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女王陛下と兵隊アリ(S@MP第2回)

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女王陛下と兵隊アリ(S@MP第2回)

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第四章:ライブ当日


「やっほー、涼司!」
「涼司さん!」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が客席に座っている涼司を見つけて駆けてきた。
 最初ベアトリーチェは蒼空学園で留守番のつもりだったのだが、ベアトリーチェひとりだといざという時に一人でイコンを操縦して駆けつけることができないので、美羽と一緒にやってくることになった。
 二人はイーグリット・アサルトでアネックス海京までやってきたようであった。
「ねー涼司、カノンって天学の男子生徒たちから言い寄られてるんでしょ。悪い虫がつかなければいいんだけどね。それに、カノンにつきまとってるイケメン強化人間たち、蒼学を敵視してるみたいだし……」
「だなー。まあ、なにか今日アクションを起こすと思うが……詳しいことはレオに任せた」
「レオに? まあ、レオなら生身でもイコンと渡り合えるし大丈夫かな?」
「ああ。まあ、それを言うなら美羽だって生身で渡り合えるだろう。ベアトリーチェだとちょときついが」
「そうですね。私もあと少し強くなれば……」
 ベアトリーチェがつぶやく。
 実際ベアトリーチェはイコンと生身で渡り合えるか渡り合えないかのギリギリといったレベルだった。
「やっほ、涼司君」
「おー、ルカルカ。なんかライブに出るらしいけど準備はいいのか?」
「んー。もうだいたい終わった。あとはスタンバるだけね。今は最後の自由時間? リカインさんも来てるよ」
 とルカルカが言うとリカインが「や!」っと手を挙げた。
「よう!」
「環菜君が戻ってきたね。まだあまりおおっぴらにはされていないみたいだけど」
「ああ……あまり公にはできないからな。今は異常がないか検査中だ」
「そっか。よかったね……」
「そうだな。校長はまだやめられそうにないが……」
 と、そこに影野 陽太(かげの・ようた)がやってきた。
「先輩……」
「おう、環菜スキー。無事に帰って来れたか」
「ええ、無事に環菜を取り戻せました……」
 そう言うと陽太は泣き笑いのような表情を見せた。
「ああ、環菜とあったそうだな。どうだった?」
「元気そうで安心しました。その、色々ありましたが、ありがとうございました」
 陽太の頬を一筋の涙が伝う。
「まあ、いいってことさ。それより今日はお前も楽しんでいけよ。特に予定はないんだろう?」
「はい。まあ、有事の際には先輩の護衛をさせていただきますよ」
 声が、震えていた。
「とにかくだ、おかえり」
 涼司はそう言って手をさし出した。
「ただ今戻りました。先輩」
 陽太はその手を握る。
「よかったですねー、涼司様」
「そうだな」
 花音がそう言うと、涼司は頷いた。
「やあ、校長」
 そう言って近づいてきたのは飄々とした雰囲気の閃崎 静麻(せんざき・しずま)だった。
「こいつを渡しに来たぜ」
 そう言って涼司に手渡したのは一通の封書。
「辞任届?」
 花音が首を傾げる。
「ああ、御神楽環菜校長が復活したことだし、参謀の職をそろそろ辞したいと思ってね」
「わかった、受理しよう」
 涼司がそう言うと静麻は
「別な職を押し付けるのはなしだぜ?」
 とつぶやいた。
「そんなことはしねーよ。今までご苦労だった」
「どうも。まあ、俺はあまり行動を縛られる地位や役職には就きたくなかったんだが……事情が事情だったからな。これでやっと一契約者に戻れる」
 そう言うと静麻はロケットを握りしめた。
「あいつのためにも、俺は一契約者にしかやれないことをやりたいんだ」
「その気持はわかる。俺も校長という仕事を投げ出したくなる時があるからな……」
「じゃ、辞任届確かに渡したぜ……」
「確かに受理した」
 そこに
「涼司くん、隣座ってもいい?」
 と、火村 加夜(ひむら・かや)がやってきた。
「おう、加夜、いいぜ」
 美羽が席を譲り、加夜が涼司の隣りに座り、パートナーのノア・サフィルス(のあ・さふぃるす)がその隣りに座る。
「今日もお菓子いっぱい持って見に来たよ~。校長も食べる? みんなもどうぞ~」
 ノアがそう言ってお菓子を配る。
「お、バウムクーヘンじゃないか、いただくぜ」
 静麻がそう言ってノアからお菓子をもらう。
「じゃ、私はカステラをもらおうかな~」
 美羽がそう言って一口サイズのカステラをもらう。
「涼司君、設楽さんのこととかいろいろ大変だろうけど、私や、みんながいるから……私は涼司くんの理解者だから……ずっとそばにいるから……」
 加夜が涼司の手を握る。
「お、おう……」
 涼司は少し照れたように加夜の手を振りほどくと、小声でそう答えた。
 と、会場の照明が暗くなった。
 そしてブザー。
「これよりS@MPファーストライブを行います。まだお席についていない方は、席にお着きください……」
 会場アナウンスが流れる。
「あ、私行かなきゃ……」
 リカインと
「私も」
 ルカルカが格納庫へと駆けていく。
 そしてそこら辺をうろついていた人たちが席に着くと、再度ブザーが鳴った。
 5機のコームラントと11機のイーグリットが上空を舞う。教官と強化人間部隊による曲芸飛行だった。
「ぐうっ……」
 天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)は狂血の黒影爪でカノンのイーグリットの影に潜んでいたが、その高機動に体が耐えきれなくなり、イーグリットの影から小型飛空艇ヘリファルテに飛び移って退避する。
 歓声。
 その機動はかなりレベルが高く実際の戦闘でも相当に強いだろうということをうかがわせる。
「あれが、例の……か」
「武器を持ってますね……」
 涼司のつぶやきに花音が答える。
 そして、イコン格納庫――
「パンプキンヘッド……でるわよ!」
 茉莉とダミアンが乗ったイーグリットが会場に躍り出る。
 そしてイーグリットの3Dプロジェクターからギターを持ったKAORIのホログラムとベースを持った茉莉のホログラムが投影される。
 テクノポップ系の音楽がイコンの内蔵スピーカーから奏でられる。
 『AITAI』/曲:ダミアン・バスカヴィル

