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クロネコ通りでショッピング

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クロネコ通りでショッピング
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リアクション

 
 
 
  ――イルミンスールの森には時々、ベストを着たクロネコゆる族が現れる。
 その後ろを追いかけて、
 『トラップ・トリック・トリップ』
 ちゃんと言えたあなた……とあなたがクロネコ通りに連れて行きたいと思った人。
 ようこそ、クロネコ通りへ――。

 
 
 
 
 
 リンゴの家
 
 
 飼い猫の後をつけていって、森で見かけたのはクロネコさん。
 急いで呪文を唱えれば、そこはクロネコ通り。
 途中、はぐれてしまった飼い猫も無事保護すると、フリードリッヒ・常磐(ふりーどりっひ・ときわ)鷹野 栗(たかの・まろん)はクロネコ通りでのショッピングを楽しんだ。
 その時々で滞在できる時間は変わるらしいけれど、今回は買い物を終えてもまだクロネコ通りから放り出されはしなかった。残っている時間をカフェでまったり過ごそうと、2人が良さそうな店を探し歩いていると。
「ここなんかどうだ?」
 フリードリッヒが『リンゴの家』という看板の出ているカフェを指した。表に立てられている黒板には、一番上に
『パラミタ中のありとあらゆる林檎を取り揃え。りんごのようなほっぺの看板娘が、お客様のお越しをお待ちしております』
 と書かれ、その下にずらりと林檎を使ったメニューが並んでいる。
「美味しそうなものがいっぱいですね。入ってみたいです」
「なら決まりだな」
 フリードリッヒは先に立って、栗の為に店のドアを開けた。
 1歩店に足を踏み入れると、甘酸っぱい林檎の香りに包まれる。
 店の飾り棚に並べられた林檎は、大きさも色も味も香りも異なっている。中にはとても林檎とは思えないような形状のものも混じっているけれど、こうして飾られているからには林檎の仲間なのだろう。
「私はアップルパイが食べてみたいです。この蒼玉林檎のアップルパイをお願いします。それからアップルティー……わ、沢山種類があるんですね。迷ってしまいます」
 栗は店員から説明を聞きながら、パラミタスイートのアップルティーを選んだ。
「僕は紅茶と、シャンバラ山羊のミルクアイスと熱々林檎ジャムのアフォガードにしよう」
「かしこまりました」
 注文を受けたウェイトレスが席を離れていくと、栗はフリードリッヒの買い物包みに目をやった。
「そういえばフリッツさんはさっきの本屋さんで何を買ったんですか?」
「これ? 鱗事典なんだ」
 フリードリッヒは袋から事典を取り出してテーブルで開いて見せた。横長の本には、幻獣までをも含めたあらゆる生物の鱗のみが延々と彩色図解されている。
「こんな事典もあるんですね」
 感心して鱗に見入っている栗に、今度はフリードリッヒが尋ねる。
「栗さんは随分たくさん買い物したようだけど、良い物は見つかった?」
「えーと、これは『ドクナシドクソウ』。名前にドクソウと入っていますが毒はないそうです」
 トゲナシトゲトゲのように肩身の狭い思いをしているのでしょうか、と栗はドクナシドクソウに優しい目を向ける。
「それからこちらは『副作用も作用もない薬』」
「作用がないって……それって薬なのか?」
「私にはただのお水に見えますね。あとこちらは『魔女が煮えちゃう大釜』。一種のトラップのようです。そしてこれは『口喧しドアノック』」
「それはどう使うんだ?」
「押し売り業者さんの対策にいいかと思いまして」
 そこまで説明してから、栗はちょっと慌てた様子で荷物を探った。
「あっ、ちゃんとしたものも買いましたよ。『不死鳥の羽の御守り』……フリッツさんにプレゼントです」
 これがフリードリッヒを守ってくれるように、と栗は御守りを手渡した。
「ありがとう。僕からはこれを」
 フリードリッヒから栗へのプレゼントは、短く不思議なメロディを奏でる『手乗りオルゴール』。
 林檎の香りに包まれてのプレゼント交換に、栗とフリードリッヒ、どちらの顔にも笑みが広がるのだった。
 
