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リアクション
第8章 夜は夜行性が集まるもの、ちびっこにゃ〜らん
発掘担当の者たちが陸へ上がると、すでに子敬が夕食の準備を整え終わっていた。
「おかわりいっぱいありますから、欲しい方は言ってくださいね!」
「かまぼこ美味しいー!」
昼間からずっと働きっぱなしの透乃は特に腹が減りまくり、むしゃむしゃと頬張る。
「お茶もありますよ」
「うん、ちょうだい!んぐ・・・ふぅ〜。温まるね」
ウーロン茶の入ったカップを手に、ほっと息をつく。
「頭の飾りが邪魔で食べにくいな・・・」
「あら、やっちゃん。取らないで」
「そ、そんな〜芽美さん。食事の時くらい簡便してくれよ」
うるうるとした瞳で許可をもらおうとするが、彼女は首を縦に振らず、食事を取り始める。
「グラキエス、食べたいものがあれば私が取ってくるぞ」
ベルテハイト・ブルートシュタイン(べるてはいと・ぶるーとしゅたいん)は彼に夕食を食べさせてから、発掘作業に取り掛かろうと、先に食事を取っている。
「それくらい自分で取れるが・・・」
「万が一、溢して火傷したら大変だ」
「じゃあ・・・。汁物と・・・ご飯を取ってきくれ」
「それとご飯だな?」
「エビ団子の汁物がありますね。ついでですし・・・アキラの分も、・・・あれっ?お玉が!?」
アキラの器に装うとした瞬間、ヨンが手にしていたお玉が突然消えてしまった。
「えっ!?ちょっと・・・あの・・・っ」
どうやって取ったのか、いつの間にやらお玉を手にしたベルテハイトがパートナーの器に装っている。
呆然を目を真ん丸にしていると彼女の手にそれが戻され、“あっ”と声を発した時にはすでに、彼はご飯を皿に盛っている。
「すまない!ベルテハイトが迷惑をかけてしまったようだな」
「いえ、そんなに謝らなくてもっ。突然だったんでちょっと驚いただけですよ」
暴走するブラコンの代わりに謝るアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす) に、気にしてないですよ、というふうに言う。
「むー・・・これ以上、他の者に迷惑をかけなければよいが・・・」
グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)にご飯を食べさせようとする彼を軽く睨んだ。
「いや、食べさせてもらわなくても平気だ」
「遠慮しなくていいぞ、グラキエス。フーフーしてから食べさせようか?」
「本当に大丈夫だから・・・」
「もうよせ、主が困っているでないか」
ベルテハイトの手から箸をさっと奪い取り、主に渡すと皿も彼の方へ寄せてやる。
「(アウレウスめ・・・私とグラキエスの時間を邪魔をするとはっ)」
邪魔されたと思ったベルテハイトは、凄まじい形相で彼を睨んで嫉妬の炎に燃える。
「あれれー?向こうの3人はどうしちゃったのかな」
「目を合わせると危ないアルヨ」
触らぬ神に祟りなしと、ぼそっとチムチムがレキに言う。
「まったく、夕飯くらい静かに食えないものだろうか」
騒がしい・・・と、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)は眉を潜める。
「食事を済ませたら、その車両を駅の予定地へ運ぶのか?」
エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が浜辺に置いてある魔列車を指差す。
「静香と朱美を休ませたいから、6時間後くらいでいいかしら?」
「真夜中ということか。それくらいなら、こっちに戻って客車を引き上げに間に合うか」
「あー・・・俺のピヨは、夜間飛行は無理なんだよ」
ラズィーヤから支給されたエサを食べているピヨを見ながら、夜になるとピヨは辺りが見えにくくなるんだよ、とアキラが言う。
「先に眠るが、引き上げの手伝いがあるなら起こしてくれ」
「おっけー。おやすみー!」
「ねぇ、一輝。どうして車体に迷彩塗装しなかったの?」
「いくらプッロにニャ〜ンズを退かせてもらっても、日が沈んで視界が悪くなるとこっちが不利だからな」
「なるほどね・・・」
ロープやザイルにじゃれられたら、運べなくなるものね・・・とコレットは頷いた。
夕方まで働いたメンバーが眠りにつくと、静麻たちは客車の発掘をしようと洞窟へ向かう。
「客車の1両目はだいぶ進んでいるけど、2両目の方は岩盤を破壊しなきゃいけなさそうだな」
