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【なななにおまかせ☆】アイドル大作戦!!

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【なななにおまかせ☆】アイドル大作戦!!

リアクション


浮島戦

『さて、いよいよ始まりました。『ドキ☆ 声優だらけの水泳大会!』 会場はここ、空京のろくりんピックスタジアムのプールからお送りします。実況担当は天御柱学院のヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)が【熱狂のヘッドセット】で努めます』
 一件寡黙なヤの人の様な獣人が実況席に鎮座し、滑舌のよい声を会場のスピーカーから流した。体格でヘッドセットが非常に小さく見える。
『今回の水泳大会一番の注目は、やはり人気のアイドル声優CY@Nでしょう。彼女は今大会が病気からの復帰後初の仕事となっています。後の歌合戦でその美声を存分に披露していただきましょう。では最初の競技、相手を突き落としてでも勝ち残れ! 『浮島戦』です』
 浮島戦への出場選手が、登場する。その中にはCY@Nとなななも。二人は今回の全3種目に出場する事になっている。CY@Nが今回の花形故に全種目出るのは当たり前だ。
 勿論それは、全ての種目でCY@Nが囮として危険に身を晒す事になる。一般客はCY@Nの置かれている危険性を知るはずもない。
「ななな大丈夫だよね……」
 観客席にいるノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が心配そうに通信機の向う、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)に尋ねる。
「彼女は電波ですが、やるときはやる人です。そう心配しないでいいかと」
 パートナーを優しく諭す。陽太はスタジアムの天井梁でプローンし、ななながノーンに伝えた浮島で怪しいと思われる人物たちをスコープ越しに見た。
 特に怪しいのは、骨みたいな痩身の骨川骨子と、水着の意味なさそうな犬型の毛深い犬耳犬美。ADの中にも変なのがエトセトラ。レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)の参加者照合でもちゃんと登録されているらしいが。
 CY@Nファンのノーンが心配するのも当たり前か。
「うんうん、ななながチャントCY@Nちゃんのサインを貰ってきてくれるかが心配なの……。忘れていないかな……」
「……だといいな」