 
 
 初めてのデート
 
 
 
「みんなちゃんと来られた?」
 クロネコ通りにやってくると、師王 アスカ(しおう・あすか)はパートナーたちが揃っているのを確認する。
 呪文でつまづいた者はおらず、ルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)蒼灯 鴉(そうひ・からす)オルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)の3人とも、クロネコ通りに入れたようだ。
 そのことに安心しつつ、それなら皆で買い物に、と言いかけたアスカだったけれど。
「おい、走るぞ」
「え? 鴉」
 急に鴉に手を取られて、アスカは驚いたけれどそれはまだ序の口。
「悪いな、ここからは別行動だ」
 残りの2人にそう言い置くと、手を取ったまま走り出した鴉にアスカは仰天することになる。
「え、ええ〜?」
「おのれバカラス!」
 背後からオルベールの怒声が聞こえてくる。けれど鴉は速度をゆるめず、クロネコ通りを駈けてゆく。自然、手を引かれているアスカも全力疾走する羽目となった。
「よし、撒いたか……」
 ここまで来れば大丈夫かと、鴉は背後を確かめる。
「ハァ……ハァ……どうしたのよ〜」
 息を切らしたアスカが尋ねると、鴉はその視線を捉えて言った。
「……お前、あの時から俺に身構え過ぎ。意識してくれるのはいいが色々やりづらい……」
 アスカは返す言葉に詰まる。
 少し前に、アスカは鴉に告白された。返事はまだ保留中だ。
「だって……顔を見たら思い出しちゃうじゃない……」
 キス、と言った瞬間、アスカは真っ赤になってしまう。
「キスって初めてじゃあるまいし……は?」
 言っている途中で気がついた鴉が改めて見直すのから、アスカはすっと視線を逸らした。
 今まで絵と芸術に身を費やしていた所為か、アスカは恋愛経験ゼロなのだ。つまり……鴉とのあれがファーストキス……だったりする。
「ふ〜ん……」
 しばしの沈黙の後、鴉はアスカに聞いてくる。
「じゃ俺とするか? デート」
 興味があったアスカが小さく頷くと、鴉はアスカの手を取って、今度は走るのではなく通りを歩き出した。どこに行くのだろうとアスカが思っていると、鴉はまず画材店に向かった。その後も、不思議な本屋、魔法グッズの店、とアスカが何も言わないのに、行きたい場所へと連れて行ってくれる。
「何で私の行きたいところが分かるのよー」
「お前を見てたらわかるよ」
 鴉の返しはそっけなかったけれど、アスカは照れてうつむいた。その顔先に鴉は細長い包みを突きつける。
「あとコレ……さっき画材店で買った」
 包みの中に入っていたのは、さっきアスカが泣く泣く諦めた筆だった。アスカは鴉に礼を言うと、お返しにと魔法グッズ店で買ったアクセサリーを渡す。
「鴉に似合うと思って……」
「チョーカー? さんきゅ。着けてくんね?」
 うん、と言ってアスカはチョーカーを鴉につけようとするけれど、手が震えてなかなか留められない。鴉に笑われて、アスカは言い返そうと鴉の方を向いた。顔が近い。ドキドキと胸が早鐘を打つ。
 そのまま2人は見つめ合い、そして……。
「あ、バカラス見つけた!」
 オルベールの声に、ぱっとアスカは飛び離れた。
「アスカ、ちょっとこれ見て。ルーツちゃんったらあんなの買ってんのよ〜」
 絶妙なタイミングで現れたオルベールはそう言って、ルーツの連れている使い魔を指さした。獅子型魔獣だ。
「買ってはいない。使い魔に気に入られたらタダだというので貰ってきた。薬草に詳しい使い魔だそうだ」
 フォラス、とルーツが呼びかけると使い魔はルーツに身体をすり寄せる。
「でもこれ、ソロモンの魔獣よ。人を選ぶ使い魔だから、殺された魔術師は数知れず。だいたい、悪魔が売ってるようなもの、無闇に手を出したら危険に決まってるでしょう?」
「だが何事も無くなつかれたのだから問題はない。はは、くすぐったいぞ」
 使い魔と戯れるルーツに、オルベールは大仰にため息をついた。
「問題があってからじゃ遅いのよ。ほんとにもう〜。まあ、店主はボコボコにして、説明書も奪ってきてあげたから感謝しなさい」
 オルベールは奪い取ってきた魔獣の飼育本で、ルーツを軽く叩いた。
「そっちもいろいろあったみたいね〜」
 思わず言ったアスカに、
「そっち『も』?」
 とオルベールが聞き返す。
「あ、ううん何でもない。さ、今度こそみんなでお買い物しよう」
 アスカは慌ててごまかすと、赤くなっているに違いない頬を見られないように先に立って歩き出した。
 
