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ムシバトル2021

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ムシバトル2021

リアクション


1回戦Aブロック

○Aブロック第1試合○

「いよいよ第一試合を開催いたします!」
 衿栖の宣言に、リング上のセレンフィリティが頷く。そして、セレアナと共に両面のゲートを指し示した。
パラミタ怪虫モフラの百郎! 赤羽 美央(あかばね・みお)と共に登場です!」
 真昼の太陽の下で堂々と羽を広げた大きな蛾が、リングにゆっくりと舞い降りる。その背に乗った美央が、気を落ち着けるように百郎の背を撫でている。
「百郎は前年度に引き続き、二度目の出場ですです。なんと、前回は幼虫だったのですが、今回、見事に成虫となってのリベンジ!」
「兄弟達のためにも、一緒に頑張りましょう」
 セレンフィリティのコールを聞きながら、美央が決意めいて呟く。
「うげっ。やっぱり、何度見ても恐ろしい姿ですわ」
 百郎のセコンドについているはずの月来 香(げつらい・かおり)がうめく。花妖精として、虫に対して思うところがあるらしい。
「だいたい、自分たちにとって必要な植物を食い荒らしたりするなんて、虫は嫌いですわ。それも、蛾だなんて、見た目からして……」
「そうくどくど言うものじゃないわよ。植物も虫も、みんなで自然を作ってるんじゃない。それに、百郎は優しい子だよ」
 その隣のタニア・レッドウィング(たにあ・れっどうぃんぐ)が香をなだめる。
「ま……まあ、美央にけがをさせたりしないかぎりは、少しくらい応援して差し上げますわ」
「もう一方からは、パラミタストロンガーカブトムシ! フルアーマー ナガン、ブリーダーの鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)を乗せての入場です」
 セレアナのもう一方への呼び込みに答えて、背中に赤いラインの走ったカブトムシが現れる。体にはいくつも傷が浮かび、さながら古参兵のたたずまいだ。
「ナガンは三年目のベテラン選手です。いやあ、すっかり歴戦の勇士という感じですね」
「成虫になったばかりの百郎と、ベテランのナガンとの対決は、ムシバトルファンにとって夢のカードですぅ」
 実況席からの解説が否応にも、第一試合から早速の好バトルを予感させる。
「さあ、行くぞ」
 真一郎の呟き。ナガンは何も言わず、そっとリングで百郎と向かい合った。
「それでは第一試合、スタートです!」
 リング上から逃れたセレンフィリティとセレアナが叫ぶと同時、ゴングが鳴らされた。
 ばさっ! 独特の色合いの羽が広げられ、百郎が飛び上がる。
「しまった!」
 真一郎が声を上げた。ナガンは正面からのぶつかり合いを得意とするカブトムシだ。飛べないことはないが、蛾のように高く飛ぶことは得意ではない。
「なお、ムシバトル2021ルールでは、飛ぶことは許可されています。ただし、リング外へ故意に出たり、リングアウトした後に飛んだとしても、リングアウトと見なされるため、リングの外から攻撃するなどの行為は禁止されています!」
 ざわめく観客席に、実況席からのフォロー。
「ヤママユガのように優雅に、スズメガのように強く……いけ、百郎!」
 距離を取って、百郎が激しく羽をばたつかせる。蛾の十八番、鱗粉攻撃だ!
「くっ……! 耐えろ、ナガン! いつか必ず、直接攻撃を狙ってくるはずだ!」
 ナガンの背で、真一郎が焦る。自分の口と鼻を塞ぐことはできても、ナガンまではそうはいかない。ナガンは脚を縮め、じっと耐えるだけだ。
「行きますよ、百郎。モフラうぃっぷを」
 互いにだけ聞こえる声で、美央が指示。百狼が急降下し、激しく触覚を振るい、ナガンに打ち付ける。
「ああっと! 激しい攻撃だ! 鱗粉で動けなくなっているナガンに、これは厳しいか!」
「いいや……甘く見てもらっては困る!」
 そのときだ。ナガンが大きく脚を広げ、空中の百郎へ向けて激しくツノを打ち付けた!
「あくっ……!?」
 百郎が衝撃を受け、リングへ落下する。
「なんと恐るべきナガンの防御力! あの鱗粉を受けてまだ動けるというのかーっ!」
 すかさず、その体をツノと体重で押しやり、リングアウトを狙おうとする……が!
「がんばれ百郎!  モフラ〜ヤ〜♪ モフラ〜♪」
 セコンドについたエルム・チノミシル(えるむ・ちのみしる)が、声を張り上げて歌う。それに会わせて、タニアがギターをつま弾く。
「そうよ、百郎。あなたには……負けられな理由があるでしょう」
 背に捕まった美央も一緒に歌う。その声を聞く百郎の目に、かっと光が宿った。
「おおっと! 百郎選手、再び飛んだ! 土壇場での復活だ!」
 リングアウトぎりぎりの位置から飛び上がる百郎。振り返ろうとするナガンの背後を取り、触覚を振るわせる。
「さっきの触手鞭では、ナガンを傷つけることなど……!」
 振り返る真一郎だが、百郎の狙いはモフラウィップではない!
「アイスパルサーで、あなたの力を見せてあげなさい」
 美央の指示に答えて、百郎の触手から不思議な光線が放たれる。それはナガンの足下へ飛び、氷となって六本の脚を張り付かせる!
「なに……!?」
 氷から逃れようとするナガンだが、その場から動くことができない。これでは、攻撃を受けたい放題だ。いかに防御力に自信があるとはいえ、氷が溶けるまで耐えきる事はできないだろう。
「降参だ。……すまない、ナガン。こんな戦い方しか教えてやれなくて」
 静かに、真一郎は呟いた。

