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第一回葦原明倫館御前試合

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第一回葦原明倫館御前試合
第一回葦原明倫館御前試合 第一回葦原明倫館御前試合

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   拾

  第二回戦
○第九試合
 空京稲荷 狐樹廊VS.よいこの絵本 『ももたろう』

「よもや二回戦に勝ち抜くとは……」
 柊北斗の呟きに、イランダはツンとして言った。
「ほーんと、北斗とは大違い。今度から、お供にはあの子を連れていこうかしら」
「だからあれは」
「女の子が相手だからって言うんでしょ! 北斗のスケベ!」
 どうやら負けたことを怒っているわけではなさそうだ。もしかしてこれは嫉妬しているのだろうか、と北斗は思った。
 正直、悪い気はしない。
 目の下を緑色にしながら、北斗はイランダから見えぬようにやにやと笑った。

「あの、その、あの……」
 おどおどとしたももたろうを前に、狐樹廊は感心していた。
 先程の試合でもそうだったが、このような相手では、人はなかなか本気で戦えぬものらしい。狐樹廊ですらそうなのだから、普通の人間にとっては、これは堪えるに違いない。これはある意味、最強と言えぬこともない。
 そんなことを考えていたものだから、試合開始の合図を聞きそびれてしまった。
 ももたろうがてってってと駆けてきて、振り回した竹刀を自分の頭に当てたことにも気づかず、リカインが「何やってるのよ!?」と怒鳴ったことで、ようやく我に返った。
「これは失礼。では」
 先の試合のダメージが残っている。あまり無理な動きはしたくない。ならば楽にやるとしよう。
 狐樹廊は顔の前で扇をすっと広げた。それが閉じられた時、彼の顔についていたのは、「ひげめがね」だった。ビン底メガネに存在感溢れる鼻、八の字ヒゲの鉄板仕様――観客席は爆笑の渦に包まれた。ももたろうも、ぽかんとしている。
 狐樹廊は出来得る限り威力を抑えた【爆炎波】でももたろうを攻撃した。必殺技の名前を冠するのも恥ずかしい威力だったので、あくまで【爆炎波】である。
「きゃっ!」
 ももたろうが叫び声を上げ、こてんと尻餅をついた。
「とどめです」
 狐樹廊はてくてくと近づき、ももたろうの頭を小突こうとした。
 が。
「ももー! 立つのよー!」
というイランダの声に慌てて立ち上がり、手にしていた竹刀を振り回した。それが狐樹廊の扇と短剣を飛ばしてしまった。
「あ」
 上と下で、狐樹廊とももたろうは見つめ合った。
「……引き分け」
 結局、緋雨も同じことを言うしかなかった。
 もしかしてあいつ、最強なんじゃないかと北斗は思った。


○第十試合
 蒼灯 鴉VS.サー・ベディヴィア

「あー、ちょっと動かないでね。すぐだから〜」
「……アスカ、まだか?」
「何よバカラス、今の洒落? 『カ』しかあってないわよ。鴉だから『カー』でいいのかもしれないけど!」
 緋雨が鴉の名を呼んだ。
「今行く!――アスカ、また後でな!」
「うん。勝ってね」
「……ああ」
「早く行きなさいよ! 見つめあったりして、通行人の邪魔よ!」
 オルベールに蹴飛ばされない内に、鴉は試合場へ降りた。アスカの手元には、竹刀を構えた鴉のデッサンが残っていた。

