リアクション
販売 「さあ、いらはい、いらはい。雪だるま王国の美味しい雪だるま、飲んでよし、冷やしてよし。美味しいよ、冷たいよー」 すっかり商人モードのクロセル・ラインツァートが、自前の屋台の前で盛んに呼び込みをしていた。屋台の周りには、動く雪だるまやミニ雪だるまがディスプレイとしておかれている。 「わあい、美味しいお水ですぅ!」 スノークライムの肩に乗ったルナ・クリスタリアが、クロセル・ラインツァートの屋台を見て叫んだ。 「そんなにいい物なの?」 売っている人間が売っている人間だけに、スノー・クライムがちょっと疑わしそうに言った。 「氷結精霊の私には、ちゃんと分かるんですぅ。あれはいいお水ですぅ。それに、料理に一番大切な物は、美味しいお水なんですよぉ」 ルナ・クリスタリアが、スノー・クライムに力説する。 「ちょうどいいところに。お水大量にちょうだい!」 通りかかった立川 るる(たちかわ・るる)が、クロセル・ラインツァートに大量注文をした。 「へいまいどありー。雪だるま大量注文、喜んでー!」 「えっ、水じゃなくて、雪だるまなの……。どうしようかなあ。ほしいのはお水なんだけど……」 ずらずらと現れる雪だるまを見て、立川るるがちょっと困った顔をした。 「大丈夫、私がサービスで火をつけてあげるのだあ。うぼおぉぉぉ!」 巨大マナ様が、口から少し火を噴いてサービスした。 「なら大丈夫かな」 なんとなく納得して、巨大マナ様と大量の雪だるまと共に、立川るるが自分の調理場にむかおうとした。その肩をポンポンと叩く者があった。 「失礼、割り込みます。おねーさん、おねーさん、いい焚きつけがありますぜ」 シャーミアン・ロウ(しゃーみあん・ろう)が、小声で立川るるにささやいた。 「シャーミーではないか」 「これはこれはマナ様」 誰だか気づいたマナ・ウィンスレットに、シャーミアン・ロウがニッコリ笑ってお辞儀をした。 「焚きつけ?」 「ええ、それはそれはよく燃える物です。どうです、このお値段で……」 「それは安い……かな?」 シャーミアン・ロウが見せた電卓の、ただ同然の金額を見て思わず立川るるが言った。 「まいどありー」 シャーミアン・ロウは、ゴミ袋に詰めたクロセル・ラインツァートのマントや予備の仮面を嬉々として運んでいった。 「あ、ちょっといいかなあ」 途中で椎名真が開いている八百屋を見つけると、立川るるが足を止めた。 「小麦が足りないんだけど、あるかなあ」 「大丈夫ですよ。もちろん、用意は調っております」 立川るるに聞かれて、椎名真が自信たっぷりに答えた。 イルミンスールの森で採ってきた小麦は、すでに粉引いてある。 「やったね。。えっへへー、ばっちり☆」 ほくほく顔で立川るるが去ると、入れ替わりに滝川 洋介(たきがわ・ようすけ)がやってくる。 「ジャガイモが足りないんだけど、あるかなあ」 「ええと、ちょっと待ってね……ああ、きたきた」 綾女みのりが上を見あげた。 「お待たせしました、お届け物です」 佐野和輝の乗ったグレイゴーストが、追加の野菜を椎名真たちのそばにおろした。 「っと、預からせてもらうよ」 さっそく、椎名真がジャガイモを受け取る。 「お買い上げありがとうございます」 お代をもらって、綾女みのりが野菜を滝川洋介に渡した。 ★ ★ ★ 「さあ、買った買った。安いよ、安いよ。取れたての鶏肉だ。早い者勝ちだよ!」 「ちょっと待て、エルデネスト、なんだその格好は!?」 半被姿に鉢巻きをきりりと締めたエルデネスト・ヴァッサゴーの姿に、グラキエス・エンドロアが目を白黒させた。 「なんだとはなんです。肉を売っているんですよ」 「いや、その、少しぐらい手加減……」 「しません。さあ、あなたたちも売るんですよ。ぐずぐずしない。もちろん、肉の一片でも売れ残したら、そのときは分かっていますね……」 「いや、俺はちょっと夏ばてで……」 さすがにそんな売り方は嫌だと、グラキエス・エンドロアが口籠もった。いくらお祭りの出店だとはいえ、これじゃ肉屋じゃなくて八百屋かバナナの叩き売りだ。 「主よ、ここは、こここそは俺に任されよ」 人間の姿に戻っていたアウレウス・アルゲンテウスが、ここぞとばかりに進み出た。 「仕方ないですね。しっかり売ってくださいよ」 ちょっと面白そうに、エルデネスト・ヴァッサゴーが言った。 「すいません、タマゴありますか?」 「お肉もだよ」 さっそくお客として現れた御神楽陽太とノーン・クリスタリアが、エルデネスト・ヴァッサゴーに訊ねた。 「もちろんございますよ。さあ、早くおつつみして!」 お客に対して愛想よく受け答えした後、エルデネスト・ヴァッサゴーがアウレウス・アルゲンテウスを顎で使った。 「これですか。大きいですな。どれ、サービスでお運びいたそう」 そう言うと、ひとかかえもある鶏肉と巨大なタマゴを持ち上げると、アウレウス・アルゲンテウスが御神楽陽太たちの後をついていった。 「わーい、すごーい、すごーい」 「ちょっと待て、アウレウスの奴、体よく逃げたか!?」 はしゃぐノーン・クリスタリアと一緒に去っていったアウレウス・アルゲンテウスを見送ったグラキエス・エンドロアが思わずつぶやいた。 「仕方ないですねえ、やはりグラキエス様にも手伝っていただきましょう」 そう言うと、アウレウス・アルゲンテウスが予備の半被をグラキエス・エンドロアに差し出して迫った。 そのころ、レリウス・アイゼンヴォルフとハイラル・ヘイルは肉を載せた台車をイコンで押して、お届けの最中だった。 「おお、来ました来ました。すまないですねえ、ここまで届けていただいて」 屋台『シュハスカリア・スカル』で待ち構えていたアッシュ・トゥー・アッシュ(あっしゅ・とぅーあっしゅ)が二人を出迎えた。 『いえ、御予約の品物ですから。また御贔屓に願います』 『料理、期待してるぜ』 調理場に突き立てられた巨大な柱をちょっと不思議そうに見つめながら、二人はちょっと期待に心を躍らせたのだった。 |
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