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エリザベート的(仮想)宇宙の旅

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エリザベート的(仮想)宇宙の旅

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第7章


 しばらくの時間を置き、「少し設定を変更しました」というシルフィスティのアナウンスとともにシミュレーションが開始された。
 「OvAz」第2フライトの搭乗メンバーは以下の通りだ。

  騎沙良 詩穂(きさら・しほ) 操縦
  セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど) 操縦
  清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ) 操縦
  如月 正悟(きさらぎ・しょうご) 操縦
  志方 綾乃(しかた・あやの) 動力
  神代 明日香(かみしろ・あすか) 動力
  赤羽 美央(あかばね・みお) 動力
  ジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー) 動力
  魔鎧 『サイレントスノー』(まがい・さいれんとすのー) 動力
  オルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー) 動力
  ミリオン・アインカノック(みりおん・あいんかのっく) 動力
  『ブラックボックス』 アンノーン(ぶらっくぼっくす・あんのーん) 動力

 発進シークエンスは順調に進んだ。
 「OvAz」は何事も無く離陸し、パラミタ大陸西の上空で反転、機首を上げて大気圏突破コースに乗っている。
 シーケンスの中で、何故か操縦室内に吹き込まれていたヘリウムガスによって搭乗者全員の声がアヒルの鳴き声のようになり、一部の人間から失笑が漏れた。
「設定が変わったってこの事デスカ?」
 ジョセフ・テイラーは、「がー」とか「ぐえッえッえッ」などと声を発し、自分のアヒル声で遊んだ。
「『超帝』ちゃんでミソはついちゃったけどさぁ」
 操縦席の騎沙良詩穂は、全身に圧迫感を感じながら不敵に笑う。
「衛星群からの迎撃って、大したこと無いみたいね。ホント、やる事なんてただのお使いじゃないの?」
「油断はできないんじゃないかな?」
 同じく操縦席に座っている如月正悟が言った。
「相手の攻撃を食らう可能性は、ゼロじゃないんだ。当たる時は当たるもんだよ」
「んじゃあステルスはよろしくね? こっちの姿見えなけりゃ、そもそも狙いなんてつけようないし。
 迎撃衛星なんて全部宇宙の藻屑にしてやるっての。うふふふふふ」

「『OvAz』、飛行順調」
 管制席でリカインが鼻を鳴らした。
「……さすがに今回は校長は出ないでしょうね?」
「あんなの何度も出てたまるか」
 エースが渋い顔をして答える。
「つーか出たら今度こそ湯島を吊るし上げる」
「連帯責任でしょう? 湯島さんだけなんて遠慮しないで、総合管理室全員にお仕置きしてやりませんか?」
「仮にも管制担当してるんですから、その血の気の多い行動基準は少し抑えませんか?」
 エオリアも渋い顔をする。
「上空衛星群に動きがあります。レールガン、レーザー衛星の姿勢変更を確認……?」
 天貴彩羽が液晶の表示を見て顔をしかめる。
「……前回のフライトに比べて、数が多い……?」
「進路方向基準として、視直系10度以内の衛星に姿勢制御運動……いや、15度、20度……どんどん広がってやがる。ミサイル衛星からの飛翔体発射を確認、前回のフライトとは大違いだ!」
 翠門静玖の声が緊張を帯びた。
 ダリルがマイクに向かって怒鳴った。
「『OvAz』、防御ならびにステルススキルを展開!」

 第1フライトよりもかなり早いタイミングで、搭乗員の防御系スキルが発動。「OvAz」の防御力は幾重にも向上した。
 のみならず、ミリオン・アインカノックの「ミラージュ」でその姿がいくつも増えたのに加え、如月正悟の「隠行の術」で本体には透明化が施された。
 さらに、ダリルの指示で進路は変更され、大気圏突破空域は直前で変わったにも関わらず──
 高度100キロ超。大気圏を突破して3分後。
 迎撃衛星から向けられた射線は述べ600本。射撃試行回数は60000超。被弾数438発。
 「下」以外の全ての方向からレールガンやレーザーが浴びせられ、「OvAz」は宇宙の藻屑と化した。

 シルフィスティの宣言。
「『OvAz』大破を確認。ミッション失敗」
 シミュレーションは終了した。

「設定を変えた、と最初にアナウンスをしたはずですが?」
 ゼレンは答えた。
 再び総合管理室に乗り込んだ搭乗者や管制メンバーに対応しているのは、今度はゼレン・タビアノスである。
「『設定を変えた』だけで納得できるかワレぇ!?」
 そう怒鳴りつけるのは清風青白磁だ。
「ありゃあ何じゃあ?! さっきと随分違うやんけ?! チート使うのも大概にせぇやコラ!」
「チートなんて使っていませんよ。迎撃衛星の攻撃性能が格段に向上してはおりますがね」
 ゼレンは動じる事なく、青白磁に答える。
「設定変更をしてはおりますが、それはあくまで仮想宇宙や仮想地球に幾分かのリアリティを与えた、という程度のものと把握しております。その実態と攻略方法については、〈契約者〉なら──とりわけ、皆さんならば十分つきとめられると思ってます。
 撃たれたレールガンやレーザーが、標的に向かって問答無用でホーミングする、といった物理法則をいじるようなイカサマはありません。衛星が実は機晶姫などの魔法で動く代物だった、ということもありません。
 それらは私の名誉にかけて誓いましょう」
「……仮にも貴族様というのなら、その誓いは多少は信用できそうですね?」
 セルフィーナが辛らつな台詞を口にする。
 ゼレンは苦笑した。
「……まぁ『無理だ』というのなら、設定を戻します。いくら『契約者』の方々といえども、『宇宙飛行』は荷が重かったようですね。『天を覆う迎撃衛星』というもともとの設定がイレギュラーだったのは確かですし……」
 ゼレンの苦笑の中、何人かが微かな「嘲笑」の色を見た。
「……上等じゃない?」
 ルカルカがゼレンを睨み付けた。
「こんなの簡単に蹴散らしてやる!」
「設定を戻す必要はない! 俺達は必ず宇宙に辿り着く、そしてOvAzを生かして帰してやる!」
 エースもゼレンに向かって指をつきつける。
「機械仕掛けの包囲など怖れるに足りん! ガリアの包囲に比べたらザルの如き代物よ!」
 ユリウス・ブッロが、どん、と足を踏み鳴らした。
「さぁ諸君、今こそ力を合わせる時! 共に天を貫いて、勝利をこの手に掴もうぞ!」

 乗り込んできた面々が退室したのを確認してから、湯島茜は物陰から姿を現した。
「ちょっとランクが上がった程度で、みんなナーバスだなぁ」
「あれは『ちょっと』の域を遥かに超えてますよ」
 シルフィスティが、呆れたように溜息をついた。