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早咲きの桜と、蝶の花

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早咲きの桜と、蝶の花

リアクション

■エンディング■

 宵闇に淡く浮かび上がる満開の桜と、空に輝く丸い月。
 望み通りの光景を手に入れたヴラドは、両腕を広げ眩しそうに双眸を細めた。
 樹の周囲には、たくさんの人々の楽しげな姿、そして声。
 すっかり満足しているヴラドの元を、不意に椎堂 紗月(しどう・さつき)が訪れた。
「なあ、この桜蝶ってこの後どうなるんだ?」
 突然の問い掛けに、ヴラドは困ったように首を傾げる。
「そうですねぇ。皆さんが帰るにつれて、段々といなくなるかと思いますが……」
 ヴラドの説明に、紗月は納得したように頷いた。それなら、と言葉を続ける。
「この蝶、一斉に空に放たないか? 折角珍しい花なんだしさ、普通の花見じゃ出来ないような幻想的な演出で締め括ろうぜ」
 そんな紗月の提案に、驚いたように眉を上げたヴラドは、すぐに楽しげな首肯を返した。
「いいですね、やりましょう」
 お任せ下さい。そう言って、ヴラドはもう一度庭を見渡した。
 宴もたけなわ。壮大なラストを用意するのもまた、主催者の務めだろう。
 素敵な提案に感謝の言葉を告げると、ヴラドは準備に取り掛かった。


 それから少し経った後。紗月から贈られた着物を身に付け酒を傾ける鬼崎 朔(きざき・さく)は、どこからか戻ってきた紗月に寄り添いながら、落ち着かない心地で桜の樹を眺めていた。
 紗月が何かを企画したらしい。一体何が起こるのだろう? そんな期待が、朔の胸中を満たしている。
 朔の後をこっそり付けてきた尼崎 里也(あまがさき・りや)もまた、初めこそ様々な写真を撮って回っていたが、今ではたまたま出会ったラスティ・フィリクス(らすてぃ・ふぃりくす)に声をかけ、共に花見酒を嗜んでいた。皆の写真を収めたカメラの画面を共に覗き込みながら、歓談を交わし杯を酌み交わす。

はーい、皆さん注目!

 そんな時。マイクによって拡声されたヴラドの声が、庭中に響き渡った。
 誰も彼もが食事や歓談を一旦止め、ステージへと目を向ける。
 ヴラドは十分に間を置いた後、片手で桜蝶の樹を指し示す。

本日はお集まり頂きまして、誠にありがとうございました! 最後に一つ、皆さんにお土産を差し上げようと思います

 なんだなんだ、と皆の視線が樹へ集まる。
 その直後、突然ハリボテの樹が燃え上がった。

 樹を包む炎から逃げるように、桜蝶たちが一斉に宵の空へと舞い上がる。
 炎はすぐに鎮火した。気付けば照明もまた落とされ、月明かりのみが照らす空を、桜色の輝きを纏う蝶たちが埋め尽くす。

 桜色の仄かな輝きは微かに尾を引き、空へ幾つもの桜の華を咲き誇らせる。
 楽しい時間を提供した人々への感謝を示すかのように蝶は暫し闇の中を踊り回り、やがて満足したように、光の粒子となって消滅した。

 人々の間からどよめきが上がる。しかしそれも、次第に拍手の波へと呑み込まれていく。
 誰ともなく打ち鳴らし始めた穏やかな、厳かな拍手は、蝶たちへの感謝を込めて、暫しの間続けられた。


「今の、すっごい綺麗だった!」
 サプライズの内容に驚いた朔は、込み上がる衝動を抑えられずに、発案者の紗月へと勢い良く抱きつく。感動のあまり酔いが回った朔は、そのまま紗月に膝枕を要求した。驚いた紗月が、しかし微笑ましげに自身の膝へ招くと、子供のようにごろりと横たわりそこへ頭を乗せる。
「風情のある写真が撮れましたな。どうです? あなたも一枚」
「私か? ……良いかもしれないな。それなら、あなたも一緒に映ろうじゃないか」
 カメラを構えた里也の提案に驚きを示したラスティは悪戯っぽい笑みを浮かべると、首を傾げて見せる。「それも一興ですな」と頷く里也はカメラのタイマーをセットすると机へ置き、ラスティの隣りへ並んで杯を掲げた。


 暗がりの中、未だ残る食物や酒を求めて、人々はシートの間を歩き回る。
 そんなことをしているうちに、気付けば隣り合うシート同士も連結し、一緒になって騒ぎ始めた。
 桜を失った花見の宴は、花より団子と言うべきか、まだまだ収まる様子を見せない。
 酒の入った席のこと、隣りに座る者が初対面の相手あろうと、人々はわいわい歓談を交わし合った。

 そんな光景を、少し離れた場所で寄り添い合うヴラドとシェディが眺めていた。
「次は何をしましょうかねぇ……」
 楽しそうに呟くヴラドに、呆れたように苦笑を零したシェディが肩を竦める。それから騒がしい庭の方面を指差して、シェディは首を傾げて見せた。
「……さて、混ざらなくていいのか?」
「ええ、行きましょうか」
 頷くヴラドの促しに従い、緩やかに歩き出す。手を繋いだまま、二人もまた宴会の席へと混ざっていった。


「ありがとうございました」
 空へ向け、ヴラドは感謝の言葉を零す。
 それに応えるかのようにただ一匹姿を現した桜蝶は、嬉しそうに空へ軌跡を描くと、瞬きの余韻を残して静かに消え去った。
 


担当マスターより

▼担当マスター

ハルト

▼マスターコメント

春と言えば、出会いの季節!
ということで、グループアクション以外の皆さんにも様々な形で絡んで頂きました。ちらほらとアクションに無い行動をしていることがあるかと思いますので、宜しければ探してみて下さいませ。皆さんの交流のきっかけになれば嬉しく思います。

また、復帰祝いのコメントをありがとうございました。個別にお返しできず申し訳ありません、非常に嬉しく感じております。
のんびりとしたペースは相変わらずですが、またお目に掛かることがあれば宜しくお願いいたします。

では、ご参加と楽しいアクションをありがとうございました。またの機会を楽しみにしております。
桜餅食べてきます。また後ほどマスターページでシナリオの感想を申し上げられればと思いますので、お暇な時があれば覗いてみて下さい。

▼マスター個別コメント