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リアクション
☆
誰かを探しているカメリアが街を行くと、その前に一人の人物が現れた。
レーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)である。
「――ああ、そこのお嬢さん、何かお探しのようだが?」
カメリアは立ち止まり、メガネを掛けた神経質そうな教導団の男に話しかけた。
ツァンダの街で少し話した程度の知り合いではあるが、教導団の軍人ならば人探しには長けているかもしれない。
「おお、レーゼマンか。ちょうど良い。ほれ、お主も見たことあるじゃろ、ブレイズの奴を探しておるのじゃが……」
と、事情を説明しようとするカメリアだが、レーゼマンはその手を取って路地裏の方へと誘導しようとする。
「……待て、どこに連れて行く」
レーゼマンは、知的なメガネの奥の瞳をキラリと輝かせて、言った。
「ふははは、いいところだよ。私と一緒に来ればお菓子もたくさんあるぞ」
「私の顔で何をしているかーーーっっっ!!!」
と、そのレーゼマンの頭部に蹴り飛ばしたのはレーゼマン本人――本物のレーゼマンである。
「私の偽者とはどういうことだカメリア、状況を説明してくれ」
「様子がおかしいと思ったら、こいつフェイクじゃったか!!
しかも蹴っても戻らない――『上質紙』のフェイクか!!
軍人のコピーとはやっかいな奴のフェイクを作ってしもうたわ!!
しかも変態のロリコンとは!!」
「……どういうことだ」
「……かくかくしかじか」
ことの顛末を聞いたレーゼマンは激しく吹き出した。
偶然『上質紙』に書かれていたレーゼマンのフェイクは、普通紙のフェイクと違って本人と同程度の能力を備えており、元に戻すには戦闘によって一定数のダメージを与える必要があるというのだ。
ついでにカメリアが書いた裏側の嘘設定は『変態ロリコンのヘタレ軍人』である。
「……酷すぎると思わんか」
「……うむ、正直すまんかった。まさか動き出すとは思わんかったもので」
だが今はそんなことを言っている場合ではない。何しろそんなことを話している間にレーゼマンのフェイクは忽然と姿を消してしまっているのだから。
「あ、あんな私の顔で変態行為を繰り返されてはたまらん……知り合いが近くにいるはずだから応援を頼もう」
と、レーゼマンは携帯電話を取り出すのだった。
☆
「ああぁ〜ん、このケータイ本当にマジでチョームカツクんですけどおぉ〜」
と、ポーチから取り出したやや古めの携帯電話を見つめて渋面を作ったのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)である。
「どうしたんですか?」
そのルカルカに優しく聞き返すのは鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)である。
「ルカ、ケータイ詳しくなくってぇ〜、ずっと古いケータイ使ってるんですけどぉ〜! 使いにくくってぇ、今もかかってきた電話切っちゃってぇ〜、ぷんぷくり〜ん!!」
それを見た真一郎は優しく微笑む。
「そうなんですか、本当にあまり詳しくないんですね、では新しい携帯でも見に行きましょうか」
二人は恋人同士。今日もツァンダの街で楽しくデートである。
ちょっと遅い昼食には美味しいと評判のオムライスをオープンカフェで。
「あぁ〜ん、私コレ食べられないんですよねぇ〜」
「え、どうしてですか、嫌いなんですか?」
「嫌いじゃないし、食べたいんですけど、食べられないんですっ><」
語尾についた記号は『不等号不等号』とでもお読み下さい。
「――嫌いではないのに、そうして食べられないんですか?」
と、あくまで優しく尋ねる真一郎。
ルカルカは答えた。
「だって、だって……卵割ったらヒヨコ死んじゃうじゃないですかっ、赤ちゃんかいそうですぅ、まだピヨピヨと鳴いてもいないのに……」
それを聞いた真一郎はなんて天使のように優しいコだろうと、あ、もういいですか?
「いやー……さすがにコレは許せないわぁ〜……」
と、間違った方向に女子力を爆発させていくルカルカの襟首を後ろから掴んだのは、言うまでもないが本物のルカルカ・ルーである。
「顔だけ同じでも、こうも軟派な人格だと少々腹が立ちますね」
その傍らには本物の鷹村 真一郎。こうなればもはや偽者も霍乱することはできない。
「え〜、この人タチどうして怖い顔してるんで」
「こういう女、自分の顔じゃなくても魂から許せないッ!!!」
性懲りもなくぶりっ子を続けるフェイクを左手で固定し、ルカルカは空いた右拳によるガトリングパンチを連発する。
「あががががががばばばばばば」
その連射力はおよそ一分間に357発のパンチを叩き込む怒涛の拳ッ!!!
