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リアクション
*新しい家族とのクリスマス*
ツァンダ郊外にある児童養護施設【ルミエール】に済む赤嶺一家はクリスマスパーティの準備をしていた。養護施設の子たちとのパーティは、午前中に終了している。午後からは、家族水入らずのパーティを予定していた。
百合園へルーノ・アレエのパーティへ呼ばれ、出かけていたアイリス・零式(あいりす・ぜろしき)がようやく百合園の飛空挺で戻ってきた。
「お帰り、アイリス」
隻眼のクコ・赤嶺(くこ・あかみね)がエプロン姿でにこやかに微笑んで出迎える。アイリス・零式は目をきらきらさせながら、手にしていた見慣れないつつみをクコ・赤嶺に差し出して見せた。
「ん? どうしたの?」
「ルーノさんとニーフェからもらったであります。聖なる夜の紅茶を、家族みんなで飲んでください、と……これは、どうすればいいのでありますか?」
「お帰り、2人ともどうしたんだ?」
「霜月! 茶葉をもらったのであります!」
受け取った包みの中には、5つのレースにくるまれた更に小さな包み。赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)は、小首をかしげた。家族のぶんにしては半端だし、養護施設の子供たちへにしては少なすぎる。
「ん? 何故5つなんだろう」
「霜月と、クコと、卯月、それから自分と……」
アイリス・零式が数えながら呟いていると、黒い髪を横で束ねた赤嶺 卯月(あかみね・うき)が駆け込み、赤嶺 霜月に抱きついた。子犬のように飛び跳ねながら、目をらんらんと輝かせている。
「ねぇねぇ、パーティの準備終わりましたよ!」
「ああ。ありがとう。とりあえず、アイリスも帰ってきたしパーティを始めよう」
「そうね。アイリスもいらっしゃい」
クコ・赤嶺に促されるままに、部屋へと入っていく。パーティ用に飾られた部屋は派手すぎず、暖かなものでアイリス・零式がみた百合園のパーティに負けるとも劣らない出来栄えだった。リボンがたっぷりと使われたクリスマスツリーは、電飾が申し訳程度でとてもシックな出来栄えだった。きらきらしているのも素敵だが、こういうおとなしい感じのツリーも素敵だな、とアイリス・零式は思った。
早速プレゼントを、赤嶺 霜月が個人に手渡していった。
アイリス・零式には翡翠のブレスレットを、赤嶺卯月にはセミバロック・パールのついた首飾り。
そして、クコ・赤嶺にはラブラドライトがはめ込まれた指輪を贈った。
早速そのアクセサリーをそれぞれが身につけて自慢しあっている中、赤嶺 卯月がぶすっとした顔でクコ・赤嶺を呼び止める。
「クコさん……」
「なにかしら?」
「今日は、兄を譲ってあげます。でも明日からはそうはいきませんからね!」
そう言い放つと、アイリス・零式のところへとかけていった。彼女なりの、プレゼントのつもりだったのだろうか。
クコ・赤嶺はぼうっとそんなことを考えていると、くす、と口元を持ち上げた。
「お言葉に甘えさせてもらおうかしら」
「クコ? なんかへんなこといわれなかったかい?」
赤嶺 霜月が、赤嶺 卯月が離れたのを見計らってクコ・赤嶺に声をかける。
「あら、そっちこそ何か言われたの?」
「今日は多めに見てあげるから、私のこと構わなくてもいいよ、だって」
困ったように頭をかく赤嶺 霜月の首に、腕を絡ませた。クコ・赤嶺は最愛の夫の頬に唇を押し付けた。
「え、え?」
「いいんじゃないの? きっと、プレゼントを気に入ったからよ」
嬉しそうに微笑む妻の顔に、赤嶺 霜月もにこやかに微笑み、お返しにその唇に口付けた。
ご馳走があらかた片付くと、今度は用意したクリスマスケーキを切り分けた。買って来たものだが、マジパンで作られたサンタやトナカイがのった可愛らしいショートケーキだった。
切り分けられたケーキをテーブルに運ぶと、赤嶺 卯月とアイリス・零式は笑顔を浮かべた。その笑顔に釣られ、クコ・赤嶺も満面の笑みで二人の前にケーキを置く。
「さぁ、お待ちかねのケーキよ」
「おいしそうであります」
「本当に! ね、アイリス。このサンタさんはいただきますから、こちらのトナカイさんはアイリスの分ですよ?」
「はいであります!」
今日ばかりは仲良く語らっている2人を見て、夫婦は微笑んだ。時折、夫の口元についているクリームを、舌でなめとったりなど見せ付ける行為も幾度かしてみると、やはり赤嶺 卯月は鋭く睨みつけてくる。
それでもやはり手を出したり口を挟まないところを見ると、気を使ってくれているのだろうということがわかった。ならば、とそれ以上見せ付けることはしないように勤めた。
