目が合った、と言えばいいのかわからないのは木のどこが目なのかわからないからで、とにかくバレた事に気づいた木は、まるで根っこを足のようにして、ドタバタと走りって逃げ始めた。
「ど、泥棒ですーーーーっ!」
 はっとなったアリヤがそう叫ぶ。
「なぜか、懐かしく感じてしまうな、あのドタバタとした情けない走り方……」
「リアンさん、そんな感慨深げな顔で眺めてないで、追いかけますよ。一哉も、もう食べられないよー、って本当に食べられないんですよ!」
 半分寝ぼけたままの一哉を無理やり起こし、お弁当を枝にひっかけて走り去っていく木を三人は慌てて追い始めた。
 そこから、少し離れた場所でお弁当を盗む木を捕まえるためにやってきた葉月 ショウ(はづき・しょう)リタ・アルジェント(りた・あるじぇんと)が歩いていた。
「しっかし、本当に居るのかよ、弁当を盗む木なんて」
「さぁ〜? でも、見たって人はいるみたいですよぅ。だから、ほら、お弁当も無料でもらえちゃったんですぅ」
「つーことは、やっぱり居るのか? お弁当を盗む木が?」
 ショウはいまいち信用していない様子である。
「いてもいなくても、どちらでもいいのですぅ。お弁当ももらえましたし、今日の紅葉は綺麗なのですよぅ。わらわとしては、いてくれた方が面白いですねぇ」
「案外、ただの見間違いかなんかかもしれないぞ。キが弁当を食ってたなんて、そりゃキのせいだってな」











「………せっかくやっと涼しくなってきたのに、もう少し秋を楽しみたかったですぅ」
「おい、ちょっと待て、そこまでか? そこまで酷かったか?」
「………」
「いや、あの……すいませんでした」
「………っ! 大変ですぅ、ショウ上から黄色くてふわふわしたものがっ!」
 その発言を聞いて、ショウは咄嗟にもっていた【さざれ石の短刀】を抜き、振り上げた。
 彼は、過去にちょっとしたトラウマを味わったので、体が勝手に反応してしまったのである。
「あ」
「あ」
 二人の、「あ」がシンクロした。
 先に弁明をしてしまえば、二人は単に冗談を言い合っていたわけで、特に他意があったわけでもない。偶然であり、事故である。
 一哉達が追いかけていた木が、ものの弾みでお弁当が飛んでいってしまい、それを偶然ショウが見事に真っ二つにしてしまったのである。
「………」
「………」
 お弁当の中身を見事に頭から被る形になったショウと、お弁当を取り戻すために追いかけてきた一哉達が顔を合わせる。
 気が付いた時には、リタの姿はどこにもいなくなっていた。