「やれやれ、自分の偽者を聞いたけれど動きも軽いしまったく勝負になりませんね」
ルカルカが自分のフェイクを全力で仕留めている間に、真一郎もまたあっさりと勝負を決めていた。
どちらもルカルカも真一郎もフェイクは普通紙のもの、本物と見分けがつく状況下であれば、さほどの脅威ではない。
「さってと……じゃあレーゼさんの応援に行こうか」
と、ルカルカは真一郎を促した。レーゼマンが連絡を取った相手はルカルカと真一郎だったのだ。
「そうですね。上質紙フェイクとやらなら、少しは手強いでしょうから、腕が鳴りますよ」
その相手なら存分に空手の腕を試せる、と真一郎は拳を作った。
だが、そのレーゼマンのフェイクは目下行方不明だ。
「……ところで、どうやって見つけるつもりですか?」
「任せて、もう作戦は始動してるのよっ!」
真一郎の問いに、ウィンクで返すルカルカだった。
☆
「何で俺がこんなことをしなきゃならねーんだ」
と、夏侯 淵(かこう・えん)はぼやいた。
ルカルカのパートナーである彼は、レーゼマンのフェイクを呼び出すために白いフワフワドレスを着込んで、囮役の真っ最中である。
見た目には端正な美少年である淵は、女装をさせれば変態ロリコン軍人であるところのフェイク・レーゼマンの格好の餌である筈なのだ。
「まったく……俺は男の娘ではないと何度言ったら……うまく行ったらなんでも欲しい物を買ってやるという約束、忘れるなよ」
成功したら東カナンの駿馬を買わせてやる、と内心ほくそ笑む淵であるが、背後に気配を感じて立ち止まった。
「……来たか」
と、携帯の裏に張った鏡でフェイク・レーゼマンの姿を後方に確認した淵は、さりげなく人気のない方に誘導していく。
声をかけられないようにギリギリの距離を保ち、のらりくらりとじらすように。
あたかも追い込まれたかのように、路地裏の行き止まりに向かった。
そこに現れたフェイク・レーゼマン。
最高のタイミングで、淵は振り向いた。
そこで繰り出されるファイティングポーズは美少女護身術の一つ、『ぶりっこの型』!!
「――お兄ちゃん?」
くりっ、と淵は小首を傾げた上目遣いでフェイク・レーゼマンを見つめた。
ちなみに教えたのはルカルカである。
「ふっふっふ、そんなく可愛いポーズをされてはもうたまらんなッ!! 観念して私とイイコトをしてもらおうかッ!!」
もうフェイク・レーゼマンに理性は残っていない。
高くジャンプをして一気に距離を詰め、白いフワフワドレスの淵に襲いかかった。
だが。
「かかったな、この変態お兄ちゃんめっ!!」
美少女護身術、ぶりっ子の型から繰り出される疾風突き!!
「べぷっ!?」
レーゼマンはもともと格闘戦が得意ではない。完全に不意打ちの形で放たれた疾風突きをかわすこともできずに、顔面で受け止めてしまう。
そのままゴロゴロと路地裏を転がるフェイク・レーゼマン。
それを待っていた本物のレーゼマンとルカルカ、そして真一郎は一気にフェイクに襲いかかった。
まずはルカルカの先制攻撃によるエンドゲーム!!
「ぎゃあぁーっ!」
実力は本物と拮抗するフェイクであるが、その内面は限りなくヘタレ。
「ひぃぃぃーっ!」
と、淵の後ろ側に隠れようとするフェイクを、本物のレーゼマンは引っ張り出した。
「こ、この!! 私の顔で情けないことをするな!! 出てこい!!」
だが、それにより端から見ただけではどちらが本物か分からなくなってしまう。
「――フッ!!」
そこに真一郎がチェインスマイトを放ち、レーゼマンを殴り飛ばす。
「あ、間違えましたか」
というか、あまりに本物と偽者の距離が近いので二人とも殴ってしまったのだが。
なかなか決着がつかない状況に業を煮やした本物のレーゼマンは、苦手な格闘戦を挑んだ。
「ええい、これというのも貴様が情けない変態ロリコンヘタレだからいけないのだ!
貴様のようなエセ軍人は修正してくれる!!」
だがいくら苦手とは言えど、そこは訓練を受けけた軍人だ。もみくちゃになりながらもダメージを追ったフェイクを組み敷いていく。
「本物のっ! 獅子の牙をっ!! 受けるがいいっ!!!」
レーゼマンが数発のパンチを打ち込んだあたりで、フェイクはようやく一枚の紙に戻った。
「はあ……はあ……やっと始末したか……」
肩で息をするレーゼマンと、それを見守る仲間たち。レーゼマンは軍人として名誉を自分の手で守り通したのだ。
そんな一行に、表通りから声をかける一人の人影があった。
「あんたら、そんなとこで何しとるのかね。……軍人姿のメガネ男が女の子をつけ回しているという通報があったんだが」
それは、一般市民の正義の味方、お巡りさんである。
当然、レーゼマンが目に止まらないはずはない。
「……いや、その私は」
「……ちょっと話を聞かせてもらえんかね?」
と、レーゼマンはお巡りさんにちょっと署の方でお話を聞かれてしまうのだった。
「いやだから、私は無実なのだ。それは私ではなくて偽者がだな……ああしまった、もう証拠がない!!」
それを穏やかな表情で見送る一行。
「大丈夫ですかね、レーゼさんは?」
「まあ大丈夫よ、身元はハッキリしてるんだし……すぐに誤解も解けるでしょ」
「ほらそんなことより、成功したんだからな、約束だぞ!!」
助けてあげて下さいよ。
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