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学生たちの休日7

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学生たちの休日7

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「汎用機とは言っても、さすがに整備のしがいがあるなあ」
 ハンターのコックピットで、ヴェルナー・ファルケハイン(う゛ぇるなー・ふぁるけはいん)が整備マニュアルとにらめっこしながら言った。
「駆動系は、今のところ異常なしですね。ちょっと、右腕を動かしてみてくれませんか?」
「こうかな」
 サブパイロット席のエルマ・アークライト(えるま・あーくらいと)に言われて、ヴェルナー・ファルケハインはクェイルタイプのハンターの右腕を横にあげてみた。重心が右に傾くが、すぐに補正される。
「バランサーも問題ないようですね」
 エルマ・アークライトが、チェックシートに印をつけた。
「おや、あちらも、動作チェック中のようだな」
 正面のハンガー前で、同じようにゆっくりと各部を動かしているクェイルを見て、ヴェルナー・ファルケハインが言った。
 そのクェイル、エステル専用クェイルの中では、正木 エステル(まさき・えすてる)が一人で各部のチェックをしていた。
「ええと、モニタの輝度はと……。あ、外部カメラの調整だから、受光素子の感度を……、ああ、プログラムで補正かけた方が早いのですね。暗部補正で、輝度の自動調整を……。うん、これで、画面の潰れがずいぶん減りました」
 メインコンソールのタッチパネルに現れたスライダーを指先で移動させながら、正木エステルが正面モニタを確認した。
 今まで暗かった部分が明るくなる。そこへ、正面のハンガーに半固定されたクェイルが映った。胸部のコックピットハッチが開き、中で人が手を振っているのが見える。
 カメラをズームアップすると、インカムを持ってそれをしきりに指さしているヴェルナー・ファルケハインの姿がくっきりと映った。
「通信という意味かしら?」
 通信設定のコンソール画面を呼び出すと、正木エステルは教導団の正規チャンネル一覧を呼び出した。自動認識コードに、いくつかのイコンの識別コードが表示されている。
「ええと、これかな?」
 正木エステルが、ICN0002732のナンバーを指先で触れた。表示が、コネクトに変わる。
『よう、そっちも整備かい』
 オンにしたスピーカーから、ヴェルナー・ファルケハインの声が響いた。手に持ったインカムのマイクにむかってしゃべっている姿が、モニタからも確認できる。
「ええ」
『よかったら、一緒にちょっと機体確認を行なわないか? 少しくらい動かさないと、ちゃんと整備できているかわからないしな』
「ええ、いいですよ」
『じゃあ、外の訓練場で』
 コックピットハッチが閉まって、ハンターが動きだした。その後を、正木エステルのクェイルがついていく。
 ヴェルナー・ファルケハインがパイロットシートにちゃんと着いたので、通信モニタにちゃんと相手の顔が表示されるようになった。
 ハンターの方は二人で動かしているので問題はないが、正木エステルの方はパイロットが一人なので、その分反応がずいぶんと遅い。
「でも、ちゃんと動いてくれていますね」
 ちょっと顔をほころばせながら、正木エステルがつぶやいた。イコン先頭は得意ではないのだが、それでも、こうして操縦しているとやはり心躍るものがある。
『ちょっと派手に動かしてみるかい? 格闘ぐらいならいいかな?』
「ちょ、ちょっと待ってください!?」
 突然ヴェルナー・ファルケハインに振られて、正木エステルが焦った。
 だめだという間もなく、ハンターのパンチが迫ってくる。あわてて後ろに下がって回避行動をとらせようとしたが、焦りすぎて足の動作がちゃんと行われていないのに連続して操作しようとしたため、足が地面に引っかかってエステル専用クェイルが後ろに倒れかけた。
「えっ?」
 パンチがあたっていないのに後ろに倒れていく相手のクェイルに、ヴェルナー・ファルケハインが焦った。
「なにをしているんですヴェルナーさん!」
 真っ先に状況を把握したエルマ・アークライトが、エステル専用クェイルの腕を、ハンターの手でつかんだ。だが、それだけでは、当然引っぱられてハンターもつんのめる。
「せっかく整備したんだから、二機とも傷つけられるかよ!」
 すぐさま、ヴェルナー・ファルケハインがエステル専用クェイルを引っぱる反動を利用しつつハンターを前に進ませてバランスをとりなおした。ガツンと二機のクェイルがぶつかったが、転倒だけはまぬがれた。
「おいおい、大丈夫か?」
『いったーい』
 コックピットの中で振り回された正木エステルが、小さく悲鳴をあげた。安全ベルトが少し肩に食い込んだらしい。
『だ、大丈夫です。でも、模擬戦は無理です。私一人しか乗っていませんから』
 一所懸命笑顔を作って、正木エステルが答えた。
「悪い、勇み足だった。後で、ジュースでも奢るわ」
 エルマ・アークライトに後ろからつつかれて怒られながら、ヴェルナー・ファルケハインはそう正木エステルに告げた。
 
