空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

パラミタ・ビューティー・コンテスト

リアクション公開中!

パラミタ・ビューティー・コンテスト
パラミタ・ビューティー・コンテスト パラミタ・ビューティー・コンテスト

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「エントリーナンバー14番、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)さんです」
「はーい」
 名前を呼ばれたセレンフィリティ・シャーレットが、陽気に手を振りながら現れた。
 着ているのは、最近のニューモードだと聞いて適当に購入した花妖精ふうのドレスだ。鮮やかな青い色のブラウスの衿はワカメにも似た長い葉っぱ状になっていて、肩を顕わにした形でぐるりと腰の近くまで垂れ下がっている。段重ねにされたスカートは、細長い布を花弁のようにいくつも重ね合わせた物だった。頭には、ほとんど帽子に見える巨大なヤグルマギクの花飾りが斜めにつけられていた。
 ひらひらとドレスを風にそよがせるようにして花道を往復すると、セレンフィリティ・シャーレットはステージに戻ってきた。
 スーッと大きく一つ深呼吸をすると、スッと肩をすぼめて見せた。するりと肩を滑り落ちたドレスが、足許に衣溜まりを作りだす。
 そこから一歩前に踏み出したセレンフィリティ・シャーレットは、先ほどのドレスと同じ鮮やかな青のビキニ姿であった。
 胸の下のあばらがうっすらと分かるほど、スリムな肢体が顕わになる。それを惜しげもなく縦横に動かしながら、セレンフィリティ・シャーレットが情熱的な踊りを披露していった。長い手足が大きな弧を描いて、ダイナミックだ。
「さあ、いかがでしょうか、立川審査員」
「スタイルがいいのと胸があるのが気に入りません」
 立川るるの言葉に、ステージの裏で日堂真宵が、そーよそーよと相づちを打った。
「でも、最初のドレスじゃなくて、今の水着のままデコトラを運転したら意外と似合いそうです」
 謎基準で、立川るるがコメントをつけ加える。
「では、姫神審査員、何かありますでしょうか」
「はい。私としては、最初のドレスの方が好きです。やはり、こう、綺麗な服ってもっと見てみたいと思いませんか?」
 脱いでしまってはもったいないと、姫神天音が言った。
 
    ★    ★    ★
 
「それでは、ここでいったん休憩に入りたいと思います。おトイレ休憩、ジュースなどの買い出しは、この時間の間におすませください」
 シャレード・ムーンの言葉で、いったん中休みとなった。
「お茶とクッキーだよ。食べてね♪」
 セシリア・ライトが、ステラ・クリフトンと共に、用意しておいたクッキーのつつみと紅茶の入った紙コップを審査員と参加者に配っていく。
「おー、おやつタイムデース? おやつと言えばカレーデース。待っていてください、今お持ちしマース!」
 休憩を察知したのか、何やらステージの下から不穏な台詞が微かに響いてきた。いつの間にかアーサー・レイスが復活していたらしい。
「まったく、なんで私がこんなことまで……」
 たくさんの紅茶入り紙コップを載せたお盆を持った日堂真宵が、ステージを横断してきた。
「ふっ、メイドといえば、天然ドジっ子は萌えの定番。ここで、わざと紅茶をぶちまけて審査員をいじめると共に、私の好感度アップを……」
 何やら悪いことを考えた日堂真宵が、わざと足をもつれさせる。
「ああ、こんな所に謎のフラワシがあ!」
「ああ、危ないですぅ!」
 わざとらしくよろめいてから倒れようとする日堂真宵を見て、そばに居たメイベル・ポーターが、あわてて助けに駆け寄ろうとして……転んだ。
いた〜い、ですぅ
 その弾みに、手に持っていたバットでステージを思いっきり叩いてしまう。
 パカッ!
「あっ……」
「あっ!」
 突然口を開けた奈落の中へ、ぶちまけようとした紅茶ごと日堂真宵が落ちた。直後に、カレー色の飛沫と男女の悲鳴が聞こえてきた。
 
    ★    ★    ★
 
「はい、そろそろ休憩は終了となります。なお、休憩中に若干アクシデントがあったようですが、大事にならないうちに処理されましたので、お気になさらないでください。なかったということでスルーの方向で。それでは、コンテストの再開です。最初に登場するのは、エントリーナンバー15番、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)さんです」
「ううっ……」
 なぜか小さく唸りながら、現れたセレアナ・ミアキスが足早に花道を往復した。
 パートナーであるセレンフィリティ・シャーレットが、似合わない花妖精のコスプレの後、脱ぎだすという恥ずかしいまねをしてくれたというのに、そのすぐ後に、自分もまたほとんど同じような水着姿という恥ずかしい格好で出てきたのだ。これが唸らずにいられようか。
 だいたいにして、こんなコンテストに参加する意志など毛頭なかったのだが、いつの間にかセレンフィリティ・シャーレットが勝手にエントリーしてくれたおかげで、どうしても出ないわけにはいかなくなってしまったのだ。
 おかげで、特別な準備は何もできていない。なのに、パートナーは一応ちゃんとおニューのドレスを用意していたことがよりいっそう怒りをかきたてる。
 とりあえず今の格好は、白のハイレグ水着の上に黒いジャケットを羽織っただけという、ちょっと扇情的な姿だ。首回りにはつけカラーと鶯色の短いネクタイを着けている。すらりとのびた脚には、黒のロングブーツを履いていた。水着にブーツというのもミスマッチではあるが、ほっそりと長い脚の方に視線が集中しているので、誰もあまり気にはしていないようであった。
「もう、なんで、こんな格好でここでじろじろとみんなに見られなきゃいけないのよ。だいたい、あれは何、あれは!」
 観客席から双眼鏡でこちらを観察している大洞剛太郎を指さしてセレアナ・ミアキスが叫んだ。
「犯罪者じゃない、あれ。よくて痴漢よ。だから、こんな所に来たくなんかなかったのよ。ああいうのが出ると分かってたんだから。だいたい何? 美人コンテスト? そんなの決めなくったっていいじゃない。どうして、大学生っていうのは、こういうくだらないことばかり考えつくんだか。みーんな同罪なのよ!」
 もう、堪忍袋の緒が切れたセレアナ・ミアキスが、矢継ぎ早に不満をぶちまけてキレまくった。
「ほーお」
 パチパチパチ。
 観客席からまばらな拍手が巻き起こる。
「何、あれ? 新手のキレ芸かしら」
 ステージ裏でクッキーと紅茶を楽しんでいたセレンフィリティ・シャーレットが、ひょいと首を出してパートナーの様子をうかがった。彼女を始めとして、誰もがこれをセレアナ・ミアキスの愚痴漫談か何かと勘違いして、パフォーマンスだと思っているようだった。
「そ、それでは、健闘審査員、いかがでしょうか」
「エロいぜ。でも、スタイルで勝負するなら、もっと露出が多い方が……。中途半端に上着とかネクタイを着けても、露出が減るだけ……」
「何よ、それ!」
 健闘勇刃のコメントに、セレアナ・ミアキスの怒りが爆発した。
「もう帰る!!」
 そう叫ぶと、セレアナ・ミアキスは、ステージ裏にすべての元凶であるセレンフィリティ・シャーレットの姿を見つけて突進していった。