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奪われた妖刀!

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奪われた妖刀!

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「手前らは1つ間違えてる事があんぜ? ボルドが強い頭領な訳ぁねーだろう……」
 夢野 久(ゆめの・ひさし)は血とオイルがついた槍からそれらを払うように槍を回し、落ちゆく空賊を見やった。
 戦場にきて最初に出会った空賊は、僅かな時を持って久にやられたのだ。
「やーん、怪我してるぅ〜」
「やれやれ……勝手にしろとは言ったが……」
 久は疲れた顔で、落ちゆく空賊を手厚く開放しようとするパートナーのルルール・ルルルルル(るるーる・るるるるる)を見た。
 ルルールは空賊の身体を支え、治療を回復した。
 それが女性だからなのか、彼女の力なのかはわからないが、空賊はみるみる元気になって感謝の言葉を述べた。
「ありがっ――」
「ダメ、パス。息が臭い。さよ〜なら〜」
「ヘッ!? ちょっとおおおおおおおおおおおおっ!?」
 手厚い看護はどこへやら、ルルールは支えていた手を離して空賊を突き落した。
「久……どこにもいい相手がいない。しょんぼりよ……」
「おまえの計画がおかしいんだろ」
「どこがよ! 空賊の愛人をこの機会にゲット作戦は完璧よ! 怪我して墜落しそうな所を助けて、治療してー、恩を着せて後腐れの無い愛人に! はい、これで皆ハッピー!」
「やれやれ……じゃあ今度の相手はどうだ?」
 久は二度目の溜息をつき、ゆっくりとこちらを捉え向かってくる空賊を見やった。
 それは、三道 六黒(みどう・むくろ)両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)のボルドに加担した契約者だった。
「悪人商会から参ったボルドの用心棒である。おぬしも道無き者に己が正義を押し付ける者であるか?」
 六黒の手は既に刀の柄にかかっており、返答次第ではいつでも抜くというオーラを見せていた。
「押し付けるつもりなんざねぇ。だが、ボルドはチョロすぎる。本物はちゃんと今もここにいる。つまり、ボルド達は空賊もどきの贋物って事だ」
「チョロい、チョロくない、本物、偽物などは関係ありません。ボルド空賊団は私共、悪人商会の大事なお客様。上客を絶やされては困ります」
「おぬしの言葉、しかと受け取った。しかし、貴様らが殺した空賊と、刀と引き換えにした女。命が大事だなどと、よくも言えたものだ」
「ふう……。邪魔するなら蹴散らしてやんぜ」
「返す言葉を持たぬか。ならば、己が刃で答えて見せよ!
 ペガサスで駆る六黒は一気に久との距離を詰めると、金剛力による素早い抜刀で強烈に薙いだ。
 それを久は槍で受け止めるが、その攻撃は次へ続かない一撃に全てを込めたもの。
 受け止めきれずに流すように弾く。
「防ぐので手一杯か、ならばいつまでわしの一刀両断を受け止めきれるか見せてみよ!」
 風切り音が、剣戟のあとからやってくる。
 それほどまでに速く、重い一撃が秩序のない暴力のようにひたすら繰り出される。
 必死に防ぐが、防ぐたびに腕に痺れが走り、力がなくなっていくような感覚に襲われる。
「その程度の覚悟でわしらを殺ろうてか……甘いわッ!」
「あなたは戦わないの……?」
 いつの間には後ろをとられていたルルールは聞いた。
「ええ、私は目的が少し違いますから。六黒にはここで名を轟かせてもらいたいのです。今後のために……」
 あまりにそれが不気味すぎて動けずにいた。
 ならば今は、六黒と久の戦いを見つつ、機を窺うしかあるまい。
 ――ガキィィンッ!
 身体まで軋むような激突の音が、いつまでも鳴りやまなかった。



