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冒険者の酒場ライフ

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冒険者の酒場ライフ

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 店員に絡んでくる客はゲブーだけではなかった。
 特に、接客を担当する店員は女子が多く、危機が一杯あった。
 今もまさに一人のか弱き店員……そうに見えるなななが客に手を掴まれたその時、店内警備と称しつつも、店の端っこでポーカーに興じていたナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)がテーブルを叩いて一喝する。
「そんなにスリルが欲しいのなら、一勝負どうかしら?」
「あぁ!?」
 荒くれ者が振り向くと、三本編みおさげされた白髪をさわるナガンが妖艶に微笑む。
 ナガンの前には緑のマットが敷かれたテーブルがあり、トランプが置かれている。
 荒くれ者がそれを見て一笑に付す。
「トランプだぁ? 七並べでもやって欲しいのか、お嬢ちゃん?」
「それは君の方じゃないのかな?」
 ナガンの傍にいた第二ボタン辺りまで外して襟を寛げた白シャツに、黒レザーのスリムパンツ、乗馬ブーツという姿の黒崎 天音(くろさき・あまね)が物憂げにトランプを繰りながら荒くれ者を見やる。
「僕達がやるのは、ワイルドポーカー……それ一択だよ」
「ワイルドポーカーだぁ? へ、ここは冒険者の酒場だぜ?」
 笑う荒くれ者に別のテーブルで好物の蜂蜜酒を飲んでいたブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が声をかける。
「……何だお前達、そんな細っこい子ども達に挑戦されて断るとは、たいした事のない冒険者だな」
「……何だと?」
「おっと我に噛みつく暇があるのなら、あれらを負かして見せて欲しいものだ。ヒック……」
 ぶるぁぁぁと、酒臭いゲップを吐くブルーズ。
「……で、そのポーカーとやらは、何を賭けるんだ?」
 ナガンに向き直る荒くれ者。
「あなたはお金を賭ける。黒崎天音の場合もそれでいいわ。もしナガンが負けたら……そうね、全裸で犬のモノマネでもしてあげますわ」
と、ナガンがセクシーに足を組み変える。
 ナガンの服装はいつもの道化服だが、その胸元は開いている。
「……脱衣ってわけか……おもしろそうだ」
 長身痩躯のナガンを見て、舌なめずりした荒くれ者がテーブルに座る。
 同時に、ナガンの裸目当てに、今まで暴れていた荒くれ者達もポーカーのテーブルへと集まってくる。その中には興味本位で見に来たセルシウスの姿もあった。
「じゃあ、始めましょうか」
 ナガンが頷き、ディーラー役に回った天音がトランプを繰り、ナガンと荒くれ者に配る。
 こうして、店の片隅でワイルドポーカーの勝負が始まった。


「くそ!! ツーペアだ!!」
「危なかったわ……スリーペアね」
 ナガンが手札をハラリとオープンし、天音が荒くれ者の前から、掛金を回収する。
「イカサマじゃないだろうな!!」
「まさか!」
と、笑うナガン。
「……今日はとっておきの下着を付けて着たってのに、お披露目する機会がないのかしら」
「よぅし、俺の全財産を賭けるぜ!! 次でお前の最後だ!!」
 荒くれ者はナガンに続けて二度勝っていた。だが、その後、ナガンの逆襲にあい、連続して7度も負けていた。
「グッド! ……じゃあナガンも大サービスで、そちらが勝てば最後の一枚以外の全てを脱ぐことをお約束するわ」
「それは上か、それとも下か?」
「お好きな方で……」
 天音が両者にトランプを配る。
 手札を見た荒くれ者がクククッと低く笑う。
「おい、嬢ちゃん? この勝負、俺の全財産だけじゃなく、外に停めてある俺の車も賭けるぜ? だから、アンタも全部脱ぐ事にしねぇか?」
 ナガンが眉をひそめる。
「(心理戦か……それとも相当の手を持っているか)」
 ポーカーとは心理戦のゲームである。つまり相手をフォルド(参った)させれば、ハンド(手札)の強さに関わらず勝つことが出来ることから、ブラフやハッタリに代表される心理戦の占める割合の高い。
 セルシウスは荒くれ者が手札を隠す前にチラリとその絵柄を見ていた。
「(あの手札……あれは無敵の……)」
 ナガンは荒くれ者をじっと見た後、フンと笑う。
「車は要らないわ。でも、そうね……無一文の貴方はお店の代金も払えそうにないから、この店で一週間無償奉仕でもしてもらおうかしら? それでどう?」
「構わないぜ? しかし、あんたも突っ張るな」
 両者のペットに場が騒然となる。
「じゃ、行くわよ?」
「ああ……俺のはこれだぁぁぁ!!」
 荒くれ者が手札をオープンさせていく。
「「「おおおおおおぉぉぉぉ!!」」」
 ハートのジャック、クイーン、キング、エース、そして、10!!
ロイヤルストレートフラッシュ!! 勝負あったな!!」
と、立ち上がって勝ち誇る荒くれ者。
「いいえ、まだね」
「何?」
 ナガンが手札を開けていく。
 スペードの5,クラブの5,ハートの5,ダイヤの5……そしてジョーカー。
ファイブ・オブ・ア・カインド!! ナガンの勝ちね」
 ファイブカードはロイヤルストレートフラッシュより強い、ワイルドポーカーの役である。
「馬鹿なぁぁぁ!!」
 鮮やかなナガンの勝利に、彼女の脱衣を期待していた観衆からも拍手が巻き起こる。
「イ、イカサマだ、こんなのは!!」
 荒くれ者がナガンに叫ぶ。
「変な言い草はみっともないわよ? それに仮にナガンがイカサマをしていたとして、貴方は見抜けたのかしら?」
「ぐ……」
 僥倖のフラワシでそもそもラッキーな上、非物質化でジョーカーを毎回隠し、手札に加え役作りをしていたナガンに死角は無かったのだ。
 更に、天音が相手の客の手札を見て、勝てるセットを指を何本立てるか。という仕草で教えていた事も勝因であろう。
 ナガンは他の客を見渡す。
「次はいませんの? この服のままで続けてもいいんですわよ」
 天音がナガンに言う。
「ナガン。次は僕が勝負をする番だよ?」
「黒崎天音? ……そうね、どうも貴方に熱い視線を送る人もいるみたいだし、じゃあナガンがディーラーをするわ」
と、ナガンが天音に席を譲る。