    ★    ★    ★
 
「それでは、二人共、俺が持ってきた本をとりあえず読んでください。質問があったら、どうぞ」
 シャンバラ教導団の図書館の一画で、佐野 和輝(さの・かずき)が、アニス・パラス(あにす・ぱらす)スノー・クライム(すのー・くらいむ)に言った。
 今日は、ささやかな勉強会だ。特に、スノー・クライムは理数系が、アニス・パラスは語学が苦手なので、そこをなんとかしようということになる。
「はーい」
 愛想よく返事しておいてすら、アニス・パラスがすぐにスノー・クライムとひそひそ話を始める。
「本当は、和輝と一緒に買い物とか映画に行きたかったんだよねえ〜」
「だめですよ。せっかく和輝と一緒にいられるのですから、むしろ、勉強はいいことよ」
 小声で、スノー・クライムが一応アニス・パラスを諫めた。
「こら、ひそひそ話はしない」
「はーい」
 佐野和輝にさっそく怒られて、アニス・パラスが仕方なく算数の問題集を開いた。
「ええと、100メートル離れたA・B地点から敵陣地を確認した場合、A地点からの角度が……」
 うーんうーんと唸りながら、アニス・パラスが初歩的な問題を解いていく。
「これであってるよね?」
 とりあえず解けた問題の答えを佐野和輝に見せて答え合わせをしてもらう。
「うん、それは正解ですね。この調子で頑張りましょう」
「はーい」
 褒められて、アニス・パラスが御機嫌で次の問題にとりかかっていった。
「ええと、和輝、このゆる族の黒羊郷での方言なんですけれど……」
 今度は、スノー・クライムが、呼んでいた比較言語学の本の一文を指さして、佐野和輝に訊ねた。
「うーん、それはですね、ええと、今は死語みたいですから、あまり気にしなくてもいいかと。地球の言葉が入ってきてから、淘汰されてなくなったようですね」
 佐野和輝としても語学は完璧ではないので、手許の資料と照らし合わせながらなんとか説明をした。
「そうですか。では、先を読みます」
 スノー・クライムが読書に戻るのを確認して、佐野和輝も読書に戻っていった。二人の勉強を見てやるのが主目的とはいえ、彼自身も勉強すべきことはたくさんある。
「ねえねえ、真面目に本を読んでいる和輝って、ちょっと格好いいよね」
 また佐野和輝の目を盗んで、アニス・パラスがスノー・クライムにささやきかけた。
「えっ、ああ、はい。そうですね」
 言われるまでもなく、ちょっと佐野和輝の姿に見とれていたスノー・クライムが、あわてて生返事した。
 二人の声を聞きつけたのか、佐野和輝が本から顔を上げる。
「ええと、ここはあ……」
「そこはですねえ……」
 あわてて、二人は本をのぞき込んでごまかした。