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【空京万博】海の家ライフ

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【空京万博】海の家ライフ
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リアクション

 ミスコンの舞台上には、焦茶色のモヒカン男が立っていた。というか、ミスコンをジャックしていた。
「これが最終審査だ!! 水着と下着は表面積的に見ても大差ねえ!! ここで俺がランジェリーラボの出張出展して皆に水着代わりに着て貰うぜぇぇ!!」
 ささらを使って間接的にセルシウスに働きかけ、「おまえの手によるパラミタパビリオン唯一の大規模展示だ断れまい!」と強引にこのイベントを開催したのは南 鮪(みなみ・まぐろ)であった。
 ジークフリートからマイクを奪った鮪の隣には、海の家のエプロンを着た下着姿のななながいた。腰には誰かから借りたのか、強制的に履かされたのかは知らぬが、水着のパレオが申し訳なさそうに巻かれていた。
「ふふふ、エントリーナンバー0の名を持つのは、やはりこのなななね!!」
 羞恥心が欠けているのか、堂々とした振る舞いを見せるななな。
「あの……一応、子供も見てるイベントですから」
 衿栖が鮪を止めようとするも、
「ヒャッハァ〜! 心配するなこれは最新技術で作ったセコール最新モデルだぜ!!」
「そうよ! なななもさっき、海で遊んで濡れてしまった服の変えの下着にって、タダで貰ったのよ!! 実は凄く親切な人じゃない! 周りは嫌がってたけど」
「そろそろ黙らせる?」
 未散が衿栖に呟く。
 しかし、衿栖がふと舞台袖を見ると、レオンが手で「続けろ!」と合図を送っていた。
 実は、テレビで中継されていたこの番組の視聴率が、鮪の「下着コンテストを開催するぜ! ヒャッハー!!」以後、鰻登りというか昇り竜の如き勢いで上昇していたのだ。
「……」
 幽那が既にパフォーマンスを終えた候補者達に振り返る。
「どうしますか? 皆さん?」
「詩穂はパス……」と、既に歌い疲れた様子の詩穂。
「私も遠慮しますわ……」と小夜子。
「えーと……では、私も……」とはセシル。
「あたしも……やめとくね」と葵。

 衿栖が特技の披露を先ほど終えた玲とミナギに振り返る。
「……コンテストの行方とかどうでもいいです、はい」
 採点結果が総評不能であった。玲がそう言って、海の家からついでに、となななに出前させた伸びたラーメンをすする。
「く……なんてことなの!! タイミングが悪いわよ!!」
と、吠えたのはミナギであった。余談であるが、彼女の採点結果はクドが投じた5点を加えての20点である。
「どういうこと?」
「最後の大逆転チャンス、て事は認めるわ!! けど、あたしは主人公なのよ!! 主人公の水着回や宿泊イベントにより下着回、はたまたお風呂でバッタリ回ってのは、中盤のテコ入れってのが鉄則!! 今のタイミングじゃないのよ!!」
「……つまり、誰もやらないと……?」
 ジークフリートが心底がっかりした声を出す。
「本当。お兄さんもがっかりだよ……」
 待ちきれず審査員の机の上に身を載せていたクドが、サヨナラホームランを浴びた投手のように膝をつく。
「エントリーナンバー7か。スタイルはかなりいい方なんじゃないかな。でも少女と言えるほどの年でもないよね」
 リューグナーがすました顔でヤレヤレと首を振る。
「下着……まぁ、いいんですけど。時と場所が違いますよね……」
 緋雨が採点していたペンを回して、頬杖をつく。
「ミーも、ストリップは嫌デース」
 ティファニーがそう呟いた時、セルシウスが席に戻ってくる。
「どうだ? 状況は?」
「ご覧のとおりですよ」
 緋雨が恨めしそうな顔で彼を見る。
「代金は今着用してるパンツOR水着で良いぜェ〜! ……と言いたい所だが今回はロハだぜ、気に入ったらランジェリー・ラボを覗いてくれりゃそれで良いぜ」
 その時、友美が意を決して口を開く。
「いいわ、私が下着姿になれば、優勝なのでしょう!!」
「マジで!?」
 衿栖の人形と遊んでいた未散が思わず顔をあげる。
 友美が浴衣の帯に手をかける。彼女の頭には、浴衣の着付けをしてくれたささらの言葉が浮かぶ。
「友美さん。貴女はそのひたむきな頑張り屋であるところが最大の武器です。いいですか? それは他の人より優れた貴女の長所なんです。何が起ころうともそれは忘れないで下さい」
「(ささら‥…・わかったわ! これが貴女の言った私の武器。覚悟ね!!)」
 舞台袖にいたレオンが小さく叫ぶ。
「なんという事だ!! 視聴率が……まだ、上がるだと!?」
 スルリと友美の腰の帯がステージに落ちる。
 最前列に陣取る男達はカメラを構え、また、無き者は両瞼を強引に指で押さえている。

「そんなこと!! 俺様がさせない!!」

「誰だ!?」
 叫ぶ鮪が上を見ると、太陽を背に上空で華麗な宙返りを決めた変熊仮面がステージに降り立つ。
「変熊仮面‥…!?」
 驚く友美の前に立った変熊仮面が、彼女の浴衣に素早く帯を巻く。
「駄目なんだ……君はもっと自分を大切にしなきゃ……」
 かっこ良く微笑む変熊仮面の口に白い歯がキラリと光る。
「変熊……」
 友美が涙ぐむ。
「そういうのは、俺様の役目なのだよ!!」
「……は?」
 おもむろに薔薇学マントと仮面を装着する変熊仮面。
「それでは、名残惜しいが俺様はお先に失礼するよ……着替えてなっ!」
と、叫び……バッ! と、海パンをずり下げる。
 舞台袖にいたレオンが叫ぶ。
「なんという事だ!! 視聴率が……急降下していく!! 何!? 抗議の電話が殺到だと!?」

 目の前で海パンを脱いだ変熊仮面に、友美が肩を震わせながら問う。
「ど……どういうこと?」
「え? これ何時もの俺様の服装だけど……」
 両腕を腰にあてて仁王立ちする全裸の変熊仮面。
 カメラを向けていた観衆たちが一斉にメモリーを消去したり、テープを踏みつぶす音が会場に響く。
「そんな服、あるかああぁぁぁぁーーーッ!!」
 友美の渾身のアッパーが変熊仮面を夕暮れの空へと吹き飛ばすのであった。
 また、大量の下着を持ち強引に迫っていた鮪も、他の候補者達から吹っ飛ばされていた。
 こうして、友美の二十代最後の夏は終わりを告げるのであった……。