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眠り王子

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眠り王子

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●行け! 王子様救出の救出隊!

「ホームセンター探しで手間取って、超遅くなっちゃったけど、これから巻きで頑張るわよー!!」
 かけ声も勇ましく、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が鬱蒼としげったいばらの森の前に立ちはだかった。

「まさかホームセンターがないなんて思わなかったからあせっちゃった。でもディスカウントストアがあってよかったー」
「……おとぎの国に、まさかディスカウントストアがあるとは驚きだった」
 後ろでダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が重い荷物を降ろしながらつぶやく。
 こちらはルカルカと対照的に、かなりのロー・テンションだ。

「何言ってんの、ダリル! ああいうチェーン店は、お客さえいればどこにだって支店を出すんだから! それが商売ってものなのよ! 王子様ってアイドルがいなくなった今のこの国で、商売は大変なんだから!」
 ひと講釈たれて、ルカルカはダリルの手から小回りの効く片手ハンドル式刈払機(市場価格2〜4万)を奪い取る。

 店の入り口で1980円均一ワゴンセールで売り出されていたのだ。
 おそらく手動商品だからだろう。手動はとかく人気がない。
 だがコントラクターで底なしの体力の持ち主であるルカルカにはそんなこと、どうってことなし!

 【ディスカウントストア首領・鬼鳳皇(どん・きほうてい) おとぎの国支店♪】の派手派手しいシールがついているそれを手に、しゃきーんといばらに向き直る。
 きらりと光る彼女の手の中の刃物か、それとも彼女自身の放つ異様なやる気に気圧されてか、いばらのツルがやや後退した。

 それを見て、ふっふっふ、と不敵に笑う。

「さあっ! いばらにやられちゃってる人たちを、どんっどん救出よー」
 おー! と自分で返事もかまして、勢いよくハンドルをグルグル回し、ばっさばっさ、刈って刈って刈りまくる。
 いばらは刈られまいとあとずさったり、彼女にツルで攻撃をしかけてきたが、所詮相手は植物。ルカルカの敵ではない。歴戦の立ち回りやドラゴンアーツを駆使して、かわしたあとにチョン切ったり、巻きついたのを引き千切ったり。
 その千切れ飛んだいばらのツルたちをエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)が回収して、1箇所にまとめて燃やしていた。

「本当は、君達が道を開けてくれるのが一番いいのだけれど。魔女のせいで、そうすることもできないんだね。
 ごめんね、君達は全然悪くないのに…。これが終わったら、あとでちゃんと世話をしてあげるから、今日だけ我慢しておくれ」
 可憐な花を咲かせるいばらは女の子! とエースはまるで自身が焼かれてでもいるかのように眉を寄せ、顔をしかめている。

  ――おしべとめしべ両方あるんだから、どっちかというとニューハーフ系じゃないかと思うんですが。どうでしょうか? これ。

 彼らも2人に賛同してやってきた有志だ。
「王子とキスしたい物好き……じゃなくて、勇気ある挑戦者達(え? それもちょっと…)全員が、その権利を得られるようにしてあげようじゃないか」
 メシエはちょっと違う目的があるようだが、エースの方はボランティア精神にあふれていた。
 いばらのツルを焼くかたわら、自身も積極的にいばらを刈っていく。


「1人めーっけ!」
 突然ルカルカが叫んで、しげみの下から突き出していた足を引っ張った。
 きゅうっと目を回していたリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)を救出する。
 彼女を皮切りに、ルカルカは次々といばらに巻きつかれていた天夜見 ルナミネス(あまよみ・るなみねす)熊猫 福(くまねこ・はっぴー)、そのほかパトニー盗賊団の者たちまで救出していく。

 一方ダリルはといえば、ルカルカが通り過ぎたあと、切り口からまたツルが生えて襲ってこないよう、片手持ちの草焼きバーナー(市場価格1〜2万がこれまた1980円均一!)で切り口を焼き切っていたのだが、まったく、全然、ほんの少しも、表情が冴えなかった。
 普段と比べて動きも鈍いし、ふーっとときどき重いため息までついている。

 それもそのはず。
 彼は、薔薇が嫌いなのだそうだ。過去に大きいトラウマがあるらしい。嫌いな人間が襲う側になるはずはないから、どうせ襲われたか迫られたかしたのだろう。
 それでもひと助けのためと、こうしていばらを焼き払いに出ている。
 立派なんだから、ほうっておいてあげればいいのに。

「ねーねー、思ったんだけどー」
 ちょっと作業に退屈してきたのか、手元の刈る音に負けないよう、声を張り上げながらルカルカが言いだした。
「なんだ?」
「せっかく塔にまで来てるんだし、ダリルちょっと上に上がってきて、キスしてあげたら? 可能性、全くのゼロってわけでもないんだから」

 その発言に、ピキッと、みるからにダリルの顔が強張った。

「……ゼロじゃない…?」
「だーってダリル、性別もが意見性別も男だもの。もしもってこともあるじゃない?」

   ピキッ ピキピキッ

「い、いや、ルカ……それでも、我こそは運命の人って自信のある人が挑戦するべきじゃないかなぁ…」
 ダリルの顔色を伺って、エースがそれとなくフォローを入れる。
「運命の相手がノーマルっていうのも、その後の2人にとって不幸だと思うし。
 せめて順番くらいはね、本気で王子狙い優先でいいと思うんだ。そのあと、薔薇っ気のある人で、その次がノーマルの有志たちで、それでも目覚めなかった場合の究極の選択として、一番最後にダリルみたいなノーマルの男で…」