Aブロック第1試合 勝者:百郎(パラミタ怪虫モフラ)
決まり手:アイスパルサー
解説員によるコメント「敗者のフルアーマー ナガンも鉄壁の防御を誇っていましたけど、機動性が勝敗を分けたですぅ」


○Aブロック第2試合○

「パラミタニジハンミョウ、ミョンミョン! パイロットの天貴 彩羽(あまむち・あやは)天貴 彩華(あまむち・あやか)姉妹と共に入場!」
 虹色に輝く美しい外皮と、凶悪なアゴを併せ持ったシャープな印象のムシが進み出る。
「今年こそ優勝してみせるわ! いくわよ、彩華! ミョンミョン!」
「もちろんですぅー! 私たちとミョンミョンなら、きっと大丈夫ですぅ!」
 彩羽と彩華が頷き合う。ミョンミョンもまた、アゴを動かしてやる気満々だ。
「えーっと……天貴選手が、何かエサのようなものを持ち込んでいるようですが……」
 実況の衿栖が、手元のルールを参照しながら呟く。
「ちゃんとチェックを通して、毒物、劇薬の類は仕込まれていないことを確認していますぅ。自分のムシに食べさせるための食料のようですので、委員会は許可しましたぁ」
「まあ、当然でござるな」
 セコンドについたスベシア・エリシクス(すべしあ・えりしくす)が、自慢げに胸を張る。
 その手には、アルハズラット著 『アル・アジフ』(あるはずらっとちょ・あるあじふ)が魔導書形態のまま、じっと押し黙っている。
 別に、魔導書を持ち込んではいけない決まりがあるわけではないのだが、アル・アジフはあまり姿を現したくないのだ。
「こちらからはテイオウカブト、リオ・デア・エンペリオス(エンペリオス・リオ)の登場です! 騎乗はヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)、そしてキリカ・キリルク(きりか・きりるく)!」
 もう一方のゲートから、黄金のカブトムシが威風堂々のたたずまいで現れる。
「さあ、リオよ! 貴様の不屈の闘志を見せてくれ! 最高の戦いをお前にくれてやる!」
「あまり、勢いに乗りすぎて隙を突かれないようにしてくださいね」
「攻撃こそ最大の防御だ」
 仁王立ちのヴァルと、傍らのキリカが言葉を交わす。
 かたや虹色の優美なフォルム、かたや黄金の勇壮さだ。見目にも麗しい戦いのゴングがならされた。
 同時、アル・アジフのページがさらさらとめくれ、無言のままスベシアの手の中であるページを示す。スベシアはそのページの内容を素早く読み上げた。
「テイオウカブトは鉄壁の防御力を誇る……けど、最大の特徴はその性格でござる! 挑むものがあれば全て正面から受け止めるとあるからして、横や後ろを狙うのが上策かと!」
「それじゃあ、シカにくですぅー」
 キリカが投げた肉をミョンミョンが鋭いアゴでキャッチ。そのまま噛みちぎる。そして羽を羽ばたかせ、一気にリオへと接近する!
