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女王陛下と兵隊アリ(S@MP第2回)

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女王陛下と兵隊アリ(S@MP第2回)

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第三章:警備事前打ち合わせ

「警備の皆さーん。イコンのデータ提出をお願いしますね―」
 真琴は各学校から混成される警備隊のすべてのイコンのデータを手に入れて効率よく整備するため、皆にイコンのデータ提出を求めていた。
「いっぱいあるねえ。飛ぶのに飛ばないのに……人間型じゃないやつまである……」
 未沙も一同に会したイコンを物珍しそうに見ている。
「はい、長谷川さん。私のディーガ、のデータ」
 Magier001【アルマイン・マギウス】――独特のフォルムを持つ異界でも活動可能なイコンである。
 そのパイロットは、水橋 エリス(みずばし・えりす)リッシュ・アーク(りっしゅ・あーく)だった。
「さて、イコンのデータ提出を終わったら、警備ルートとかの詳細を詰めましょ。私は水橋 エリス。こっちはパートナーのリッシュ・アーク。上空から警備するわ」
「私は……如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)ですぅ。LG001-VB【キラーラビット】、アーカディアで地上を警備しますぅ」
 パートナーの冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)に介助されながら日奈々がやってくる。彼女は事故で光を失った少女で、白杖を突きながらゆっくりと歩いてきた。
「はい、データだよ」
 千百合がデータを提出する。目の見えない日奈々のためにカスタマイズされた専用機で、耳が集音器となっていてエコー増幅とノイズキャンセリングによって日奈々の操縦をサポートする機能が盛り込まれていた。
「……これは、整備のしがいがありますねえ、日奈々さんが無事に帰って来れるよう精一杯整備させていただきます」
 真琴はデータに目を通しながらそう言うと、クリスチーナに色々と指示を出し整備班長に逆に指示を仰ぐ。
「やつは……旅の一座でも音楽をやっていたんだ。音楽をやれるところに現れてもおかしくなかった。だが……」
 旅の一座でアルテッツァと共に過ごしたことのある林田 樹(はやしだ・いつき)は、彼に殺されかかった経験を持つ。
「……樹ちゃん、そろそろミーティング始まるよ」
「すまないアキラ。地上部隊の相談を行おうか。私怨は警備には持ち込まない……それが教導団員としての鉄則だ」
 パートナーの緒方 章(おがた・あきら)に軽く諭されて目の前のことに集中する樹。
「これが私のイコンのデータだ」
 212F【焔虎】。機体名ラコフォラス。TACネームも同じラフォラコスだ。
「集団戦闘ならまかせてくれ。軍事訓練と指揮の訓練は受けている。地上部隊の戦闘時は専門家としてサポートさせてもらう」
葛葉 杏(くずのは・あん)よ。今回はミレリアにリベンジするつもり。乗るのはコームラント。TACネームはポーラスターよ」
橘 早苗(たちばな・さなえ)です。杏さんのサポートに徹させていただきます」
 元アイドルとして、アイドルを侮辱するようなミレリアが許せない杏は、今回もミレリアがやってくるだろうと踏んで警備に専念するつもりでいた。
緋山 政敏(ひやま・まさとし)。TACネームはぐーたら。クェイルに乗って綺雲 菜織(あやくも・なおり)さんと一緒に警備をする予定だ。警備のグループとは独立して行動するつもりだが、一応すり合わせぐらいしとかないと不味いと思ってこの席にでさせてもらった。敵味方識別信号はカットしておくから、間違えて攻撃しないでくれ」
カチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)よ。サポートをするわ」
リーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)です。前回の戦闘でアネックス海京のファランクスもイコンに対しては豆鉄砲とわかりましたので、今回は目視での戦闘の際に敵味方の誤認をなくすようにファランクスにペイント弾を仕込んでみたいと思います。その他にも山葉校長経由で色々と仕込んでおきましたので索敵はお任せください。管制ルームからオペレーター役をやらせていただきます」
「先ほど、緋山さんからご紹介に預かった綺雲 菜織だ。イーグリットに乗って上空から警備を行う。TACネームはファング。機体名は不知火だ」
「また、緋山政敏が居るんですか……一応菜織様から依頼があったので迷彩塗装をしますが、貴方のためじゃないですからね。貴方なんて、コンクリ詰めしてファランクスで蜂の巣にして海に放り込みたいんですから」