 と、せっかくエースが頑張ってダリルを落ち着かせようとしているっていうのに、ルカルカってば。

「えー? 運命も何も、目覚めなきゃ何ひとつ始まんないじゃない。そのためには男性は一丸となって王子にキスしてあげなきゃ。個人の趣味趣向なんて関係なし! ひと助けでしょ、ひと助け」
 完璧他人事で、面白がってる。

  ――ルカルカさん、手元ばかり見てるんじゃなくて、たまには振り返ってダリルさんも見てあげてください…っ

 エースのなだめもむなしく、案の定、ダリルはキレた。

「性嗜好はそれぞれ個人の自由だがッ、俺に直腸で愛を語る趣味はない!! たとえ目の前に新型光条兵器積まれても絶対にお断りだ!! 俺はホモじゃないし! ホモなんて人種は大嫌いだーーーッッ!!」

  ――一体過去にどんな悲惨な目にあったんですか、ダリルさんっ


「この国は同性婚も(たぶん)OKだし、このシナジャンル(たぶん)コメで薔薇なんだから、もーちょい穏便な発言にしてぇ〜〜!! あなたが嫌いなのは分かったから!! 薔薇は繊細すぎるんだから、今この塔近辺でホモは嫌いとか大声で言わないでぇ!!」

 自分の起こした騒動に遅ればせ気づいたルカルカが、あわててダリルの口ふさぎに走った。

「ルカ、おまえの声こそ大きい…」
 ふさがれた手の下で、もごもご抗議する。

「やれやれ。ダリル君、ここでなくとも男色差別な発言は控えたまえ。今の時代、そういった偏見は良くないよ」
 肩をすくめるメシエは、どこまでもすずしやかだ。
「ふふ…。何なら私がまた手取り足とり教えてあげようか?」

  ――あなたデスカ! あなたがダリルの重トラウマ作ったんデスカっ!?

「あれでは心身ともに欲求不満だけが残っただろうしね…。きっと行き着くところまで行けば、きみにも良さが分かると思うよ」
 ちょうどいい、この塔にはいくらも部屋があるし……と、意味深なメシエの動きに、ダリルがいち早く反応した。
 ずざざっと音を立てて数メートルも後ろまで飛び退く。
「メシエ、ダリルはそういった冗談は分からないんだから、からかうなよ。それ、悪いクセだぞ」
 ぶるぶる震える手で光条兵器まで取り出そうとしているダリルを見て、エースがくつくつ笑った。

「ふむ。私が相手では嫌というのであれば、仕方なし。選ぶ権利というものは確かにあるからね。では、エースでどうかね?」
「って、そこに俺を巻き込むな、俺をッ!」
 他人事としてはたから見て楽しんでいたエースだったが、にわかに自分に話を振られて、あわてて叫ぶ。
 そんな2人の耳に、草焼きバーナーの火炎音がゴーーーッ。

「焼くぞ…」
 キュッと火炎を弱→強へ。
 今なら古くからの友人でも、確実に焼く。
 後悔もなく焼ける。

  ――ダリルさん、目が据わってます。

「もうっ!! いいからみんな、口より手を動かしてよ!! ルカにばっかり仕事押しつけてないで!!」

 きゃーーーーっとなったエースたちに向かい、ついにルカルカの雷が落ちた。

★          ★          ★

 さて。
 塔周辺のいばらの森を見て、この伐採を考えたのは彼らだけではなく。
 同調? したのが大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)だった。

「王子の元まで、挑戦者全員で協力して開拓しつつ行こうやないか!」

 伐採ではない。開拓である。

 さすがにそれに同調する者はいなかったが、かまわず彼はパートナーたちとせっせと開拓にいそしんでいた。
 いばらを刈り取り、引き千切り、現れた地面から再びいばらが生えてこないように根ごと引き抜く。
 いばらは抜いても魔法の力でうねって、再び土の中へ戻りたがるので焼き払うしかない。
 取りきれない細かい根もあるので、それも焼く意味も込めて土の上で焼いていたのだが。

 そのうち、刈り取った地面をそのままにするのがもったいなくなっていた。

 しゃがみ込み、ほぐれた黒土を手にとってぽろぽろこぼす。
「この掘り返した土、やっぱもったいないで。火ぃつこて表面も殺菌してるしなぁ。
 せっかくやから、なすびやトマトの苗でも植えるか」
「では私が町まで行って、苗木屋から購入してきましょう」
 レイチェルが提案する。
「おっ、気ぃきくなぁ、レイチェル。ほな悪いけんど頼むわ。ついでにクワも買うてきてや。そんで腐葉土も頼む」
 ほか、畑を作るためのこまごまとした物をリスト化して、レイチェルに渡す。
 すでにこのとき泰輔の頭の中には、この一角を畑に変えて王子救出後の『王子記念ランド(仮)』の中のレストランで、とれたて新鮮野菜を使った料理を出して儲ける、壮大な計画が生まれていた。

「ここを訪れた人たちに、無農薬で安全第一のうまいモン食べさせてやるんや! やるでー!!」


  ――王子救出はどうした?