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 “強化人間狩り”は今や一人ではない。単数形から複数形へ。単体から集合体へ。個別の名から集団の名へと変わっていた。
 それが例え、金で雇われた即席の寄せ集めの集団であっても、それ以前とは俄然違う。
 一番は数が違う。今までの“それ”は一人しか奇襲出来なかった。今は同時に複数へと急襲できる。時間的に空間的に制約されることのない狩りをする。
 それが今の“強化人間狩り”。
 “強化人間狩り”は――、
狐は、凪を――、
鴉は、蕾を――、
ウーは、風花を――、
アルトは、アールを――、
リデルは、ブラウをそれぞれ襲った。

そしてこの襲撃の少し前に、カノンも優梨子に襲われていた。
 
 アルトはパートナーのリデルと別れて、強化人間を別々に襲撃する事にした。
(襲撃するだけ、なんというのは随分と味気ないものですわね……)
 しかし、襲撃というプランに多少不満なアルト。
(折角ですし、気絶させた人にメイド服でも着せて差し上げましょう)
 と、己を満足させるための結論に至るコスプレ狂い。
 標的は前を歩く長身の男。メイド服姿にする標的が男女かは問わない。
 《軽身功》で音もなく忍び寄り、《先の先》で《鳳凰拳》の一撃をアールにお見舞いしようとする。
 が、咄嗟に《先の先》を《後の先》に切り替える。襲撃者である自分を更に襲撃する者がいるのに気づく。蛇々の《雷術》を交わし、【手甲】での一撃をお見舞いする。
「残念でございます。足音が聞こえてしまいましたわ」
 敵のミスを指摘し、拳を捻り込む。
 蛇々に代わり、アールが拳を受けて膝を折った。庇ったのだ。アルトが先に攻撃しようとした幻影が消える。
「え? あれ?!」と蛇々は状況が読めない。
「結局失敗か……、だが敵を怖がらなかっただけ上出来だ……」
 アールが苦しそうに呟く。腹に貰ったのが堪えていた。
「ふーん。まあいいですわ。折角ならパートナー二人仲良くメイドスタイルになるのは如何ですか?」
 アルトが尋ねる。と、援軍が来る。直哉と結奈だった。囮のはずの結奈は運良く襲われなかったらしい。
「アール大丈夫か!」
 直哉の言葉にアールは小さく「ああ」と答えた。
「あらら、あらら。これは厄介ですわ。わたくし捕まるわけには参りません。ここで退散させていただきますわ」
 アルトは援軍を見るやいなや、そくささと逃げた。


 当たりを引いたのはリデルだった。管区長であるブラウの姿を捉えた。
(普通の強化人間への奇襲はアルトに任せているが、それよりも私か……)
 リデルが引いた当たりはいい意味を持っているのかは分からない。吉と見せて凶かもしれない。いや、雷撃系の能力者のトップを襲うのだ。どう見ても大凶に近い。
 しかし、電気への対策は考えてある。厚手のゴム手袋で武器が帯電しても持てるようにしてある。
 迷っていても仕方ない。それにコレは仕事だ。
 息を殺し、《レビテート》で浮いて足音を殺し、背後から襲う。
 【チェリーナイフ】をブラウの背中に突き立てた瞬間。ブラウの姿が消えた。代わりに現れた【ブレイブハート(ウルクの剣)】の刀身にナイフが阻まれた。
 ブラウの幻影/《ミラージュ》が消え、榊 朝斗(さかき・あさと)の姿が現れた。
「残念だったね。“強化人間狩り”さん。こうも上手くいくとは思わなかったけど、練習しといてよかったよ!」
 朝斗がナイフを弾く。彼は《ミラージュ》と《ソートグラフィー》の合わせ技で、ブラウの容姿をコピーし、本人に成り済ましていた。過去にブラウと同じ管区長である黒川が行った技だ。
「コイツはいい可能性を持ったやるだな……」
 リデルが下がる。と、《迷彩塗装》で隠れていたルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)と空色の【迷彩防護服】で上空に待機していたアイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)が現れた。二人の【煙幕ファンデーション】がリデルの視界を覆う。
 ルシェンが《天のいかづち》を放つ。
 リデルはゴム手袋を填めた両手で受けた。相手がブラウではなかったが対電気対策はして置いてよかったと思った。
 しかし、続けてアイビスの《奈落の鉄鎖》がリデルの腕に絡みつき、ナイフを奪う。武力を無力化された。
 弾幕の中を朝斗がリデルへと【アクセルギア】で加速する。【ブレイブハート】で袈裟懸けに切る。
 だが、リデルはそれを受け切る。袖口に隠した【ライトブレード】、《歴戦の防御術》が朝斗の太刀を通さない。鍔競り合い。
 競り合いの最中。朝斗は《サイコメトリー》+《テレパシー》で、襲撃者の心を読み、話しかけた。
(やはり本気で殺すつもりはなかっようですね。本気で殺しにくるなら、背後から脇腹を狙うなんてしない)
「ふふ、さーね?」
 リデルは不敵に笑って答えなかった。そして、状況がフリと見なすやいなや、《軽身功》で離脱した。