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魂の器・第3章~3Girls end roll~

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魂の器・第3章~3Girls end roll~
魂の器・第3章~3Girls end roll~ 魂の器・第3章~3Girls end roll~

リアクション

 
 居合わせ、誕生を待っていたそれぞれが赤ちゃんと対面し、触れ合った後。
 ペルディータ・マイナ(ぺるでぃーた・まいな)は、分娩中に記録した画像をメモリープロジェクターで投影していた。上半身側から撮影されたそれを、集まってきた面々が興味深そうに眺めている。
「これは、出産の中盤です。この時は……」
 機晶姫を兵器扱いする人達はたくさんいる。けど、人間と同じようにつきあってくれる人達も確かに居るのだ。機晶姫が出産できることで幸せなカップルが増えると良い。
 そう思いつつ、時折皆に説明を挟みながら、ペルディータはゆっくりと画像を投影していった。

「とても良い笑顔ですわ。では、撮りますねー」
 デジカメのファインダーを覗いたフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)は、ポーリアとスバルがにっこりと笑ったタイミングでシャッターを押した。
 3人の新たな人生のスタートとなる瞬間を形として残しておきたいという思いから、フィリッパは、処置室でも彼らの写真を撮っていた。その1枚目には、ポーリアが初めて赤子を抱いた瞬間が写っている。だが、こうして生活感溢れる場所での撮影もまた別の温もりを感じて良いものだった。窓から入ってくる陽光にほんのりと照らされた1組の家族の笑顔を、フィリッパはカメラの中に焼き付ける。
 子供の表情だけは、素朴とはいえ笑顔とは言いがたいが、まあ、それは仕方がないだろう。
 中腰姿勢になっていたフィリッパは腰を上げ、近くにいたライナスに訊ねかける。
「ライナスさん、この写真、プリントする機械はありますか?」
「……ああ、こっちのパソコンで出力可能だ。せっかくだ。データも外部メモリにコピーして渡してやるといい」
「ありがとうございます」

 記録した画像も全て公開し終え、日常に戻った所内は閑散としはじめていた。ペルディータは、記念撮影を終えたポーリア達に近付き、休憩を薦めた。
「そろそろ処置室に戻りましょう。お疲れになったんじゃないですか?」
「そうですね……、じゃあ」
 親子3人で処置室に戻る。同行してポーリアがゆっくりと休めるように床を整えると、ペルディータは産湯の準備を始めた。改めて厨房でお湯を沸かし、小さなバスタブに入れて水で温度を調整する。
「産湯の温度はこれくらいでいいかしら……」
「ポーリアさん、体調はどう? て……あれ?」
 そこに、朝野 未沙(あさの・みさ)達とモーナが入ってきた。そして、すぐに子供に注目する。その彼女達に、スバルは困惑した表情を向けてきた。
「何だか、さっきから少しぐずり気味で……、どうしたんでしょう?」
「おなかがすいたのかもしれないね。母乳をあげてみたらどうかな?」
 モーナが言っている間にも、ポーリアは赤ちゃんに母乳をあげはじめる。スバルよりも先に、わが子の要求に気付いたらしい。美味しそうに母乳を飲む光景を見て、未沙が言う。
「へー、母乳って出るんですね。あたしも確かめていいですか?」
「? 何を?」
「ポーリアさんのおっぱい吸ってみて、成分とか味とか分析……いたっ!」
 スパン!
 モーナが持っていたクリップボードでアタマをはたき、とても良い音がする。
「……それは、さすがにダメ」
「だよね……」
 未沙が頭をさすりつつ苦笑した頃、赤ん坊は満足したように口を離した。
「それじゃあ、お湯で身体を洗うのー」
 朝野 未羅(あさの・みら)が赤ん坊を抱いて、適温になったお湯で身体を洗っていく。朝野 未那(あさの・みな)がタオルで水滴を丁寧に拭いていると、何だかふとどきな艶しい声が聞こえてきた。
「はむあむ……ちゅっ……ちゅぱちゅー」
「あっ、ダメだって言ったのに!」
「あ、あの……、えーと……」
「えへへ、つい……味は悪くないよ?」
 困惑を通り越し、顔を赤くしておろおろとするスバルとモーナに、未沙は悪戯っぽく舌を出した。

