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蛙の代わりに雨乞いを……?

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蛙の代わりに雨乞いを……?

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     ◆

 それから十分弱が経過した頃、一行の元に数人がやってくる。高峰 結和(たかみね・ゆうわ)茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)清泉 北都(いずみ・ほくと)リオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)たちだ。
その姿を見つけたウォウルと、あれからようやく意識を取り戻した雅羅が声を発した。
「おや、案外早い到着でしたね」
「先輩たち、来てくれたのね……よかったぁ」
 一行のところまでやってきた五人(漆黒のドレスは綾瀬が来ている為、他者から見れば五人になっている)は、彼らに簡単に挨拶を交わした。
「雅羅、とりあえず来て欲しいと聞いたから急いで来ては見たんですが……一体何があったんです?」
「私は…その、偶然衿栖さんとお会いして、それで此処まで一緒に……」
 衿栖と結和はそう言いながら、雅羅、一同を代わる代わる見ながら、しかしその後に挨拶を繋げる。衿栖が雅羅から事情を聞いてはいない為、偶然出会った結和もその内容を知るはずもない。
「僕もさらっとしか聞いてないんだけどねぇ、しかも通りすがりにちょっと声掛けられただけだしさぁ、ね? リオン」
「えぇ、それはもうまるで“通り魔”か“スリ師”の様な速さで去って行かれましたね、ウォウルさん」
 今度は北都とリオンが、別段変わった様子もなくそんな事を口にする。リオンの言葉が妙にひっかかったのか、衿栖、結和を始め、大勢の人間がリオンからすぐにウォウルへと向いた。当然、彼は笑っているままだが。
「私は雅羅から誘われて、まぁ内容はわかりませんでしたがちゃんと話しをしましたけれど…お二人の誘われ方って……」
 衿栖が顔を引き攣らせながらそう呟いた。
「僕は普通に会話をした様に思ったんだけどねぇ」
「ウォウルさん、少なくても貴方の“会話”は会話とは言いませんわよ」
 ウォウルの言葉にラナが笑顔でそう返事を返す。
「えっと…それで、確か蛙がどうとか、言ってたよねぇ、ウォウルさん」
「ですね、蛙さんが困っている、とか何とか」
「か、蛙っ!?」
 結和が北都、リオンの『蛙』と言う単語を聞いた瞬間、おどおどしていた様子が一変し、身を乗り出してウォウルに詰め寄る。
「蛙さんが、蛙さんがどうしたんですか!」
「おや、随分と大胆な御嬢さんだ事で」
 ウォウルの代わりに柚が口を開く。
「すぐそこの日陰があるベンチに蛙さんがいるんですけど、その蛙さんの為に雨を降らせてあげるんだそうです。それで私たちが集められた、で、良いんですよね?」
「うん、確かそんな感じだった気がするわ」
 彼女に突如として話を振られたセレンフィリティが適当に返事を返すと、今きた面々は各自リアクションを取り、蛙の方へと向かう。
「わぁぁ、可愛いぃぃっ! ぐったりしてる蛙さんも可愛いですねぇぇ」
 どうやら相当蛙が好きなのか、ぐったりしている蛙を見た結和はその場でなし崩れた。
「これはこれは、随分とまた、素敵なご友人で」
 今まで沈黙していた綾瀬がそう呟くと、見知った顔に気付き、「あら――」と切り出した。
「真人様にセルファ様、美羽様にベアトリーチェ様。それにエヴァルト様まで。お久しぶりにございますわ」
「貴女も呼び出された、訳ですか」
「えぇ、突然連絡を頂きましてね。ちょうど時間も空いておりましたので、ご助力に、と」
 真人に返事を返しす綾瀬は、スカートを摘み上げると西洋の貴婦人よろしく礼をした。

