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荒野の大乱闘!

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荒野の大乱闘!

リアクション

 そんな時、要たちのもとに1組の男女が追いついてきた。ネル・マイヤーズ(ねる・まいやーず)とそのパートナー、斎藤 邦彦(さいとう・くにひこ)の2人である。
「おっと、これは多勢に無勢もいいところだね。というわけでぶっ飛ばす!」
 要の近くに来たかと思うと、ネルは背中の羽を広げ不良たちの密集地帯に突撃する。彼女の羽根には「天の刃」と呼ばれる暗器が仕込まれており、要するにこれを使って相手を切り刻むわけだ。
「と、突然服がぁ!?」
「痛すぎる〜! 南斗かお前は〜!?」
 学ランは当然ズタボロとなり、ついでに肉体にもダメージが与えられる。鎧という鎧を身に着けていない不良たちは、たちまち戦闘不能にされていった。
「ありゃ、さらに援護が来ちゃったね」
「ネルの奴、妙に張り切っているな……」
 呆然とする要の言葉に応えたのはアレックスではなく邦彦の方だった。
「よっと。とりあえず集まってた分は倒せたかな。大丈夫、要?」
 一通り不良たちを倒したネルが戻ってくる。
「え、あ、うん。大丈夫……」
「一応、殺しても死なないようにできてるけどな」
 言いながらアレックスが要にヒールを施す。さすがにここまで戦いっぱなしだったため、全身に傷ができていたようだ。
「それにしても、やけに不良が多いな……。これは何かの抗争か?」
 さらにやって来るであろう不良たちの動向を気にしつつ、邦彦が呆れたような声を出す。
「違うよ。これ『熱血硬派ごっこ』だよ?」
「は?」
「いや、要するに……、要の奴は不良を相手に遊んでるんだ。ケンカで」
「……はあ?」
 ネルが不良たちに向かって飛び出していったのは、「不良たちがめいめいに武器を持って子供を囲んでいたから」である。だがなぜ要と不良が乱闘を繰り広げているのかについては把握していなかった。
 ひとまず誰も襲ってこないこの時間を利用して邦彦とネルはアレックスから事情を聞きだすが、知れば知るほど2人の表情は驚愕へと向かっていった。
「な、ちょ、まさか、そんなアホな理由で戦っていたのか?」
「そんなアホな理由でこいつは戦ってたんだよ」
 この瞬間、邦彦とネルは己の行動を後悔した。不良相手の場当たり的な、その場限りの戦いだとばかり思っていたのだが、まさか個人対グループによる大乱闘だったとは!
「そうとわかっていれば、関わらなかったんだが……」
 こめかみに手をやりながら、邦彦は細めた目をネルに向ける。どちらかといえば、始まりは彼女が要を助けに入ったことではないか。
「……悪かったって。でも普通不良たちが子供1人を囲んでいたら助けるだろう? 邦彦だって止めなかったじゃないか。何よりも……」
 そんな酷い理由で戦っていたなどと誰も思わない。ネルは肩をすくめて笑った。
「っと、悠長にしてられる場合じゃないみたいだ」
 倒した連中とはまた違う、学ランを着た者たちが要たちに殺到してくるのがわかった。
「やれやれ、できれば無視したいが、関わってしまった以上は見て見ぬ振りもできんか」
 言いながら邦彦はしびれ粉を撒く準備をする。積極的に行動しないのは、ひとえに面倒だからだ。これが何かしらの仕事というのであれば話は別だが、今回は突発的なボランティアである。それも非常に気が乗らないタイプの、だ。これでモチベーションが上がる方がおかしいだろう。
「さすがに今回ばかりは『だらけるな』とは言わないよ。関わるきっかけを作ったのは私だし、その分こっちが頑張るよ」
「助かる。面倒だが、逃げ道の確保はさせてもらおう」
 要を見ていると、どうも危なっかしくて仕方がない。だが関わってしまった以上、自業自得とはいえ何かあれば非常に後味が悪い。それは邦彦にとっては結構な問題だった。
「我ながら難儀な性格だわな」
「とか言いつつ何だかんだで世話を焼く。邦彦のそういうところ、嫌いじゃないよ」
 そのまま2人は要の護衛及び援護に集中する。
「えっと、よくわからないけど、とりあえず先に進むね〜」
「お前まだケンカするつもりなのか……?」
「当然! まだまだこんなもんじゃないよ! さっきからまともにボス戦やってないんだもん!」
「俺としてはボス戦にたどりつく前にゲームオーバーになってほしいんだけどな」
 そのような会話を交わしながら、要はやって来た不良たちに拳を浴びせる。1〜2発殴り、すぐさまソバットの要領で蹴りを入れ、殴りかかってきた不良の腕を掴み、そのまま投げ飛ばす。幸いにしてネルが不良たちの殺気を読み取ってくれるため、要は前後左右どこからの攻撃にも対処できた。
「……アレックスさん、だっけ? あんたも大変だな」
「ああ、まったくもって大変だ。あいつめ、とにかく人の話を聞きやがらねえ」
「要のお嬢ちゃんは、いつもあんな感じで?」
「ああ。思い立ったら即行動。おかげで止めるのにひと苦労するぜ。ただ100%話を聞かないってわけじゃねえから、あいつが止まった瞬間を狙ってよりまともな方向へ行くようにフォローする。それがいつものパターンだな」
「…………」
「なんで完全に止めないのか、って聞きたそうだな。答えは簡単。完全に止まるってのがあり得ねえからだ。やりたいことをある程度達成しない限り、あいつはとことんまで頑張る。力ずくで止めようにも、あいつの方が腕っ節が強くてな……」
「……苦労人、なんだな」
 同じく苦労性なところがある邦彦は、この粗暴な話し方をする青年に親近感を覚えていた……。

