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蛙の代わりに雨乞いを……?

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蛙の代わりに雨乞いを……?

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    ◆

 公園内、既に随分と大所帯になった一同がそれぞれ雑談していると、そこにウォウルが現れる。ニヤニヤしてはいるが、今までのそれとは違い真剣みを帯びた笑顔だ。
彼は一度大きく息を吸い込むと、集まった彼等、彼女等へと声を上げた。
「えーっと、協力してくれそうな人たちは大体集まったみたいだから、そろそろ説明をしようと思うんだ。ただね、僕自身、わからない事がない訳じゃないからね、不明瞭な点があるかもしれないけど、各自の判断に任せるとするよ。さて、では――始めよう。
 今日みんなに声を掛けたのは、すぐそこに居る蛙君を助ける為だ。彼と僕との出会いはどうでもいいとして、彼曰く、この公園内には雨を降らせる為の祠が数か所に分かれて設置してあるらしい。そして、その祠へとみんなで行き、祠の中にある何かを、全員同時に操作する事で、雨を降らせる事が出来る、と、そういう話になるよ」
 話を聞いていなかった一同も、そしてあらかじめ話をそれとなく聞いていた一同も、ウォウルの説明を静かに聞く。
「だからざっくりと向かう方面にみんなが分かれて、協力、分担しながら雨を降らせてほしいんだ。よろしく頼むよ」
「そう言えば、前もこんな感じだったわよね。たしか」
「ま、やる事が事ですからね、分担して行った方が懸命だと思いますよ。僕が先輩の立場でも恐らく同じ事になるでしょうし」
 ルクセンがぽつりと呟くと、隣で話を聞いていた真人が返事を返した。
「じゃあウォウルさんの班決めって行ったら、あれかな」
「ですね」
「あれ……って?」
 北都、ベアトリーチェがそんな事を言いながら、ゆっくりと今いる場所から移動しようと辺りを見回す。その言葉、様子に鳳明が首を傾げた。
「じゃあ、その方面別に分かれてみようか。僕は公園の西口付近になる祠に向かうから、そっちを協力してくれる人は僕の前へ。えっと……そうだ、御嬢さん、まだ名前を伺ってなかったんじゃないかな?」
「雅羅。雅羅・サンダース三世です…」
 ため息をついて今更ながら名乗る雅羅。
「ありがとう。雅羅ちゃんには東口付近になる祠に向かってもらうとしようかな。彼女に協力してくれる人は彼女のところに。ラナには此処で、蛙君の看病を頼むとするけど、なんと実は、あそこに見える小さな小屋みたいなのが、もう一つの祠。だからラナの看病を手助けしてくれる人、そして僕たちの準備が整ったら、同じタイミングであの祠に向かってくれる人は、ラナの前に集まってね」
 聞き終った一同は、ウォウルの指示に従ってそれぞれ雅羅、ウォウル、ラナロックの前へと集まり始める。
「と、こうなるって訳だよっ!」
「成程…」
 美羽が通り過ぎ様に鳳明に言うと、彼女は少し驚いた様子で頷いてから雅羅の元へと向かう。
「なんだかあの子に話を聞いた方がわかりやすそうだし、まともに話せる気がするし…あの雅羅ちゃん、って子のとこにしよっと」
「私たちは? …言っとくけど、もうあの先輩はパスよ! パスだからね!」
「わかりましたよ。じゃあ俺たちは東口の方に行きましょう」
 真人、セルファはそんなやり取りをしながら、鳳明の後を追う形で雅羅の近くに向かう。
「じゃあ私たちは先輩のところ、でいいよね!」
「そうだね。最初に事情を説明してもらったってのもあるし、何より結がお世話になったなら僕も出来る限りの協力はしなちゃいけないだろうしね」
 結と直樹はウォウルの前にやってくる。
「ウォウルさん。今日はどんな面白い事を見せてくれるのか、楽しみにしてるよ」
「もう既に、蛙さんのお友達がいらっしゃる段階で、充分面白い気がしますけどね」
 ウォウルの前に来た北都とリオンは笑いながらそう言った。
「ねぇねぇ、ラナナ先輩、蛙ちゃん大丈夫かな?」
「美羽さん…先輩にまで変なあだ名つけるのはちょっと…」
 尚も団扇で蛙を煽ぐラナロックの元とやってきた美羽とベアトリーチェは、心配そうに蛙を覗き込む。
どうやらそれぞれ、ある程度自分たちが手伝う方向が決まったらしい。集まった面々を見たウォウルは、そこでひとまず区切りを置いた。
「ある程度のメンバーは決まったみたいだから、此処で一つ。まず、僕たちが向かう西口には小さな祠がたくさんあるって話だ。その中のどれかが本物で、その中の殆どが偽物。だから同時に押さなければならないって制約がつくらしい。次に雅羅ちゃんたち東口は、祠は一つ。問題なければ一番簡単らしいけど…」
 『けど』と言葉を止めたウォウルに、翔が尋ねる。
「けど、なんですか?」
「何でも、“梅雨によく見る白くてふわふわしたもの”が出てくるそうだよ。正直、僕にはそれが何だかわからなくてね。蛙君にもっと詳しい話を聞こうと思ったんだけど、蛙君ったらあの有様だろう?だからね、細かくは知らないし、それはあってからのお楽しみ。せいぜい気を付けてね」
