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ムシバトル2021

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ムシバトル2021

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1回戦Dブロック

○Dブロック第1試合○

「……どうやら、解説員が復帰した模様です。実況席が落ち着いたところで、Dブロック第1試合! 入場は、パラミタオオフンコロガシ、神聖甲虫スカラベ! 魔道書であるエジプト 死者の書(えじぷと・るぬぺれてめへる)が騎乗しています!」
「太陽の化身であるスカラベに敵はいないですぅ」
 死者の書が堂々とした様子で背に仁王立ちしている。
「今日は太陽を運んでいないようで何よりだ」
 解説席、ようやく血の気が戻って来た表情の未散が、これ以上危ないモノを見せられてはたまらないとばかりに呟いた。
「もう一方からは、皆さんお待ちかね、昨年ベスト8の強豪が登場よ! イルミンオオクワガタ、テイカー!」
 堂々たるテイカーの入場を、観客が拍手と共に迎える。
「いいか、テイカー。決して手を抜くなよ。全力で戦って勝ち取ってこそ、ムシバトル王の笑傲には価値があるんだ!」
 セコンド席で出迎える涼介・フォレストに、乗り手のヴァルキリーの集落 アリアクルスイドが親指を立てて答える。
「今年こそ、優勝はいただくよ!」
「それはスカラベを退けてから言って欲しいですぅ!」
 両者の間でばちばちと火花が散る。それを逃すまいというようなタイミングで、ゴングが打ち鳴らされた。
「全力で、行け!」
 祝福の言葉を捧げながら、涼介が大きく応援を送る。
「相手の技を受けきってから勝つ! これこそが王者のファイトスタイルよ!」
 アリアルクスイドが仁王立ち。動揺に、テイカーもまたアゴを大きく広げた体勢でスカラベを迎え撃つ。往年のプロレスラーを彷彿とさせる体勢だ。
「けど、フンコロガシ……タマオシコガネ属には、きょうりょくなアゴやツノのような武器はないはずだ」
 解説席の未散が首をかしげる。衿栖も不思議そうな表情だ。
「いわれてみれば、カブトムシやクワガタのように他のムシを押しのけてエサを確保するわけでも、カマキリのように他のムシを捕まえて食べるわけでもありませんからね……どうやって攻撃するのでしょう?」
「ムシバトルはリングから相手を押し出せば勝ちになるルールですぅ。だったら、スカラベに敵はいないですぅ」
 リング中央で激突の瞬間、スカラベはくるりと体をターンさせる。そして、発達した後ろ足でテイカーを蹴りつけた!
「ああっと! これは意外! なんと前後逆になってのムシ相撲をテイカーに挑んでいます!」
「受けて立ってあげるわ!」
 ばしばしと蹴りつけられてもテイカーの外皮が傷つくことはないが、その圧力はかなりのモノだ。アリアクルスイドは、あえて挑戦を受けることに決めた。
 テイカーはツノで、スカラベは後ろ足で、互いに相手を押しやる! 互いに強力な推進力が相手に加わり、リング中央でぴたりと動きが止まる。
「なんという熾烈な押し合い! 両者一歩も譲りません! 膠着状態が続いている!」
「テイカー! アリア! くっ……!」
 涼介には、ただセコンド席から声援を送ることしかできない。セコンドの試合への介入は、1度きりなのだ。
 そのとき! スカラベ側のセコンドに突いている湯島 茜(ゆしま・あかね)がすっと息を吸い込んだ。
「スカラベ! 負けないで!」

『神聖甲虫スカラベのうた』
 日輪背負い 来る影は
 砂の大地の エジプトの
 守れ ぼくらの太陽を
 怒れ 牙むく大昆虫
※ラーとケプリの力を秘めて
 みんなの希望を 押し運ぶ
 あれは あれは 太陽の使者 スカラベー♪
※くり返し

 朗らかな歌声が会場に響き渡る。その歌に俄然、スカラベの直進(後ろ向き)が力を増す!
「ううっ!?」
「すごい! スカラベがテイカーを押しています! なんというパワー! そして今、リングの端へ……押し出した! またもや番狂わせ! テイカー敗北! スカラベ勝利です!」
 座布団が飛び交うような決着。観客は沸きに沸いていた。その堂々たる戦いぶりに、敗者である涼介やアリアクルスイドまでもが、拍手を送っていた。

