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リアクション
★ ★ ★
「それでは、エントリーナンバー21番、緋ノ神 紅凛(ひのかみ・こうりん)さんです」
「え、えっとお……」
シャレード・ムーンに呼ばれて、緋ノ神紅凛がちょっと困ったようにステージに現れた。
本当は観客としてかわいい子たちを堪能する予定であったのに、姫神天音によっていつの間にかエントリーされてしまったため、あらがう間もなくここへ連れてこられてしまったのだ。腹いせにブリジット・イェーガー(ぶりじっと・いぇーがー)もエントリーしてやったのだが、だからといって自分のエントリーが取り消されるわけでもなかった。
とりあえず、ここで暴れて逃げだすわけにもいかないので、さっさとすませて観客に戻るために出てきたのである。
衣装は、袖のない真紅のロングチャイナドレスだ。シルクの光沢が、煌びやかである。胸から足の方へと斜めに流れるように刺繍された花鳥風月の派手な刺繍がすばらしい。
むきだしになった二の腕には、赤いリボンが結んであった。決して筋骨隆々というわけではないが、武術をたしなむ身体には無駄がない。しいて言えば、やや不必要なほどに胸が大きいところか。
足早に花道を往復すると、緋ノ神紅凛はステージの上でパフォーマンスの演舞を始めた。
ゆっくりとした動きで腕をのばし、ゆるぎない安定感で脚を上げていく。サイドのスリットがかなり深いので、水色のショーツのサイドが見えてしまうが、これはどうしようもない。さっさと終わらせて退場するだけのことだ。
「はっ!」
腰を落として、正拳を突き出す。反動で、後ろ手に縛ってまとめていた緋色の髪が背中で踊った。
引いた両手を腰撓めへと移動させ、氣を練った。右足で立ち、左足を捻って持ちあげる。ボリュームのある太腿が顕わになった。
「えっ!?」
そのとき、審査員席が緋ノ神紅凛の視界に入った。なんと、そこには、姫神天音の隣に奏シキが審査員として座っているではないか。
緋ノ神紅凛と視線が合ったことに気づいた奏シキが、軽く手を振って挨拶する。
とたんに、顔に血が上って緋ノ神紅凛が真っ赤になった。
演舞なので、多少いろいろと見られてもそれほど恥ずかしくはないが、相手が奏シキだと話は別である。こういう物は、ちゃんと時と場所と手順を踏んで、二人っきりのときにいそいそと見せて……いや違う!
「きゃー!」
自らの妄想にさらに顔を赤くすると、緋ノ神紅凛が脱兎のごとくステージから逃げだしていった。
「ええっと、いったいどうしたのでしょうか。とりあえず、健闘審査員、コメントがありますでしょうか?」
場を取り繕うように、シャレード・ムーンが言った。
「衣装も美しく、さらに肉体美も申し分ないというところだが、途中退場は減点対象だな」
「まあ、慎みも女性の美徳ということですから。いいんじゃないでしょうか。強い中に、ちょっとかわいいところがあるというのは、女性の美徳の一つだと思いますよ」
状況が分かっているのかいないのか、奏シキが健闘勇刃の後に無難なコメントをつけ加えた。
★ ★ ★
「次は、エントリーナンバー22番、ブリジット・イェーガーさんです」
「やれやれ、緋ノ神紅凛はいったい何がしたかったのか……。こんなことなら、人を巻き込まないでもらいたかったですね」
他人には聞こえないようにちょっとぼやきながら、ブリジット・イェーガーが花道を進んで行った。
強烈な色彩だった緋ノ神紅凛の衣装とは対照的に、こちらは純白のドレスだ。その上から、白く塗って象眼を施したブレストアーマーをつけている。長い袖は、ずれないように要所要所で紐によって留められ、袖口は大きなレース飾りがついていた。釣り鐘状に広がったスカートは、複雑な動きにも脚に絡みつかないようになっている。スカートの裾に隠れてはっきりとは見えないが、白いロングブーツが床を踏みならす音が心地よい。
普段は後ろ手に三つ編みにしている豊かな乳白色の髪は、今日は解いて自然な感じて背中へと流している。いつも縛っているせいか、ややウェーブを帯びた髪は、柔らかくふくらんでいて豊かなシルエットを作りだしていた。
