空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

波乱万丈の即売会

リアクション公開中!

波乱万丈の即売会

リアクション

「ふう、そういうわけですから小鳥遊さん。 現場の指示はお任せしますね」

「お任せ下さい花音さん! 副会長としての務め、しっかり全うして見せます!!」

 ひとしきり言いたいことを伝えた花音は、現場責任者として任に着く小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)にバトンを渡す。
 花音に変わり、美羽が次に風紀委員と向かい合う。
 今度はどんな言葉が飛び交うのか、と全員が固唾を呑んで美羽を見守っていた。

「というわけで、ご紹介にあずかりました蒼空学園生徒会副会長を務めます小鳥遊 美羽と申します! みなさ〜ん、今日は明るく楽しくビシビシ取り締まっていきましょうね〜!!」

 ノリが軽いなぁオイ! と全員が思った瞬間だった。
 先程の花音の言葉とは違い、美羽はお祭りなんだから楽しくしなきゃ損だよ的に話している。
 おまけに楽しくビシビシ取り締まる、それって思いっきり人をいたぶることが好きな人向けの言葉ですよね? ととある眼鏡男子は思った。

「美羽さん! 一応風紀委員ということですから、そういう軽々しい発言は控えてください!!」

「え〜、でもせっかくこんな稀な行事を開催してくれたんだから楽しまないと、そこにいる生徒会長に申し訳なく感じるよ?」

「い、いや、ですからそれは……」

「もうベアちゃん、堅苦しい。 もう少し楽しむっていうことを覚えたほうが良いよぉ?」

 美羽の発言に、彼女に慌てて近づく眼鏡美人の蒼空学園の女子生徒。
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)はパートナーのいきなりすぎる発言に、訂正を求めた。
 しかし当の本人は、せっかくの貴重な行事を企画してくれた涼司に申し訳ないと言ってしまい、そのことに関してはベアも押し黙るしかなかった。
 ただでさえ、中々帰ることができないのにこうしたイベントを開いてくれたのも事実。
 ベアもそんな涼司の行動に関しては評価をしていた。

「……明るく楽しく取り締まる、か」

「結構難しい注文ですね。 まぁ要は楽しみながらも白黒ははっきりしろってことなんでしょうね」

「ええ、そうですね。 はっきりさせようではないですか……」

「へ? あ、あの……??」

 正面で美羽とベアの討論を見ながらぽつりと誰に言うわけでもなく呟いたガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)
 彼女の傍にいて聞こえたのか、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)がその言葉に答える。
 しかしその返事として帰って来たのはガートルードの意味深な言葉だった。
 気になった牙竜は見ると、何やら顔に影を映しながら怪しげな笑いを浮かべている少女がそこにいる。

「全く、たかが一高校生が成年向けを作るですって? 笑わせてくれます、そんなことをしていいのは大人とパラ実の不良だけと決まっています!」

「いや、それは……」

「あぁ、楽しみですね。 今日は風紀委員に立候補して良かったです。 パラ実のテリトリーを侵害したものには容赦しませんよ」

 どうやら即売会という行事そのものに興味があるのではなく、あくまで成年向けを販売しようとすることがガートルードは見逃せないようである。
 若干、独特な偏見が混ざっていることに牙竜は突っ込みを入れたかったが、それは出来ない。
 一人黒いオーラを放ちながら、この後来るであろう時間に向けての作戦を念入りにガードルードは考えていた。
 苦笑い、牙竜に出来るのはそれしか出来なかった。

「彼女の言うとおりだな、成年向けを作るなど以ての外だ」

「そういうものなんですか?」

「そうだ、花音さんの言う通り厳しすぎるくらいで取り組むぞ!!」

「ふぅん、受胎関係に関する内容が駄目なんだね。 分かったよ、僕の能力を使えば発見するのなんて簡単だよ!」

「その調子だ、ロートラウト! お互いに頑張るぞ!」

 ガートルードの覇気に押されるようにエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)がやる気を見せる。
 そんな主のやる気に若干疑問を感じることを感じながらも、ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)も調子を上げる。
 エヴァルトとロートラウトの様子を見て他の生徒たちもやる気を出しはじめる。
 
「皆少し過剰になりすぎと感じるんやけどな……」

「まぁな、一応体裁もあるからな。 だからこそ泰輔に風紀委員として行動してくれって頼んだんだ」

「なるほどな。まぁ蒼空学園校長先生様に言われたなら、不詳ながらこの大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)、頑張らせてもらいまっせ!!」

