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学生たちの休日5

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学生たちの休日5
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    ★    ★    ★
 
「魔鎧の作り方ですって?」
「そう、魔鎧の作り方だよ」
 素っ頓狂な声をあげるティナ・ホフマン(てぃな・ほふまん)に、朝野 未沙(あさの・みさ)が再度言った。
「だって、あなたはシュトゥルム・パンツァー(しゅとぅるむ・ぱんつぁー)を作ったんでしょ。だったら、作り方を知ってるって言うことじゃない。けちけちしないで教えて。もし、あたしでも習得できる技術なら、ぜひ覚えたいんだもん」
「そうは言われても……。悪魔だって、全員が全員魔鎧を作れるわけじゃないんだよね」
「そうなの?」
「そうなの」
 問い返す朝野未沙に、きっぱりとティナ・ホフマンは答えた。
「しょうがないなあ。じゃあ、簡単に説明するけれど、多分無理だよ」
「それでもいいんだもん」
「じゃあ、まず、材料となる魂を入手する」
「……」
「次に、魂をつかんでこねる」
「……。どうやって……」
「ちょっと待て、そなた、魂をつかめないの?」
「つかめない……」
「……」
「……」
 長い沈黙が訪れた。
「二人とも、何見つめあって黙り込んでいるんです?」
 ちょうどやってきたシュトゥルム・パンツァーが、不思議そうに訊ねた。
「ちょうどいい所へ来たんだもん。シュトゥルムのことだけれど……」
「はい?」
 いきなり自分の名前を出されて、シュトゥルム・パンツァーがきょとんとした。
「可変型じゃない機晶姫をベースに、可変型の魔鎧を作ったっていうのは、相当アッチコッチ弄ったってことだよね。可動部分の改良もそうだけど、クリアランスの計算や強度の問題もクリアした上での製作だし。機晶技術部分を排除して動くようにしてるのは魔鎧製造技術のおかげなのかな?」
「いや、何か勘違いしていない? 鎧だから自立行動は厳しいものがあるわよ。それは、広い世界、そう言う魔鎧もあるかもしれないけれど、基本は装甲だから、エンジンもアクチュエーターもないんだけれど」
「ないの?」
「ないわよ」
「じゃあ、どうやって変形するのよ」
「人力に決まってるじゃない。装着している人間が、体力と根性で変形するのよ」
「……」
 また沈黙が訪れる。
「あのー、自分、何か悪いことしました?」
 いたたまれない空気に、シュトゥルム・パンツァーがおろおろとする。
「でも、戦車型の魔鎧なんだから、移動は……」
「できないわよ」
「なんで」
「エンジンないもの」
「なんでつけないんだもん!」
「だから、鎧だって言ってるでしょうが!」
「け、喧嘩しないで……」
 シュトゥルム・パンツァーが、あわてて朝野未沙とティナ・ホフマンの間に入った。
「すいません、すいません。みんな私が悪いんです」
 とにかくわけが分からないが、とりあえずシュトゥルム・パンツァーが謝る。
「それじゃ、ただの置物じゃない」
「最初からオブジェだし……」
「……」
「基本的に、マテリアル体である人間形態からアストラル体を経て再びマテリアル体である鎧形態になるわけで、そのとき、機晶姫に似せた人型から、鎧の戦車型になるというわけ。それを変形と呼ぶなら変形だけど」
「うーん。だったら、鎧形態の状態で思い切り改造して……」
「それも無理よ。魔鎧は普通の金属じゃないから。アストラル体が再構成されたマテリアル体なんだから。修理や改造は同等のマテリアル体がないとできないわ。だって、仮に改造できたとしても、人型と魔鎧の変形を行ったら、改造部分はアストラル体にならないから全部おっこっちゃうもの。つまり、アストラル体に変化できるマテリアル体を手に入れなくちゃお話にならないということね。そのためには、追加のアストラル体が必要で、それを改造できないと無理だから。でも、異なるアストラル体を混ぜ合わせるっていうのは高等技術だから、わらわだって試したことないもの。魔鎧に何かを追加するのは不可能だわ」
「それじゃ何もできない……」
「そういうことね。マテリアル的な物は一切魔鎧には使えないわ。たとえアイテムを装備していたって、あなたが装着した瞬間に全部おっこっちゃうから」
「えっと、それって人型のときの鎧とか服とかも?」
「ええ」
「ちょっと、それは困りますー!」
 すっぽんぽんはいやーっと、シュトゥルム・パンツァーが叫んだ。
「大丈夫、元いたところに正確に戻ればちゃんと服着られるから。多分……」
 フォローするようにティナ・ホフマンが言った。
「多分なんですか?」
「試してみる?」
「後で一人でこっそりやります……」
 しょぼんと、シュトゥルム・パンツァーがつぶやいた。
「じゃあ、この子を装備した後は……」
「根性で這ってね」
「ううーん、ヘキサポッドウォーカーなり飛行できるアイテムとかをあたしが装備するしか方法はないかも……」
 ティナ・ホフマンの回答に、朝野未沙は頭をかかえた。とはいえ、まったく手がないわけではない。それこそ、朝野ファクトリーの面目を躍如させるべきところだ。
「よおし、頑張って魔鎧の研究だもん。ティナが思いもしなかった方法を見つけだしちゃうんだから」
 決意を新たにすると、朝野未沙は、ちろんとシュトゥルム・パンツァーの方を見た。
 
    ★    ★    ★
 
「いやあ、今日もいい汗かいたわ」
 畑仕事を終えたロランアルト・カリエド(ろらんあると・かりえど)は、自分の農場から家路を辿っていた。
 ふと畑の境の柵を見ると、アルフ・グラディオス(あるふ・ぐらでぃおす)がそこに座って黄昏れている。
「なんで、あのタイミングで……」
 先日、片思いだった飛鳥桜の頬にキスしてしまい、今ちょっと気まずい関係になってしまったのだ。おかげで、思いっきりへこんでしまっている。
「おーい、アルー!」
「……ロランか。邪魔してるぜ」
 ロランアルト・カリエドに声をかけられて、アルフ・グラディオスは気のない返事をした。
「なんや、珍しく素直やん」
「どーいう意味だよ、それは!」
 からかわれたのかと思って、アルフ・グラディオスは言い返した。こいつに悩みを相談しても意味がないだろう。
「どうしたんや。なんか悩みがあるんやったら、この親分に話してみいや」
「親分って、まだ言ってんのか」
 呆れたように、アルフ・グラディオスは言った。勝手に人の面倒をみたがるのにも程度というものがあるだろう。
「何言うとん! 俺はずっとお前の親分やで?」
「なんでそう簡単に言えるんだよ……」
 その自信はどこからくるんだと、アルフ・グラディオスはロランアルト・カリエドに訊ねた。
「そりゃあ、アルフは俺の大事な奴やからなあ。あ、桜とジェミニも大事な奴なんやで!」
 実にあっけらかんと、ロランアルト・カリエドが答えた。そんなふうに素朴に考えられれば苦労はしないのだろうか。
「俺、……いつか桜に好きだって言えるかな。俺の、大事な奴、だから……」
 伝えたい言葉は一杯ある。ありすぎて、その言葉が出てこない。きっと、今ごろ本人はくしゃみでもしていることだろう。
「ほんまに、桜のこと好きなんやな。お前。よっしゃ、親分とことん応援したる! せやから、お前は本気出しぃ! な!」
「触んな、阿呆」
 いきなりロランアルト・カリエドにワシャワシャと頭をなでくり回されて、アルフ・グラディオスは苦笑しながらその手を振り払うまねをした。