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想い、電波に乗せて

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想い、電波に乗せて
想い、電波に乗せて 想い、電波に乗せて

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 昼下がり。
 イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)は自室にて、セレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)へと電話をかけていた。
 何度目かのコール音の後、聞こえてきたのは彼女の留守を告げる音声で、繋がらないよりはマシだけれど、何処か拍子抜けしてしまう。
 発信音の後にメッセージを残すよう告げられ、その発信音が聞こえてくると、イーオンは一つ深呼吸をして、彼女へ届けと願いながら、言葉を紡ぎ始めた。
「セレスティアーナ、キミとは少々奇妙な縁で知り合った。初めは憐憫や無力な被保護者に対しての感情しかなかったというのが正直なところだが、それでも出会いには感謝している。キミに逢えてよかった。
 キミと接する回数が増せば増すほど、キミの無垢な感情と笑顔に心惹かれていった。憐憫から来る義務感は心底から出る使命感に取って代わった。俺はキミにとても強い好意を抱いていると悟った」
 ゆっくりと聞き取りやすいように、それでいて演説のようになってしまわないように、気をつけながら、メッセージを吹き込んでいく。
 迂遠な言い方しかできないのは彼らしさか。
 自分自身で、間抜けな人間だと心のうちで笑った。
「セレスティアーナ、俺はキミを愛している」
 最後に、締める言葉は率直なもの。
 そこで、メッセージを録音しておく時間が過ぎたのだという機械音が流れた。
 イーオンは通話を切りながら、充足のため息を吐く。
 彼女の返答がどうであれ、彼が彼女を護り続けることに変わりはない。
 顔を上げた彼の口の端には、笑みが零れていた。



 匿名 某(とくな・なにがし)には、どうしても気になることがあった。
 パートナーの結崎 綾耶(ゆうざき・あや)のことだ。
 最近の彼女は何かを隠しているような気がする。
「俺だ」
 自室にて、某はもう一人のパートナー、ミスター ジョーカー(みすたー・じょーかー)へと電話をかけた。
『おやおや。君から電話をかけてくるとは珍しき事もあるのだねぇ』
 から、と笑うジョーカーに「ふざけている間はないんだ」と某は声を上げる。
「聞きたいことがあるんだ……綾耶のことだ。お前、なんか知ってるんだろ。だったら前置きも騙しも一切なしで知ってることを洗いざらい吐いてもらう。あと、電話切ったら容赦しないからな」
『全く君の脅しというものは幼稚かつ凡庸という言葉をかける以外いないねぇ〜……まあいいだろう。では望みどおり語ってあげようではないか。彼女の抱える痛み、その意味をね……』
 電話越しにジョーカーがくつくつ笑う様子に、イラつきながら某は話に耳を傾けた。
 人に好かれるために改造された彼女は、最近時折、痛みを感じているのだという。本人はそれを誰にも言っておらず、ジョーカーが何処でそれを知ったのかは秘密だと笑った。
 そして、彼女のその痛みを『改造された身体によくある、身体が壊れる前兆』ではないかと思い込んでいるのだと、彼は続ける。
 けれど、ジョーカーの見立てでは、改造による影響というよりも、様々な経験をした彼女が「こんな偽者の身体はいやだから変わりたい」と願う思いに身体が反応して起こる痛み、つまりは改造の呪縛から開放されるために自ら変わろうとしている痛みなのではないか、ということだった。
『さて、これで私の知ることは話したつもりだが、君はこれを知ってどうするのかね?』
 話し終えた後、沈黙してしまっていた某に、ジョーカーは問う。
「……別にどうもしない。俺は綾耶の抱えているモノを知った。そして綾耶はそのために変わろうとしている。ただそれだけ。他は何も変わらないさ」

「……なるほど。しかし今私が語った真実を彼女に話すということもできるのだよ?」
 頷き、ジョーカーは某の返答を待つ。
『そうかもしれない。けど、話すとしたらそれはまだ先の話だ。今はまだ違う。そう、感じるんだよ』
 彼の返事に、ジョーカーはくすっと笑った。
「ふふっ、それが君の愛、というわけかね。まあせいぜい手遅れにならないよう気をつけることだねぇ〜。ハッハァ!」
『やかましいわ。この糞ジジイが』
 電話の向こう側で某が声を荒げると共に、電話が切れた。
「おや」
 一方的に切られた携帯電話を見つめて、ジョーカーはまた一つ、笑った。



 夕方、17時ごろ。
 ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)は、ふとパートナーの柊 真司(ひいらぎ・しんじ)へと日ごろの感謝の気持ちを伝えようと思い立った。
 ヴェルリアは良く道に迷うことが多く、真司に迷惑かけてしまうことが多いのだ。
 それに対して、いつも感謝しているという想いを伝えたい。
 最初はいつものようにテレパシーで伝えようともしたけれど、きちんと伝えるなら言葉にすべきだと、携帯電話を手に取る。
 この時間、真司は自室に居るだろうか。
 彼の番号を呼び出し、通話ボタンを押すと、耳に当てる。
(どうしてでしょうか? 待ってる間、何故か胸がドキドキします。テレパシーで呼びかける時はこんなことないのに……)
 高鳴る鼓動に、ヴェルリアが不思議に思っていると、呼び出し音が途切れた。
『珍しいな。携帯で掛けてくるなんて何かあったのか?』
 電話に出た真司が訊ねてくる。
「あー、そのー……うー、えとー」
 繋がったことから、緊張が高まってしまったのか、ヴェルリアは上手く言葉が出せず、つなぎのような言葉ばかりが出てくる。
『少し落ち着け』
 ヴェルリアが焦っていると感じたのか、冷静な声で、真司がそう告げた。
 彼女は「はい」と小さく頷いて、深呼吸を一度、行う。
 それからゆっくりと口を開いた。
「いつも、ありがとうございます」

 深呼吸をした後のヴェルリアから告げられた言葉に、真司は目を丸くした。
『いつも迷惑を掛けてるので、御礼が言いたかったんです』
 返事の出てこない真司に対して、沈黙を破るようにヴェルリアが告げる。
「それでわざわざ電話を掛けてきたのか?」
 テレパシーでも伝えられるだろう言葉に、真司は呆れたように苦笑しつつ、訊ねた。
『……直接、声に出して伝えたかったんです』
 いつでも簡単に呼びかけることの出来るテレパシーでは伝えられない。
 電話だからこそ伝えられることの出来た言葉なのだと、ヴェルリアは言う。
「そっか。ありがとう」
 苦笑しつつも、嬉しい気持ちがこみ上げてくるのを感じながら、真司はそう返した。