Dブロック第1試合 勝者:神聖甲虫スカラベ(パラミタオオフンコロガシ)
決まり手:押し出し
解説員によるコメント「思うに、純粋なパワーだけが決め手じゃなかったな。常に、スカラベのほうがテイカーよりも一瞬先に力を発揮してたんだ。均衡した勝負だと、そんなタイミングが勝負を分けるんだ」


○Dブロック第2試合○

「パラミタオオカブトムシ、ケーファー! 乗り手は堂島 結(どうじま・ゆい)!」
 呼び込みに答えて、まだ若いカブトムシが進み出てくる。
「一緒に頑張りましょう、ケーファー! 頼りにしています」
「結〜、ケーファー、頑張ってください〜」
 気合いを入れる結に、セコンドのクリスティーナ・テスタロッサ(くりすてぃーな・てすたろっさ)が声援を送っている。
「もう一方は、ナラカモウドクギロチンムカデ! ペイン(巨大クワガタ)!」
 ぞぞぞぞといくつもの脚をうごめかせ、長い体に紫のまだら模様がついた巨大ムカデが姿を現す。その背には、魔鎧ネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)。魔鎧であるため、ムカデの毒も平気というわけだ。
 ムシバトルの門は広く開かれている。もちろん、ムカデも『アリ』だ(蟻ではない……と付け加えるのは、ムシバトル界隈ではすでに古典的ギャグだ)。
 ちなみに、すでに解説席には未散ちゃん人形が設置されている。
「ムシバトルについては私は門外漢ですから、自由に動いてください」
 セコンドに突いているエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)は、飲み物まで用意して悠々と観戦の体勢だ。ネームレスはこくりと頷くだけ頷いて、前に向き直った。
「ううっ……か、顔が凶悪です」
「気持ちで負けてはだめですよ〜」
 ケーファーサイドの女の子達は、かなり怯んでいる様子だ。装甲している間に、試合開始のゴングが鳴らされる。
「これはどうしたことか? ペイン選手、開始地点から動きません!」
 ペインは鎌首をもたげたまま、相手をにらみつけているだけだ。その間に、ケーファーはカブトムシとは思えないほどの機敏な動きで側面に回り込む。
「このリングは……少し、狭いですね……」
 ペインの背に乗ったネームレスは物怖じする様子もなく、首だけを動かしている。
「こっちはこっちの戦いをするだけです! ケーファー、一撃離脱戦法です!」
 ケーファーの発達したツノが、ペインの胴を打ち据える。そして、噛み付いて反撃しようとするペインから、素早く逃れるのだ。
「やっかい……ですね、あれを……使いましょう」
 ネームレスの指示に応じて、ペインがアゴを開く。
「ケーファー、防いでください!
 噛み付きを防御するために身構えるケーファー。だが、次の瞬間、ペインの口からしゅうっ! と毒液が噴き出される!
「きゃあっ!」
「なんということでしょう! 情け無用の毒霧攻撃です! ケーファー選手、まともに浴びてしまった!」
「あれはマヒ毒です。死ぬことはありませんが、しばらくは動けなくなるはずです。本来なら、あの毒を喰らわせたところをゆっくり捕食するのがムカデのやり方です」
 解説の未散が隠れているので、代わりにセコンド席からエッツェルが解説を入れた。
「今日は……試合ですから、そこまでは、しません……どう、しますか……?」
「こ、降参です……」
 かわいいケーファーをこれ以上傷つけさせるつもりはない。がっくりうなだれながらも、結は両手を挙げた。これも、ムシを思う愛ゆえである。
 大会有数のヒールが2回戦に駒を進めたことに、観客も、運営委員会も、密かに喜んでいた。