 有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)がそう言うと正敏は
「ねー、俺ってなんでそこまで嫌われてんの?」
 とぼやいた。
「知りません。自分の胸に手を当ててごらんなさい」
「胸を触るなら自分じゃなくて女の子がいいさね……」
「――っ! そんなところが!!」
「冗談だよ……」
 二人のやりとりを見て、天貴 彩羽(あまむち・あやは)が笑う。
「なに? 漫才? おっかしー」
 と。
 それから気をとり直して自己紹介を始める。
「天貴 彩羽よ。乗るのはイーグリット、TACネームはイロドリ。色々と改造してあるから、整備には気をつけてね」
「青系迷彩塗装と電子戦強化カスタムヘッド搭載で、内部は細部までチューニングされていますねー。これは整備のしがいがありそうです」
 真琴がデータを見てそう言う。整備士として燃えさせられるようなチューニングの仕方だった。
天貴 彩華(あまむち・あやか)ですぅ。お菓子が食べられればそれでいいですぅ」
 彩華はそう言いながら高級芋ケンピを口に運んでいる。
「敵をパカパカ叩くのは得意ですよぅ」
 そう言いながら笑う。強化手術の影響で『壊れてしまった』少女だった。
笹井 昇(ささい・のぼる)です。停学くらったんで信用回復のために警備します。タックネームはイルマ。今回はクェイルで地上を担当しようと思います」
「ミレリアちゃんがテロリストの仲間だったなんて、超ショックっすよ……でも、俺はファンやめないっすよ。敵味方に分かれることと、ファンとして応援することは別問題っすね。あ、デビット・オブライエン(でびっと・おぶらいえん)っす。よろしくっす」
 二人はイコンプラント確保作戦の際に命令違反を犯して停学処分を受けていた。そのため落ちた信用を回復させようとしていた。
「俺は榊 孝明(さかき・たかあき)。TACネームはムラクモです。警備に関してはS@MPの警護を優先的にやろうと思ってます」
「ミレリア……この前の頭のおかしいアイドルね。何となくウチの学校の敵は頭のおかしい奴が多い気がするけど、気のせいかしら? ……まあ、カノンべったりの強化人間部隊も気持ち悪いけど。私は益田 椿(ますだ・つばき)。火器管制を担当します」
「失礼な。ミレリアちゃんは頭おかしくなんかないっすよ、きっと仕事のストレスで魔が差しただけっす」
 デビットが椿の言葉に抗議する。
「……でも、喋り方からして変」
「……くう……」
 デビットはそう言われると反応できなかった。
御剣 紫音(みつるぎ・しおん)です。搭乗機はゲイ・ボルク アサルト。TACネームはゲイ・ボルクです」
「あら、これは強襲攻撃をコンセプトに砲戦に特化したイーグリットですね。これも整備のしがいがありそうです」
 データを受け取った真琴はそう言って喜ぶ。
「とにかく、皆さんが無事に帰って来られるように、精一杯整備させていただきますから、皆さんも無事に帰ってきてくださいね」
綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)どすぅ。防衛計画プログラムを作ってきたのであとで皆さんのイコンにインストールしてくだはれ。今日の話し合いの結果をもとに微調整して、サーバーにアップしときますよって」
 そう言うと風花はサーバーのURLを皆に転送した。警備にかかる負担が20%ほど軽減されるようになっているプログラムだった。
「ボクは鳴神 裁(なるかみ・さい)だよ。搭乗機はイーグリット、TACネームはゴットサンダー、それなりにカスタムしてます」
「格闘戦仕様ですか……その、あまり使い過ぎないでくださいね。腕が壊れると修理が大変ですから……」
 真琴はデータを見てマニュピレーターを強化されたイコンについてそう言う。
アリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)だよ。ミレリアちゃんの血は美味しいかしら……うふふ……」
 アリスは吸血鬼で、コウモリを多数使い魔として従えている。栽のパートナーである。
桐生 円(きりゅう・まどか)だよ。一応パートナーがワイバーンに乗るから警備として登録しておくね。あんな小娘にアルコリアおねーさまを取られるわけにはいかないんだから」
「うふふ、まどかも張り切ってるねえ……私はオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)。円のパートナーだよ。<空飛ぶ魔法↑↑>で生身で仕掛けるつもり」
ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)だよ。ポチといっしょに戦うつもりだよ!」
 ポチとはワイバーンのことだ。
「さて、これで全員か。それでは早速打ち合わせを始めよう」
 軍事の知識を持つ樹と彼女からのご指名で、イコンの操縦経歴の長い紫音が中心となって警備のルート、戦闘方法、その他諸々の打ち合わせを始めた。