「紫音よ、間隙を縫ってボルドの元へ行くかのぉ?」
 アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)は戦場を見ながら、顎をやって空賊の旗艦を差した。
「そうどすなぁ、私もそれがええと思うて」
 同じくパートナーの綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)も同調するが、御剣 紫音(みつるぎ・しおん)は動かず、じっと耳を澄ませていた。
 爆音、金属音、悲鳴、奇声、怒声。
 その中から1つの音を拾って、苦に満ちた顔をした。
「ボルドも空賊もそうだが、空は誰のものでもない。空に関わる人の迷惑を顧みないのなら誰であろうと、復讐を考えられないくらいに完膚無きまでに叩きつぶす……」
 紫音が呟くように言うと、アストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)は察して言った。
「ボルドに加担する契約者が我らの元に来るかのぉ?」
 紫音が頷くと、濃い煙と鳥肌が立つほどの炸裂音に近いエンジン音を立てて白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)松岡 徹雄(まつおか・てつお)がやってきた。
「んだぁ、そんなとこに突っ立ってガン垂れて。ははぁん、夜のお散歩に来たはいいが、ビビっちゃったってところかぁ?」
(空の開放感か……竜造はいつにも増して楽しそうだねぇ)
 徹雄はパートナーの声の抑揚1つでそれを察し、後ろに控えた。
「ふう、俺の前から……いや、空から消えてくれないかな」
「てめぇ、女だからって調子に乗ってんじゃねぇぞ。そんなに俺に殺されたいのか、アアンッ!?」
「どうやら、俺と本当に殺し合いたいようだな。俺は、男、だから最後にもう一度情けをかけてやる。俺の目の前から消えてくれ。おとなしく尻尾を巻いて逃げれば怪我なく済むが、抵抗するならば病院のベットの上だ。好きなほうを選ばしてやる。お前も男なんだろ? ちゃっちゃと選べ」
「ヒャハ、挑発に乗ってキレて、だせー契約者だなぁ……あ、アアッ! じょ、上等だぜ、殺し合って、エエッ、おっ死んじまいな……ッ!」
(こっちも挑発に乗ってカンカンだねぇ。……けどこのまま放っておくわけにも行かないしね、助けるとしますか)
「行くぜェェェェェ、ラッァァァァ!」
 竜造が愛機を吹かして、突っ込んだ。
「我、魔鎧となりて我が主を護らん」
 アストレイアは戦闘が始まると同時に、白銀のロングコートとなり紫音に換装した。
(いくら竜造でも複数相手は無理だねぇ。おじさんは釣りをしますか)
 先行する竜造を小型飛空挺で追いかけながら前方に煙幕ファンデーションで煙幕を張り、竜造がタイマンに持ち込めるように残りの2人、風花とアルスを自分の元に引きつけようと、鬼眼を向けた。
「そないなことをしなくても、私達の狙いは……」
「貴公じゃよッ!」
(――ッ!)
 釣りなど必要なかったのだ。
 元から戦闘になっても積極的に仕掛けることはせず、防戦と援護に徹しようとしていた徹雄だが、これには面食らった。
 アルスの炎の精霊、風花の魔道銃での射撃を女王の加護によって間一髪でかわし続ける。
 竜造の援護に気を回している暇などない。
 一瞬でも気を緩めれば確実に真っ逆さまになる。
 反撃の機さえその気になったところで訪れそうにない。
 狩られる側の気分で、ただひたすらかわし続けるしか選択肢はなかった。
「男なら遠距離で撃ち合わずにこっちだろ。来いよ」
「い、イイネェェ! わかってるじゃねぇぇかぁぁぁぁ!」
 紫音の挑発に竜造は乗った。
 そもそも近距離戦闘でしか勝機を見出せそうになかった竜造にとっては、願ったり叶ったり、後悔するなよと叫びたくなる思いだった。
 断末魔のヘリファルテの吹かして一気に間合いと詰めると、長ドスを大きく振りかぶった。
「オラァッァ!」
 上段斬りにかかろうとする竜造を紫音は読みきって、剣で防ごうと初動の反応を見せた。
 見開いた目でその反応をしっかり確認した竜造はすかさず光条兵器を空いた手に持ち、身体を徐々に傾けながら死角から紫音の飛行翼に斬りかかる。
「空中戦じゃ、何も自分ばっかりに気配りゃいいってもんじゃねえんだよ!」
 竜造の勢いに自分が止まったままで受けきれるかを考え、紫音は受け止めから回避に、身体を反転させながらスウェイバックしたが、
「なぁぁぁんちゃってぇぇぇぇ!」
 二重のフェイントも全ては、乱撃ソニックブレードで仕留めるため。
「もらったぁぁぁぁぁ!」
「……ふッ!」
「……アアッ……!?」
 竜造にとっては練りに練った会心の一撃だった。
 だが、相手が悪かった。
 紫音は、行動予測、歴戦の防御術で攻撃を回避するどころか、自ら突っ込んでその一撃一撃を剣でいなして見せた。
「次は俺の番だが……いいか?」
 鍔迫り合いのまま竜造を見据えて言った。
「ハ、ヒャハ、いいね、いいよぉ……徹雄ッ!」
 間合いをとって、パートナーに叫んだ。
 回避するのに必死な徹雄は、それでも呼び声に必死に反応して応える。
 煙幕ファンデーションをあるだけ全部投げつけ、竜造が飛空挺を吹かしてそれらをより広範囲に撒き散らした。
 撤退の準備。
 紫音が一息ついた頃には、既に2人の姿は見えなくなっていた。



