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奪われた妖刀!

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奪われた妖刀!

リアクション

 ――右舷バリスタ――

「かかってこい、空賊ども!」
 防衛網を突破し飛空挺に張り付こうとする空賊に備え、バリスタに張り付いていたジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)は、ようやく現れた空賊に嬉々としてバリスタを操った。
 フィリシア・レイスリー(ふぃりしあ・れいすりー)はパートナーがいつ暴走しないか内心ハラハラしながらも、パワーブレスでサポートした。
 重い引き金もバリスタも、まるで自分の手足のように扱うジェイコブに空賊達はあと一歩のところで近づけずにいた。
「それがお前のベストか! ならばお前らは死ぬしかない!」
「くそが、調子に乗りやがって!」
 放たれた矢を回避し、遠距離から隙を狙って攻撃を続ける空賊だが、距離も威力も、飛空挺を脅かすに至らなかった。
 それを見て、尚更ジェイコブの挑発にも熱が入る。
「なんだその攻撃は! じじいのファックの方が気合がはいっとる!」
「ぶ……ぶっ殺すっ!」
 その高圧的な挑発に、ついに空賊は冷静さを失った。
 1機の小型飛空挺が死をも恐れぬ特攻で、真っすぐバリスタに向かってきたのだ。
 ――ドォォンッ!
 バリスタの矢で小型飛空挺を打ち抜いたはいいが、炎に巻かれながらの機体の塊が、勢いそのままにバリスタに直撃した。
「ウオオオオッ!?」
「ジェイコブッ!?」
 爆撃に巻き込まれぬように後方に飛んだジェイコブの元にフィリシアが駆け寄って、ヒールを唱えた。
 バリスタがあった場所はぽっかりと穴が空き、勝手のいい侵入口と化し、空賊達の侵入を許すこととなった。
「お前らの馬鹿さ加減としつこさは尋常じゃないな! よかろう、直々にその身体に叩きこんでくれる!」
「う、おおおおおっ!」
 ジェイコブは弾幕援護とクロスファイアを併用し、近づこうとする空賊達に牽制攻撃を仕掛ける。
 が、空賊達の馬鹿力は健在だ。
 帰りの足などお構いなしに、自分達の小型飛空挺を持ち上げ、盾にして突き進む。
(煽り過ぎて頭に血が上っちゃってますわ……)
「オラオラ、引き殺してやるッ!」
 ズリズリと地を削りながら押し込んでくる2機の小型飛空挺の圧迫感は十分にあった。
 ジェイコブは舌打ち交じりにスプレーショットも加えて、乱射する。
「オオオオッ!!」
 ――ドゴォォォンッ!
 2機の小型飛空挺にあえなく火がつき、盛大に弾けた。
 ジェイコブはフィリシアを抱きかかえるように庇い、残ったのは4人の焼け焦げた空賊達だった。
「……大丈夫?」
「ああ、問題ない。最後はやつらも気合が入っていた……」
「……ご愁傷様」
 それはあなたが煽ったからよ、とは言えずにいたフィリシアは焼け焦げた空賊を見てポツリと呟いた。



「捨て身の特攻か、これはますいな……」
 冴弥 永夜(さえわたり・とおや)は空賊相手で十分手を煩わせている仲間を見て思った。
 未だに敵の旗艦に張り付けず、その尖端は確実に味方の大型飛空挺に向かって突き進んでいた。
「このままで灸を据えるどころか、我らが火傷しかねんな」
 メルキオテ・サイクス(めるきおて・さいくす)も懸念を表す。
「こちらも少し無茶をしなければだな。メルキオテさん、いいですか?」
 永夜がメルキオテを見据えて問う。
 自らの手で悪事を働く者に制裁を加えたくもあったが、四の五の言っている場合ではない。
「よかろう。微力ながら我の助力を得て、しっかり倒してくるのだぞ!」
 メルキオテが目を閉じると、瞬時その身体が光の渦となり、永夜に流れた。
「感謝する」
(うむ。では、参ろう)
 ヘリファルテに乗り込み、永夜は宙に飛び出た。
 エンジンを全開に、何もかもを無視して、ただ突き進む。
「テメェェェ、どこに行きやがる!」
 空賊達の遠距離攻撃――ボーガンや銃の全てを魔鎧として纏ったメルキオテの力を信じて受け止め、敵旗艦の進路の前に躍り出る。
「艦長、敵が前方に!」
「大砲用意ッ! 撃ち落とせェェェェェェッ!」
 ――ドンッ!
 ――ドンッ!
 黒い砲口から放たれる巨大な鉛の玉が永夜の傍を通過するたびに、空気を押しつぶすような音が聞こえてくる。
(さすがに我も大砲をまともに受けたら堪らん! 永夜、もっと死角に回るこむべきであろう!)
「死角からでは狙い撃ちできない可能性もある。だから、ここで確実に……一撃で……ッ!」
 大砲には劣るものの比較的大きな銃口のハンドキャノンを機上で構え、永夜は狙いを定める。
「撃てぇぇぇぇぇ、撃てぇぇぇぇぇっぇ!」
 敵旗艦のクルーは永夜の狙いがどの部分であるか、ハッキリとわかる。
 だからこそ、艦長の指示は焦りの色がまじまじと出ていて、それを敏感に察知したクルーは砲撃に全てを注ぐ。
 確実に狙い撃たなくては――。
 その思いは大砲の砲弾が掠める度に恐怖と緊張を生み、自分の息遣いさえハッキリと耳に届くようになる。
 戦闘空域にいるというのに、聞こえるのが自分の息遣いのみの極限状態の中、永夜は意を決してハンドルから手を離した。
 伊達に死線を越えてきたわけではない。
 生半可に回避と攻撃を両立させようと欲張るから追い込まれるのだ。

