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学生たちの休日7

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学生たちの休日7

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    ★    ★    ★
 
「なかなか出てこないでありますなあ」
 お仕置き部屋の前で、かわいい女の子お宝画像集を目のメモリプロジェクターで壁面に投影して鑑賞しながら、ノール・ガジェット(のーる・がじぇっと)は、知り合いの出所を待っていた。誰かに見つかったらまずいが、壁にピッタリと顔をくっつけているので、何を見ているかは他人には分からない。まあ、それ以前に、目から投影した物を自分で見るという芸当を行っているわけで、さすがにそれに気づく者はいなかった。
 そのころ、まだお仕置き部屋に入れられていたクド・ストレイフ(くど・すとれいふ)七刀 切(しちとう・きり)は、のんびりとヌードトランプでばば抜きをしていた。もちろん、今までいろんなのぞきの成果として集めた、各学校の美人生徒をランクづけした、のぞき四天王専用の特製トランプである。
「クド・ストレイフ、七刀切、釈放よ」
 お仕置き部屋のドアがコンコンと叩かれた。
「やば、切ちゃん、早くトランプ隠せ!」
 クド・ストレイフが、あわててトランプをかき集めてポケットに捻り込んだ。
「まったく、どこの世界に、混浴風呂でのぞき事件なんか起こす人がいるんだか。もう二度とここに戻ってくるんじゃないわよ」
 そう言いながら、天城 紗理華(あまぎ・さりか)が二人を追いたてた。
 つい先日、この二人は大浴場で女の子にセクハラをして風紀委員に逮捕されたのだった。
 反省をうながすために、今までこのお仕置き部屋に入れられていたわけだが、はたして反省したかはかなり疑問なところだった。
「外で、お友達も待っていますよ」
 アリアス・ジェイリル(ありあす・じぇいりる)が示す方には、ノール・ガジェットが待っていた。
「おお、同志ガジェットさん、お迎え御苦労様ですよ〜」
「あ、クド殿、出てきたのでありますね。お勤め御苦労様であります」
 クド・ストレイフの声に、写真集に見とれていたノール・ガジェットが振りむいた。
「えっ!?」
 七刀切のシャツに、ノール・ガジェットが見ていた画像がそのまま投影された。ショーツ一枚で胡座をかいて大きくのびをしているアリアス・ジェイリルの姿だ。
「ぐあっ!」
 次の瞬間、小爆発と共に映像が消えた。当人であるアリアス・ジェイリルが、大剣を一閃させてノール・ガジェットの顔面ごとプロジェクターを破壊したからだ。
「目が、目が〜!!」
こっちくんな
「うわっ」
 のたうったノール・ガジェットが、よろけながらクド・ストレイフと七刀切にぶつかって、仲良く三人揃って床に転げた。
「何もなかった!!」
 顔を真っ赤にしたアリアス・ジェイリルが、大剣を片手に叫んだ。
「いいえ、これは見なかったことにはできないわね……」
 三人が倒れたとき舞い散ったトランプの一枚を拾いあげて、天城紗理華が言った。
 そのトランプは、入浴中の泉 美緒(いずみ・みお)や、ビーチバレーをする水着姿のティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)など、各校の女の子の水着やヌードの写真で作られていたからだ。
「全員お仕置き部屋に戻しなさい。後でマジックスライムの刑にします!!」
「喜んで!」
 天城紗理華の言葉に、アリアス・ジェイリルが剣で三人を突っつきながらお仕置き部屋へと転がしていった。
 
    ★    ★    ★
 
「エッツェル? どうしたの、エッツェル!?」
 無表情なエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)の右顔を見て、月代 由唯(つきしろ・ゆい)が訊ねた。だが、返事はない。
 ゆっくりと、エッツェル・アザトースが振りむく。その半身が、ありえない物に覆い尽くされていた。とても、言葉では言い表せられない。もし、正確に描写できるとしても、正気を保てはしないだろう。
「音とも、声とも、咆哮ともつかない物を、エッツェル・アザトースが口から発した。いや、それは彼の口から出たものではなかったかもしれない。もっと別の器官……。
 これが、クトゥルフ学科の進んではいけない領域まで足を踏み入れてしまった者の末路だとしたら、なぜ、それを止めることができなかったのだろうかと、月代由唯は悔やんだ。
「気づいて、私だよ。あなたは人でしょ、あなたは、エッツェル・アザトースでしょ」
 月代由唯が、エッツェル・アザトースを止めようと彼の身体をだきしめた。エッツェル・アザトースも、そんな月代由唯の身体をだきしめ返す……と思われた。だが、彼の異形と化した半身は、彼女を押し潰そうと力を込めていた。肌の焼ける、二度と思い出したくない臭いが部屋の中に満ちる。
「だめだ、やめろ!!」
 エッツェル・アザトースの半身が叫んだ。そして、エッツェル・アザトースの半身がその手を放す。
 バタリと、月代由唯が床の上に倒れた。エッツェル・アザトースにつかみかかられた部分が、紫色に変色し、蠢いていた。皮下出血のはずが、生き物のように痣が動き回り、何かの名伏しがたい文様に変化していく。
「誰か、誰かいないか!」
 エッツェル・アザトースは叫んだ。
 
「ううん、いつの間に寝ていたのかしら」
 ベッド脇に座って、そのベッドに突っ伏すようにして月代由唯はいつの間にか寝てしまっていたらしい。
 ベッドには、エッツェル・アザトースが寝ている。その目がいつ開くか、医者は答えてはくれなかった。
 のしかかっていて重かっただろうと、月代由唯があわてて身体を起こした。
「つっ!」
 軽く刺すような痛みが走る。身体につけられたあの日の痣が、蠢くように痛みを発していた。
「私は、いつまで待てばいいのかしら……」
 つぶやきつつ、月代由唯は再びまどろみに囚われていった。
 
「おはよう」
 実験室のテーブルに突っ伏して眠っていた月代由唯が、エッツェル・アザトースの声であわてて飛び起きた。
 あわてて、口許のよだれを拭う。なんとも恥ずかしい姿をさらしてしまっていたものだ。
 でも、いつから?
 これもまた夢なのだろうか。
「あなたは、いつも、私の傍で眠っていますね」
 感慨とも、自戒とも、恐れともつかない感情を込めて、エッツェル・アザトースが言った。
「コーヒーでも入れましょう。目が覚めますよ」
 お湯を沸かしながら、エッツェル・アザトースが言った。
 なんだか夢のように静かな時間だ。
「ねえ、これを飲んだら目が覚めてしまうのかしら」
 コーヒーカップをおくと、逃げるように右手を引っ込めてしまったエッツェル・アザトースに月代由唯が訊ねた。
「今は、夢? それとも……」
「さあ。たとえ夢だとしても、目覚めたら私は由唯さんにこう言うでしょう、おはようございますと」
 そんなエッツェル・アザトースの言葉を聞きながら、月代由唯はコーヒーを飲み込んでいった。