あなたにAITAI AITAI
今ここでAITAI AITAI
お願い気づいてね
私ここにいるの


 KAORIは空を飛んで観客の上空を舞う。
 レオナルドの組んだプログラムにより、わざと軽くパンチラをしたりする。


プログラムされた表情
データにはない情報
0と1じゃ解くことできない
私に生まれたこの気持ち


 それは性欲の上昇が超能力の顕現につながるというデータをもとに作られた、観客を煽るための媚態。
 物憂げな表情。『歌』の『気持ち』をあらわす。


あなたにAITAI AITAI
今すぐにAITAI AITAI
今すぐ逢いに来て
私待っているの


 両手を差し伸ばすKAORI。
 誰かを呼び寄せるように。


うまく選べない回答
加熱していく感情
0と1じゃ伝えられない
あなたに出逢えたこの奇跡


 曲芸飛行部隊が茉莉のイーグリットと交差する。
 つと冷や汗が流れる茉莉。


あなたにAITAI AITAI
今ここでAITAI AITAI
お願い気づいてね
私ここにいるの


 逆に観客の興奮は絶好調だった。
 アイドルとしてのKAORIというプロジェクトは確実に成功しているようだった。


あなたにAITAI AITAI
今すぐにAITAI AITAI
今すぐ逢いに来て
私待っているの


 演奏が終わる。
 そして曲を上手につないでS@MPが登場する。
 ドラムとベースによる独演がしばらく続いて、S@MPメンバーの映像がホログラムで空中に投影される。
「ひゅーひゅー、です!」
 オルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)が歓声を飛ばす!
『サンキューKAORI。それじゃー、つぎはS@MPによるファーストライブだ!』
 フレイの叫びと共に、真一郎がドラムを激しく叩く。
『OK! 頼むぜコンマス!』
 和希のリードギターで演奏が始まる。
 妙子がそれをサポートしてツインギターによる演奏を魅せる。
 ルースのベースが演奏を支え、ルカルカとシャナのキーボードがハルモニアを奏でる。
 アレックスのアコーディオンが彩りを添え、アルテッツア率いるストリングス隊がさらなるハルモニアを編みあげていく。
『それじゃあ、作詞、師王 アスカ(しおう・あすか)。曲は、『Diva・World』だぜ!』
 転調。
 垂とレオのコーラスから曲は始まる。