『浮島戦では声優達はプールサイドよりスタートし、プールに浮かべた直径5mの浮島の上に、制限時間5分以内に何人上がれるかを競います。最後まで浮島に残った声優の勝ちです。
 途中で妨害するのもあり、浮島を転覆させるのもあり、ポロリ率が高い競技です』
 そして、ヴィンゼントは続けてこう付け加えた。
『なお、全競技中にスタッフなどからの妨害もあります。更に、声優たちには裏競技、『CY@Nを狙え! CY@Nを守れ!』と言うものに参加しております。CY@Nを競技中に捕まえて、ここ実況席に来た人には金一封! 参加者は積極的にCY@Nを狙って下さい』
 嘘である。そんな競技はない。
 さらに、鏖殺寺院には積極的にCY@Nを狙う口実を与えてしまう。しかし、逆に言えば彼らを誘い出し一網打尽にもできる。
「そなたら、いくのじゃ」
 プールサイドでミア・マハ(みあ・まは)が【パラミタペンギン】を数匹放ち、演出。ではなく、観客らからの鏖殺寺院構成員をプールへと潜りこませないための奇策。
「大丈夫かな……」
 高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)がビキニの紐を気にする。
「ドントウォーリィ! CY@Nの安全はこの銀河パトロール隊、愛のピンクレンズマン月美 あゆみ(つきみ・あゆみ)におまかせQX! 宇宙刑事さんいくわよ」
 なななにウィンクを投げる。
「なななだって宇宙意志の加護があるもん! 負けないよ!」
 ダブル電波がいます。
「位置について、よーい!」
 セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)が空砲を構える。パンと破裂音同時に声優たちは一斉にプールへと飛び込んで25メートル先にある浮島を目指す。
 が……、
「わ、私! 泳ぐぶぐぅげへない! でぶふぅ!」
 神代 明日香(かみしろ・あすか)が飛び込んでそうそうもがいていた。泳げないのに何故参加しているのか疑問があるかもしれないが、溺れてはいないので島まで泳いでもらいたいところ。
『選手一同一斉にプールに飛び込み、中央の浮島を目指します。早やくも浮島にたどり着きそうなのは、CY@N、骨川骨子、高天原 咲耶、の3人! 少し遅れてフィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)。 宇宙刑事と宇宙パトロール隊員は飛び込み時に決めポーズをとって出遅れています! そしてその後ろに、犬耳犬美が犬かきで追いかける! が、意外と遅い! 神代 明日香は溺れているようにも見えますが大丈夫なのでしょうか?』
 もしもの時はスタッフが待機していますのでご安心を。
 数名が一斉に浮島に上がろうとする。浮島のバランスは悪いが、四方から同時に這い上がれば案外楽に上がれた。
「ななな上がって」
 CY@Nが遅れたなななを引き上げる。遅れていたとは言え、元特殊部隊所属の泳ぎは意味不明に早かった。浮島に声優たちが次々と上陸する。
 しかし、ここから問題だ。不安定で狭い浮島に数名が密着する。声優に紛れた工作員(骨子)にとってはCY@Nに呪いの言葉を吹きかけるチャンスだ。
 CY@Nの首飾りが小さく光る。
 CY@Nとなななに悪意が迫る。
 次の瞬間、フィーアがなななの胸を後ろから揉んでいた。
『最初に仕掛けたのは846プロ野獣系アイドル、フィーアです! 卑猥にもなななの胸をしだいてます!』
「なにをするの!?」
 肘鉄を食らわそうとするなななから離れるフィーア。
「激流に身を任せて同化する……ふふふ……僕の《歴戦の立ち回り》からは逃れられないし、捕まえられないのだ」
 嫌な《歴戦の立ち回り》の使い方もあったものである。
「やっとついた……!」
 アスカもなんとかもがきながらも浮島にたどり着いた。
 が、ヘトヘトな彼女を的にフィーアが動く。次の瞬間には上の水着がまくり上げられていた。
 絹を裂くような少女の悲鳴と野郎どもの歓声が木霊する。
 明日香は慎ましやかな胸を隠し縮こまる。赤面した顔は笑顔を絶やさない信念と羞恥の泣き顔が入り交じっていた。一部の嗜好者にとってはかなりポイントが高い。
「さて、次はCY@Nの胸を堪能しましょうか。げへへへ……。トップアイドルがワンピースなんて許されないんだよ」
『フィーア・四条! 次はCY@Nを脱がせる気だ! もう野獣というよりもタダのエロオヤジだ!』
 もはや、CY@Nの警護とかどうでもいいフィーアだった。カワイコちゃんを狙うアルセーヌの孫のように、CY@Nへと飛び込む。
 貞操の危機に《禁猟区》のお守りが強く光る。
「竜巻《真空波》!」
 あゆみはフィーアを敵意あるものと見なし、《真空波》を放ちながらぐるぐる回る。何故回るのか分からない。
 あゆみの意思により空気の刃がフィーアの水着だけを切り刻む。
 切り刻まれた水着から零れるものを隠すため、フィーアが空中で自分の体を抱いた。CY@Nを狙う軌道が反れてそのままプールの中に突っ込んだ。
「もう何するんだよ!」
 水から顔だけ出してフィーアが抗議する。水着をなくしてはもう浮島には上がれそうにもない。失格である。
 観客とカメラのスケベな視線がフィーアへと集中する。
 犬耳犬美(鏖殺寺院構成員)にとってはチャンスだった。今ならCY@Nに呪いの言葉を吹き込めに行ける。
 犬足で、浮島を駆けようとする。
「もう……恥ずかしかったですぅ……」
 近場の人に捕まって立ち上がろうと、明日香はの水着、丁度尻尾穴の辺りに指を引っ掛けた。
「お、お、おおお!?」
 水着の伸張性で犬美は体を引き戻されて、明日香ともども水に落ちた。
「わー! ごめんなさい!!」
 故意じゃないことを謝りつつ、明日香は溺れまいと必死に犬美にしがみついた。
「やめろ! しがみつくな! 毛が水を含んで長く浮いてられないんだって、ぶぐぅぶぐぶ……」
 溺れる二人を救出すべく、レキが泳いで来た。
 泳いでいる途中でレキの《殺気看破》に何かが引っかかる。しかし、水底には誰も見えない。《光学迷彩》かと考える。
「ミア、プールの中を覗いて」
 ペンギンと戯れるパートナーに指示を出す。ペンギンと一緒に水の中に飛び込んで、《神の目》で隠れている者の姿を炙り出す。
 隠れている誰か(鏖殺寺院工作員)は上での騒動で揺れる水面にチャンスを見出し、CY@Nの足首を掴もうと浮上し始めていた。
「6コース20メートル付近に誰かおるのじゃ!」
 ミアは顔を出して、レキに伝える。レキは溺れる二人より先にそちらへと向かい、水光のおかしな場所に《則天去私》をぶち込んだ。
 水面から何かが水しぶきを上げて飛び出てプールサイドに落ちた。
 発生した波に浮島が大きく揺れる。
「不届き者を見つけたので、殴り飛ばしました」
 と報告。「さて溺れている二人は」とそちらを見るとすでに沈没した状況だった。慌てて助けに行く。が、セシルが先に明日香を助けていた。得意の《神速》の泳ぎで。
「あぶないところでしたわ……、レキ、貴方には速さが足りませんわ」
「泳ぎじゃセシルに敵わないよ」
 セシルは明日香を助けたのはいいが、犬美は助けないらしい。それどころか、眉間を蹴り飛ばして水底に沈めておいた。犬美と明日香リタイア。
 ハプニングはまだ続く。
 この状況を多少勘違いしたADもといマッドサイエンティストドクター・ハデス(どくたー・はです)が行動を起こす。
「いかん! 鏖殺寺院の連中が現れたか!? 改造人間サクヤは!? 波に足を盗られて動けないだと……機関の工作か!?」
 いいえ、スタッフの仕業です。
「ならば! さあ、人造人間ヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)よ、今こそ改造の成果を見せる時!」
「はい、ご主人さ……じゃなくて、ハデス博士」
 水中スクリュー(【加速ブースター】)を装着した、ヘスティアが現れる。
「サクヤが機関の工作により、行動不能だ。ヘスティアよ、潜水で浮島に近づき、ワイヤークローで敵を捕らえるのだっ!」
「ハイです! ご主人様!」
 ヘスティアが潜水を開始する。
「あれ? スクリューが……」
 ヘスティアのスクリューは想像以上の出力で回転を始めた。

