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リアクション
十六
明子(中身は無縁)はゆっくりと首を巡らし、舌打ちした。
「邪魔よな……」
何だこいつは、とマクスウェルは眉を寄せた。
その声を聞いた幸祐は素早く考えを巡らせ、
「辻斬り! 九十九さんと遣り合いたいなら、こいつらを遠ざける必要があるぞ!」
と怒鳴った。
「それもそうじゃな」
明子(中身は無縁)は、【ファイアストーム】を呼び出した。炎が嵐のようにレンたちに襲い掛かる。
「何よこれ!!」
「セレン!」
間に合わない。セレアナは【ファイアプロテクト】を使った。仲間の炎熱魔法への抵抗力が上がる。
更にレンは、【龍鱗化】でセレンを庇った。
マクスウェルと、屋根に上がっていたザミエルは、【アルティマ・トゥーレ】で炎を消そうとした。
明子(中身は無縁)は満足そうに頷いた。
「これで邪魔は入らん。行くぞ!」
「妖刀金色夜叉」を手に、雷火へ襲い掛かる。
雷火は刀の鯉口を切ると腰を落とし、明子(無縁)が間合いに入るのを待った。そして素早く刀を抜く。居合いのスピードと威力で、右の「妖刀金色夜叉」が大きく弾き飛ばされる。
「おお!」
明子(中身は無縁)は歓喜の声を上げた。残った「妖刀金色夜叉」で激しく打ち付ける。雷火はその全てを受けた。
炎はマクスウェルとザミエルの努力でどうにか消えたが、治まらないのがセレンで、「ムカつく!」とアサルトカービンを手に幸祐に狙いを定めた。「余計なこと言ったの、あんただったわよね!」
まずいな、と幸祐は寸の間考え、【アシッドミスト】を使った。酸の霧が彼の周囲を覆う。
「九十九さん、俺は逃げる。あんたも早く!」
幸祐は霧の中に姿を消した。
酸の霧は、肌の露出がやや多いセレンとセレアナにはダメージが大きい。二人はひたすら、霧が晴れるのを待った。
「のんびり桜を愛でるはずが、なんでこんなことになるんだか」
セレンがぼやくと、セレアナは笑った。
「いつだってあんたは、こういう厄介ごとが好きでしょ」
霧の中、雷火と明子(中身は無縁)が斬り合っている音が聞こえる。セレンはうずうずしている。
明子(中身は無縁)はといえば、酸の霧にも頓着せず、【サイコキネシス】で少しずつ間合いを狂わせていった。雷火も妙だと気づいたが、そのわけが分からない。
「そこだぁ!」
セレンが叫び、【シャープシューター】を使った。同時にザミエルもまた、引き金を引く。
雷火の刀と明子(中身は無縁)の「妖刀金色夜叉」の刀身に、それぞれ弾が命中した。
「やった!」
セレンは指を鳴らした。
ザミエルもにやりとする。
「くそ! 邪魔をするか!」
明子(中身は無縁)が【真空波】を使おうとした。今度はさせじと、レンが「赫奕たるカーマイン」の引き金を立て続けに引いた。更にセレアナが【チェインスマイト】でランスを繰り出す。
「おのれ!」
明子(中身は無縁)の怒りは相当なものだった。だがトドメとばかりにマクスウェルが【奈落の鉄鎖】を使って、遂に動けなくなった。ふっ、と明子の体から力が抜け、彼女は意識を失った。無縁が消えたのであるが、無論、他の者にそんなことは分からない。
「……あれ? あいつは?」
セレンがきょろきょろと首を動かした。雷火の姿がない。
と、銃声がした。ザミエルが何度も引き金を引いている。
雷火は鞭を使って松の木を登り、更に屋根へと上がって逃げたのだった。気がついたときには、ザミエルの銃弾すら届かぬ距離にいた。
守り刀は、雷火によって奪われてしまった。
ヒナタが消えた後も、一膳飯屋では大立ち回りが続いていたが、やがて役人がやってきた。騒ぎが大きくなりすぎて、無視できなくなったものらしい。
桜葉 忍が役人に対してぺこぺこ説明している間、織田 信長はカラカラと笑っていた。度会 鈴鹿と織部 イルはさめざめと泣いて見せるし、御剣 紫音、綾小路 風花、アルス・ノトリア、アストレイア・ロストチャイルドは何も知らぬと言い張った。
黒崎 天音とブルーズ・アッシュワースは結構侍をぶちのめしていたくせして、自分たちは食事をしていただけ、としゃあしゃあと答えた。
ヒルデガルド・ブリュンヒルデは、早い段階で姿を消し、残った侍は命令だけで動いていたので、詳しいことは何も――紫音がこっそり【サイコメトリ】を使っても――分からなかった。
ぎゃあぎゃあざわざわと混乱を極めた現場で、その様子を眺めていた武神 牙竜が立ち上がって言った。
「静まれ! 俺の顔を見忘れたか?」
役人の一人が、あっと声を上げた。
「陸軍奉行並の武神様ではありませぬか!」
「こんなところで、何をなさっているのです?」
「うむ。実はちょっとした内偵でな」
と、牙竜は役人の一人を店の隅に連れて行った。やがて役人は、得心がいったようで何度も頷くと、「では後はよろしく」と同輩を連れて帰っていった。
雅の【根回し】と彼の【判官の心得】で、どうにか誤魔化したらしい。
「さて――」
と見回した牙竜は、おやと思った。
同じく客として――彼は本当に客だったのだが――その場にいたエッツェル・アザトースの姿がない。
実はエッツェルは早々に逃げ出し、怪しい奴として役人に捕らえられていたのだった。
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