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学生たちの休日6

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学生たちの休日6
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4.キマクの風

 
 
「メリー・クリスマスですぅ!」
 荒野の孤児院を訪れたメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が、子供たちにむかってにこやかに挨拶をした。
 今日は、孤児院ができてからの一周年記念もかねてのクリスマスパーティーだ。今までこの孤児院に関わってきた者たちも、三々五々に顔を出しに来ている。
「こんにちは。今日は私も仲良くしてくださいね」
 メイベル・ポーターに誘われてやってきたシャーロット・スターリング(しゃーろっと・すたーりんぐ)が、子供たちを前にして言った。わいわいと、楽しく騒ぎながら、孤児院の中でパーティーの準備を始める。
「遅くなってすみません、これはお土産ですわ」
 孤児院の裏手に回ったフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が二本の赤いバットを持って、調理担当の弁天屋 菊(べんてんや・きく)に言った。
「よいしょっと」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が、持ってきた包みをドスンと地面に下ろした。どうやら、ここにくるまでの間に、何かを狩ってきたらしい。ほどよくミンチになっていなければいいのだが……。
「よっしゃ、任せときなよ」
 平然と荷物を受け取った弁天屋菊が調理場に消える。とりあえず彼女であれば、まともな料理にしてくれるだろう。
「僕も手伝うよ」
 そう言って、セシリア・ライトも調理場へとむかった。
「肉料理は任せたからね」
 主にサラダやパスタを担当して、セシリア・ライトが様々な料理を作っていく。対する弁天屋菊の方は、肉をさばいてシチューやローストを作っていった。
「じきに、美味しい料理が来ますからね」
 メイベル・ポーターやシャーロット・スターリングたちと共に会場の飾りつけをしていたフィリッパ・アヴェーヌが言う通り、じきに弁天屋菊とセシリア・ライトがたくさんの料理を運んできた。子供たちから、普段見ないような料理のオンパレードに歓声があがる。
「どうしたのですか、少し浮かない顔をしているように見えますが?」
 フィリッパ・アヴェーヌの顔を見て、シャーロット・スターリングが訊ねた。
「肝心な人が来ていないと思いまして。ちょっと残念ですわ」
「手紙なら出したんですぅ」
 つぶやくように答えるフィリッパ・アヴェーヌに、メイベル・ポーターが言った。
 それでも、一周年記念のパーティーは楽しく盛りあがっていったのだった。
 胸に青いバラを飾ったメイベル・ポーターたちが、ツリーの前で賛美歌を歌う。
 時間が経つにつれて、今まで孤児院に関係していた者たちも集まってきてくる。
「ん、また、誰か来たみたいだね」
 玄関の呼び鈴が鳴って、弁天屋菊がドアを開けた。
「メリー・クリスマスだぜぇ!」
 勢いよく中に飛び込んできたのは、サンタの姿をした王 大鋸(わん・だーじゅ)だ。その後ろからは、トナカイの角をつけたシー・イー(しー・いー)もやってくる。
「わーい」
 子供たちが、歓声をあげて王大鋸に群がり集まった。
「来てくれたんですね!」
 メイベル・ポーターたちも喜んで叫ぶ。
「遅れてすまねえ。ちょっと手配した物が届くのが遅くてな。さあ、みんな、プレゼントだぜえい。細けえことはいいから、好きなもん持ってけー!!」
 王大鋸は担いでいた袋を開くと、中に入っていたプレゼントを勢いよく床にぶちまけた。
 
    ★    ★    ★
 
「平和だねぇ。世間じゃいろいろあるみたいだけど、私にゃ関係ないし」
 のんびりといつもと変わらない一日を過ごしていきながら、神代 師走(かみしろ・しわす)がつぶやいた。
 きっと、今日も今日とて、冒険に行っている者は冒険を楽しみ、世界存亡の危機と闘っている者は大きな責任を背負い、ラブラブしている者はラブラブし、ひゃっはーしている者はひゃっはーしているのだろう。
「私はのんびりと読書でもして時間を潰しますかねえ」
 家事を済ませてリビングに行くと、日だまりの中に先客がいた。
「ん? なんだ? 今読書中なのでな、邪魔はしないでもらいたいのだが」
 読んでいた本から一瞬だけ顔をあげて、マルクス・アウレリウス(まるくす・あうれりうす)が言った。
「いや、邪魔はしないですよぉ」
 邪魔はあんたの方だと思いつつも、神代師走は、適当な本を手にとってマルクス・アウレリウスのいるリビングを後にした。
 二人共、今日一日は、何者にも邪魔されたくはない。そんな一日であった。
 
 
5.タシガンの香

 
 
 霧深き、山間の廃城。
 そこは、そのはずであった。
 だが、いつの間にか、人知れずその城は内部が修復されていた。もっとも、外見は、廃城のままである。
「ここは、霧の化け物が巣くっていたという話だが、よくもまあ修復したものだ」
「浮遊島にやってきた者たちがかなり破壊したそうですが、言うほどではなかったようですね」
 ちょっと感心するオプシディアンに、ジェイドが同意した。
「何を言ってるんですか。ルビーさんの命令で、僕のワーカーが一所懸命直したんですよ」
 勝手に元通りになる物なんてないですよと、アクアマリンが説明する。
 奥の部屋に行くと、今名前の挙がった男が、広間でくつろいでいた。若くもなく年老いてもなく、これと言ってとらえどころのない男だが、その場所に溶け込むと共に、その場を確実に支配する存在感を持ち合わせていた。
「御苦労だったな」
「ああ、こいつの作戦で苦労したよ」
 ちらっとジェイドに視線を流してから、オプシディアンが答えた。
「でも、楽しめたのだろう」
「もちろん」
 爽やかに、ジェイドが答える。
「後の二人はどこにいるんだ?」
「遊びに行っているよ。いろいろと、予想外の出来事は多いのでね」
 エメラルドアラバスターの姿を求めて周りを見回すオプシディアンに、ルビーが答えた。
「バランスは崩すもの、それでいい気もしますがねえ」
「我々に関わらなければだが……だろう?」
 苦笑するジェイドに、ルビーが釘を刺した。
「いずれにしろ、シャンバラがシャンバラとしてあろうとしているのか、シャンバラという名前だけの違う物であるのか、まだまだ見極めようじゃないか。そこに価値が生まれることを祈って……」