                            ◇◇

「しかし、ポーリアやファーシーが特別な仕様なのかとも思ったが、一般的な機晶姫にも妊娠可能なのが割といるんだな……」
 出産を無事に終えた研究所の一角では、ライナス達を囲んで機晶姫についての質問が行われていた。事前調査を行っていた蒼也がそう呟くと、ライナスが一応、という意図のもとに平坦に言葉を加える。
「あくまでも個体によるものだから、決して全員とはいえないがな」
「私は、生まれた子が成長して大きくなるメカニズムが非常に気になりますぅ」
 未那が言う。すると、ライナスはうむ……と渋面を作った。彼の代わり、というようにモーナが苦笑いしながら言う。
「それは、機晶石の成せる神秘だね」
「……? つまり、どういうことですぅ?」
「神秘なの」
「…………? つまりぃ……」
「解明されていない、ということだな」
 ライナスがはっきりと宣言する。
『……………………』
 みんなは声の無いまま、ライナス達に「へ?」というニュアンスの視線を送る。吸血鬼としての生涯の殆どを機晶姫の研究に費やしているであろう彼にも解らない事があるのか、と。
 妙な沈黙が流れる中、気を取り直して未那は再び質問する。
「そもそも、赤ちゃんはどうやって作られたんですぅ?」
「……それは私も知りたいです。本来遺伝情報を持たない機晶姫が、いかにして生殖細胞を作るのでしょう」
 蓮見 朱里(はすみ・しゅり)も、この質問に同意した。生殖細胞とは、精子や卵子の事。彼女が積極的に立会いを希望して此度の出産に関わったのは、地球人機晶姫間の子供についてライナスに相談したかったからだ。
 今の2人の養子、ピュリアと健勇も確かに愛しているし、子供が出来ないから不幸だと言うつもりもない。でも、夫であるアイン・ブラウ(あいん・ぶらう)との間に子供を作れるのなら、これほど喜ばしいことはない。
 恥ずかしいとかは言っていられない。将来の為にも話を聞こう、と朱里は真剣だった。
 聞いておきたいことは複数あり、その内の幾つかは出産中に疑問を解消することが出来た。だが、知識として得ておきたいことはまだある。
「うむ……」
 ライナスはまたもや渋面を作った。そして、代わりにモーナが答える。
「それも、機晶石の成せる神秘だね」
「……と、いうことは……」
 何だかいやな予感がする。
「解明されていない、ということだね。文章だったら“以下略”となるところだね」
 ……やっぱり。
「まだその仕組みは解らないが、君達が体験した通り、機晶姫が他種族との間で子供が出来るのは純然たる事実だ。私も、現象についてなら答えられる」
「それじゃあ……」
 子供が出来るのは事実。その言葉を噛み締めながら、朱里は訊く。2度ほどお手上げと言われたからとメゲる彼女ではない。
「ポーリアさんのような女性型機晶姫が受胎するのとは逆に、アインのような男性型機晶姫が人間の女性を妊娠させることは可能なんですか?」
「……ふむ、君のような場合だな」
 ライナスは朱里達と向き合い確認すると、少しだけ間を空けた。朱里とアインは手を繋ぎあい、お互いにぎゅっと力を込める。
(結果の可否がどうあれ、アインへの愛は変わらないよ……)
 そう思って見上げる朱里に、アインは小さく頷きかける。
 機晶姫の自分が朱里に子供を授けてやることは不可能だと、ずっと思っていた。そしてそれを、今も申し訳ないと思っている。しかし、もしそれが可能なら、諦めていた夢を叶えてやれるかもしれない。
 2人の命を未来に繋げてゆけるなら、これ以上の幸せはないだろう。
 同様の問題に悩む人々の為にも、朱里と共にきちんと話を聞きたかった。
「機晶姫に生殖機能があれば、男性型と人間の子供もつくれるだろう」
「生殖機能――生殖行為自体に問題は無いようなんだ。じゃあ……」
「私の身体はまだ赤ちゃん出来るようになってないって、お姉ちゃんが言ってたの。赤ちゃんを作れても育たないって言ってたの」
 そこで、未羅が話に入り、アインと朱里、ライナスとモーナははたと彼女に注目した。それから、未沙に視線を移す。目を見交わしあい、機晶技師2人はその言葉の意味を大体察した。未羅には卵巣と子宮はあるが、膣や胎盤は無いということだろう。実際にその通りだが、加えて言えば未羅の卵巣と子宮は未だ機能していない。
 ライナスはアインに目を戻し、慎重に言う。
「……そうだな、器官があるから間違いなく可能、とも言えないだろう。それは個別に調べてみないと判らない。男性型は絶対数が少ないし、検査にも時間が掛かるかもしれないが」
「「…………」」
 アインと朱里は顔を見合わせる。迷うわけもなかった。
「調べてくれ。……機晶姫の構造にはまだまだ不明な点も多い。必要なら、僕の体のことも徹底的に調べてもらって構わない」
「……分かった。じゃあこっちに……」
 ライナスは、アインを別室に案内する。そうして、検査が始まった。