 次の相手が強敵であることは、鴉にもよく分かっていた。何でも名のある騎士らしい。先程の戦いも、巧かった。駆け引きでは勝てそうにない。
 ならば先手必勝あるのみだ。
九鬼神滅流……氷華!」
 竹刀から冷気が放たれる。――はずだった。目の前にベディヴィアの顔があった。
 鴉は慌てて距離を取った。スキルは不発だ。
「……ちっ、やるな」
 ならばと上段に構える。ベディヴィアの槍が鴉の足首を打つ。
「くっ!」
 竹刀を支えに立ち上がり、勢いでベディヴィアの足元を狙う。だが今度は距離を取り、槍で胸を突いてきた。
 あっという間の連続技だった。鴉はただの一太刀も浴びせることが出来なかった。
「……俺も腕が落ちたな。強いなお前……」
 地面に痺れる足を投げ出し、鴉はベディヴィアを見上げた。
「中々楽しい試合でしたよ、機会があればまたよろしくお願いしますね」
 セリフまで余裕だな、と鴉は少し顔をしかめた。
 観客席のアスカが、泣きそうな顔をしている。
 泣くなよ、と内心呟く。俺はおまえに泣かれるのが一番嫌なんだ。――いや、俺か。俺のせいか。
 鴉は震える膝に力を込めて立ち上がった。そしてアスカに向けて親指を立ててみせる。
 ――次は負けない。
 アスカは描き掛けの絵を抱きしめた。
 まるで映画のラストシーンのようだった。
「もうっ、何やってるのよバカラス!! 後でちょっとシメるから、覚えときなさい!」
 オルベールの怒声がなければ。


○第十一試合
 シエル・セアーズVS.遊馬 シズ

 選手専用通路で、シズは己の手首を見つめていた。背後から声をかけられ、慌てて袖を伸ばす。
「どうかした?」
 パートナーの秋日子だ。いいや、とシズはかぶりを振った。
「あーあ、服、ボロッボロだね」
「仕方がないさ」
「終わったら、買いに行こうね!」
「ああ」
 シズは竹刀を携え、試合場に出た。

 シエルが登場するや、歓声が上がった。一回戦で更にファンが増えたらしい。その中に山田がいたのはここだけの話だ。
「シエルさーん! 頑張れー!」
 治療を終えた瑞樹が、客席から声を張り上げる。それにシエルは手を振って応えた。
 シズとシエルは、深々と一礼した。悪魔なのに、シズはやけに礼儀正しい。
 試合開始の合図と共に、シエルが大上段に振りかぶり、打ちかかる。シズは竹刀を持ち上げようとして――僅かに顔をしかめた。その遅れゆえに、シエルの槌に竹刀を弾き飛ばされ、左肩を打たれた。
「シズ!」
 通路から秋日子が叫ぶ。
 シズは素早く竹刀を拾い向き直る。
「今攻撃しようと思えば、出来たのに」
「だってキミ、堂々としてるでしょー。アイドルの私が、後ろから攻撃したらイメージよくないし」
 シエルが言い切った。
 シズは苦笑する。褒められているのだろうか?
 竹刀を持つのが億劫だった。
「それなら、真正面からいくぜ。……せいっ!」
 シズはシエルの胸を突いた。だが、待っていましたとばかりにシエルの手から光が発せられる。【バニッシュ】は邪悪なものを退去させる魔法だ。仮にも悪魔であるシズにはダメージが大きかった。
 ……気がつくと、秋日子とシエルが顔を覗き込んでいた。シエルがホッとする。
「これで大丈夫」
「ありがとう!」
 秋日子はシエルの手を、潰れるほど強く握った。それから、
「遊馬くんのバカ! 右手首火傷してるなら、どうして言わないわけ!?」
「……言い訳にならないからな」
「後でちゃんと病院に行ってね。私の【ヒール】は応急処置だから」
「ああ。ありがとう。強いな、あんた」
「キミの怪我がなかったら、どうなったか……」
「いや。俺は本気出して戦った。悔いはねぇよ」
「人の膝枕で言うセリフじゃないでしょ!」
 シズは秋日子の膝の上から落とされた。


○第十二試合
「相手がいない? ああ、人数が足りなかったと。まあ、無理矢理の参加ですから、それぐらいの利点はあっていいでしょうな」
 ゲイル・フォード、不戦勝で三回戦進出。