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五月のバカはただのバカ

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五月のバカはただのバカ

リアクション

                              ☆


「ダーク正義マスクっ、目を覚ますんだ!!」
 鳴神 裁(なるかみ・さい)は叫んだ。
 見ると、ブレイズ・ブラスの上質紙フェイクである『ダーク正義マスク』は裁のパートナーであるドール・ゴールド(どーる・ごーるど)のフェイクを魔鎧として装着していた。
 もとよりブレイズとはよく街のパトロールなどをして友好も深い裁。
 闇の気配と自分のパートナーのフェイクを纏って街の人々を襲っているダーク正義マスクを放っておくことなどできなかった。

「たぁーっ!!」
 と、格闘新体操用リボンで攻撃するが、ダーク正義マスクはそのリボンを魔鎧で覆われた手で掴みとってしまう。
「そ、そんなバカなっ!?」
 フェイクであるダーク正義マスクは自分の身体が傷つくことを厭わない。それにより普通紙フェイクであった魔鎧、ドールは消滅してしまう。
「ふん!!」
 しかし、そのおかげでダーク正義マスクはチャンスを得た。
 リボンを引き、勢い良く裁を引き寄せる。
「――あうっ!!」
 その勢いを利用して、際のボディに蹴りを叩き込む。裁はそのまま後退し、距離をとった。

「――大丈夫!?」
 と、アリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)は裁を支える。本物のドール・ゴールドもそこに駆けつけた。
「行きますよっ!! ボクたちでブレイズさんを止めるんです!!」
 裁は一瞬でドールを装着し、白地に蒼ラインの変身ヒロイン風の衣装を纏った姿に変身する。


「……やるしかないのか……ブレイズ!!」
 変わり果てた友の姿に、裁は叫んだ。


 その頃カメリアはカメリア・シャドウの相手をしていたため、突っ込み不在。


                              ☆


「カメリア、大丈夫ですかっ!?」
 鬼崎 朔(きざき・さく)はダークヒーロー『月光蝶仮面』として、友人としてカメリアを助けに来た。
「おお、朔――助かる……ああ…天そういえばそんなのも描いたっけなぁ……」
 少し遠い目をしたカメリアが眺めているのは、朔のフェイクだ。

「……あ、あの人怖いですよぅ……なんか怖い顔してるぅ……」
 と、電柱の陰からダーク正義マスクやカメリア・シャドウを見て震えている。
 『寂しがりやで甘えん坊の小動物系鬼崎 朔』の普通紙フェイクは、能力はともかく性格的にまったくこの場にそぐわない。

「まあ……人に害がある存在じゃないからいいんですが……けっこう大変だったんですよ。
 ちょっとビックリすると私の陰に隠れてしまうし、優しくされると誰彼構わずひっついたりほっぺにキスしたり……」
「……すまん。ちょっと意外性がある方が面白いかと思って……」
 少ししょげ返ってしまうカメリア。だが、朔はそんなカメリアの頭をそっと撫でた。
「……いえ、いいんですよ。ただ、ちょっとだけ懐かしかっただけです」
 
「……え?」
 朔は黙ってフェイクを見る。朔と目線が合ったフェイクは安心したのか、無邪気で可愛い笑顔を見せた。


「ひょっとしたら……私もあんな風に笑えていたかもしれない……とね」


                              ☆


 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)はダーク正義マスクが暴れている現場に駆けつけた。
 そこには、鳴神 裁と戦っているダーク正義マスクの姿がある。

「やっぱり……噂は本当だったのね。正義マスクが暴れてるって……一応正義の味方だと思っていたのに……見損なったよ」
 呟く美羽。その片手はコハクの片手と繋がれている。
「残念だけど……しかたない。僕たちの愛の力で彼を倒そう! きっとそうすれば彼も分かってくれるはずだよ!!」
「う……うん」
 頬を赤らめて、美羽は頷いた。
 美羽とコハクは互いに惹かれ合っているものの、まだはっきりと恋人同士というわけではない。
 だが、今日のコハクはやたらと積極的で、フェイク騒動に揺れる街を駆け抜ける美羽の手を握ったり、甘いことばで囁いたりして、美羽をどぎまぎさせていた。

「……どうしたの、美羽?」
「う、ううん……なんだか今日のコハク……いつもと違う……?」
「いいや、僕はいつもどおりだよ……違うところがあるとしたら、美羽があんまり可愛いんで、クラクラしてるってことかな……」
「え……コハク……」
「美羽……可愛いよ……」


 まあ、もちろん本物コハクさんはこんなアレではないので、間違いなくフェイクなんですけれど。
 フェイク・コハクの囁きにすっかり騙されて、そのことに全く気付いていない美羽さんなんですけれど。



「美羽っ! 騙されないで!!」
 と、そこに本物のコハクがやってきて、フェイクの頭を殴った。
「あっ!!」
 軽く叫び声を上げて、コハクのフェイクは似顔絵に戻ってしまう。
 それを見て、美羽は驚きの声を上げた。
「えーーーっ!? あのコハク、偽者だったのーーーっ!?」
 コハクは、その似顔絵を拾った。裏には『ナンパの達人、コハク・ソーロッド』と書いてある。