 その後……熱戦の続くポーカー勝負に、やがて店内は平穏を取り戻していく。
「……ストレート。僕の勝ちだね、さぁもう一勝負する気はあるかな。皆は誰にBETするんだい?」
と、周囲を見回し、カードゲームには参加しないものの、面子の内誰が勝つかを賭けているギャラリーに微笑んで問い掛ける天音。
 先ほど、一度負けた時にチップを相手の手に握らせつつ、
「おや。別の物が欲しいって顔かな?……ふふ。もっと凄い所を見せてくれたら、考えてみても良いよ?」
と、男色の気がある客の視線にそんな事を言っていた天音の周りには見るからにソッチ系の方々が客として待機していた。
「そこのお兄さんとか、どうだい?」
 天音がセルシウスに目をやる。
「む……?」
 指名されたセルシウスが一歩後退する。
 それを見て、相変わらず好物の蜂蜜酒を飲んでいたブルーズが冷やかす。
「駄目だ、天音」
「どうして? ブルーズ?」
「この人は、ヒック……どこか誇り高き国の出身だって言ってたんだ。ポーカーなんかわかるわけな……ヒック」
「へぇ……」
 天音がセルシウスをじっと見つめる。
「出来ないんだ?」
 挑発されたセルシウス。勿論ポーカーはエリュシオンでもよくやる遊びである。
 彼の胸に誇り高きエリュシオンの国歌が響きだす。
「(蛮族共め)よかろう……思い知らせてやろう!!」
 椅子を引き、セルシウスが座る。
 常に微笑を浮かべていた天音の顔色が変わる。
「どうかしたの? 黒崎天音?」
 ディーラーをしていたナガンガ声をかける。
「この人……先程までのヤツらとは違う……何かを賭けて生きている人だ」
 天音とセルシウスの視線がぶつかり合う。
 時折負けて「勝てるかも?!」と思わせ、無一文まで客の身包みを剥いでいた天音。その彼が珍しく真剣な顔つきになっている。
「だが……生憎私には手持ちが少ない。貴公とは脱衣で一発勝負、でどうだろうか?」
「あぁ、構わないよ」
 セルシウスの提言に周囲の客達が色めき立つ中、「やっぱり、ソッチ系か」の声もチラリと聞こえた。
「では、配ります」
 ナガンが両者に手札を配っていく。
 天音がナガンに視線を送り、首を振る。
「(今度は、イカサマ無しでやるよ)」
「(本気なの? 負けたら脱ぐのよ!?)」
「(ああ、だけど、この人は本気だ。だから僕も本気でやるよ。)」
 天音はこれまで、既に役の出来上がったセットを何種類か物質化・非物質化で隠し持っていたし、フラワシ(黒真珠)を使って巧みに手札を操作してきた。
 そんな天音の真剣勝負をする、という一言に、ナガンは驚きを隠せずにいたのだ。
 セルシウス対天音。ここに、エリュシオンとシャンバラの代理戦争が幕を開ける。