 信長が隠れ身と隠形の術を駆使し、空賊の旗艦のセンサーに感知されず死角から潜り込み、動力部と思わしき位置までたどり着いていた。
「ふふ、久し振りの大きな獲物じゃ……ッ! 覚悟ッ!」
 ヒロイックアサルトで己が力を極限まで解放した信長は、赤い星にすら見えた。
「……ッ……散れ……ッ!」
 爆炎波を纏わせた大剣を上段に構え、振り下ろした。
 巨大な炎の剣が動力部を溶かし破壊すると、黒い煙を上げながら空賊の旗艦は左右に大きくブレ、傾きながら降下を始めた。

「グアアアッ!?」
 信長の攻撃による飛空挺の揺れで、永夜への攻撃が止んだ。
 呼吸を整え、目標を定める。
 狙いは、
 ――コントロールブリッジ。
「……ッ! もらったな!!」
 引き金を引くと、弾道は吸い込まれるようにコントロールブリッジに吸い込まれ、館長席に穴をあけてから炸裂した。
(あっ晴れだ、永夜!)
 これでもう旗艦同士で潰し合うことはないだろうと、一仕事終えた永夜は汗を拭うのだが、旗艦の行く末はまだわからない。
「……クッ、まだ足りないな!? 最後に上昇した分だけこのままの角度では……ッ!」
 操舵を不可能にしてもまだ、敵旗艦は最後の意地のように、大型飛空挺に向かって落ちながらも進み続けていた。



 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)はパートナーを引き連れて、敵旗艦内にいた。
 だがそれは計画通りでも何でもなく、そのパートナーの暴走に他ならない。
「……珍しくバカ女がまともにやる気だと思ったのに、2号の方が暴走状態かよ。っとに頭痛ぇ……」
 アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)は眉間を指で揉みながら、原因を作った相手に頭痛を覚えていた。

「あ〜もう、イライラする! 何だってあの伊達乳がいなくなったら空賊が元気になってんのよ。これじゃますます英雄様の箔がついちゃうじゃない。……決めた。全力で潰す。てか船沈める。2度と空賊やろうなんて気を起こせなくしてあげるッ!」

