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リアクション
アルハザードは、バケツいっぱいの温泉のお湯を持って、檻の前までやって来た。
そして温室備え付けのひしゃくで振り掛ける。
「お、おい! 何をすんだ、やめろ、やめろぉおお~! ぎゃあぁあ!!!」
まるで悪魔の断末魔のような声をあげて優梨子は倒れた。
愛らしい表情が戻ってくる。
「う…ん……」
その様子に驚いたのか、檻の中のハエ達が騒ぎ始める。
「ぶ~んぶ~んぶ~ん!」
逃げまくる真白と由二黒を追いかけて、アルハザードはお湯をぶっかけた。
「ぶ……」
二人はぱたりと倒れる。
「このお湯、持ってる洗剤と同じ匂いがするよ?」
側にいたネージュが鼻をくんくんさせながら言った。
「俺のパパ檸檬? ……そっか、なるほど。そういうことか」
「?」
首を傾げながらも、その事に対して深く追求せず、ネージュはお湯撒きの手伝いを始めた。
「そっちに行きました!」
助っ人に入ったエルシーが叫ぶ。
檻の中で飛び回る郁乃と桃花。
「任せて下さい、エルシー様!」
ルミは挟み撃ちにして捕まえようと試みる。だが敵も中々、逃げまくる。
「ぶ~んぶ~んぶ~ん!」
「ラビが活躍ー!」
「虫は嫌いじゃー!!」
ラビとニビが叫びながらお湯を振りまいた。偶然にもそれがかかり……
「…んぁ? ここどこ? 檻の中? なんでこんな所に入れられてるの?」
郁乃の声に反応して桃花も意識を取り戻す。
「佃煮を食べた所から記憶がありません……」
複雑そうな顔しながら、桃花が唇を噛んだ。
「大丈夫みたいですね、エルシー様。正気に戻られました」
「最後に美味しい所、ラビちゃんとニビちゃんに持ってかれましたね」
エルシーはその言葉にきょとんとしている二人に、くすりと笑った。
「さてと、この状況を管理人さんに伝えるために、記録係のお仕事しなくちゃ!」
クレヨンを再び持ったエルシーは、メルヘンの世界へと入っていった。
「ぶ~んぶ~…」
「オルフェリア様……今、助けます!」
ミリオンが、そっとお湯を振り掛ける。
羽が溶け、オルフェリアは静かにその場に倒れこんだ。
檻の中に入って意識の無いオルフェリアをそっと抱きしめる。
(この思いを伝えたい…だけど……)
ミリオンはそっと首を振って、檻から皆を出すことに意識を集中させた。
垂と斉民が温泉のお湯を、ライゼと栞、弥十郎に振りかけた。
「ばぶーばぶーば……ばばば…」
自分が今までどんな行動を取っていたのか思い出し、真っ赤になって固まるライゼ。
「あばばば、あばばっ…」
ハッと気付くと四つんばい姿の自分に視線が集まっていることに気付く栞。
「おんぎゃ~おんぎゃ~おんぎゃ…ぎゃ……ぎゃ~~~~~~~!!!!」
叫びながら逃げ出した弥十郎。
「哀れな……」
「見なかったことにしてやるよ」
垂と斉民の恩情に、涙を流した面々だった……。
大佐が露骨に残念そうな顔をしながら、温泉のお湯を撒き始めた。
「こんな事しなくてもいいのだよ……」
文句が思わず口からついて出る。
ラムズと手記の触手が次第に消えていく。
(あぁ~触手が~…! 私の触手が消えていきます~!)