ケーキを食べ終わる頃に、丁度良く赤嶺 霜月が紅茶の用意をする。例の、聖なる夜の紅茶だ。
だが、やはり茶葉の量は5人分だった。それはそれとして、4人分の茶葉を使って紅茶をカップに注いだ。不思議そうに、クコ・赤嶺が注がれた紅茶を見つめる。
「貴重な紅茶なのに、多めにくれるなんてことないだろうから……やっぱり、他の子の分かしら。アイリス、今日のパーティのことを話してきたんでしょう?」
「そうであります、それはクコの分であります!」
アイリス・零式が思い出したように声をあげた。
そして、包みに添えられていた手紙を広げて、読み始めた。
少し切ない物語だった。だが、遠く離れた人にも思いを届けられる特別なお茶であるのだと、改めて口にされてクコ・赤嶺は驚いて目を丸くした。
「え?」
「ルーノさんたちにお話ししたのであります。そしたら、一個多めにくれたであります。クコのおなかの中の子にも、きっととどくでありますよね?」
「そう……ね。きっと届くわ」
まだ見ぬわが子の為に、あの機晶姫姉妹は貴重な一つを入れてくれたのだという。どうか無事に生まれて欲しいという言伝付だと言う。それをきいいて泣きそうになりながら、クコ・赤嶺はアイリス・零式を抱きしめた。
その背中を、赤嶺 霜月がゆっくりとさする。
「新しい家族と、みんなの息災を願って」
高らかに宣言しながら、赤嶺 卯月がティーカップを持ち上げた。それを見て、クコ・赤嶺が目を丸くした。
「今日だけ、今日だけなんだから」
ぷい、と視線をはずした頬は、わずかに赤くなっていた。
紅茶の甘い香りが、新しい家族を祝福しているような、そんな夜だった。
*生誕祭と聖夜祭*
きらきらと光るイルミネーション、星がちりばめられたモールは、部屋をこれ以上にないほど彩っていた。
朝から準備して、ようやく終わらせたと思えば、外はもうとっぷりくれていた。
霧島 春美(きりしま・はるみ)は、サンタのコスプレ姿で料理を並べ始める。
「よーし、では早速霧島ファミリーのクリスマスパーティを開催します!」
ぱちぱちぱち
拍手を幾度も幾度もしてから、ディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)が真っ先にテーブルに飛び出した。うさ耳の間にある角には、ヤドリギの手作りアクセサリーをつけていた。
「はわわ、ごちそうが沢山だよ☆ ケーキにマカロン、ポテトにエビフライにから揚げーうっう〜♪」
「はしゃぎすぎないの、とりあえずは例の頂き物からでしょう?
ピクシコラ・ドロセラ(ぴくしこら・どろせら)が赤いバニースーツ姿でにっこりと笑うと、トナカイの被り物をしたカリギュラ・ネベンテス(かりぎゅら・ねぺんてす)が首をかしげる。
「ん? なんやの?」
「そう! われらが大事な友人である、ルーノさんたちからプレゼントも届いてまーっす」
高々と掲げたのは、品の良い白い箱。中身は既にティーポットに入っていたが、甘い香りがほのかに鼻腔をくすぐる。
「聖なる夜の紅茶、とっても貴重なお茶なんですって」
「へぇ。そないに凄いもんもろたんかぁ……はよのも〜!」
カリギュラ・ネベンテスが興奮のあまり手にしていたヴァイオリンをかき鳴らす。にっこり笑うと、霧島 春美はまってましたといわんばかりにティーカップに紅茶を注いでいく。
「絆を深めることが出来るのよ。遠く離れても、思いを届けることが出来るの」
「ホント甘くていい香り」
「お仕事に行っちゃったニャンコにも届くといいな〜♪」
ピクシコラ・ドロセラはまるで上等なワインに酔うかのようにため息をつき、耳をぴくぴくさせながら、ディオネア・マスキプラがにっこりと微笑む。
「私がここへ来て一周年。その一年で出会えたみんなとの出会いをお祝いしよう!」
「おう! 乾杯やー!!」
カリギュラ・ネベンテスが高らかに宣言すると、家族一同がティーカップを高く掲げ、一気に喉に流し込んだ。
その胸には、沢山の人の幸せを願うものだった。
その幸せの一つとして、カリギュラ・ネベンテスは目の色を変えた。
奏でる音色は、手品の定番曲。その曲に合わせてピクシコラ・ドロセラは目にも鮮やかな手品を披露する。魔法の心得があるものでも、その見事な腕前は見惚れてしまう。
マジックという名の。魔法とも違うその演技は見るものを楽しませる。
今度は、タンバリンを持ったディオネア・マスキプラと、カリギュラ・ネベンテスのセッションだった。
いくつもの楽しい音楽は、霧島 春美を泣くほど楽しませてくれた。
こんなに幸せな時間を過ごせて、本当に幸せ。
