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奪われた妖刀!

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奪われた妖刀!

リアクション

 サイレンの音と共に、千歳がボルドと空賊を引き連れ、シズルの前にやってきた。
「アリガトウよ……ネエチャン……。オレぁあの女をやったら……次はネエチャンを殺してやるから、そこで待ってな」
 千歳は鼻で笑い、用は済んだと浮上した。

 つかさは光る箒に乗り、シズルの後ろに付き、荒ぶる力で補助した。
「この力でボルドを打ち倒してくださいませ。その為には私の持てる全てシズル様のために使いましょう」
 始まりにつかさが言った言葉が、シズルの中で蘇った。
 今思えば、あれは覚悟するためのスイッチだったに違いない。
「キシャアアア!」
「ァッ――!」
 仲間が傍にいる、その油断が命取りとなる。
 真上から死すら恐れず垂直に切り込んでくる空賊の飛空挺に、シズルは身構えることもできなかった。
 ――死ぬ。
 シズルはきっと目を閉じた。
「フンッ!」
 だが、空賊の特攻は実らなかった。
 空賊達は吹き飛ばされ落ち、小型飛空挺は粉々になって雲河に消えた。
 橘 恭司(たちばな・きょうじ)が、掌を向けたまま、ふーっと大きく息を吐いた。
 最大まで加速をつけ、己が力の全てを解放した掌打で片づけたのだ。
 恭司はつい堪え難く、シズルに向けて言った。
「加能 シズルだったか? ボルドとか言う空族の頭領の前で言うのもなんだが……よく今まで生き残れたな。得物を要求された時点でこうなる事はある程度予測できなかったか?」
「ハハ、落ちぶれたネェチャンは仲間にも説教されてやがるゼ」
 キッと口を結ぶシズルの肩に手をかけて、再び言った。
「甘さが悪いとは言わないが、度の過ぎる甘さと正義は自分だけじゃなく他の奴も破滅に追いやることになるぞ。キミに最初に説教した後ろの女も言っていたが、同じシュチュエーションになったら迷わず人質ごと斬る」
「そうさ! 人質を取られたくらいで動揺してる奴がアマチャンなんだよぉぉぉ!」
 嫌な男だと恭司は思った。
 こんな相槌しか打てない奴に、ろくな者はいない。
 シズルの肩から手を離し、指を鳴らしながら前へ出た。
「これだけは絶対に忘れるな。力に善も悪も無い。力を行使するものはいずれ報いを受けると言う事を」
 それは目の前のボルドをしっかり見据えて言った。
「シズル様の刀……返していただきます。あなた方のようなものが持っていても仕方ありません。もっともこんなもの無いのが一番よいのですけどね」
「そうだな。だからボルドから取り返す。これからの命だけでも救うために」
 つかさと恭司が言うと、他の者も一斉に飛びかかった。

 最後の戦いだ。

「加能さん、ここは任せて、ボルトの所へ」
 風森 巽(かぜもり・たつみ)はシズルの前に出て先を促した。
「私も戦います」
 シズルはそう言うが、巽は首を振って拒んだ。
「大事な刀、なんだろ? なら、自分の手で取り返してこなきゃ」
「ですが……ッ!?」
 巽は、シズルがどうしてそこまで頑なに拒むのか最初は理解できなかった。
 だが、シズルの目を見て思った。
「大事なのは出来るかどうかじゃない……出来ると自分を信じることだよ」
 シズルはきっと、妖刀以外の何かも失ったのだ。
 だから、自分なりに精一杯励まして送り出すしかない。
 それにここまでボルドが来たのも、結局は決着をつけるために多くの人間が導いたのだ。
「わかりました……。お願いします……」
 その言葉に巽は満足し、笑顔で頷いた。
 ここからは自分の時間だ。
 成すべきことをなし、結末を見届けよう。
「蒼い空からやって来て! 空の平和を護る者! 仮面ツァンダーソークー1!」
 ツァンダースカイウィングを装着した巽が優雅に空を舞った。
「頭はやらせねぇっ!」
 飛び上がった巽を追いかけるように空賊も小型飛空挺の限界速で追っかけてきた。
「まだまだ上昇するッ!」
 グングン上を目指し、雲を突き破った。
 空賊も雲を突き破って、月明かりが綺麗な空に出た時、次に目にしたのは真っ直ぐ急降下してくる巽だった。
 前転する様に槍に見立てた蹴り足を前に突き出し、龍飛翔突に轟雷閃を重ねたイナヅマキック――、
「究ぅ極っ! ツァンダー! キィィィックッッ!」
 空賊はそのまま雲を突き破り、太平洋まで真っ逆さまだった。