 
 
 温かいもの
 
 
 
 クロネコ通りを吹きすぎてゆく風はもう冷たい。
 けれど、繋いだ手から佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)の温もりが伝わってくる。
 温かい……そう水神 樹(みなかみ・いつき)が思っていると、その手がすっぽりともっと温かく包まれた。
「この方が温かいでしょ?」
 繋いだ手ごとポケットに入れて、弥十郎が笑った。
 ポケットの中はぽかぽかと手を温めてくれる。けれどそれよりも、
「大切な樹が風邪を引いたら大変だから」
 と言ってくれる弥十郎の温かさが嬉しい。
「もっと温まってみる?」
 そう言って弥十郎は良い匂いが漂ってくる屋台を指さした。
 『くろまん』
 真っ黒な中華まんの真ん中に、クロネコさんの顔の形の焼き印が押してある。
「イカスミ……とも少し違うかな」
「でも美味しいです」
 真っ黒な見た目だけれど、皮はふんわり中身はジューシー。
 何が入っているのかと聞いたら、売り子はさあと首を傾げた。仕入れたものを蒸して売っているだけだから、中身の詳細は知らないらしい。
「この香り……八角が入ってるようだね。それからこれは……」
 くろまんを分解してしまいそうな勢いで調べている弥十郎に、樹はくすっと笑ってしまった。
 真っ黒だけどジューシーなくろまんをかじりながらなおも歩いていくと、曰くありげな佇まいのアンティークショップが目に入った。一見したところは特におかしな店ではないのだけれど、じんわりと漂う気配が独特だ。
 けれど、こういう店の方が掘り出しものを探す楽しみもあるというもの。
「弥十郎さんは何を探しているんですか?」
 東洋魔術に関係ある品はないかと探しながら樹は弥十郎に尋ねた。
「那珂市がないかと思って」
「那珂市?」
「日本が誇る包丁『関孫六』の中でも幻と呼ばれる包丁だよ。こういうところなら、そんなものもありそうに思えてね」
「そうですか。では私も探してみますね」
 自分の目的の品だけでなく、樹は弥十郎の探す包丁も一緒に探していった。
 