     ◆

徐々に協力者が集まってきた一行の元に、新たな協力者が現れる。本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)ヴァルキリーの集落 アリアクルスイド(う゛ぁるきりーのしゅうらく・ありあくるすいど)の姿があった。どうやら結が呼んだ協力者の内の二人らしく、結が立ち上がる。
「あぁ! 来た来た、おーい! 二人ともぉ!」
 二人の姿を見た結が声を上げると、一同も彼女の視線の先へと向いた。
「うぉ!俺等以外にもあんなに人が集まってたのか」
「ほんとだー、なんか凄いね。如何にも『これから何かしますよっ!』って感じだね!」
 などと言いながら、二人は大勢が集まる一か所を目指した。
「あの二人は堂島さんが呼んだのか?」
 エヴァルトが尋ねると、結は首を横に振る。
「えっと、私が直接声をかけたのは一人だけだよ」
「え? でも、ずっと携帯とにらめっこしてたじゃないか」
 彼女の答えを不思議に思ったのか、いつの間にかコタローを連れて戻ってきた樹が首を傾げながらに言った。確かに彼女の言う通り、結は数度に渡り携帯で誰かと連絡を取っていたのだ。それは、この場にいる全員が見ている。
「あぁ、えっとね、あれは代表の人と連絡取ってたの。その人はちゃんとこっちに来てくれるって言っててね、行くなら友達誘ってみるって言ってくれて、彼女のお友達がどのくらい協力してくれるかの結果を見てたんだ」
「成程ね、じゃあもっと大勢来る感じなんだ」
 雅羅が関心した様に周囲を見渡す。突然声をかけられ、いきなり人手を集めて来てほしい、とウォウルに言われた時。それこそ誰も協力なんてしてくれないと思っていた彼女。それがどうだろう、今では相当な人数が集まり、一つの目的の為に皆が手を取ろうとしているではないか。勿論自分が呼んだ人々もいるが、それでも自分が知らない、知っていてもばったり会った、程度の人たちが此処まで協力してくれる事が、何より意外に思えたのだろう。
「ほんと、凄いわね……この世界って」
 誰に、と言う訳でもなく雅羅が呟く。
「何か言いましたか?」
 隣で穏やかな表情のままに佇む衿栖がふと、そんな事を雅羅に尋ねる。
「いえ、特に何って訳じゃあないですよ」
 彼女はそう衿栖に返すと首を振り、今やってきた二人に目をやった。
「いやいや、それにしても凄い人数だな。こりゃ」
 にんまりと、しかし何故か満足そうな笑顔を浮かべる涼介と、彼のパートナーであるアリアクルスイド。
「ごめんね、君たちにも予定があるだろうに」
「いいんだよっ! みんなが困ってる時は助けるのが普通っしょ」
 直樹の言葉に、にっこり笑うアリアクルスイドが何処か恥ずかしそうに答えた。
「あ、そうそう、南條ちゃんは後から他のみんなを連れてくるって言うから、少し遅れるってさ」
「うん、ありがとうございます!」
 結は元気にお辞儀をすると、今来た二人にこの場にいる人たちを紹介し始める。一通り挨拶を済ませると、二人はすっかり一同の中に溶け込む。
「いきなり連絡が来たときはビックリしたよな。でもまぁ、なんか困ってるって言うし、来てみたんだ。それで、いつ始まるんだ?」
 涼介が切り出す。
「恐らく後から来る方たちが粗方揃ってから、あのウォウルとか言う先輩から概要の説明を受けるみたいですよ」
 翔が彼の質問に答えた。先程自分が切り出した話である以上、それは自分が言うべき、と思ったのだろう。現状がわかっていなかった先程と違って、今は漠然とした目的を聞いている以上、一同それなりに落ち着いている様である。
「質問です、結さん」
 と、此処で柚が声を上げた。
「あの、結構な人数の人たちがこっちに向かって歩いてきてますけど、あれって……」
「うわぁ、凄い!琴乃さん、たくさん呼んできてくれたんだっ!」
 柚が見つけた一団が、結が声をかけた友人と、更にその繋がりの面々。
「結ちゃん! お待たせっ!」
「結構な人数いますねぇ」
 南條 琴乃(なんじょう・ことの)が結に声を掛けながら歩いてくる。鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)は既に集まっている一同を見て、思わず息を呑みながらそんな事を言ってみた。
「ふむ……なかなかわらわ好みの女子が揃うておるの。これは俄然やる気が出るわ」
「はいはい、そういう素敵なイベントはないですからね、房内さん」
 医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)の呟いた言葉を聞いた非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)が、笑顔のまま冷静に突っ込みを入れた。
「よし、近遠がエロ本の抑止になってくれるみたいだし、ボクたちはのんびり本来の目的を達成するとしようかな。ねぇ、夜月」
「えぇ…どこかそれではいけない気がしますけど、近遠様、よろしくお願いできますか?」
 房内と近遠のやり取りを二人のやや後ろから見ている鬼龍 白羽(きりゅう・しらは)常闇 夜月(とこやみ・よづき)へと話を振る。夜月が申し訳なさそうに近遠に問いかけると、彼はあっさりと「良いですよ」と、これまた爽やかな笑顔で答えた。
「それより、これから何をするんだっけ?」
 ふと、ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)がそんな事を誰にともなく尋ねる。
「えっと確か…蛙を助けに行く…だったかな」
 彼女の質問を、隣を歩いていた九十九 刃夜(つくも・じんや)が少し考えながら返答する。すると彼の後ろからイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)が、至って真面目な顔をして物騒な事を言ってのけた。
「いや、違うだろう。確か蛙を倒しに行く、ではなかったか?」
「あれ? どっちやったっけ?」
 彼女の言葉を聞いた上條 優夏(かみじょう・ゆうか)が真剣に悩み込む。
「蛙を助けに行く、であってるよ。倒さない倒さない」
 そのやり取りを聞いていた川原 龍矢(かわはら・たつや)は苦笑しながらはっきりと明言した。その横ではフィリーネ・カシオメイサ(ふぃりーね・かしおめいさ)がケラケラと笑う。
「まぁ、おっきい蛙さんを倒しに行く! でもちょっと面白そうな気がするけどねっ」
「でもそれでは、なんだか少し蛙さんに申し訳ない気がしますわ……」
「冗談だよ冗談、もし倒しに行くってなってら、やっぱみんな躊躇うっしょっ?」
 アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)がそう言うと、吉木 朋美(よしき・ともみ)がやや困った顔をしながら彼女の言葉に返事を返した。
「って言うか、僕たち果たしているのかねぇ。なんか既に人がいっぱいいるしさ」
 永井 託(ながい・たく)は特別何を思う訳でもなさそうに、事もなげにそんな事を言った。確かに、彼等から見ればそれはもう、充分過ぎる人数が集まっているのだから。彼のその疑問は尤もな事である。
「必要ないなら…それに越した事はないですよ…」
 ぼそり、とでも形容するのがぴったりといった感じに口を開いた九十九 昴(つくも・すばる)は、誰を向くでもなく辺りの景色を見回しながらにそう呟く。
「確かにそうでございますわね。何事もない平時が一番ですわ」
 うーん、と考える様に、言葉を選びながら言い始めたセシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)だったが、言いながら恐らくは考えがまとまったのだろう。言い終る頃にはにっこり笑顔になっている。
「ま、どっちにしたってあの人たちと合流しない事にはわからないんだしさ、行ってみればいいじゃない」
 九十九 刃夜(つくも・じんや)がその話の結論をそう結び、彼らは足早に雅羅たちの待つ場所まで向かうのだ。