そんなことを、霧島 春美は考えていた。
すると、カリギュラ・ネベンテスは知らない曲を奏で始めた。少し物悲しい、けどだんだんと明るくなっていくメロディ。最後には心が躍りだすような、うきうきするリズム。
「素敵な曲……お兄ちゃん、今の曲はなんていうの?」
「今のはな、【我ら霧島ファミリー】って言うねん」
にっこり笑った茶色い瞳が、眩しく見えた。
「ボクのプレゼントは春美に捧げる曲や。気に入ってもらえたみたいやな」
「え? プレゼントって……みんなでおそろいのマフラーを買ったじゃないの」
「それは、クリスマスプレゼントだよー」
ニコニコしながら、ディオネア・マスキプラが口を挟んだ。その手には、見覚えのないつつみがかかえられていた。
「ボクたち、春美へのプレゼントを用意してたんだよ☆」
「ワタシからのプレゼントは、木彫りの人形よ。5人を彫ってみたの」
ピクシコラ・ドロセラが透明な袋に入れられた木彫りの小さな5体の人形を差し出す。木製ならではの暖かな表情が伺える素敵な品物だった。
「お金持ってないから、こんなものしかあげられないけど、ごめんね」
「ピクシー……」
泣きそうになりながら、おもわずピクシコラ・ドロセラの身体をぎゅっと抱きしめる。急なことに、思わず顔を赤らめて押しやろうとしてしまう。
「は、春美……ちょっと、恥ずかしいわ……」
「グルービー☆」
「もう、兄貴ったら茶化さないでっ」
「ボクからはね、クローバーで作った王冠と、表彰状だよ。しゃがんでしゃがんで」
ディオネア・マスキプラにそういわれて、サンタ帽子を脱いだ霧島 春美は膝を付くと、ディオネア・マスキプラは紙を広げた。
「表彰状。マジカルホームズ殿」
「表彰状じゃないでしょ」
「もう、ピクピクはうるさいのっこういうのは、気分が問題なんだからね。えっと……んと、春美、いつもありがとう!
そういって、その頭にクローバーで出来た王冠を載せてもらう。
王冠といっても、ただの冠ではなく本当に王冠のように編み上げられた大きな品物だった。ところどころにあるシロツメクサがまるで宝石のようだった。
「すごい、ディオ、こんなのいつの間に……」
「全部四葉のクローバーなんだよ☆」
自慢げにそう口にするが、いくら見つけるのが得意とはいえそれなりの数を必要としただろうに……また涙が出そうになっていると、ほっぺたにくすぐったい官職が押し付けられる。
「春美は、クローバーのお姫様だね♪」
「ディオ、ありがとう!大好き!」
「ボクも春美が大好きだよ! お兄ちゃんも、素直じゃないピクピクも、今はお仕事でいないけどニャンコもみんなみんな大好き☆」
お互いに抱きしめあって、頬を摺り寄せる。それを眩しそうに見つめていたピクシコラ・ドロセラは、ぽん、と軽い音を立てて手の中にタロットカードを出した。
「さぁ、それじゃ霧島ファミリーの未来をこのトートの一枚引きでで占ってみましょうか!」
「なにがでるかな、なにがでるかな♪」
カリギュラ・ネベンテスがヴァイオリンでメロディを奏でている間にぱらぱらぱらと、カードが手際よくきられていく。そして、その一枚を引いた。
「うん、太陽のカードね。未来は明るそうよ!」
「えー、ピクピクったら手品で弄ったんじゃないの?」
「ふふ、どっちだと思う? 占いの結果はともかく、私たちの未来は明るいわ。ディオだって、そう思うでしょ?」
パートナーたちの笑い声を聞いて、霧島 春美は目を閉じた。
パラミタに着てからの思い出が、走馬灯のように駆け巡ると、ディオネア・マスキプラを抱きかかえたままで、立ち上がった。
「私、ここへ来ていろんな冒険をしたり、マジカルホームズなんて光栄な二つ名をもらったり、気の合う仲間が出来たり、仲良しだったコとお別れを体験したり……本当にいろんなことがあった一年だった。それに何より、貴方達パートナーに出逢えたこと。全部ひっくるめて、本当にここに来られて良かったと思ってる」
茶色の瞳から、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。ディオネア・マスキプラがぐしぐしと拭うと、にっこり笑って霧島 春美は続けた。
「本当のこと言うと、こっちに着てからは何がなにやら全然わからなくって……すぐに地球に帰ってやろうなんて思ってた……でも、残ってよかった。ここにいられて良かった。私、今とっても幸せ!」
クローバーの王冠をかぶったサンタは、たくさんのプレゼントと友達に囲まれて、幸せな夜を過ごしていた。
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