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リアクション
*聖なる夜の宴*
元気よく駆け回っていたのは、珍しくメイド服姿をした朝野 未羅(あさの・みら)だった。今は雪見庭園と呼ばれるこの場所は、氷で建物が作られていた。
とはいえ、全てが全て氷なのではない。壁や天窓など、透けていても問題ない場所だけであり、骨踏みはキチンとしたものを基盤にしてあるため、冬の間は早々簡単に壊れない設計になっていた。
壁を氷にしたのは、窓から見える雪がしっかりと見えるように、家屋の温度が外に洩れないようにするためらしい。
とはいえ、今日子の日を楽しむためには十分すぎるこの建物で、今はイベントの準備の真っ最中だった。
テーブル配置を何度も確認しながら、朝野 未羅はテーブルと机を並べていく。楽隊の人たちが座るための椅子も、今のうちに確保しておかなくてはならない。
心配になったのか、同じくメイド服姿の朝野 未那(あさの・みな)が顔をのぞかせる。
「未羅ちゃん〜、だいじょうぶですかぁ?」
「大丈夫なのー!」
にっこりと元気のよい返事が返ってきたのを確認して、朝野 未那は自分の持ち場へと戻った。自分の持ち場は、外壁や、ツリーの飾りつけ。使うのは勿論雷術だ。
「みなさ〜ん、少し離れてくださいねぇ〜。ちかよったらぁ、びりびりしちゃいますよぉ〜?」
にこやかに間延びした声でそういうと、既に巻きつけた特殊な糸に、雷を流し込む。
すると、まるで虹のようなキラメキを放つ電飾が出来上がった。会場全体に飾られていたのか、氷で出来た幻想的なフロアに一層夢のような彩がそえられる。
「すごーい!!」
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が感激のあまり声を上げていると、朝野 未那は照れたように頬を赤く染めた。料理をならベていたベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)も、手を止めてツリーの幻想的な色合いを見つめてため息を漏らした。
「本当に素敵ですね」
「ありがとうございますぅ。お料理のほうはぁ、順調ですかぁ?」
「ええ。ビュッフェ形式とはいえ、最初は軽いものだけです。ですが夜のメインディッシュも準備万端です。そろそろ、他のも運び込まれてくると思いますよ」
「ケーキも、続々と出てきますからね」
ベアトリーチェ・アイブリンガーの言葉に、神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)もケーキを持って現れる。手には、ブッシュ・ド・ノエルがならんだ大きなトレイ。
後ろに立つミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)の手にも、同じものがならんでいた。
「こんなに大掛かりなパーティだったとは……これだけのケーキでも足りなさそうですわね」
「だいじょうぶですぅ。たくさんの人がぁ、今日は来られますからぁ。ケーキの手配もぉ、ばっちりですぅ」
「あ、そういえばあの事はみんなOKなのかな?」
小鳥遊 美羽がその場にいるメンバーに声をかける。辺りにはルーノ・アレエがいないのは確認済みだった。
一同はにっこりと口元を持ち上げて、「勿論!」と微笑み返してくれた。神楽坂 有栖はOKサインを指で造りながら瞳を細めた。
「そちらのケーキも準備万端です。今は調理場の冷蔵庫の中です」
「お待たせしました。シュトレンと、クレッツェンブロート、あとはレープクーヘンです。この辺りでいいかな?」
エプロン姿のエールヴァント・フォルケン(えーるう゛ぁんと・ふぉるけん)は、たくさんの料理をもってテーブルの一つを借り受けると、食べやすいように切り分けて置いておく。
アルフ・シュライア(あるふ・しゅらいあ)は準備にいそしむ女の子達に声をかけるが、ことごとく無視されているのか少し落ち込んでいた。
「くぅ、まぁいい。パーティが始まったらそうは行かないのさ」
「準備段階からナンパって、やめような?」
ため息をつきながら、エールヴァント・フォルケンは金の髪をかきあげる。辺りを見回すと、たくさんの人たちが動いている。
「初めて参加させてもらったけど、本当に大掛かりなパーティだな」
「ルーノさんのため、ですからね」