巡り回れ歌よ、声響け……
この世界に届けてよ
ねぇあなたにも聞こえてますか?
私のこの想いを……


 グリムゲーテの歌声と、フレイの歌声が響く。


右から左へ流れる町並み
そこから紡がれるチープな私の歌
止まる人なんていなかったのに
あなただけは聞いてくれたね


 実際にはマイクは持っていないのだが、スタンドマイクを持って熱唱している姿がホログラムに投影される。


冷たく思えたこのピックが
自然と音をかき鳴らして
強張ったこの声も夜空に響くわ


 ツインギターがメロディアスに駆け抜ける。


巡り回れ歌よ、声響け……
この世界に届けてよ
ねぇあなたにも聞こえてますか?
私のこの想いを……


『OK! 和希』
 ギターソロ。


時は経ち変化したステージ
そこから流れるディーバの私の歌
夢は実って見渡したけど
あなたの姿が分からなくなった


『OK! 妙子!』
 妙子のギターが絡まる。


目を凝らしてあなたを探すのよ
無情に流れる音に止められ
頬に伝う涙を隠して切なく歌うわ


『ルース!』
 ベースソロ。


巡り回れ歌よ、想い込めて
あの人に伝えてよ
ねぇ歌詞の意味を気づいていますか?
私の気持ちを……


『真一郎!』
 ドラムソロ。


名前も知らないのに…私変かな?
暗黙のルールだった約束が
今は辛い…Ah…


『アルテッツァ!』
 1stギターのソロ。


巡り回る歌よ、声響け…
この世界に伝えるよ
ねぇ聞いてるなら分かるでしょう?
歌に込めた感謝を…


『シャナ! ルカルカ!』
 ツインキーボードによる絡み。


巡り回れ歌よ、声響け…
この世界に届けてよ
ねぇあなたにも聞こえてますか?
私のこの想いを…


『アレックス!』
 アコーディオンソロ。
『垂! レオ!』
 コーラスによるハルモニア。
『そしてえ、グリムゲーテと、フレイだ!』
 ツインボーカルによるハルモニア。

やっと見つけた…

視界が滲む…

Diva・Worid…


 演奏終了。
 会場が明るくなる。
 カノン達曲芸飛行隊も停止する。
『サンキュー! それじゃあ、次の曲……』
 といったところでマイクの回線が割り込まれた。
『気象レーダーに気流の乱れを感知! 鏖殺寺院です!』
 リーンの警告が響く。
「やはり来たか」
 菜織がつぶやく。
 リーンは管制室で気流の乱れから敵の位置を推測しファランクスを発射する。
「そんな豆鉄砲……って、あらやだ。あたしのシュヴァルツ・フリーゲがまっかっかじゃない」
 ペイント弾で真っ赤に染まった鏖殺寺院のイコンが通常のレーダーにも引っかかる。
『寺院イコン、シュヴァルツ・フリーゲ1に対しシュメッターリング4が8個小隊全40機です!』
 リーンがオペレートする。
「来たわね、ミレリアちゃん♪」
 牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)が舌をぺろっとだしながらニンマリと笑う。
「アルコリアねーさまー、ミレリアってどんな子? 好きなのー?」
「ああ、まどかちゃんも来たの? 今回は私は中立、好きにするといいわ。ふふふ、戦いなさい、私の為に。勝ち残ったコに……耳から甘い毒を囁いてあげる、唄ってあげる」
 ワイバーンで空をとぶ円にナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)の空飛ぶ魔法↑↑で浮かんだアルコリアがささやく。
「おねーさま、ミレリア来ましたわよん♪」
「いい子ね。それじゃあ、ねーさま争奪戦の始まりよ」
「って、ねーさま争奪戦って何ですのマイロード!? それに、ちんくしゃぺチャパイのまどかまで!?」
 ナコトが思わず突っ込む。
「そのままよ……なんならナコトあなたも参加する?」
「やれやれ、ワイバーンなりキラー・ラビットなり持って来ればいいだろうに……それに姉争奪戦? お祭り騒ぎをしているような場合では……ナコト?
「いいですわ! まどか、勝負ですわ! そうですね……胸の大きさ対決と、身長の高さ対決で!」
 シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)のツッコミをサラリと無視してナコトがそう言う。
「そんな、それじゃボク負けちゃうじゃない! 純粋に戦闘力で勝負しようよ!」
 円がそう言うと、ナコトと円の一騎打ちが始まった。
「……ああ、うん ボクは。興味ないぞ」
 シーマは諦めたようにそう呟くと防衛を開始した。
「ラズン、おいで!」
 アルコリアの指示に従い、ラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)は彼女を守る鎧となる。
 五月葉 終夏(さつきば・おりが)はヒポグリフにのって、空飛ぶ箒の上で優雅にハーブティを飲んでいたパートナーのセオドア・ファルメル(せおどあ・ふぁるめる)と共に一般人の避難の誘導を始めた。
「山葉君、花音ちゃん逃げて!」
 終夏が叫ぶと涼司たちもイコン格納庫に向かって駈け出した。