「何だ! 動きが素早く!」
「いけません! リオ、横を取られます!」
 ヴァルとキリカが驚きの声を上げる。確かに、肉を口にしてからミョンミョンの動きが格段に素早くなった。これは消してドーピングなどではない。ミョンミョンは長いトレーニングにより、一定の味覚に対して、全身の運動能力を高める術を身につけているのだ。いわば、強力な自己暗示である。
「構わん! 受けて立ってやれ!」
 ヴァルの声に応えて、リオは襲い来るミョンミョンへとまっすぐに突っ込んでいく。
 ガッ……!
 ミョンミョンの鋭いアゴが、リオのツノを捕らえる!
「ミョンミョン! ヴァーミンオーラスラッシュよ!」
「なんの! 耐えろ、リオ!」
 アゴの間からオーラが溢れ、リオのツノとの間に激しく火花が散る。が、体重差により、リオがミョンミョンを押し返した。
「このリオには、生半可な攻撃は通用しないぞ。もっとも強い技で来い!」
 ヴァルの叫びに会わせるように、リオが羽を震わせる。独特の音が、リングに響き渡る。
「これは、ムシにのみ感じられる特殊な音ですぅ。しかも、気力を奮い立たせる力のある音で……本来なら、凶悪な敵と戦うときに、仲間に対して使うもののはずですぅ」
 エリザベートが驚きの声を上げる。衿栖は、その顔を見て首をかしげた。
「では、リオ選手は、その音を自分を奮い立たせるために使っているのですか?」
「違いますぅ! 音で力を発揮させているのは、ミョンミョンの方ですぅ!」
「何のつもりか知らないけど、上等だわ! 行くわよミョンミョン! あなたはこんなものじゃないはずよ!」
 ミョンミョンの背に乗った彩羽が叫び、まっすぐにリオに指を突きつける。
「ワニにくですぅー。ミョンミョン、全力で行くです〜」
「必殺、エクストリームチャージ!」
 ミョンミョンが激しく体を旋回させ、自らが生み出した気流に乗って、信じられない速度でリオに迫る!
「これなら……いけます」
「よし、絶対帝王壁(アブソリュートエンペラーフィールド)!」
 これ以上ないほどの一撃を放つミョンミョンに対し、リオの動きはわずかなものだ。だが、そのわずかな動作がミョンミョンの最高の一撃を、最高よりほんの少し劣ったものへと変えた。
 まっすぐではなく、わずかに横から、リオのツノがミョンミョンを打ち付ける。一瞬の交錯の後、ミョンミョンは高く弾き飛ばされ、リング外へと落下した。
「すばらしい……勝負だったわ」
 彩羽がミョンミョンの背から降りつつ、言う。ヴァルは親指を立てて答えた。
「ああ、また、勝負しよう!」

Aブロック第2試合 勝者:リオ・デア・エンペリオス(テイオウカブト)
決まり手:絶対帝王壁
解説員によるコメント「外見と同じく、リオの防御力が光った試合でしたぁ。ミョンミョンの攻撃が決して軽かったわけじゃないのに、圧倒的な外皮でしたぁ」