珈琲の香りと共に現れた浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)が、トレイにコーヒーセットを持って現れた。その後ろには、九条 葱(くじょう・ねぎ)と九条 蒲公英(くじょう・たんぽぽ)の姿もあった。2人の手にするトレイのうえにも、コーヒーセットが置かれていた。
「せっかくの紅茶を楽しむ会なのに、なんで珈琲もって来るかしら」
ため息混じりに、制服姿の北条 円(ほうじょう・まどか)が呟くが、それに対しては浅葱 翡翠はえっへん、と胸を張る。
「ニーフェさんからのご依頼なのですよ。私のおいしい珈琲をまた飲みたい、とね」
「ふーん。ま、いいわ。準備、まだ手伝えることあるかしら?」
「たくさんありますよぉ〜。未羅ちゃんがぁ、まだ走り回っていると思いますのでぇ、あちらをお願いいたしますぅ」
「OK、任せて」
北条 円はにっこりと笑ってチョコチョコと駆け回る茶髪の機晶姫の下へと向かった。
珈琲のテーブルを用意したあとは、榊 朝斗(さかき・あさと)が運んでくる料理の配膳を手伝った。
「ありがとうございます、浅葱さん」
「おお、これまたおいしそうな料理ですね」
「アイビスも手伝ってくれたんだ。良かったね、アイビス」
「写真の通りに作ったまでです」
アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)はそっけなく言葉を返しながらも、手にしていた料理を綺麗に並べていく。写真どおりに、とは言うものの、ビュッフェ形式のトングをどちらからも取りやすいように二つ並べたりするのは、心配りがあるからだと浅葱 翡翠は思った。
「あの、プレゼントはどこに置きましょうか?」
たくさんのラッピングされた箱を抱きかかえているルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)は、準備に走り回っていたニーフェ・アレエをようやく呼び止めた。
「あ、はい。ええと?」
「あら、初めましてですね。私はルシェン・グライシス。榊 朝斗のパートナーです」
「初めまして! 今日はありがとうございます。ニーフェです。交換会用はこっちです」
そういって、緑の髪の機晶姫が導いたのは、大きなモミの木の下。色とりどりの靴下が並んでいる中には、プレゼントが入っていた。
まだ空の靴下に入れる仕様になっているようだった。
「人数がまだ確定していないので、交換会にするか、ゲームの景品にするか決めかねているんです」
「なら大丈夫です。まだまだたっくさんプレゼント持ってきてあるんですよ」
「ボクも持ってきたです!」
後ろからたくさんの紙袋を抱えて駆け込んできたのは、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)だ。後ろをついて歩いているセツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)の手にも、紙袋があった。
「交換会、みんなで出来たら言いなって多めに編んだんですよ」
「ヴァーナーったら、そんなことをいったら中身がばれてしまいますわ」
セツカ・グラフトンがくすくすと笑いながら言うと、ヴァーナー・ヴォネガットは「あ」と口を押さえた。
「大丈夫です。つつみで中身がばれないように、靴下の中に入れて交換してもらうんですよ」
「ちなみにこの靴下は、ランドネアが大量に作ってくれたんだ」
カメラを回している毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)がにっこりと笑いながら言葉をかける。ルシェン・グライシスは小首を傾げて問いかける。
「ランドネア?」
「大事な友人の一人です」
にっこりとニーフェ・アレエが微笑むと、プリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)もいくつもの箱を抱きかかえていた。
「あとで、そのランドネアさんも来ますよ」
「え、プリムローズさん、本当ですか?!」
「うん。許可をもらえたの。桜井校長もいるし、監視役もいるなら大丈夫だろうって」
「それじゃあ、そのときに改めて挨拶をさせてもらうわね」
「はい、ルシェンさん、ありがとうございます」
ぺこ、と頭を下げたニーフェ・アレエがかわいらしくて、ルシェン・グライシスは微笑んだ。そんなとき、ニーフェ・アレエの携帯がなった。発信者は、いつもメンテナンスを買って出てくれる少女だった。