 結局、樹はアンティークショップで見つけた神秘的な輝きを放つ勾玉を買うことにした。
 留守番の子供の説明はたどたどしくて、はっきりとどういうものかは分からなかったけれど、単語をつなぎ合わせて推測してみるに、力のある巫女の持ち物だったようだ。怪しげなところもあったけれど、その品物が樹にはどうしても気になったのだ。
 その後も何軒か店を回ったけれど、弥十郎の探す『那珂市』は見つからなかった。
「残念でしたね。包丁が見つからなくて」
 樹は残念でたまらなかったが、弥十郎の方はそうでもない様子で。
「いいよ、見つけられなくても」
「でも……」
 他に包丁を売っていそうな店はないかと見回す樹を、弥十郎は不意にぎゅっと抱きしめた。
「良いんだよ。だって……」
 ――君がいるだけで幸せだ。
 弥十郎はそう続けた。那珂市は見つけられなくても、弥十郎の宝物は目の前にあるのだから。
「弥十郎さん……」
 抱きしめられ、樹は耳まで熱くなる。
 弥十郎とのデートはいつもドキドキさせられる。そしてそのたび、大好きが増えてゆく。
「私も……一緒にいられて幸せです」
 言ってから照れて伏せた顔が、引き寄せられて弥十郎の胸に押しつけられる。
 優しい鼓動と腕に抱きしめられた今日一番の温もりの中、樹はそっと目を閉じた。
 
 
 
 秋には焼き芋を
 
 
 
 夏の夜にかわした約束は『秋には落ち葉集めて焼き芋を』。
 季節が変わり秋になり、約束通りに焼き芋をしようと、高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)関谷 未憂(せきや・みゆう)はイルミンスールの森で落ち葉を集めて山にした。
 後は芋を入れて焼くだけ、と2人は持ち寄った芋を出した。悠司の持ってきたのは甘みの強いサツマイモ。そして未憂が持ってきたのは。
「って何でジャガイモ? 焼き芋っつったらサツマイモに決まってんだろーが」
「サツマイモの焼き芋もいいけど、ジャガイモもいいでしょう」
「そりゃ焼いたらジャガイモもうめーだろうけどさ、いちいち塩とか持ち歩いてらんねーじゃん」
 悠司の反論に、未憂は袋から塩とマヨネーズを取り出してみせる。
「ちゃんと塩とマヨネーズも持参しました。むー、バターを忘れてしまいました。先輩、持ってないですよね?」
「持ってねーよ」
「森の中じゃお店もありませんし……あっ! トラップ・トリック・トリップ!」
 走ってゆくクロネコさんと目が合って、未憂は思わずそう唱えて悠司の腕を取って茂みに飛び込んだ。
「っと、いきなり何すんだ……って、あれ? ここどこだ?」
 数歩たたらを踏んだ悠司は、見知らぬ通りの風景に面食らう。本当にクロネコ通りはあったのだと感慨しきりの未憂から話を聞いたけれど、まだ悠司は半信半疑。そんな場所が本当にあるのだろうか……。だがそうでもなければ、イルミンスールの森にいた自分がいきなり街の真ん中にいる理由がつけられない。
「ここならきっとバターも売ってるんじゃないでしょうか?」
「そんな不思議世界ならいっそ、焼き芋できる店があるかもしれねーな」
「探してみましょう!」
 未憂は店探しを開始しようとしてふと思い当たる。帰りの時間は突然来る。すぐ近くにいる人は同時に帰ることが多いと言うから、手を繋いでおかないと……手……。
 伸ばしかけた未憂の手はちょっと宙をさまよった後、悠司の袖の端っこをちょっとだけ摘んだ。
 通りの店に並ぶ珍しい品物の数々。珍しいのは品物ばかりではない。
「おいおい、ありゃなんだよ。店燃えてんじゃねーの? あ、でも元から燃えてるんなら芋突っ込んどきゃ焼き芋がすぐ出来るんじゃね?」
「先輩……そんな事してる場合じゃないって怒られますよ、きっと」
 未憂はくすくすと笑った。
 あっちにふらふらこっちにふらり。漂ってくる良い匂いにつられたりしながら歩いていった先に。
「……本当にあるもんだな」
 『焼き芋専門店』と書かれた看板を、悠司はさすがに感心した様子で眺めた。
 小さな屋台のような店の前に、焚き火とガーデンテーブルと椅子がいくつか。そんなささやかな店だ。
 店主は白っぽい鼠のゆる族で、大柄な身体にもかかわらずちょこまかと動き回っている。
「お芋はあるんですけど、焼いてもらえますか?」
 未憂が尋ねると店主は二つ返事ではいはいと引き受けてくれた。
「どんなお芋もこんがりと美味しく焼き上げてお出しするアルよ。調味料も各種そろってるアル」
 ずらりと並ぶ調味料。バターだけでも何種類も揃っている。
「良かった。焼き上がったらお芋、分けっこしましょうね」
「ああ。……怪しいのがおやじの口調だけだといいんだが」
「さあ始めるアル。このヒネズミサマの手にかかれば、何でもこんがりネ。クロネコなんかに負けないアルよ。ファイヤー!」
「きゃあっ」
 どかんと焚き火が火柱に変わって、未憂は席から飛び上がった。
「逃げるぞ、ほら」
 悠司に手を引かれて逃げ出せば、店全体が炎に包まれる。炎の中で屋台の店主は真っ赤に変化し、楽しそうに芋を踊り焼いていた。
「びっくりしました〜」
「やっぱオチがありやがった。ふー、ひどい目にあったぜ」
 怪我はなかったものの、芋と一緒に焼かれそうになった2人の服はところどころ焦げている。
「やっぱ、こういうのは普通に広場で落ち葉集めてやろーぜ。ジャガイモもまぜて良いからさ」
「そうですね。今度はバターも忘れずに持ってきます」
 約束をもう1つ重ねると、未憂と悠司は煤のついた相手の顔を笑い合うのだった。
 
