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学生たちの休日6

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学生たちの休日6
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    ★    ★    ★
 
「では、確かにお届けしましたー。またの御利用をお待ちしております!」
 サンタ姿の四谷大助は、担いでいた袋の中から大きな箱を取り出すとエミリア・パージカル(えみりあ・ぱーじかる)に手渡した。
「よし、これで終わりだ。急がないとパーティーが始まっちゃう。いくぞ、わんこ!」
「任せておくのだ」
 素早くバイクの後ろに飛び乗る四谷大助を乗せて、白麻戌子が猛スピードで発車していった。
「さすが年末、どこもあわただしいですね。商売人としては、とてもいいことです。とにかく、これで、不足していた物が手に入りました」
 ミニスカサンタ姿のエミリア・パージカルが、箱を開けてほくそ笑んだ。
「みんなー、届きましたよー」
 呼ばれて、バイトとしてル・パティシェ・空京に手伝いに来ていた者たちがわらわらと集まってくる。
「わあ、エミリアさんと同じ服なんだもん」
 手渡されたミニスカサンタ服を広げて久世 沙幸(くぜ・さゆき)が言った。
「ミニスカサンタだなんて、エミリアさん分かってらっしゃいますわね。さっそく、わたくしが沙幸さんを着替えさせてさしあげますわ」
 がぜんやる気を出した藍玉 美海(あいだま・みうみ)が言った。そのまま、お店の更衣室へと久世沙幸を連れていく。
『きゃー、ねーさまったら、そんなとこ……そこはダメだよぅ』(V)
『着替えですから、あたりまえですわ』
『下着は関係ないんだもん』
『例外は認めませんわ』
 なんやら、更衣室の中から凄い会話が聞こえてくる。
「えーっと……入ってもいいんでしょうか……」
 おずおずとアイス・ドロップ(あいす・どろっぷ)が、エミリア・パージカルに訊ねた。
「だめ、姉様、風邪引いちゃうでしょ! 絶対だめなんだから! 絶対、ぜーったい、こんな服着せないんだから!」
 鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)が、すかさずアイス・ドロップの前に立ち塞がった。
「姉様の代わりにボクが着るよ! ね、エミリアちゃんいいよね?」
 そう言うなり、鏡氷雨が更衣室の中に入ろうとドアを開けた。
「おいでませーですわ。覚悟はよろしくて?」(V)
「えっ……」
 一瞬のフリーズ時間があった後、鏡氷雨が藍玉美海の魔窟に引きずり込まれて姿を消した。
 
    ★    ★    ★
 
「みんな、頑張って仕事してるかなあ」
 ちょっとした仕事を片づけた如月 正悟(きさらぎ・しょうご)が、ル・パティシェ・空京を見にやってきた。エミリア・パージカルがちゃんと店長をやっているか心配だったのだ。
「いらっしゃいませなんだもん」
「美味しいケーキですよー。お店の中では、お食事もできまーす」
「ケーキをお求めの場合はカウンターで、限定クリスマスケーキは外に販売コーナーがあるのでそちらでお買い求めください」
「買ってくださーい」
 店頭のワゴンにずらっとならんだ久世沙幸とエミリア・パージカルと鏡氷雨とルクレーシャ・オルグレン(るくれーしゃ・おるぐれん)がミニスカサンタ姿で寒さにちょっと震えながら販売をしている。
 藍玉美海の見立てのせいで、スカートをつんつるてんにされた久世沙幸は、ワゴンで微妙に下半身を隠しながら販売をしていた。後ろに回ったら丸見えという状態なので、お店の中から覗かれないことを祈るばかりなのだが、その位置にはべったりと藍玉美海が張りついているので、見ず知らずの人に覗かれる心配はないようだ。でも、それでいいのだろうか?
 サイズが合わなかったのか、ルクレーシャ・オルグレンは今にもたっゆんな胸が零れそうだ。
「って、おい、待て! 誰もルシィの格好に突っ込まなかったのか? エミリア、ルシィに何をやらせているんだ」
 ルクレーシャ・オルグレンの姿に面食らった如月正悟が、自分の着ていたコートを彼女にかけようとした。
「あー、お客さん、売り子さんの衣装には手を触れないでください」
「邪魔だ!」(V)
 止めようとした鏡氷雨が、如月正悟の剣幕にあわててエミリア・パージカルの後ろに隠れる。
 そのまま、如月正悟は店の裏にルクレーシャ・オルグレンを連れていってしまった。
「この服、似合いませんでしたか?」
 しょんぼりと、ルクレーシャ・オルグレンが如月正悟に言った。
「それ以前に、無防備な服装は男の人に襲われるからね! 気をつけなさい」
「はい……。あ、そうです!」
 叱られてしょんぼりするルクレーシャ・オルグレンだったが、突如気をとりなおすと、勝手口から厨房に行ってケーキを持ってきた。
「正悟さん、プレゼントなのです」
「わざわざルシィが作ったのか。サンキュー」
 皿に添えられていたフォークで、如月正悟はケーキを一口食べてみた。
「うん、味はいい」
「あの……、あと、よければ私ももらってもらえると……」
 消え入るような声で、ルクレーシャ・オルグレンがつけ加えた。
「それは、今はまだ答えられない」
「だめなんですか?」
 泣きそうな顔で、ルクレーシャ・オルグレンが聞き返した。
「今はまだ分からないというだけだ」
 如月正悟はそうとだけ答えた。
 