 要たちが乱闘する一方で、自らの目的のために独自に動く者たちがいた。
「ふふ、まったく面白いことを考える方がいらっしゃいますね」
 要の言動に含み笑いを隠せないカミーユ・ゴールド(かみーゆ・ごーるど)は、パートナーの地球人鬼頭 翔(きとう・かける)、翔のパートナーである鬼頭 昴(きとう・すばる)オリバー・ナイツ(おりばー・ないつ)の3人、及び自らの従者たる黒服を従えて荒野を歩いていた。その目的とは、要に便乗して男の娘コレクションやおもちゃを増やすことである。
「というわけでナル、ハートバーコード、任せましたわよ」
 オリバーと翔――ナルとはオリバーの愛称、ハートバーコードとは翔の後頭部がハート型のバーコードヘアであることからの呼び名である。しかもその頭は悪魔との契約の印だそうだ――の2人に命令するだけ命令し、カミーユ自身は全く動こうとしない。
「えええ、ほ、本気ですかお嬢様〜」
 カミーユに仕える黒服の1人であるオリバーが果敢にも異議を唱えるが、カミーユはそれをひと睨みするだけで封殺する。
「い、いえいえ、何も文句はありません。ありませんとも〜……」
「やれやれ、御嬢のわがままにも困ったもんだ……」
 カミーユによって無理矢理女装させられているオリバーの姿に、翔は渋い顔を見せる。カミーユの命令を聞きたくないのは自分とて同じだ。だが「弱み」を握られている以上、彼女には逆らえないのだ。
「しゃぁねぇ。行くぞ、ナル公」
「あうあう……」
 そうして2人は不良たちに対して戦闘行為を仕掛ける。翔はその手にライトブレードを握り締め、爆炎波を叩き込みながら不良たちを気絶させていく。
「あち〜!」
「って、燃えるビームサーベルなんでそんなのありかよ〜!」
 爆炎波はセイバーの操る剣技である。持っているのがたとえ実体剣でなかろうと使うことはできる。つまり「あり」だ。
「悪いなおまえら。コレも仕事だ。せいぜい御嬢の目に止まる素質が無いことを祈るんだな……」
 おもちゃ認定された日には、自分の髪型を見て察しろ。滂沱の涙を流しながら、翔は無慈悲の刃を振るっていく。
 一方でオリバーは不良の群れに向かってアシッドミストを撃ち放っていた。
「ぎゃ〜、しみる! 全身がひりひりする〜!」
「ひえ〜、学ランのボタンが、ベルトのバックルが〜!?」
 アシッドミストは文字通り「酸の霧」だ。それを広範囲に放つため、不良たちの着ている学ランのボタン、あるいは腰に巻いたベルトのバックルといった金属が錆び、あるいは溶け落ちていく。
「ああ、ごめんなさいごめんなさい。でもこれは全てお嬢様の御意思なのです。決してボクがやりたかったわけでは〜」
 精神力が無くなれば即座に逃げることを考え、翔と同じく涙を流しながら、やはり無慈悲な霧を撒き続ける。
 そうした攻撃によって倒されていく不良たちの回収は、主に昴の役目だった。4人の中で最も戦闘力を持たないのが昴だからである。乱戦に飛び込んで暴れるだけの装備も技も無いため、昴は倒れた不良を回収し、できるだけ戦闘に巻き込まれない場所を探してそこに運ぶ。そこでナーシングによる看護を行うのだ。
(あの悪魔はいずれ倒します。今はかないませんが、いつか必ず……)
 昴は翔の生き別れの妹――しかも双子、その両方を合わせたイメージによって生まれたアリス・リリである。昴にとってカミーユとは「にぃさん」をたぶらかす文字通りの悪魔であり、倒すべき存在なのだ。
「あら、昴さん。あなたも手伝ってくださるんですの?」
 翔とオリバーが倒した不良を自ら物色していたカミーユがそんな昴の存在に気がついた。そんな彼女に昴は敵意むき出しの目を向ける。
「……勘違いしないでください、看病のために運ぶだけです。それとあなたは敵です。いずれにぃさんを解放してもらいますから」
「あら、怖い。いつでもお相手してさしあげますわ。ふふ、あの時のようにまたかわいがってさしあげますわよ?」
「くっ……、あのようなことは2度とさせません」
「ふふふ……」
 2人は憎み合っているが、どちらも翔のパートナーである。一方がもう一方を殺してしまえば、その瞬間パートナーロストのショックが翔を襲い、場合によっては即死してしまう。そのことをこの両者は理解しているのか、それともしていないのか。それは当人にしかわかりえないことだった。
(ああ……、でも、戦うにぃさんかっこいい……)
 不良たちの看護を行いながら、時々翔の戦闘シーンを眺める昴の目には、その後頭部に刻まれたバーコードは入らない――というより、意識的に入れなかった。
「ふふ、全員学ランなのは判断がしやすくて助かりますわね」
 一方でカミーユの物色は続く。倒れた1人に目を向けながら、彼女は自らの従者たちに命令を下していく。
「あら、この子素質ありとみましたわ。黒服のみなさん、運んでくださいな。こっちの子はいいおもちゃになりそう。ハートバーコードには劣りますがこの子も運んでくださいな」
 命令を受けた黒服連中は、やる気の無い返事と共に学ランどもを昴の元へと運んでいく。彼らには傷を治すための技も魔法も持ち合わせていなかった。