 そのころ、茅野 茉莉(ちの・まつり)のパートナーレオナルド・ダヴィンチ(れおなるど・だう゛ぃんち)はコリマ校長から再度の使用許可を受けたKAORIのプログラムのデバッグ作業に追われていた。
「ほらほら、とっととやる」
「分かっている……しかし、こうもソースが複雑化してくるとまさしくスパゲティだな……」
 今回S@MPと茉莉の乗るイコンには3Dプロジェクターを取り付けており、KAORIやS@MPのメンバーを空中に投影して客席を賑わせる予定だった。だが、KAIORIの動きは一からプログラミングしないとならないため、その制御プログラムは膨大なものとなっていた。また、KAORIのギターのデータやドラムのデータ打ち込みも並行して行っているため、万能の天才といえどもさすがに苦労していた。
 また、悪魔のダミアン・バスカヴィル(だみあん・ばすかう゛ぃる)……ソロモン72柱の魔神の1柱で、19の軍団を指揮する序列24番のナベリウスにしてケルベロスと同一視される彼女は音楽を聞くと眠ってしまうため、唯一聞けるノイズ系の音楽をヘッドフォンから流しながら端末室に用意された簡易イコンシミュレーター(ほとんどゲームのような物)でイコンの操縦訓練を行っていた。

 そして――
 榊 朝斗(さかき・あさと)はミレリア・ファウェイの寺院加入の経緯を調べるためにレオナルドの作ったハッキングプログラムの力を借りながらミレリアの所属するアイドル事務所や鏖殺寺院のサーバーにハッキングをしたりインターネット上をこれまたレオナルドのプログラムによるクローラーで検索しまくっていた。
 その結果、ミレリアは中東の貧しい地域の出身であること、パートナーのリリア・シュレインも同じ地域の出身ということがセキュリティの低いサーバから判明した。
(……中東、か。ここらへんに関係あるかな? もしかしてアイドルをやってから寺院に入ったのではなく、寺院がアイドルを養成した、という可能性もあるな。それにしてもあの操縦技術……かなり訓練したに違いない)
 ミレリアの所属事務所はアメリカのハリウッドにある超大手と言っていいアイドル事務所だった。インターネットに載っている情報によればミレリアは19歳。2002年に生まれた。それから、15歳の2017年にアイドルデビューしたことがわかった。(ちなみにパラミタの出現は2009年である)そしてそれからシンデレラストーリーが始まる。
 その容姿と天性の歌声に恵まれたミレリアは月に一回のペースで新曲をリリースし始め、その中毒性のある歌声によって多くの人間を魅了して行った。そのシングルはどれもがミリオンを超え、彼女は瞬く間にトップアイドルへとのし上がっていった。
 翌年にはリリア・シュレインが彼女のマネージャーとしてその事務所に登録されている。
(なるほど……イコンがいつごろ造られたかははっきりとしていないが、カミロ・ベックマンのことも考えれば相当年数の訓練を積んでいたことは伺える。カミロ・ベックマンが薔薇の学舎から失踪したのが5年前の2016年……察するにそのころ寺院と接触したのだろう。ミレリアがアイドルデビューしたのがその翌年だ……寺院が『歌』で民衆を洗脳しようとしていた可能性は否定できないな。
 『歌』には確かに洗脳効果がある。軍歌が好例だろう。軍歌を歌いながら軍の意思統一を図り士気を上げる、それは大昔から行われてきた。それに、『歌』は覚えやすい。印象に残る。学が浅いものでも、文字が読めないものでも、歌は歌える。なぜなら、『歌』による知識の伝承は古代アイルランド、ケルト神話の時代からドルイドと吟遊詩人が行って来た。ドルイドは文字を用いずその秘密を伝承歌・口伝(サガ・サーガ)によってのみ伝えてきた。そういう意味でも大衆を利用するのに『歌』ほど使いやすいものはない。
 今なら、『映画』のほうが分かりやすいが、経歴を調べてみればミレリア・ファウェイも確かに映画に出演している。その内容は……大航海時代のものに中国のチベット問題か。先住民の虐殺……なるほど、パラミタと開拓者ととれば分かりやすい。それから、日本を悪役として描いた戦争映画……なるほど、日本叩きか。これも分かりやすい。こうして見てみると、鏖殺寺院の理念と一致する映画が多いな。無論、恋愛映画もあるが……そこにもさりげなく寺院の理念を紛れ込ませている。やはりこの芸能事務所自身が寺院と繋がっている可能性も否定できないな……もっと寺院のサーバーにアクセスしてみよう。
 アクセプト……ハッキングプログラム展開……)

 こうしてライブ当日を迎える。