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シャンバラ鑑定団

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シャンバラ鑑定団

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    ★    ★    ★
 
「続いて、エントリーナンバー4、イルミンスール魔法学校からお越しのエイム・ブラッドベリーさんです」
 シャレード・ムーンに紹介されて、エイム・ブラッドベリーがピコピコとステージ中央へ歩いて行った。
「エイムちゃん頑張るですぅ〜」
 観客席から、神代明日香が声援を送る。
「今日は何をお持ちいただけたのでしょうか?」
「はいですの。本当は魔道書をお持ちしようと思ったですの。でも……」
 エイム・ブラッドベリーの言葉に、ノルニル『運命の書』が自分の本体をキュッと強くだきしめた。
「エイムちゃん頑張るですぅ〜」
「では、お宝を見ていただきましょう。オーブン!」
 シャレード・ムーンの言葉で、ワゴンの上の布が勢いよく取り払われた。
「エイムちゃん頑張……んきゅっ!!」
 変わらず応援をしていた神代明日香の声が途切れた。
 ワゴンの上に載っていたのは、一枚の縞パンだったからだ。
「ええっと、これは……」
 ステージの上でも、シャレード・ムーンが困惑している。
「もちろん、縞パンですの」
「なんだと、今度こそ俺の出番だぜぇ」
 エイム・ブラッドベリーの言葉を地獄耳で聞きつけた南鮪が飛び出してきた。
「まだ呼んでません!」
 シャレード・ムーンが注意する間もなく、南鮪が鑑定品にしゃぶりついた。
きゅぅぅぅぅ〜
 神代明日香の顔から、一気に血の気が引いていく。
「どうしたのですか、明日香さん。気分でも悪いのですか? エイムさんの出番が終わったら帰ります?」
 心配したノルニル『運命の書』が、神代明日香に訊ねた。
「ヒャッハァ〜、こりゃぁ極上の逸品だぜ。俺なら最低でも30万ゴルダは出す」
「また鑑定金額は聞いていません!」
 もう段取りがめちゃくちゃだと、シャレード・ムーンが叫んだ。
「使い込まれた逸品なのですねぇ」
 観客席で、メイベル・ポーターが感心する。その隣では、ブログ用の記事を書くために、シャーロット・スターリングがせっせと縞パンをスケッチしていた。
「まさしく、珍品なのだな」
 まさかこんな物が出てくるとは思ってもいなかったフィーネ・クラヴィスが、じっと成り行きをうかがった。
「確かに、漫画界では縞パンは宝。だが、しかし、これは……」
 どう鑑定したらいいものかと、ステージ上では土方歳三も苦慮している。
「鑑定も何も、こんな中古のパンツに価値なんてないでしょうが」
 ばっさりと、プラチナム・アイゼンシルトが切り捨てた。
「でも、ちょっとかわいくありませんか?」
「量産品ですよ、量産品」
 なんとか価値を見出そうとする筑摩彩に、プラチナム・アイゼンシルトが言い返した。
「貴様らー、分かっちゃいねえなあ。パンツの価値は、見た目だけじゃねえんだ。これを穿いていた中の人で、価値は大きく変わるんだぜ。よーっく覚えときやがれ」
 いつの間にか鑑定品を頭からすっぽりと被った南鮪が力説した。
きゅぅぅぅぅ〜
 再び、神代明日香の意識が飛びそうになる。
「クンクン、間違いねえ、この匂い、この持ち主は会場にいるぜ!!」
 ビシッと会場を指さして、南鮪が叫んだ。すでに、神代明日香は真っ青で心臓ばくばく状態である。
「いいかげんになさい!」
 シャレード・ムーンがビシッと、手刀で南鮪に突っ込みを入れた。素早く縞パンを脱がしてワゴンの上に戻す。
「はいはい、鑑定士の皆さんは金額書く用意をして。はい、それで、これはいくらなんですか?」
 もう、早く終わりにしたいと、シャレード・ムーンがエイム・ブラッドベリーに訊ねた。
「そうですわね。中の人にちなんで、82ゴルダで」
「はい、じゃ、鑑定金額書いてくださいね。はい、オープン・ザ・プライス!」
 3000!!
 結局、南鮪がごり押ししたようだ。
「明日香様ー、見ていらっしゃいますう、凄い金額が出ましたわあ。明日香様ー」
 縞パンをひらひらと振り回しながら、エイム・ブラッドベリーが客席の神代明日香たちにむかって叫んだ。
痛いですぅ〜
 神代明日香は目立たないようにその場で小さくなった。
 
