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空京暴走疾風録

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第8章 挑戦者の姿・3 環七西/21時頃

 ロイ・グラード(ろい・ぐらーど)は魔鎧の常闇の 外套(とこやみの・がいとう)を装備し、白馬に乗って“暴走(ハシ)“っていた。
「なぁ相棒」
「何だ、ヤミー」
「どうして馬なんだよ」
「本当の“漢(ワル)“というのは、“環境(まわり)“には心優しい者達と聞いている」
 ロイは涼しい顔をして答えた。
「いたずらに排気ガスをばらまくよりは、よっぽど“エコ“だと思うが」
「熟語に“無理な読み仮名“当てて“意味ねじ曲げて“んじゃねぇ」
「文句を言うな。俺の調査では、車道を馬が走る事そのものは別に違反でも何でもない」
 が、そう言っている傍から、声をかけられる。
「空京警察の者でーす。そこの馬ー。路肩に止まりなさーい」
「……どこが“違反“じゃないって?」
「おかしいな。いざとなったら“威圧(オド)“してごまかす事にしよう」
 後ろからの指示通り、ロイは馬の速度を緩め、車道の路肩に寄せた。
 その近くに白塗りの軍用バイクを停めてきたのはマイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)だ。手には反射テープを持っている。
「身分証明書はありますか?」
 言われたロイは、特に逆らわずに生徒手帳を差し出す。
「……ロイ・グラードさんですか。白馬はともかく、この夜に周囲からよく見えない“黒の服装“ってのはいただけませんね?」
 名前を確認すると、マイトはすぐに生徒手帳を返した。
「知らなかったな。黒塗りの自動車とか黒塗りのバイクとか普通にありそうなものだが?」
「バイクはともかく、“四輪“はパラミタ大陸じゃ珍しいそうですよ。おかげで俺もパトカーじゃなくて即席の白バイに……っと、それはともかく」
 マイトは反射テープをロイに差し出した。
「せめてこれを衣服に貼って下さいませんか。腕に貼って、方向指示器やブレーキランプの代わりにして貰えれば、後は交通ルールを守れば問題はありません」
 ふむ、とロイは少し考え込んだ。
「……右腕を斜め下に伸ばすのが停止、真横が左折、肘から先を上に向けるのが右折、だったな」
「そうです」
「了解した。安全運転を心がけるようにしよう」
 ロイは反射テープを受け取り、それを袖の部分に貼り付けると再び白馬にまたがった。
「お役目ご苦労。今度からは電飾コートでもまとうようにする」
「ご協力感謝します」
 馬上のロイに、マイトは敬礼した。
(誰か教えてくれ……俺はどう反応すればいいんだ?)
 外套は、心中で煩悶した。