 
 
 返事は仕返しで
 
 
 
 ――変わったところでお買い物しませんか?

 そんな佐々良 縁(ささら・よすが)からのメールに応えやってきたものの、待ち合わせは何故か街ではなくイルミンスールの森の入り口。おまけに縁は森の中をうろうろと歩き回るばかり。
 縁と会ったら、何故イルミンスール魔法学校に転校したのか聞こうと決意していた鈴倉 虚雲(すずくら・きょん)だったけれど、この縁の不可思議な行動を前に、それを言い出せずにいる。
 いや、もしかして縁も何か言い出すきっかけが無くて、こうして森をさまよっているのではないか。延々と森を歩き続け、そう思い当たった虚雲が、それなら自分から言わなければと視線を地面に落としたまま口を開いた。まさにその時。
「トラップ・トリック・トリップ!」
 おかしな言葉を口にした縁にぐいっと腕を引っ張られ、虚雲は茂みへと倒れ込む。
 何も言う前から何故こんな目に……。けれど聞こえてきたのは茂みがばきばきいう音ではなく、ざわざわとした街の喧噪だった。
「何だここは?」
「それは話せば長いことながら〜、ってことで、ざっくりはしょって説明するねぇ」
 縁からクロネコ通りの簡単な説明を聞いて、ああだから森を歩き回っていたのかと納得すると同時に、ちょっと思う。
 ――縁の説明はいつだって、ちょっとだけ遅すぎる。だから不安になってしまうんだ、と。
 
「ってことで、タイムリミットがあるんだよねぇ、ここ。買いそびれないように、まずはお店行こ〜」
 ぶらぶらと通りを歩いていって、2人は目についたアンティークショップに入った。
 品物について尋ねても、留守番の子供から返ってくるのは短い単語だけ。訳も分からずとんちんかんなものを掴まされてはたまらないからと、虚雲はぱっと見でブレスレットを選んだ。銀色のネコのついたブレスレット。無意識に選んだ品物だったけれど、見れば見るほど縁に似合いそうな品物だ。
「包まなくていい。すぐに渡すから」
 買ったブレスレットを手に縁の所に行けば。
「あ、虚雲くん。手ぇ出して〜」
 手招きして呼んだ縁が、虚雲の手首にブレスレットを巻いた。
「金色の綺麗なにゃんこブレスレット、きっと虚雲くんに似合うと思うよぉ」
「俺も……縁、さんに」
「あれ? お揃い?」
「ああ。偶然だな」
 金と銀。同じデザインの色違いのブレスレットをつけると、まるでペアで誂えたように見える。
「こんな偶然もあるもんなんだねぇ」
 嬉しそうに何度もブレスレットに触れる縁を見ながら、虚雲もそっと手首に輝く金のブレスレットに触れる。
 クロネコ通りで売られている品物は真贋入り乱れているというけれど……縁が自分の為に選んでくれたブレスレット以上の本物は、今の虚雲には無かった。
 