「そうだよ……たしかに外見は似てたけど、僕あんなに軽くないと思うんだよね……美羽、どうしたの?」
 美羽はと言えば、ここに来るまでフェイク・コハクとのラブラブっぷりを披露していた自分を思い出して、激しく赤面中だった。

「は、ははははは! 何でもないわっ! さあ、さっさとあの正義マスクをやっつけちゃいましょ!!」
 何とか体裁を取り繕う美羽だった。


                              ☆


「今、この街は大変なことになっている。力を貸せ!!」
 と、光るピンクのモヒカンを揺らして本物のゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)の前に立ちはだかったのはフェイク・ゲブーだった。

「な、何ぃ? これほどまでに見事なモヒカン野郎が俺様以外に存在するなんて!!」
 と、激しいショックを受けるゲブー。
 それもそのはず、外見的には自分と全く同じ姿のため、フェイク・ゲブーのモヒカンは本物のゲブーのモヒカンに勝るとも劣らない輝きを放っていたのだ。
「ふ……恐れ入ったぜ。まさか、この街にこんなイカスモヒカンがまだいたとはな……いいだろう兄弟、力を貸すぜ!!」
「感謝するぜ、兄弟!!」
 と、二人のゲブーは熱い友情の握手を交わした。
 互いのモヒカンしか目に映っておらず、相手が自分にそっくりなことにも気付かないあたり、ゲブーらしいと言えるだろう。

 フェイク・ゲブーの裏に書かれているカメリアの嘘設定は『真面目な超いいヤツ、ゲブー・オブイン』。
 その設定にしたがって、フェイク・ゲブーはフェイクを回収に向かう。
 もう街の人々に害のあるようなフェイクは大体回収されている、残るは大物のダーク正義マスクと、カメリア・シャドウの二体だった。


「さあ、行こうぜ兄弟!! この街の平和を守るのは俺たちだ!!」
「おう、何だか分からねえが面白くなってきやがったぜ!!」


 君はいいのかそれで。


                              ☆


「ふふふ……困っているみたいね、ブレイズちゃん♪」
 と、物陰から自分のフェイク『ダーク正義マスク』を見失ったブレイズ・ブラスに声をかけたのはオルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)だ。
 だが、今日の彼女は違った。
「お、お前は……『ソウル・アルケミスト』のルベール!」
 そう、今日のオルベールは陰から正義マスクをサポートする魂の錬金術師、ルベールだったのだ!
 自らも黒水晶のマスクで顔を隠した彼女は、今日も今日とて一つのマスクを懐から取り出す。
 それは、眩しい光を放つ白いマスクだった。

「そ、それは!?」
「これは光の加護を受けた『シャイニーマスク』よ、これを着けて全力で戦うのよ、正義マスク!!」
 マスクを受け取ったブレイズは、力強く頷いた。
「ああ――この輝くマスクなら誰にも負ける気はしねぇ――サンキュー、ルベール!!」


 まあ、そのマスク自体はただの光るマスクで、そんな気がするだけなのだが。


 そして、そんなブレイズにまた別な者が声をかけた。
 アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)だった。
 街中で暴れているブレイズやカメリアを見かけたアキラは、陰から手助けをするべく、ある作戦を実行しに来たのだった。

「俺も協力するぜ、正義マスク!! 今、俺のパートナーがダーク正義マスクを探している、すぐに見つかるだろう。
 ……ところで、フェイクの元になっている『似顔絵ペーパー』はもうないのかい?」
 アキラの問いかけに、ブレイズは素直に答える。
「ああ、ここにあるぜ!!」
 ブレイズは懐からまだ何も書かれていない似顔絵ペーパーを数枚取り出した。
 ほとんどはカメリアが似顔絵に使ってしまったが、辛うじて残ったこの数枚が最後だった。

「よし、それがあると邪魔になってうまく戦えないだろう、それは俺が処分しといてやるよ!!」
 と、輝く瞳でブレイズを見つめるアキラ。
「そうか、それは助かるぜ!! よろしく頼む!!」
 そのアキラを何の疑いもせず似顔絵ペーパーの残りを全部渡すブレイズ。
 そこにアキラのパートナー、アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)がやって来た。

「見つけた、見つけたワヨ!! というか、あれほど騒いでいるのを見つけられないなんて、ある種の才能ネ!!」
 ブレイズはアリスが指し示すほうへと、オルベールから受け取ったマスクを持って走って行った。

「そうか、ルベールにアキラ、サンキューだぜ!! ようし、待ってろよ俺のフェイク!!」
 それを見送ったオルベールもまた、こっそりと姿を消した。
「さて、知り合いに見つかる前に帰りましょ……こんな姿見られたら、恥ずかしいものね」

 後に残されたアキラとアリスは、アキラが入手した似顔絵ペーパーに、似顔絵を描きはじめる。
「ところでアキラ、誰の似顔絵を描くのネ〜?」
 問われたアキラは、ふっふっふと笑みをこぼした。


「まかせろ……いい考えがあるんだ」