 それを聞いた東口に向かう面々の顔色が変わる。
「ねぇ、ちょっと待ってよ。白くてふわふわしたものって……何さ!」
「さぁ? 先輩も知らないって言ってるんですよ。誰に聞いてもわからないでしょうね」
 セルファの顔色がみるみる内に青ざめていき、隣の真人に寄りかかるようにしてしな垂れた。その真人は別段何と言う事もなく、ウォウルの言葉の続きを待った。
「白くてふわふわしたもの……なんだろうな、それ」
「お化けさん、とかじゃないですわよね…」
 首を傾げる竜斗と、隣にいるユキノも二人の会話を聞いて考え込んではみたものの、当然それがなんなのか、わかるはずもない。
「ちょっと怖い…ですねぇ」
「ですよね、私大丈夫かな」
「平気だと思うよ。まさかお昼からお化けは出ないでしょ」
 豊和、柚がおどおどしているが、隣の三月はあっけらかんとした態度のままである。
「まぁ兎に角、それぞれ気を付ける事なんかもそれ以外は特にないから、自由に動いちゃってよ、って事で、よろしく!」
 言い終ると、ウォウルは何処かへ向かって行く。が、その行先を知る者はいない。――どころか、彼が一同の前から姿を消したのに気づくのは、ラナロック以外にはいなかった。
 一同がそれぞれこれからの動きを、たった今分かれた班毎に話していると、偶然その場を通りかかった犬養 進一(いぬかい・しんいち)が近遠へと声を掛ける。
「いきなりで申し訳ないんだが……蛙を助けに行く一行ってのは、君たちでよかったかな?」
「…? ええ、一応私たち、これからその様な事をこれからするみたいですけど」
「あぁ、良かった。ありがとう」
困った様な表情を浮かべていた進一はしかし、近遠の言葉を聞いて安堵し、後ろに控えていたトゥトゥ・アンクアメン(とぅとぅ・あんくあめん)に向かって声を掛ける。
「この人たちで間違えないそうだぞ、トゥトゥ」
「何、やはりそうであったか。にしても、ちと人数が多いのぅ…これでは朕が活躍出来るかがわからないぞ」
「…朕?」
 「はて?」と言った様子でアルティアが呟いた。
「朕は朕ぞ、何を首を傾げておるのだ」
「あ、すみません。随分と珍しい言葉を使う方だな、と」
 飛び入り参加を果たした進一とトゥトゥは、こうして無事、一瞬にして一行に馴染んだ。
「おっと、こうしてはいられないな」
 と、突然何を思い立ったのか、進一がそう言って何やら仕度をし始めた。近遠達と進一たちのやり取りを遠くの方から見ていた優夏が近づいてくる。
「あら、なんや新しい人来てるやん。よろしゅうに。って、お兄ちゃん、随分奇抜な格好しよんなぁ…」
「美しいであろう、この装飾。しかしそなたにはやらんぞ?」
「いや、要らん」
「なっ! 何故だ!」
「要らんもん」
「酷いっ! 即答酷いっ!」
「さて、トゥトゥに友達もできたみたいだし、ちょっと俺は一瞬席を外すぞ。準備に取り掛からねばならんのでな。では、トゥトゥを頼む!」
 優夏とトゥトゥのやり取りを見て安心したらしく、進一が彼らに挨拶をすると、トゥトゥを置いて何処かへ向かい去って行った。
「な、シンイチ! そなた朕を置いて何処へ行くか! 無礼者!」
「なんや、忙しない兄ちゃんやんなぁ…」
 優夏、トゥトゥ、近遠達が何やら機材を持って去って行く進一を見送る。
「そう言えば、あなたたちは予めこの集まりに着いて知っている様な口ぶりでしたけど、どなたから誘われたんですの?」
 ユーリカが気付いた様にトゥトゥへと聞いた。
「ふむ、謎の男が突如としてシンイチと朕の前に現れてな。懇願されたのだ。朕としても民の願いを無下に扱う訳にはいかぬからな、神官として」
「謎の男……?」
 イグナが首を傾げ、辺りを見回してから言葉を続けた。
「おかしい。皆此処にいる訳で、先程貴公と共にやってきた御仁以外に何処かへ行った者はいない様に思うが……」
「確か…うぉ、う、うぉおるとか言ったぞ。謎の男は。いや、待てよ――」
 懸命に思い出そうと頭をひねるトゥトゥだが、どうやら途中から面倒になったらしい。
「えーい、朕はいちいち民の名など覚えてはおれぬのだ! 覚えて欲しくば名を記せ! ひらがなでね」
 一同、其処まで聞けば心当たりがあった。確かに、と、彼らは辺りを見回し、ウォウルがいない事に今、初めて気づく。と、そうこうしていると、彼等から少し離れた場所から声が聞こえた。大きな大きな声。
「皆、今日は頑張って雨、降らせようね!」
 琴乃が元気よく、大きな声でそう言った。
「やれる事はやってみる。それでいいだろ」
「相変わらずクールだね」
「でも、確かにやれない事は無理ですわよね」
 龍矢の言葉に関心した様にして呟く英虎と、苦笑しながら彼に返事を返す夜月。
「どうでも良いが、あの女子とお近づきに…」
「エロ本、ちょっと静かにしててね」
「エ、エロ本ではないとあれだけっ…!」
 突然の房内の発言に、いつも通り、と言った具合に白羽が返した。
「まあまあ、兎に角頑張りましょ、皆で」
「うん! 頑張ろうね! ってあれ?ウォウル君、どこ行っちゃったんだろうね」
 ルクセンに同調していた直樹も、どうやらウォウル不在に気付いたらしい。
「ま、良いじゃん! よーし、今日は頑張ろー!」
 琴乃の掛け声の後に、近くにいた面々が声を揃えて「おー!」と、声を上げた。