「お前がいいな……」
 沖田 聡司(おきた・さとし)は剣を抜き、1人の空賊を差した。
「アアンッ……? テメェ……どういう意味だ……」
「お前のその使い込んだ刀……相当の使い手を見た……」
「フッ……中々わかるじゃねぇか……。オレぁ頭と一緒にサムライをしてたんだ……。そりゃあ斬って斬って、斬りまくったぜ……。テメェみてぇな男をなぁ……」
 空賊は刀を抜き、その刀身を舌で舐めて見せた。
「別れの挨拶はいらねぇか!? アアッ!」
 空賊は明らかに挑発をしてきたが、聡司はそれもいい、と笑って見せて、シズルとフェンリルに向きなおった。
「シズル……自分自身の手で刀を取り戻してみろ」
「ありがとう。あなたも気をつけて」
「フェンリル。いつか手合わせ願いたい。だから、俺のことを忘れるなよ……」
「わかった。約束しよう」
「……ハッ、ハハッ、いいぜ、いいぞ、テメェ! 斬り応えがありそうだな!」
 空賊の飛空挺が、風に乗るようにゆっくりと聡司に近づいてきた。
 聡司のワイルドペガサスも背に乗る主人の意志を汲むように、ゆっくりと羽ばたきながら近づく。
 勝負は一瞬でついた。
「キエエエエエエッ!」
 空賊の二段攻撃、突きを首を捻り鼻先でかわし、薙ぎを前髪を触らせる程度にかわすと、聡司は受け継ぎ、試したかった技を繰り出した。
「燕返し……ッ!」
 まるで当てつけのような、二度の攻撃をする燕返しで、空賊を斬って見せた。
「ふむ。まだまだ修練が足りないな。努々励むとしよう」
 空賊はそのまま飛空挺から落ちて行った。

「テメエらが今まで略奪してきたものはなんだ……?」
 樹月 刀真(きづき・とうま)が空賊に聞くと、呆気にとられたような顔をしたのち、腹を抱えて笑いだした。
「ヒャハハハ、賊に向かって何を聞いてるんだよ、テメェはッ!」
「金……女……あとは……命もか?」
「……なに? ビビっちゃったわけ!? ったりめぇだろぉぉっ! 命も奪ってなんぼの空賊だぜ」
「下衆だわ。救いようがないほどのね」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は吐き捨てるように言って睨みつけた。
 それは刀真も同じなのだが、彼は安心していた。
 なぜなら、理由ができたからだ。
「なら、俺もテメエらの命を奪ってもいいな?」
「アアッ……? オレ達にもう勝った気でいるのかよ?」
「ふん、もちろんだ。そしてテメエらを殺さなければ、俺の背にいる今まで殺してきた者達に、俺達は殺したのにそいつは生かすのか、って文句を言われるしな……」
 その刀真の言葉と瞳に、流石の空賊も身震いした。
 空賊は今まで狩りをし続けてきた。
 だが、今度は違う。
 初めて狩られる側になったのだ。
「行くぞ……ッ!」
「ヒッ!?」
 刀真は一瞬で距離を詰め、トライアンフを金剛力で振るい、敵の首を一刀両断で撥ねようとした。
 が、死角から新たな敵が飛び込んできたことに気づき、体制を立て直そうとした。
 しかし、それはいらぬ構えだった。
 刀真を襲おうとした空賊は月夜に撃たれ、煙を吹きながら落ちて行った。
「刀真の隙を突くのは無理……だって私がいるもの。だからあなた達も狙い、撃つ!」
 月夜が銃を構えると、空賊達は両手を上にあげた。
「命乞いか? テメエは命乞いをする相手を助けたのか? 因果応報だ、このまま俺に殺されろ……俺もいつか誰かに殺されるさ」
 刀真が笑い、剣を振り上げた直後だった。
 首を刎ねるよりも早く、空賊が気絶してそのまま落下したのだった。
「情けない……」
 それを尻目に、月夜がポツリと呟いた。