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冒険者の酒場ライフ

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冒険者の酒場ライフ

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 伝説のデコトラ職人に魔改造して貰ったこともさることながら、闇商人のセールストークで15年ローンという男気溢れる買い方をした喪悲漢一番星 スター・ゲブー号で、蒼木屋にやって来たのはゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)である。
「ヒャッハー!! 盛り上げってるじゃねぇか!!」
 荒れる店内を見渡したゲブ―がピンク色のモヒカンを揺らして満足そうに頷く。
「いらっしゃいませ」
 即座にアリサがゲブ―に対応する。
「そなた……見てわかるように現在店内は大変荒れ模様だが、良いのか?」
「ああ、ソフトドリンク飲み放題ならいいぜ!!」
「……くれぐれもミルクの注文は……」
 ゲブ―がアリサに指をかざし、チッチッチと左右に振る。
「おっと、スーパーな俺様は知ってるぜ、酒場でミルクを頼んだらケンカの合図だってなっ!」
「それを聞いて安心した」
と、アリサがゲブ―を席に案内する。店内にはステージで熱唱する葵の歌がBGMとして流れている。
ドカッと席についたゲブ―は深い息をつき、
「つまりだ、ミルクではなくておっぱいと頼べばいいって事よ!!」
「……は?」
 ここでゲブ―の思考回路について捕捉しておく。
 彼の中では、ソフトドリンクはミルク、つまりドリンクバーとはミルク飲み放題を意味していた。そして「ミルクは注文しちゃダメ」ならば「おっぱい直に飲み放題」であり、「おっぱい絞り放題で俺様大満足、がはははっ!!!」と解釈出来ていた。
「よし、そこの天使ちっぱい、俺様におっぱいを持って来い!」
ち……ちっぱい……だと?」
 以前も客に胸が小さいことを指摘されたアリサが怒りでワナワナと震えだす。
「おっと、何か震えてるがどうした? あぁ、だいじょうぶだぜ、天使ちっぱいのおっぱいは大きくなってからたっぷり楽しんでやる。今はあそこにいる電波おっぱいをつれてこい!」
 ゲブ―に指名された電波を感じたなななが、振り返る。
「何? なななをご指名なの? やっぱりわかる人はわかるみたいね!!」
 ゲブ―は未だ前で震えるアリサを見て、
「おっと、ちっぱい卒業に揉んで欲しかったら俺様に声をかけな、全力でモミモミして大きくしてやるぜっ! がはは、がはは、がーっはははぁ!!!」
と、なななを見ながら手をリズミカルに動かす真似をする。
 アリサの理性が吹き飛び殺意に切り替わろうとしたその瞬間、大きな手がその肩をポンと叩く。
「そなた……?」
 アリサを見つめる赤い瞳。目と目で何かを伝え合う。
「……なるほど、いい手だ」
 ゲブ―がなななを見つめていると、アリサが静かに声を出す。
「わかった。そなたに私の胸をちっぱいから卒業させてもらおうか?」
「何!? がはは!! ついに、決心が固まったみたいだな!! OKだ!! 俺様は紳士だから優しく、気持ちよくなるようにしてやるぜ!!」
「だが、マジマジと見つめられると恥ずかしい……目を閉じてお願い出来るか?」
 アリサが頬を染め、下目遣いにゲブ―を見つめる。
「いいぜ!! 俺様のストライクゾーンの広さをありがたがるんだぜ? こんなサービス滅多にしないんだからな!!」
 ゲブ―が笑って目を瞑る。
 目を瞑ったゲブ―の両手に平べったい感触が伝わる。
「あ……」
 アリサの小さな声が漏れる。
「ヒャッハー!! こいつは想像していた以上のちっぱいだな!! まな板、ていうか鋼鉄の板だぜ!!」
 ゲブ―が手を動かす。
「ん? てか、これは服じゃないな!! 直に触らせてくれているのか!! ヒャッハー!! いいぜ!! てめえの本気に俺も本気で応えてやるぜぇぇ!!」
 アリサがゲブ―の手つきを見ていると、手洗い場から半泣きでやってきたセルシウスが、その光景を見て驚愕する。
「な……なんと!! あの蛮族め!!」
「おう! その声はセルシウスだな? ヒャッハー!! 悪いが今俺様は忙しいんだ。後でてめぇにもおっぱいを教えてやるから、ちょっと待ってろ!」
「貴公、自分が何をしているのか、わかっているのか?」
「ああ!! 千里の道も一歩から、ビッグなおっぱいも一揉みからだぜぇぇ!! しかし、マジで固いな!!」
「違う!! 蛮族共は男同士でちちくりあう事が常なのかと聞いているのだ!!」
「男同士……バカ言え!! 男なんて俺様一人で……あ?」
 ゲブ―が目をゆっくりと開く。
 ゲブ―の目の前には、ちっぱい……というより、鋼鉄の胸板が見える。
「よう、ゲブ―。俺のちっぱいはどうだ?」
 ニヤリと笑うのはラルクである。一応優しい口調だが、その目は笑ってはいない。
「ゲエエエェェェェェェーーーッッ!?」
 ゲブ―が慌ててラルクの胸から手を離す。
「て、てめぇ、な、なんてものを俺様に揉ませやがるんだぁぁ!!」
「ちっぱいを大きくするんじゃなかったのか?」
 アリサが冷めた視線をゲブ―に送る。
「ふむ……だが、俺の胸筋があまり大きくなった感じはしないな」
 ラルクが剥き出しの上半身の筋肉をピクリと動かして、ゲブ―を睨む。
「おいおい、これ以上皆が楽しんでる所を邪魔すんな? な?」
「ば、馬鹿言え!! 俺様が全然楽しくねぇぜ!!」
 ゲブ―は席から離れ、店員のヨル、くらら、カノコに目星をつける。
「こ、こうなりゃ口直しにあの辺りのおっぱいをぉぉぉーー!!」
 勿論それを見逃すラルクではない。
むんず、とゲブ―の首根っこを捕まえる。
「ったく。皆に迷惑かけるんじゃねぇっての」
と、ゲブ―を表へと運んでいく。
「ラルク、助かった。例を言う」
 アリサがラルクに頭を下げる。
「ああ、いいってことよ。よし、ゲブ―。お前には俺のスペシャルを見せてやるぜ?」
「な、何ィィーー!!」
「そう身構えるなって、言い忘れたが、俺は酔いすぎると説教とかじゃねぇが絡み酒の癖や、全部脱いじまう癖があるからな。ったく、巨根を皆に見せないように程ほどに気をつけなきゃな」
「お、俺様にそんなものを見せつけるなぁぁぁぁーーーッ!!」
「おっと、もしもの話だぜ? もしもの話だ……」
 完全に酔っ払ったラルクによって連れ去られていくゲブ―を、垂はテーブルで見ながら、自分に被害が出なかった事を密かに神様に感謝するのであった。そして、物語には登場しない(てか、出来ない)ゲブーにとっての本当の地獄がこれから始まる……。