「……泰輔が風紀委員っていうのも面白い発想ですけどね」

「なんか言うたかフランツ?」

「いえ、何も」

 周りの様子に泰輔がため息交じりに独り言を漏らす。
 彼に近づくように涼司が泰輔に話しかけた。
 涼司はこのイベントを開催するにあたって、泰輔にすぐさま連絡をした。
 風紀委員として活動してくれないか、泰輔は二つ返事でOKを出した。
 洒落の分かる風紀委員、涼司はそんな風紀委員を泰輔に期待している。
 それに答えるように、やる気を見せる泰輔を見てフランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)がぽつりと本音を漏らした。
 先程から、周りの言葉に届かぬ突っ込みを入れていたなど、誰も知る由もないのである。


*** 4 ***


「お待たせしましたぁ!! それでは今から開場します、前から順番に体育館内に入っていってください!!」
 
 美羽が拡声器を使って来場者に呼びかける。
 予定通り開場時間に行事開始を決行した。
 風紀委員が扉を解放して順番良く入場、のはずだった。
 ここから出っ歯をくじかれることになる。
 開場と同時に先頭の生徒が走りだしたのだ。
 つられるように次々と皆走り始める。

「走らないでください!!」

「押さないでください! ルールはきちんと守って下さい!!」

 牙竜とエヴァルトも拡声器を使って声を張り上げながら来場者に注意をする。
 しかし誰も彼らの声に耳を傾けていなかった。

「落ち着いてください! 走ったら危ないです、よぉぉ〜〜〜!?」

「……ん? あれ、ベアちゃん??」

「きゃああぁぁぁ〜、美羽さぁぁぁぁぁぁん〜〜……」

 ベアトリ―チェも必死で注意する。
 しかし彼女が言葉を言い終わる前に、群衆の波はベアトリーチェを呑みこんでしまった。
 3秒前には隣にいたパートナーが忽然と消えていたので美羽は頭に?マークを浮かべる。
 美羽の耳にはベアトリーチェの断末魔が微かに耳に入ってきたが、どうしようもなかった。
 助けに行こうとしてもどこに行ったか分からないので、落ち着いてから探しに行こうと美羽は業務に戻るのであった。

「全く、皆無粋なやっちゃなぁ。 最低限のルール守らんとあかんってどうして分からんのかなぁ?」

「しかしやはりこの雰囲気最高じゃの! やはり即売会というのはこうでなくてはの!!」

「よっしゃ! まぁこんなお宝行事いつあるか分からへんからな!! 買えるものは買っていくで!!」

「そうこなくてはの! 我もせっかくじゃから楽しませてもらおう!!」

 騒ぎまくる群衆、風紀委員をしり目に七枷 陣(ななかせ・じん)ジュディ・ディライド(じゅでぃ・でぃらいど)は異常なまでに冷静だった。
 逆に浮いているのだが、当人たちは全く気にしていないようである。
 だが即売会というイベント自体は楽しみにしていたようだ。
 手の中にあるパンフレットを見て、最初に行く場所へと目指す。
 冷静ながら、ふつふつと闘争本能むき出しの二人であった。



「同人誌即売会、か……。 果たしてどんなイベントなのでしょう?」

「どうなのでしょう? 私も詳しく存じているわけではございませんので……。 ですが、何やら楽しそうなイベントだと思いましたので」

「そうですわね、学校の皆さんも何やら浮き足立っているような感じでしたわね。 よほど楽しいものなのでしょう」

「なるほどの。 まぁせっかくだ、勉学も兼ねて見てみることにしよう」

 四人組の生徒、非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)が即売会にやってきた。
 今回のイベントに際してはアルティアが情報を聞いて、三人に声を掛けた。
 だが全員、即売会というものが何なのか知らないようで、興味本位で来たようである。
 会場入り口に近づくと、入り口周辺は若干収まっていた。
 しかし中は、すでに戦場と化していることを彼女たちは知る由もない。

「……何だ、この異常な熱気は? とても不快だ」

「そう、ですね……」

「え? きゃああ!? 近遠さん!?」

「大丈夫ですか?! しっかりして下さい!!」

 入り口周辺は内部からあふれ出している熱気が溢れ出していた。
 それにいしてイグナは不快感を表すと、近遠も答えようとしたが出来なかった。
 ユーリカは隣の近遠からドサリ、という音が聞こえたので何事かと思い振り返る。
 そこには熱気に当てられて倒れた近遠が横たわっていた。
 慌てて彼を抱き起こすユーリカとアルティア。
 ここで彼を介抱するにはまずいと、イグナは近遠をその背に背負う。

「ここにいてはまずいな、とりあえず日陰に行こう」

「そうですね、ここにいたらまずいです!」

「急ぎましょう! しっかりして下さい、近遠さん!!」

 三人は主を心配しながらひとまずその場を離れることにする。
 だがここで離れていくことが賢明な判断であると彼らは思うまい。
 この即売会、というものがどんなのか興味本位で見に来るところではないからだ。
 そんなことを知る由もない四人である。