「ブリジット・イェーガー、参る!!」
ステージに戻ってきたブリジット・イェーガーは、フルーレを取り出すと、リンゴを空中に投げ上げた。ヒュンと、フルーレが撓って唸りをあげる。その切っ先が、リンゴの表面を軽く削いで再び跳ね上げた。
目にも留まらぬ速さでリンゴを連続して跳ね上げる間に、その表面に何かを刻んでいく。それが完成すると、クイと横に弾いて、審査員席の方へリンゴを飛ばした。
パシンと、音をたてて奏シキがリンゴを受けとめた。
その表面には、緋ノ神紅凛の似顔絵らしき物が刻み込まれていた。
「おみごとです」
言うなり、奏シキがあっさりとそのリンゴをむしゃりと囓る。隣で、姫神天音が驚いたようなすっきりしたような何とも言えない顔をする。
「失礼いたしました」
そう言うと、ブリジット・イェーガーは剣を収めた。
「では、樹月審査員、何かありますでしょうか」
「今回は、俺の方に飛んでこなかったので安心しました」
おでこに絆創膏を貼った樹月刀真は、本当にほっとしたように答えた。
★ ★ ★
「エントリーナンバー23番、藤林 エリス(ふじばやし・えりす)さんです」
呼ばれた藤林エリスが、たたたたーっとステージに飛び出してきた。
ひらひらの多い魔法少女の衣装が翻った。
花道に入るところで、あわててモデル歩きにチェンジする。
ホワイトブルーをベースカラーとしたドレスはノンショルダーで、豊かな胸の部分でずり落ちないように止まっていた。ブラウスは美しい細かなドレープが単調にならないような変化を与え、ちょっぴりだけ濃い青のミニスカートの下には、白いストッキングがガーターベルトで吊られ、くっきりとした絶対領域を作りだしていた。光沢のあるパンプスも、ドレスに合わせたウィスタリア色だ。
左胸には八重咲きの大輪の青い花がコサージュとして飾られ、白いリボンが下がっている。小麦色の金髪は、青い縁取りのある白いリボンでツインテールに結ばれており、長くのばしたリボンの端がツインテールと共にゆらゆらとゆれていた。
両腕には、中指のリングに繋がった、白いガントレットが填められている。
ちょっと足早に花道を往復すると、ステージ中央で藤林エリスがマイクを取った。
「パラミタ共産主義学生同盟代表、藤林エリスよ! 尊敬する人物はカール・マルクス、愛読書は資本論よ! 将来の夢は、愛と正義と平等の名の下に戦う魔法少女になって、パラミタを万民平等の誰も泣かない世界に、労働者の楽園にすることよ! パフォーマンス代わりに、この空大に晴れて進学された諸先輩方にこの場で祝辞を申し述べるわ! 諸氏には夢があるか? 理想があるか? 信念があるか? パラミタ全土が困難な時代を迎えている今、このシャンバラ最高学府で学ぶ先輩方のその英知に全人民の期待と希望が込められているわ。先駆者として空大とパラミタの将来に先鞭をつける自らの重責を心に刻み、学生としての誇りと信念を胸に、学業に励んでいただきたい! 例え思想信条、主義主張が違えども、学生の誇りを胸に邁進する先輩方の雄姿が、後に続く若輩たる我等にも力と勇気を与えてくれるものと信ずる! 我等の誇りたる先輩方の前途洋々たらんことを! 御入学おめでとう! 終わり!」
演説を終えたとたん、奈落が開いて藤林エリスの姿が消えた。
「えーっと、ちょっと危なかったよね」
「うん、危なかったよね」
「×」のプラカードを持った天王寺沙耶とクローディア・アッシュワースが顔を見合わせて言った。
「えーっと、まあ、こういうのも大学の楽しみなのではありますが……。次いきましょう……」
シャレード・ムーンが、困ったように場をとりなした。報道としては、主張でコンテストに差をつけたくはないのだが、こういった場が主義主張の演説の場ではないのもまた確かだ。某映画賞の授賞式のステージにも穴があったら、結構な人数が落とされているような気もしなくはない。
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