    ★    ★    ★
 
「こんな所にケーキ屋さんができたなんて、盲点だったよね」
「ええ。意外に美味しいですわ」
 店内では、ヴァーナー・ヴォネガットとセツカ・グラフトンが、お店自慢のケーキセットに舌鼓を打っていた。
「ケーキセット一つお願いします」
「はい……、承り……ました」
 別のテーブルでは、白滝奏音が手を挙げて、アイス・ドロップに注文をしていた。
「あと、アップルパイとチョコパイをお持ち帰りでお願いします。それから、ついででいいですから、このアンケートにも皆さんで記入をお願いします」
「はい?」
 断ることもできずに、アイス・ドロップはそのアンケートを厨房へ持って行った。
「アンケート? そんなことより、遅くなったけど、昼飯用のピザ焼いたから、みんなを順番に呼んできてくれ」
「はい……」
 厨房の手伝いに来てくれていたセシル・レオ・ソルシオン(せしるれお・そるしおん)に言われて、アイス・ドロップはみんなを呼びに行った。
「で、アシャ、なんでお前がここにいるんだ?」
 いつの間にか一緒に厨房にいて調理を手伝っているアシャ・カリス・ユグドラド(あしゃかりす・ゆぐどらど)を見据えて、セシル・レオ・ソルシオンが問いただした。
「貴方についてくれば、興味深いものが見られるかと思いまして」
「意味が分からん。とりあえず、このアンケートでも書いてろ」
 そう言って、セシル・レオ・ソルシオンが、白滝奏音のアンケートの束をアシャ・カリス・ユグドラドに投げ渡した。
 ちょうどいい暇潰しとばかりに、アシャ・カリス・ユグドラドが次々と複数のアンケート用紙に適当に記入していく。
「そういえば愛しい彼女とはどうなんです? 手を握る以上の進展はありましたか? それで、今まで何人の女を泣かせてきたんです? 私には到底理解できそうにありませんね」
「なんでいきなりそんな話になる」
「いえ、興味がありまして」
 いけしゃあしゃあとアシャ・カリス・ユグドラドが言った。
「据え膳は考えてから食うもんだ。他の奴はどうだろうと、俺はそう思う。そして今、本当に大切な人を見つけた。だから……。まあ、そういうことだ。ほら、ケーキセットとお持ち帰りできたぜ。早く持っていけ!」
 そう言うと、セシル・レオ・ソルシオンが、白滝奏音の注文品の載ったトレイをアシャ・カリス・ユグドラドに押しつけた。
「本当に、あなたは面白い奴だ」
 そう意味深に微笑むと、アシャ・カリス・ユグドラドは書き終わったアンケートの束をトレイに載せて店の方へと姿を消した。