 草薙 武尊(くさなぎ・たける)は空賊の襲撃後真っ先に最も上空へと陣取っていた。
 敵本隊、すなわち旗艦を狙い、隙あらば妖刀を一番手で奪取しようと考えていた。
「む……何であろう、あの集団は……?」
 空賊とは思えない、淡い光の塊に武尊は眼を凝らした。
 それはゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)のアンデッドで形成する、アンデッド空賊団だった。
「だぁ〜ひゃっはっは! 正月以来じゃねぇの、小犬ちゃん」
「ジャドウか!」
 フェンリルだけに狙いを定めていたゲドーはこの時を待って戦線に加わらずにいた。
「名前を覚えてくれてるなんて、やっぱり小犬ちゃんだけに物覚えはいいねぇ! それにしても、子馬ちゃんに乗った小犬ちゃんって……お似合いの組み合わせだな、おぃ!」
「ジャドウも、お似合いの友達を連れているじゃないか」
「言うねぇ、小犬ちゃん! じゃあ、やられちまいなよ!」
 ゲドーの声で、アンデッド達は一斉にフェンリルに向かった。
 グール、スケルトン、ゾンビと手応えはないものの切り捨て、フェンリルはゲドーに突き進む。
「随分甘ぇんじゃねぇの、小犬ちゃん! 今度は俺様だけ奈落の鉄鎖を使わせもらうぜ、だひゃはははは!」
 ゲドーが鎖で直線的な攻撃を仕掛けるが、フェンリルは巧みな剣捌きでそれをいなす。
 だが、その隙をついて、不幸とレイスがフェンリルに纏わりつく。
「ヌッ……オオオオッ!」
 囁かれる声、歪み天地を高速回転させるような精神の失調。
 身動きがとれなくなったフェンリルにゲドーは堕天馬で駆けた。
「うひゃひゃひゃ! 天まで堕ちろぉぉ!!」
 堕天馬の馬蹴りがフェンリルを直撃――、
「ぬおおおおおおっ! 我が助太刀に参ったぞ、フェンリル殿ぉぉぉぉっ!」
「なんだなんだぁぁっ!?」
 真上から降ってくる声に続き、ゲドーとフェンリルの間を小型飛空挺が猛スピードで降下していった。
「いいところで邪魔しやがって……。何なんだよぉぉ!」
 ゲドーは寸での所で邪魔された怒りに身を任せて、ファイアストームを武尊に向けて放った。
「何のッ!」
 強引に小型飛空挺を上昇さえ、ぎりぎりで回避する。
「コノッ! オラッ! アアアアッ!」
 青筋を浮かべながら、ゲドーはファイアストームを連発する。
「本隊に奇襲は仕掛けられず残念であるが、こちらへの奇襲は成功したのぉ、フェンリル殿ッ!」
 レベル差もあり、油断せずとも業火に焼かれそうになる恐怖心を必死に堪え、武尊は叫んだ。
「ハアアアッ!」
 武尊に気を取られていたゲドーにフェンリルが剣で切りかかった。
(不幸はどうした!? レイスはどうした!? 俺様が気を遣ったから気ぃ使って守りにきちまったってのかぁ!?)
「くそが、小犬ちゃんよぉぉぉぉ!」
 苦し紛れ、相討ちを狙うように近距離でサンダーブラストを放った。
「グウウッ!」
 ゲドーは浅く腕を切られ、フェンリルは剣でいくらかサンダーブラストを受けたものの、身体は頭から足の先まで痺れ切っていた。
「もらったッ!」
 動きが鈍ったゲドーを見て武尊が背後から斬りかかるが、アンデッド空賊団に遮られ、あえなく攻撃を止め、距離を取らざるを得なかった。
「邪魔さえ入らなければよぉ……」
 武尊を忌々しく睨み舌打ちしたゲドーは、そのまま戦線を離れていった。
「退いたようだな……」
 武尊はホッと胸を撫で下ろし、空を見上げた。

 契約者の脅威は、去りつつあった。