Dブロック第2試合 勝者:ペイン(ナラカモウドクギロチンムカデ)
決まり手:毒霧
解説員によるコメント「いい試合だったとおもいました。まる」


○Dブロック第3試合○

「さあ、パラミタオオスズメバチ、ゴースト(グレイゴースト)の入場です! 乗り手は、アニス・パラス(あにす・ぱらす)ルナ・クリスタリア(るな・くりすたりあ)!」
 特徴的な黄色ではなく、黒い表皮のスズメバチが、あの危険な羽音を立ててリングに舞い降りる。浮かび上がるような赤い目がさらに危険な雰囲気を煽っている。
「いいか、スピードなら俺たちがナンバーワンだ。敵の攻撃を避けて、確実に当てていけ」
 セコンドについた佐野 和輝(さの・かずき)が、ゴーストにしがみつくような状態のアニスと、アニスにしがみつくような状態のルナにアドバイスを告げる。
「まかせて! ハチのように舞い、ハチのように刺す! 作戦はカンペキだよ」
「それってカンペキにハチですぅ」
 ゴーストの背で、ふたりがはははと笑いあう。和輝は不安げだが、ここはふたりに任せると決めたのだがら、それ以上は口を挟まないことにした。
「もう一方はパラミタウミタガメ、ガメ太(グリンブルスティ―)! 騎乗は斎賀 昌毅(さいが・まさき)、そして阿頼耶 那由他(あらや・なゆた)です」
「ガメ太は那由他が育てた!」
 タガメの背で大きく胸を張って見せる那由他。一方、昌毅はすぐにでも相手に飛びかかってしまいそうなガメ太を抑えるので必死な様子だ。
「ガメ太は自然の中で育てた野性的なムシじゃからな……やりすぎなければよいが」
 セコンドのカスケード・チェルノボグ(かすけーど・ちぇるのぼぐ)が心配げに呟く。自然育ちといえば聞こえはいいが、実際は海京近海に放していたのである。それがばれやしないかと内心はひやひやものだ。
「空中戦を得意とするスズメバチと、水中のギャングといわれるタガメが陸上のリングで戦うとは、ムシバトルの可能性を感じさせるバトルだな」
 再び解説に復帰した未散が、両者を見比べて呟く。
「見応えのある一戦になりそうです! いよいよ、試合開始の時間です!」
 ゴングが打ち鳴らされる。ゴーストが空中に浮き上がり、威嚇の8の字飛行をはじめた。
「水中で戦ったなら勝ち目はないが、距離を取って戦えばまず問題ない。あの技を見せてやれ!」
「よーし、ミサイルニードル、発射〜」
 アニスの指示に応えて、ゴーストは上空から、ガメ太に向けてお尻の針を放つ! 超生物学的能力により、その針は着弾と同時に激しく爆発する!
「ぐあっ! な、なんてやつだ!」
「上から狙ってくるなんて、生意気なやつだ! ようし、ガメ太! 本当の戦いというモノを見せてやるのだよ!」
 がし! と昌毅にしがみついた那由他が叫ぶ。ガメ太はきっと上空のゴーストをにらみつけた。
「空を制する者が戦いを制するんだよ。ここまで来れなけりゃ、勝ち目は……」
 アニスがさらなる攻撃を指示しようとしたときだ。突然、ガメ太の体が飛び上がり、ゴーストの体を前足で捕らえたのだ!
「なんと! タガメのガメ太選手が空中に飛び上がりました! これはいったいどういうことでしょう、解説の未散さん?」
「あれはタガメのお尻にある呼吸管を使ったんだ。本来はシュノーケルのように水中から着きだして呼吸をする器官だけど、その管から猛烈な勢いで空気を噴き出して、ジェットのように飛び上がったんだ」
 冷静な解説の間にも、試合は進んでいる。ガメ太の発達した前足がしっかとゴーストを掴んで放さないまま、口吻を突き刺そうとする。電撃を放つ危険な針だ。
「ゴースト! ふりほどくですぅ!」
「ガメ太、こらえろ!」
 ゴーストの羽が複雑に羽ばたき、空中でむちゃくちゃな軌道を描く。だがガメ太もさるもの、そうそう獲物を離しはしない。
「こうなったら……ゴースト、あれをやるんだよ!」
 かっとゴーストのアゴが開かれる。次の瞬間、その口から粘液が吐き出された。特殊な化学反応により体内で精製される腐食性の粘液である。敏感な口吻にそれを浴びたガメ太はびっくりして思わず手を離してしまった。
「……あっ」
 と言う間に、着地する。けがはないが、降り立った場所は完全にリング外だった。
「リングアウト! 2回戦への最後の切符を手に入れたのは、ゴーストだー!」
「やったぁ! ゴースト、あとでたっぷりご褒美をあげますよぉ」
 アニスとルナは、きゃいきゃいとゴーストの背ではしゃいでいる。
「ガメ太は訓練されたムシとの戦いははじめてじゃったな。その経験の差が、勝敗を分けたのじゃろう」
 カスケードが、感慨深げに頷いている。というか、さすがに消化液を吐く前に試合が収まってよかったと思っていた。

Dブロック第3試合 勝者:ゴースト(パラミタオオスズメバチ)
決まり手:腐食性粘液
解説員によるコメント「ガメ太の動きは本来水生昆虫であることを忘れそうなほどのものだった。けど、素早さで勝るゴーストが確実に対応していったのが効いたみたいだな」