 店を出ると、虚雲は思い切って縁に聞いてみた。
「何で転校……したんだ? あの時逃げたから? 避けられたのか俺は……」
 告白逃げをしてしまった自分。
 その後の縁の転校。
 ずっと気になっていた。縁は自分と会いたくないが故に転校してしまったのではないかと。
「突然だったから驚かせたかもしれないねぇ」
 縁は当時のことを思い出すように視線を据え……そしてゆっくりと歩き出した。足の運びに言葉を乗せるように、ゆっくりと話す。
「世間さまが大変だしさ、大事なモノを離さないようにするために勉強しようと思って」
 思い立ったら矢も楯もたまらなくなって、イルミンスール魔法学校に転校したのだと縁は説明した。
「気持ちをぶつけてくれたのに、答えなくって、ごめんなさい」
「いや、そうだったのならいいんだ」
 バタバタしていて、告白の返事をしなかったことを詫びる縁に、虚雲はほっとしながら言った。
 けれど。ほっとするのは早かった。
 縁はにこーっと、ちょっとたちの悪そうな笑顔になると。
「で……お返事なんだけどね?」
「え、返事って今か?」
 いきなりこんなところで告白の返事をもらえるとは思っていなかった虚雲は軽く混乱する。
 けれど。混乱するのはまだ早かった。
 縁はぐいっと虚雲の頭を近寄せると、唇を重ね。
「……お返事こういうことですよ、おバカさん……大好き!」
 告白された時だいぶ恥ずかしい状況だったから、このくらいの仕返しはしても良いはずだと縁は笑った。
 キスとデレのダブル攻撃に、虚雲はよろっとバランスを崩した。がくっと膝が折れ……た途端、虚雲の姿はイルミンスールの森へと戻っていた。
「あーくそっ……何だこれは」
 虚雲はまだ縁の感触が残っているような唇に触れ、赤面する。
 その腕に巻かれた金の猫ブレスレットが、きらりと輝いた――。
 
 
 
 
 
  ――イルミンスールの森には時々、ベストを着たクロネコゆる族が現れる。
 求めるものは何ですか?
 欲しいものがありますか?
 買い物する人もしない人も、
 ――ようこそ、クロネコ通りへ。

 
 
 

担当マスターより

▼担当マスター

桜月うさぎ

▼マスターコメント

 
 ご参加ありがとうございました。
 
 こんな通りがあったら楽しいかな〜っとふと思って出させていただいたシナリオなのですが、
皆様が考えて下さったお店の数々で、通りを楽しく賑やかに飾り付けていただけて、幸せ気分で
執筆できました。
 
 ガイドのお約束通り、アクションの一番最初に、アイテム称号希望:○○、と書いて下さった方には、
購入した品物の名前を称号として発行させていただきました。もし漏れがありましたら、
ご連絡下さいませ。
 手段の途中に書いてあったり、書き方が違ったり、というものも、たぶんこれはアイテム
称号を希望されてるんだな〜と判断できたものは発行させていただきました。
 アイテム称号希望、と書いてないものに関しては、アイテムの名前の称号なんてやだ〜、と
いう方もいるかと思うので、発行はしてません〜。
 
 書いててとても楽しかったので、またクロネコ通りのシナリオを出したいな〜なんて思ってます。
 その際にはどうぞよろしくお願い致します〜☆