(やめるんじゃ! 我の一部となって生まれてきた物が無くなっていく~)
二人の心の声は外に漏れることは決してなかった。
続いてミルディアとイシュタンにも。
(あ……なんだ、もう終わりかぁ)
(楽しかったんだけどな)
触手はしゅわしゅわと泡になって消えていく。二人はそれを名残惜しそうに見つめた。
「触手は本当に危険どすなぁ……」
お湯をつかさにかけながら、エリスは呟いた。
つかさは黙って手を見つめている。
(…さようなら、私の触手……だけどやっぱり私は『受け』が一番でございますわ)
今度は逆の立場であなたに触れよう。
心に誓うつかさだった。
その時。
のどかがふいに倒れこんだ。
「大丈夫ですか?」
ティアの声に、力無く笑うのどか。
「服がどろどろでございますねぇ? どうしたんですか?」
言いにくいことをハッキリ言う壹與比売に、エリスはぎょっとした。
「な…なんでもないです……」
真っ赤になってそう言うのが精一杯の、のどかだった。
その脇で小さくなっているロザリンドとアリアを目ざとく見つける壹與比売。
「こ、これは、泥遊びをしたせいです!」
「そう! 泥遊び! 楽しかった~」
話しかけようとする前に答えられてしまった。
大きく息をつくロザリンドとアリア。
しかしすぐ後ろで、大佐の唇の端が上がっていことは、誰も気付かなかった。
「陽子ちゃん……」
復活した透乃は、放心状態の陽子を抱きしめた。
そして。
「…良かった?」
誰にも聞こえないように耳元で囁く。
その言葉に一気に覚醒した陽子は透乃の腕から逃れようとしたが、しっかりと抑えられていて動くことが出来ない!
「身体……べたべたになっちゃったね? これから一緒に温泉でも入りに行こうか。うふふふふ…」
「え? え? え? え?」
ただただ恥ずかしくて、俯くしか出来ない陽子だった。
──葵がゆっくりとイングリットの頭にお湯を流す。
「ぷはー! あ~ぁ、羽が消えちゃったにゃー残念ー。もう一種類食べたらお空飛べたかにゃー?」
イングリットの全く反省の色の無い発言に、エレンディラは怒って見せた。
「あんなに言ったじゃないですか、食べちゃ駄目だと!」
「でっ、でもでもっ、イングリットちゃんは他の人とはちょっと違ったね。意識はあったみたいだし」
慌てて葵がエレンディラとイングリットの仲裁役を買って出る。
「葵ちゃん、今は! ……もう…分かりましたよ。イングリットちゃん? これからは言うことをちゃんと聞いてくださいね?」
「はーいにゃ☆」
明るく笑って返事をするイングリットに、ため息をつきながら微笑む葵とエレンディラ。
「……でも本当は、こんな事にならなければエレンと一緒に温泉に入ったんだけどな…」
独り言のように呟く葵。
その言葉に、エレンディラはイングリットに対して、わずかばかりの殺意を抱いた。
お湯をかけられて戻った満夜の前に、力の抜けた留美がしゃがみこんでいた。
お互い目と目が合うと、視線を逸らすことが出来なくなった。
「大丈夫……ですか?」
「……大丈夫ですわ」
満夜が手を差し、留美はその手を取って立ち上がる。
繋がれた手からお互いの熱が伝わる。
二人の間に、他人には入り込めない怪しい何かが生まれていた……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「お、綺麗に無くなってるじゃないか。どうだ? うまかったか?」
用事を思い出して早々に散歩を切り上げてきた笑顔の管理人に、疲労困憊の皆は、苦笑を浮かべるだけだった。
「まだ足が残ってるんだよなぁ~……もっと食べないか?」
「いりません!!!」
みんなの声が合わさって、高い空に響く。
「そ、そうか?」
「肥料にでもしてください!」
「そ、そうか? 肥料になるかぁ?」
「なります! こんな強力な肥料、他にありません!」
「そっか、そこまで言うなら……」
管理人は、転がっているムカデの足を両手いっぱい抱えて温室の中に入ろうとした。
が、足を止めて振り向き。
「記録帳、出来上がってるか?」
「あ、もう少しです」
翡翠が答えた。
「出来上がったら、机の上にでも置いといてくれ」
「ほーい……」
去っていく管理人に、力の抜けた返事をするレイス。
全く、とんでもないものにつき合わされてしまった。
「だけど──」
(味は……まぁまぁ良かったみたいだぜ?)
それくらいは佃煮の利点としてノートに記入してやろうと思った。
そして翡翠が綺麗な字で締め括る最後の文は決まっている。
記録者 翡翠・レイス
結論から言って……食べないのが正解です。
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担当マスターより
▼担当マスター
雪野
▼マスターコメント
こちらのシナリオを担当致しました雪野です。ご参加下さいましてありがとうございました。
久しぶりの温室シナリオいかがでしたでしょうか?
なんだか、より一層危ない方へ行ってる気がするのですが…大丈夫なのでしょうか?
温室に温泉が生まれました。
いつまで残っているかは分かりませんが、干上がるのは早い気がします(笑)。
ご参加下さいまして、ありがとうございました! 楽しんでいただければ嬉しいです。