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リアクション
地下水路の最奥に、光が溢れた。
禍々しい蛇と、その亡骸は全て塵に帰る。
そして一人の……美しい黒髪の少女が、そこに横たわっていた。
◇
リファニーが目を覚ますまでの間も、捜索は続いた。
とりわけ、メデューサになった原因の調査であるが、これは難航を極める。
「……ルシェン、何か分かったかい?」
地下水路中をくまなく調査する朝斗の顔には、疲労がありありと浮かんでいた。
「いいえ……ごめんなさい」
「メデューサが助かったのはいいけれど、原因がわからないとな」
「……朝斗、疲れていますか」
「うん、まあね」
「では、今日の夕食、私……」
「僕がやります」
◇
「なんだ、ホントになにもないのか……ちょっと期待はずれだねぇ」
地下水路を悠然と歩き終えた黒崎天音が独り言を言う。
この下水道で、一体、どこをどうすればそうなるのか、この男の制服にはたったひとつのシミさえない。
「これはやっぱり、変えられてからここに入れられたんだな……。まあ、自分で来たのかもしれんが」
「自分で来た?」
ブルーズが不思議そうな声で聴いた。
「彼女は百合園生だ。そして、いた場所は百合園の真下。――帰巣本能というやつかもしれない」
「でも、一体なんのために?」
「さあ、そこまではねぇ……。さ、そろそろ出ようか。後で背中流してくれよ」
「……」
ブルーズの顔色はようとして知れないが、この時はおそらく赤に相当していたと思われる。
◇
メデューサの呪いが解けても、石化した人間は戻らなかった。
救出隊は、発見した石像を、片っ端から人間に戻す作業に追われた。
中でも、泉美緒の石像はなかなか見つからなかった。
――が、ついに、遙かに下った水路の、奥の鉄格子に引っ掛かっているところを、如月 正悟(きさらぎ・しょうご)によって発見される。
(美緒さん……! こんな所まで流されてきたのか)
注意深く引き上げると、自分の制服を脱いで上に寝かせ、石化解除薬を使う。
……みるみるうちに、肌に赤みが差し、苦悶の表情が和らいで、泉美緒は人間に戻った。
目を覚まさなかったが、呼吸はしっかりあるので、単に寝ているだけのようだ。
「美緒さん……良かった」
彼の胸中に、様々が思いが去来する。
(これで、借りをひとつ返すことができた――)
その時、後ろの方から美緒を探す百合園の生徒達の声が聞こえてきた。
正悟は立ち上がると、おーい、と手を振る。
真っ先に駆け込んできたのは亜璃珠だ。
寝ている美緒を認めると、起こさないように、そっと手のひらで頬を撫でる。
(馬鹿ね――まったく)
声にならない声で言う。
さらに、他の百合園の生徒が次々と訪れ、美緒の無事を祝う。
「美緒おねえちゃん! ちゃんと人間になってるです!」
白百合団を引き連れて、ヴァーナー・ヴォネガットもやってきた。
正悟はそれを見て、あとは事後処理にまわろうと、そっとその場を後にした。
「う……ん、あれ……? お姉様……?」
数十分後。地下水道から百合園へ帰る途中の、車の中。
美緒が、亜璃珠の膝の上で目を覚ました。
「あれ、あれ? 私、指輪を探しに……」
亜璃珠が、わざと怒ったような声で言った。
「指輪を探しにいって、メデューサに石にされて、助けられて、ここにいるの」
「……あ、」
赤くなる美緒。状況が飲み込めたらしい。
亜璃珠は続ける。
「気持ちは認めてあげるけど……自分に何ができるか考えないとダメよ。次からはまず、ヴァイシャリー軍か、学院に捜索願を出してから行きなさい、いいこと?」
「……はい」
「それから、私にも」
「……はい」
「心配、したんだからね?」
「はい……ごめんなさい、お姉様」
「うん……よろしい」
美緒は亜璃珠の膝の上で、石化から覚めた時に見ていた夢を思い出す。
夏祭りの花火。
ハロウィンで会った猫耳の魔法使い。
……その続きを見たくて、再び美緒は眠りについた。
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