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「あああぁぁぁぁー!! なんて事だ!!」

 そう叫んだレミリアがムンクのポーズを見せる。
「雅羅、どうしよう?」
 月夜の前で大量に黒焦げになったのは、ホットスナックの王たるチキンナゲット。
「見なかったことにしましょう?」
「それは出来ないと思うわよ?」
 駆けつけた刀真の提案を雅羅があっさり却下する。
「月夜は料理が下手なんですから、もうここはいいです。雑誌の棚の整理の方をお願いします」
「うん。ごめんなさいー」
 タタタと月夜が走り去る。チラリと視界に『命』を黒焦げにされたレミリアが「燃え尽きたよ、真っ白に……」と目を閉じるのが見えたが気にしない。
「さて……」
 雅羅と共に刀真が腕組みをし、黒焦げになったブツを前に考え始める。
「しかし……ただ、タイマーをセットして冷凍の物を放り込むだけでも月夜には難しいのですね」
「あら? ただナゲットをまた作ればいいだけでしょう?」
「とは言うものの……」
 冷凍室を開くが、どうやら月夜は全部イッてしまったらしい。補充は朝の便まで無いのだ。
「平気よ。アメリカにいた頃、母とよく作ったもの。母の親戚はそれで一大チェーンを築いたって言ってたわ」
「雅羅はフライドチキン屋の白髭おじさんの親戚ですか?」
「さて……チキンはどこかしら? ここはコンビニなんだから鶏の一匹くらい置いてあるでしょう?」
 軍人としてサバイバル経験もある雅羅には、鶏からフライドチキンを作るなど造作もない事である。
「雅羅……残念ながら、鶏一匹はありません」
「なんて不便なの!! 信じられないわ!!」
「とりあえずくじ引きでも作って、外れたらあげれば良いでしょう」
「じゃあ、当たりが出たら?」
「そうですね。一押しの商品を差し上げれば店のアピールにもなるし丁度良いでしょう? 何かピックアップしてきましょう」
 刀真はそう言って雅羅を促し、月夜の向かった雑誌の棚へ歩を進める。


 一足早く雑誌棚を整理整頓する月夜は、「雑誌や情報誌も見やすくキチンと揃えて……と」とテキパキと客の読み散らかした雑誌を所定の位置に移動させる作業を行っていた。
 ふと、目につくガラ空きになった棚。
「エッチな本が一冊もないのね……そんなに人気なのかな?」
と、綺麗に整えた棚を見て一息つく。
「あれ?」
 月夜は書棚の裏側に引っかかった一冊の本を取り出す。
「何だろう?」
ど派手な表紙のそれは、今日来店した鮪が置こうとして拒否された彼の本であった。
「何か、挟まってる……わ!?」
 刀真と雅羅が書棚の方へやって来ると、月夜が「見て見て見て!!」と駆け寄ってくる。
「何かありまし……」
 刀真の言葉がそこで止まる。
「雅羅見て見てこれスゴイ!! この本、パンツが付いてたよ!!」
「パ、パンツ!? それ、殆どヒモじゃない!!」
「凄いよね、私こんなの持ってないよ」
 月夜がエプロンの前で、パンツを広げて見せる。
「私だって……」
 言葉を止めた雅羅を、刀真は驚きの顔で振り向く。
「雅羅……まさか……!?」
 ちょっとモジモジした雅羅が顔を赤らめ、
「その、昔アメリカにいた時、一度だけ興味本位で買ってみた事が……で、でも今はないわよ!!」
 刀真は雅羅の過去を冷静に想像する。
 自由の女神像とUSA! USA!のコールをバックに紐パンをつける雅羅……。
「それですね」
 クールに指を弾く刀真。
「え?」
「黒焦げにしたチキンナゲットのくじ。その当たり商品はそのパンツと本にしましょう!!」
「刀真。それでお客さん来るかな?」
「月夜。想像して下さい。人は危険な荒野でも、そこに黄金が眠るなら突き進むでしょう?」
「だーかーらー、今は履いてないわよッ!!!」
 だが、雅羅が言ったこの『履いてない』発言の波紋は凄まじかった。
 黒焦げナゲット一つで一度の抽選券という毒の沼に、客(男のみ)は勇猛果敢に飛び込んでいった。ただ、店の売上げは伸びたものの、刀真と月夜は本店から『衛生上、今後その類のキャンペーンは一切無し!』というキツいお達しを貰ったのであった。