    ★    ★    ★
 
「お騒がせしました。では、気をとりなおして、エントリーナンバー5、神の国から来た女、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメント(べりーとえろひむ・ざてすためんと)です」
「さあ、日堂真宵、早くテスタメントの本体を運んでくるのです!」
 シャレード・ムーンに呼ばれてステージ中央に立ったベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが手に持ったメガホンで催促した。
「ちっ、なんで、わたくしがこんな物を運ばなければならないのよ……」
 ぶつくさ文句を言いながら、日堂真宵がワゴンを押してきた。
「ああっと、こんな所にぃ〜」
 みごとにエア出っ張りに躓いたを装って、日堂真宵がワゴンをひっくり返す。
「ひー」
 真っ青になって、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが悲鳴をあげた。
 巨大なドカベンなみの聖書がステージ床に大穴を開けると思われた瞬間、間一髪でなぜか聖書が空中で止まった。そのまま、まるで動画を逆再生するかのように、ワゴンの上に戻っていった。
「まったく、世話の焼ける……」
 無敵の描画のフラワシでなんとか場を収めた土方歳三が、やれやれと軽く溜め息をついた。
ははは。楽しいねぇ。さすがに、鑑定士の方は、お宝を大事に扱いますねぇ」
 しっかりとフラワシの姿を目にした佐々木弥十郎が、ちょっと感心したように言った。
 ――大事も何も、フラワシ使ってるのバレバレじゃねえか。
 佐々木弥十郎の中の伊勢敦が、佐々木弥十郎の目を使ってフラワシを確認した。
「ええっと、なんだかもう見えてしまいましたが、お宝はベリート・エロヒム・ザ・テスタメントさんの本体である聖書ということです」
「テスタメントを本屋の本棚にならんだ、ただの聖書と同じと思ったら大間違いなのです!」
 シャレード・ムーンの言葉に、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントがえへんと胸を張った。
 なにしろ依頼者が持ってきたこの聖書、生半可ではない。古今東西の聖典と呼ばれる物を、写本から異本まですべて網羅し、さらに関連した地図やら写真やらを節操なしに合本していったという物である。そのため、縦横よりも厚みの方が大きいという本末転倒な姿をしている。
「さあ、鑑定なさい。でも、鑑定するなら、一ページたりとも読み飛ばすことは許さないのですよ」
「あー、適当に流し読みしちゃってください」
 強制するベリート・エロヒム・ザ・テスタメントをさしおいて、日堂真宵が鑑定士たちに耳打ちしていった。
「もちろん、ダイジェストだ」
 挿絵を鑑定しながら、土方歳三が答えた。
「だから、飛ばし読みは許さないと……ひっ」
 文句を言おうとしたベリート・エロヒム・ザ・テスタメントであったが、土方歳三にさっと睨まれておとなしくなった。
「古書としては、さすがに古い物のようですが、なぜ、こんなに装丁が痛んでいるのでしょう。保存状態はあまりいいとは言えませんわ」
 イグテシア・ミュドリャゼンカが、ちょっと残念そうに言う。
 それは、日堂真宵によって、モーニングスターの鉄球代わりに使われたり、漬け物をほどよく漬ける重しに使われたりしていたので仕方ないというところだろう。
「ですが、これだけのものを一冊に纏めようとした根性は、認めていいのではぁ。あ、ワタシも鑑定士で、薔薇学のささきです
 佐々木弥十郎が、聖書をつつきながら言った。一応神社の息子である佐々木弥十郎としては、異教の教典なわけだが、そのへんは多神教のおおらかさであまり気にはしていないようだ。
「うむ。魔道書としては、うちのフィーネよりは高レベルのようだな」
 真面目に鑑定するイーオン・アルカヌムに、客席からフィーネ・クラヴィスが「私の方が上なのだよ、少なくとも胸は」と叫んで抗議した。
「怪しいオーラは感じるが、呪われたアイテムではないようですね」
 紫月唯斗が、コンコンと表紙を指先でつつきながら言った。
「みんな、テスタメントの本体をなんだと思っているのですか。酷いです!」
 ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの怒りに呼応するかのように、聖書がカタカタと震えた。
 ぺちっ。
「はうあ!」
 紫月唯斗が、聖書の表紙を叩いた。ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが、まるで自分が叩かれたかのように頭をかかえて呻く。
「よし、封印完了。鑑定も完了です」
「それでは、鑑定の方にまいりましょう」
 紫月唯斗の言葉に、シャレード・ムーンが結果発表の段取りに入る。
「さて、希望価格はいくらでしょうか」
「もちろん、1兆万億ゴルダです!」
 すでに単位が意味を成していない。
「では、オープン・ザ・プライス!」
 500!!
「なぜです、納得いきません!」
「うそ、そんなに高いんなら、売ってもいいかも……」
 結果に激怒するベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの後ろで、真顔の日堂真宵がボソリとつぶやいた。
「大変残念ですが、非常に保存状態が悪いのですわ」
 イグテシア・ミュドリャゼンカが総評を述べた。
「うん。所々のページの間に、なぜかメロンパンのパン屑が挟まっていたりしましたしねぇ。でも、本来の価値はもっとあると思うよぉ。完璧な状態なら、70万ゴルダはいったかもぉ」
 佐々木弥十郎が、なけなしのフォローをする。
「はい、ではそういうことで。早く持っていきなさい」
 シャレード・ムーンが、日堂真宵に小声で指示した。
「はいはい、ただいまー」
 にこやかに、日堂真宵が全速力でワゴンを押していく。
「ああ、こら、日堂真宵、テスタメントの本体をどこに運んでいくのです。待ちなさい!」
 ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが、楽屋へ日堂真宵と自分の本体をあわてて追いかけて姿を消した。直後に、何かがぶつかってひっくり返ったような凄まじい音がステージ裏から聞こえてきたのだった。