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冒険者の酒場ライフ

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冒険者の酒場ライフ

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 場所は元に戻って、ここは店内。
 先ほどまでは、店員の威勢のよい挨拶や声、客達の笑い話しか飛んでいなかったテーブルと天井の間の空間は、今や怒号やジョッキ、更には椅子までが飛び交う戦場と化していた。
 きっかけは、まさかの身内、自称『ミルク係』を名乗る明子の『ミルク』というオーダーによって、他の店員達が止めに入る間もなく、火蓋が切って落とされたのである。
 勿論、その原因の一因には「ドリンクバーの故障した状況で、酒の飲めない客が一斉にミルクをオーダーした」事もあった。

 ここで、明子が自称する『ミルク係』について説明しよう。
 ミルク係とは!
 すなわち、荒くれ共の多い酒場において、敢えて騒乱の種となるミルクを定期的に頼む事により、潜在的に店の害となる客を抽出する大胆な店の防衛策である!
 これを実施するミルク係は、争いを収める確かな実力が要求される危険な職業なのである。

 勿論、他の店員や店にも多少の犠牲を覚悟しなければならない。だが、それもミルク係の意義の前には大事の前の小事、と、明子は考えていた。

 戦場と化した店内を、明子は冷静に見つめる。
 その視線が、いかにも酒場に暴れにやって来たと思われる一団を射止める。
「見ぃーつけた!」
と、明子が一団に素早く接近する。
「やっぱり酒場はこうでなくちゃ!! ……お、テメェやる気かぁ?」
「うん! あなた達みたいなのを叩き出すために、ミルク係やってるんですから!」
「上等だぁ!!」
 腕力に自信があるのだろう、直接殴りかかってくる男を、明子がミラージュでかわす。
「あ……れ?」
「はい、残念でしたっと!!」
と、足を掛けて蹴倒す明子。
「や、やりやがったな!」
と、別の男が明子に襲いかかる。
 しかし、行動予測で既にそれを先読みしていた明子が、鬼眼で威圧する。
 更に、背後から椅子を持ち、襲いかかろうとする男を、振り向きざまに鉄のフラワシで張り飛ばす明子。
「く……この女」
「流石……ミルクを注文するだけのことはある。命知らずめ!!」
 怯む男達に明子が笑いかける。
「んー? 私はただ牛乳飲みに来ただけなんだけど?……まだやるっていうなら、外で存分相手になるわよ?」
と、非物質化させていた手甲を、物質化して見せてつける。
「どうする? 大人しく出ていくなら、これ以上しないけど?」
 明子の凄んだ声に、男達が唾を吐き、店の入り口へと向かう。
「……ふー。荒野の商売も楽じゃないわー」
と、腰に手を置き、溜息を漏らす明子。
「あれ……? まだ結構暴れてるわね?」
 明子が見ると、喧騒の中を涙目でおろおろするくららが、「他のお客様のご迷惑になりますので……」と、止めに入ろうとしていた。
「ご迷惑? 大迷惑になってやるぜぇぇ!!」
「えぇ!? で、でもでも!」
 くららの方へと顔を向けた荒くれ者に、ヨルのエアーガン/パッフェルカスタムと、カノコの対物ライフルが同時に火を吹く。
「あぁ!! 荒くれ……じゃなかった、お客様がぁ!!」
「普段は愛想よー接客さしてもらうけど、お暴れになりはるお客様には先制攻撃で鬼眼や」
「カノコ、今、明らかにライフル撃ったよね?」
「撃ったのはゴム弾や!」
「それはボクもだけど……うん、店のためにも多少の武力行使は必要だと思う」
「気ぃあうな、ヨルさんとは!」
と、更に集まってくる暴れる客を相手に、ヨルとカノコが背を合わせる。
「カノコの背中、ちゃんと預けたで?」
「ボクのもカノコに預けるよ!」
と、銃を構える二人の前で、「ああ、私は一体どうしたら……!!」と、完全に巻き込まれたくららが悶絶するのであった。