 結論から言えば、カミーユの望みは叶えられなかった。
 昴のナーシングによってある程度復活した不良たちが、完全に運ばれてしまう前に一斉蜂起し、カミーユを巻き込みながらその場から逃走したのである。
「って、何でこんなことにいいいいいぃぃぃぃぃ!?」
 翔は爆炎波の放ちすぎで体力は限界だったし、オリバーはアシッドミストの撃ちすぎで精神力が限界だったため、それを止める力は無く、またカミーユ自身も野生の蹂躙を起こす技術はあったが、それを発動させる前に――いくら弱いとしても、数多くの契約者ないしはその候補に襲い掛かられてはどうしようもなかった。昴にいたっては、カミーユが不良たちに踏み潰されていく姿を見て満足していたほどだ。
 もちろんカミーユの命令によって黒服たちが不良たちの前に立ち塞がったが、さすがに人数差によるパワープレイには勝てず、1人、また1人と不良からの攻勢から全力で逃れた。いくら血気盛んであるとはいえ、誰しも命は惜しいのだ。
「強く生きろよ。硬派な不良どもよ……」
「お、お嬢様〜」
「いい気味です……」
 その場で戦闘不能になったカミーユは、その後スタッフ――ではなく、黒服によってきっちりと送り届けられたという……。