 とは、先だって敵旗艦に突っ走って行ったパートナーのシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)の言葉である。
 シルフィスティを探しにリカイン達も旗艦に乗り込んだのだ。
「フィス姉さんはどこに? 流石にいきなり船を落とすような攻撃はしない……はずよね? 全部終わっての帰り道ならともかく、脱出することだって考えなきゃいけないんだから」
「考えてるとは思えねぇ。空賊に対しての感情じゃなく、特定の女に対しての感情で動いているからな」
 となると、今の状況はいただけない。
 何せ巻き込まれる可能性が大だからだ。
「バカ女ぁぁぁぁ、さっさと出て来いぃぃぃ! 出てこないと逮捕するぞぉぉぉ!」
 アストライトはそう叫んでから、再び眉間を揉み押さえた。
 何故身内に警告までして、必死に探しているだろうか、と。
「い、いたぞ! 女だ!」
「おい、仲間が増えてやがるッ! 1人じゃなかったのか!?」
「知らねぇよ、とにかく侵入者だ、やっちまえ!」
「ここでフィス姉が暴れているのは確定ね」
「ハァ……そうだな……」
 遭遇した空賊の言葉からシルフィスティがいるのは十分にわかった。
 だが、そのためにはまず、この狭い艦内通路を突破しなければならない。
 リカインは戦闘に立ち、盾を構えた。
「ヒャハ、攻める気がねぇってか! それじゃあ、遠慮なくいくぜぇぇ!」
 空賊達はリカインに攻撃の意思がないと思うや、即座に距離を詰め切りかかった。
 が、リカインほどの者が使う盾にこの狭い通路が加われば、それは鉄壁の防御である。
「学がない空賊さんに教えてあげるわ。盾っていうのはね、ただ単に攻撃を受け止める壁じゃないのよ。その曲面を活かし、武器を当てられた瞬間にその衝撃を逸らし受け流すことで無力化する。それが真なる使い方」
 現に空賊は盾を押すように切りかかったものの、力を発揮するような感触が刃から伝わってこなかった。
「それじゃあ、私達は人探しで忙しいの。全身を貫き砕く盾の抱擁で眠りなさい……ッ!」
 面積の広い盾で繰り出す疾風突きは、身体を突き抜けるような衝撃を空賊に与え、通路奥の壁に叩きつけた。
 ――ミシリッ!
「やりすぎだ! こっちにも警告しなきゃいけなかったか!?」
 壁が軋む音を聞いて、アストライトは頭を抱えた。
 だが、その音は真上からだった。
「ハアアアッ!」
 瓦礫と一緒に、シルフィスティが同じ通路に頭上から落ちてきた。
「動力部? フンッ、探す必要なんてないわよ。この欝憤全部ぶつけて、ランスバレストで穴だらけにしてやるからッ!」
 未だ怒り冷めやらぬシルフィスティが次の場所を探すように辺りを見回すと、そこにはホッとした表情のリカインと、呆れた表情のアストライトがいた。
「フィス姉さ……」
 ――ギィィィッ、グ、ゴゴゴッ!
 リカインの声すらかき消すほどの歪みの音は、飛空挺の限界を表すものだった。
「は、早く俺の飛空挺へッ!」
 アストライトはリカインの手をとり、リカインはシルフィスティの手を取り、乗りつけた飛空挺のある場所まで駆け、その場を後にした。
 直後、名も無き空賊団の旗艦は真っ二つに折れ、大型飛空挺にぶつかることなく、雲河に落ちて行った。

 名も無き空賊団の脅威は、完全に去った。



 伏見 明子(ふしみ・めいこ)は百合園の制服を着て、ペガサスを駆っていた。
 随分と鼻息の荒いペガサスだが、それもそのはず、何人もの空賊を抱えての飛行だった。
「い、生け捕りにしようってのか!?」
 契約者に捕まったら何をされるかわからないと、威勢良く声をあげて解放を望む流れにもっていきたかったのだろうが、声は上ずっていた。
「最近荒事ばっかりだったし、今回は回復側に回ろうと思ってね。でもあなた達がだらしないから学生は怪我を中々しないのよ。だから仕方なく、拾ってあげてるの」
「遠慮する!」
「断固断るッ! テメェらに情けをかけられるくらいなら、太平洋に泳ぎに行くぜっ!」
 怪我を負い、負けたばかりだと言うのに暴れだし、空賊を必死に運ぶペガサスは主人に対して、落してしまえと目で訴えてきているようにも見えた。
「この高さから海に落ちたら……ま、それでもいいならいいけど。どうする? 落とすのは簡単よ? 私としては私があなた達と会った最後の人だと思うと後味悪いけど、お願いされたなら別よ?」
 最後の人、という言葉の魔力は絶大だった。
「ま、悪いようにはされないでしょう。多分」
 明子は大人しくなった空賊を自分達の旗艦に連れて行った。



「チッ……どいつもこいつも使えやしねェ! 空賊も、契約者も、全部だ!」
 ボルドは戦況の悪さを吐き捨てながら、重い腰を上げた。
 やはり自分が全てを排除しなければダメなのだ。
 それだけの力はある。
「戦艦をもっと近づけろ! 奴等の船を落としちまえばこっちの勝ちだろうがっ!」
 いつまでも戦線に出ようとしない弱気なクルーを叱りつけて、ボルドは自前の飛空挺の元へ、カタパルトへ足を進めた。
「オレが全て壊してやるよ……なぁ、相棒……」
 鞘から抜いた妖刀那雫が、妖しく光を放った。
「残ってる奴で総攻撃を仕掛けるぞ! ついてこい!」
 ――オオオオオッ!
 意気揚揚、十分だ、とボルドは笑った。

 ボルドの出陣である。