 一方波に煽られ不安定な浮島では、皆足を取られて動けずにいた。骨女一人を除いて。
 骨女こと骨川骨子(やっぱり鏖殺寺院構成員)はその身軽さ故に浮島では最も有利に動ける。
(これはチャンス……)
 足を取られる他の声優たちを無視して、CY@Nへと浮島を駆けた。
 もちろん、そうはさせないとなななと咲耶が立ちはだかるが、飛び越えてしまえばどうて事ないと、骨子は考えた。
 しかし、不意に顔にかかった水に、ひどい痛みを感じた。
「目が! 目がぁ……!」
 その水は、
「タバスコ入だぜ」
『おっと、ここでスタッフ天城 一輝(あまぎ・いっき)らに寄る【水鉄砲】が選手たちを襲います! マトモに食らった骨川骨子がもがいています』
 だが、視界を奪われただけでは骨子は諦めなかった。もう少しCY@Nに近づければ呪いを一つ開放できる。
 と、その時。
『あれは……プールサイドから何かが近づいてきます! ものすごいスピードです!』
「あれは……ヘスティアちゃん?!」
 猛スピードせ迫るヘスティアを気づく咲耶。
咲耶が気づいたときにはヘスティアは水面をジャンプし、魚雷の如く骨女に衝突していた。
「ぶいえろーへぁああああ!!」
 骨女は変な悲鳴とヘスティアと共に吹っ飛んでいた。プールサイドの壁に激突する。
 ヘスティアのスクリューによりプールは大荒れ、転覆しかける。ななな、CY@N、あゆみと次々と声優たちが浮島から転げ落ちる。咲耶は辛うじて耐えた。
 が、そんな彼女には別の不幸(ハプニング)が待っていた。
「そうだ! ワイヤー!」と、ヘスティアは敵構成員と思われる人間を【ワイヤークロー】で捉えようと考えた。が、ワイヤーは骨子の方へは行かず、制御不能のまま浮島に飛んだ。
 水着の紐にワイヤーが引っかかる。
「ちょ、だめ! 引っ張らないで!」
 咲耶の悲鳴は虚しく、ワイヤーが巻き上げられる。
 水着が宙を舞い、咲耶の胸が露出し、観客の鼻からは血液が噴出した。
 ヘスティアがプールサイドに衝突すると同時に、一輝の【悪魔の目覚まし時計】が競技終了の合図となった。
『なんと言うことでしょう! 浮島に残ったのはただ一人! 高天原 咲耶です!』
 咲耶に観客の歓声が響く。勝者たる彼女にはそれがすごく虚しかった。
「よくやった! 改造人間サクヤ! これで我が秘密結社の力が世間に知れ渡ることだろう!」
 そんなことより、自分の裸が世間に知れ渡ることが恥ずかしい咲耶だった。

 天井の梁で陽太はスコープから目を離した。
 水中に隠れていた男と、骨女を人知れず【気絶射撃】していた。吹き飛ぶ対照の眉間に《エイミング》するスゴ技ではあったのだが。
 一仕事終えた陽太はスコープ越しに見た光景に一言、感想を述べた。
「環菜のほうが……」
 そう言って、鼻を拭った。