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2. 

 お金をもらえると聞いて、松本恵(まつもと・めぐむ)は『古代遺跡エウリュアレ』に一人で挑んでいた。
「……うん、右へ行こう」
 と、分かれ道を右へ進む。
 古代遺跡と名が付いているだけあって、すべて石でできている。壁や柱には地球の古代ギリシャを思わせる装飾が施されており、雰囲気はばっちりだ。
 どんどんと先へ進む恵の足元が抜けたのはその時だった。
「うわぁ!」
 どさっとマットの上に落ちる恵。どうやら落とし穴があったらしい、怪我がなくて良かった。
 さっそく罠にかかってしまったが、こちらにも道はある。
 恵は起き上がると、周囲をきょろきょろと見回した。先ほどと違って薄暗い。
 どちらへ行けばいいかは分からないので、とりあえず気の向く方へと歩き出す恵。
 そしてまた、分かれ道。
 左の方から誰かの悲鳴が聞こえ、恵は反対の道を選ぶことにした。叫び声が上がるような罠には引っかかりたくない。
 それにしても暗い道だな、と、恵は思う。洞窟と違って遺跡には光があるはずなのだが、この一体だけ妙に暗い。
 少々不安になりながら足を動かしていると、突然目の前が真っ暗になった。
 がちゃがちゃと何か身体をいじられる感覚のあと、恵の視界がようやく開ける。
 おそるおそる恵が自分の身体に目をやると……。
「着せ替えの罠……!?」
 なんと、女の子が着るようなふりふりひらひらの服を着させられていた。
 薄暗いとはいえさすがに恥ずかしい。しかし、反対の道を選んでいたらもっと嫌な罠に遭ったかもしれない。それなら、着せ替えられるのなんてどうってことない、かもしれない。
 若干微妙な気持ちになりながら、恵は迷路をさらに奥へと進んでいった。出来るだけ早く、ゴールへたどり着きたかった。

「なかなかやるわね、このアトラクション」
 と、松田ヤチェル(まつだ・やちぇる)は網から抜け出して呟いた。
 先に抜け出していた由良叶月(ゆら・かなづき)は無言で、ヤチェルの肩に付いた砂を手で払ってやる。
「あ、ありがとう」
「ほら、さっさと行くぞ」
 と、相変わらずつれない態度で歩き出す叶月。
 そんな二人を鬼崎朔(きざき・さく)尼崎里也(あまがさき・りや)は眺めて、ひそひそと言い合う。
「何とも初々しい……」
「後押しせずにはいられませんな」
 ちゃっかりビデオカメラを装備する朔と、カメラを手にする里也。そして先を行く二人を追う。
「今度は上か下か……どっちかしら?」
 左右の階段を交互に見て首を傾げるヤチェル。
 叶月が何も言わないのを察して、仕方なく彼女は上を選んだ。地下に行くのを考えたら、何となく嫌な予感がしたのだ。
「カナ君はもちろんだけど、里也ちゃんと朔ちゃんもはぐれないようにね」
 と、階段を上りきる直前にヤチェルは言った。
 程なくして現われた一本道を何の躊躇もなく歩き始めると、注意深く周囲に気を配っていた叶月が目を見張った。後方斜め上から何かが転げ落ちてくる!
「逃げろっ」
 とっさにヤチェルの腕を掴んで走り出す叶月。
 朔と里也もはっとして、追いかけてくる岩から逃れようと駆け出した。――きっと正体は柔らかいスポンジか何かなのだろうが、そのペイントがあまりにも岩っぽいため、身の危険を感じずにはいられない。
 左右にいくつかの窪みがあることに気づき、叶月はヤチェルを連れたままその一カ所に避難した。その数秒後、岩がすぐ横をごろごろと転がっていく。
「……行ったか」
 と、叶月が安全を確認すると、ヤチェルは掴まれていた腕をぱっと振りほどいた。そして道へ出て仲間の名を呼ぶ。
「里也ちゃーん、朔ちゃーん、どこにいるのー?」
 しかし返事はない。その姿も見当たらない。道は一本なので、そう遠くには行っていないはずなのだが。
 叶月が舌打ちをした。
「くそ、はぐれたな……」
 ヤチェルは溜め息をつくと、苦い顔をしているパートナーへ言った。
「しょうがないわね。どうせ出口では会えるんだから、先に進みましょ」
 そうして歩き出す二人に向けて、『光学迷彩』と『ブラックコート』を使用し気配を遮断した朔は録画ボタンを押した。
 里也も『ベルフラマント』による隠れ身効果を活用して、朔とともに尾行を開始する……。

 テーマパークに来ながら、レイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)はベンチで静かに本を読んでいた。そんな彼女のパートナーたちは今、『古代遺跡エウリュアレ』を突き進んでいる。
「さあ、アルハ! あたしについてこれるかい?」
 と、落とし穴を『超感覚』により回避したウルフィオナ・ガルム(うるふぃおな・がるむ)が叫ぶ。
 ガルムアルハ(がるむ・あるは)はぎゅっと両手を握りしめ、気合いを入れると助走を付けてジャンプした。
 すれすれのところで落とし穴を避けることに成功するアルハ。
「出来たよ、姐さん!」
「よーし、じゃあ先に行くぜ。早く財宝にありつきたいしな」
 と、駆け出すウルフィオナ。彼女の肩の上に乗ったリコリス・リリィ・スカーレット(りこりす・りりぃすかーれっと)が呟いた。
「急ぎすぎて、気を抜くんじゃないわよっ」
「分かってるって」
 調子よく駆けていく彼女たち。どんな罠もその身体能力で次々とかわしていき、順調に奥へ進んでいた。
 しかし迷路の末にたどり着いた部屋で、三人は立ち止まった。
「なんだ、ここ」
「行き止まりみたいだね、どこにも扉ないし……」
 と、きょろきょろと辺りを見回す二人。
 するとリコリスが床を示した。
「これはパズルよ。ほら、床に模様が描いてあるもの」
 言われて足元を見るウルフィオナとアルハ。四角に切り取られた床板がランダムに並べられており、その一角が空いていた。
「まさか、これを完成させるのか? 壁蹴破った方が早くねぇか?」
「壊すんじゃないわよ、これはアトラクションなのよ!? ほら、あたしが指示するからさっさと動きなさいっ」
 少し離れたところから床全体を眺め、リコリスが頭を悩ませる。間違えたら何か起きるかもしれないので、ここは一発で正解にたどり着きたい。
 指示を待ってうずうずするアルハとウルフィオナへ、リコリスはついに指示を出した。
「まずはそっちの板を横にずらして。次はその下のを上に、そのあとは――」
 がしゃがしゃと板を動かし、模様をつなぎ合わせていく。
 十数回の指示の後、床には美しい女神像が出来ていた。仕掛けが作動し、何もなかった壁が新たな道を開いてくれる。リコリスは満足げににっこり笑った。
 しかし、間髪入れずにウルフィオナが駆け出す。
「よくやった、リコ! 先を急ぐぜ!」
「待って、姐さーん!」
 と、アルハが慌ててその後を追う。