○Aブロック第3試合○

「オオツノキマイラオオカブトムシ、ヘラクロス! 大会協賛の八坂家投手、八坂 詠春(やさか・えいしゅん)の推薦により、月代 千雨(つきしろ・ちさめ)と共に入場です!」
 剣か槍かと見まごうような、鋭いツノを持ったカブトムシが入場する。
「虫を超えた虫と前評判の高いヘラクロス選手、堂々たる入場です!」
「相手がどんな風に出ようと、私たちは私たちの戦いをするだけよ。頼んだわよ、ヘラクロス」
 背中の千雨に、ヘラクロスはさらにツノの偉容をアピールして答える。
「サポートは任せて! ヘラクロスなら大丈夫だよ!」
「千雨、がんばって」
 セコンドについたリカード・オルグレン(りかーど・おるぐれん)と、ルーシェ・フォン・セブンシープ(るーしぇふぉん・せぶんしーぷ)が手を振る。
 VIP席の詠春も、頼もしげに頷いている。
「対するは、パラミタオオカブトムシのウルシ! 騎乗する村主 蛇々(すぐり・じゃじゃ)アール・エンディミオン(あーる・えんでぃみおん)も一緒です!」
 歓声を浴びながら現れるのは、外殻が高級車のように艶のあるカブトムシだ。巨体のヘラクロスと対面すると、かなり小柄に見える。
「いいか、俺はアドバイスとサポートだけだ。おまえが彼に指示を出すんだ」
「わ、分かってるわよ。ウルシとは長い付きあいなんだから、任せなさい」
 アールと蛇々のかけあいを聞きながら、セコンドのリュナ・ヴェクター(りゅな・う゛ぇくたー)が進み出てきた。
「ウルシちゃん、がんばってね!」
 そして、ウルシのツノの付け根にかわいらしいキスを送る。
 ウルシは顔をぽーっと上気させてから(いや、そんなはずはないのだけど、雰囲気というやつだ)、勢いよく前に進み出る。
「では……試合開始!」
 ゴングが鳴ると同時、二匹のカブトムシはリング中央でがっきとツノを合わせる。
 ムシバトルの王道とも言える開幕に、観客席から大きな歓声が上がる。
 大きさの差か、有利を取ったのはヘラクロスの方だ。ぶつかり合うと、どうしてもウルシは後ろへじりじりと下がってしまう。
「戦い続ければ必ず隙を見せるはずだよ! ウルシ、耐えて!」
「相手が何を狙ってるかなんて考えなくていいわ。ぶつかっていくのよ!」
 蛇々と千雨、それぞれの乗り手が激しく檄を飛ばす。が、膠着状態は変わらず、ヘラクレスの大きなツノがウルシを押さえつけながらリング際へ押し込んでいく。ついに、ウルシの脚がリング際に振れた。
 が……
「いまだ。相手を押し出す一瞬こそ、最大の隙が生まれるはずだ!」
「よーし! 必殺! 百烈ツノチャージ!」
 アールの指示に答えて、蛇々がびしりと前を指さす。ウルシが前例をかけて、最後の突撃を敢行した!
「く……ヘラクレス、持ちこたえて!」
 幾度も突き出されるウルシの突き。しかし、ヘラクレスはあえてそれを受けきった。勢いに乗ったウルシの重心が上がったのを見て、すかさずツノを体の下に差し込んだ。
「ああっと! ヘラクレスの巨大なツノが、ウルシ選手の体を持ち上げたー!」
 勢いそのまま、ウルシの体がリング外へと放り出される。それでも、背中の二人を潰さないように落ちるのはウルシの忠誠心ゆえだろうか。
「ああー……負けちゃった……」
 ウルシの背でがっくりと膝を突く蛇々に、そっとアールが手をさしのべる。
「おまえも、ウルシも、まだ若い。……来年もある」
「……え?」
 思わず、蛇々はアールの顔を見上げた。彼がそんなことを言うとは、意外だったのだ。
「いい勝負だったわ。正々堂々戦えて、よかったわ」
 千雨が言う。蛇々はどう答えて良いか分からず、腕を組んでそっぽを向いた。
「べ、別に、優勝したくて出場したわけじゃないんだから! ただ、ウルシと一緒に戦って、絆を深めたかっただけなんだからね!」
 会場が和やかな雰囲気に包まれたことは、言うまでもない。

Aブロック第3試合 勝者:ヘラクロス(オオツノキマイラオオカブトムシ)
決まり手:巨大ツノ攻撃による押し出し
解説員によるコメント「積極的に攻めていったことが勝因と言えるですぅ。ウルシ選手は防御に力を入れすぎるあまり、序盤で大きなリードを許してしまいましたぁ」