左側の車体を覆っている岩盤の下をスコップで掘り、機晶爆弾を埋める。
「あともう1つ、車輪からちょっと離れたところに埋めておくか」
「ドリルで穴を空けて仕掛けたほうがよくないか?」
「それじゃ頼もうかな」
「むっ、夜間の発掘は3人だけか」
大佐は工事用ドリルで掘りながらきょろきょろと回りを見る。
「魅音とリオには、ニャ〜ンズの相手をしてもらっているからな」
「私の方もそうだな」
仔猫サイズのニャ〜ンズと遊んでいるプリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)たちを見る。
「サイズ的にこんなものか。さて後4つ、どこに仕掛けるかな」
「ところで何両運び出すのだ?」
「今回は2両分くらいは運び出したいらしいな。後の4両は運転車両と、2両分の客車を修理してからみたいだ」
「ほう・・・。あまり手間をかけないように、少し進めておいた方がよさそうだな」
邪魔なところだけ崩してやるかと、大佐は後部車両の近くをドリルで掘り、爆弾をセットする穴を開ける。
「あ、主よ・・・・・・海の中ですか?!」
ウォータブリージングリングをはめてパラミタ内海に入ろうとするグラキエスに、アウレウスが焦ったように大きな声で言う。
「私は泳げないのですが!」
「魔鎧として装着していくんだろ?」
「私を装備したままでおやりになると・・・・・・」
「アウレウスの知識を借りたくってな」
「なるほど、私は土木作業の応用で崩す場所などをお教えすればよいと。そういうことでしたら、存分に私をお使いください」
そう言い終わると彼は主に装着し、共に海の中へと向かう。
「小さなニャ〜ンズが洞窟の中に入り込んでいるが?」
「きっと、ドリルの音を珍しく思って見にきたのでは?」
「(怪我したりしなければいいが)」
グラキエスに気づかず、ギュガガガガッと凄まじい騒音に気ついたニャ〜ンズたちが洞窟に侵入する。
にゃ〜らん・・・。
すぃ〜んと大佐に近づくニャ〜ンズをプリムローズがハグする。
「ちっちゃーい!ふかふかで可愛い〜っ」
捕まってしまったちっちゃなギャングが彼女の手から逃れようと暴れる。
「大ちゃんたちの邪魔しないでね。悪い子はメッなんだよ?」
「私にも貸して。柔らかいね、もふもふにゃーん」
思ったよりも、もふもふしていないけど、水中で毛が濡れているから仕方ないわね・・・と思いつつ、ライラック・ヴォルテール(らいらっく・う゛ぉるてーる) はギューッとニャ〜ンズを抱き締める。
「みゃあみゃあ鳴いてるよ!もう食べちゃいたいくらいかーわいい♪」
尾ビレをぱたぱたとさせているちびっこを、ライラックの手から取り戻す。
「食べないで、プリムローズ」
「本当に食べたりしないよ。だってこんなに可愛いんだよ?はむーってしてみたくないっちゃう。―・・・でもこの子達美味しいらしいんだよね。食べて見たい。でも可愛いからちょっとなあ、でも美味しいって言うし・・・」
どんな味するのかな、だけど可愛い生き物を食べるなんて!と思いながら、じーっと小さなネコ鮫を見つめる。
「そんな怖いこと言わないで・・・、もふにゃんが怯えてしまうわ」
ぱっと彼女の手から取り上げ、渡さないわ!と抱きソ寄せて保護する。
「うわ〜ん、返してよー!」
「こら、2人共!ケンカするな」
「だって大ちゃん、ライラックさんがニャ〜ンズをとったんだよー。うわーん、えぇ〜んっ」
「プリムローズが・・・もふにゃんと食べるっていうからじゃないの」
「本当に食べちゃおうと思ったのか?」
「そんなことしないよっ。うぅ・・・えっぐ」
黒色の瞳からぼろぼろと涙を流すプリムローズの頭を大佐が撫でてやる。
「ライラック、貸してやれ」
「うん・・・」
ニャ〜ンズを離したライラックは寂しそうにしょんぼりとする。
「おいでー、にゃんにゃん」
プリムローズが手を広げると、あそんでほしぃにゃ〜という感じで、ちびっこギャングが彼女の傍へ寄る。
「(そういえば、陸でご飯食べた時・・・この子たちを美味しそうに食べてる人たちが、いっぱいいたよね。うぅ、でも食べないって大ちゃんと約束したし。でもでも〜)」
手の平サイズのちびっこを見つめながら、食べてみたい・・・可愛い生き物を食べたくないという思考の無限ループにはまってしまう。
「もふにゃん・・・?」
車体の下からみゃんと鳴き声が聞こえ、覗いてみると・・・。
「―・・・小さいのがこんなに!?」
じゃれあうちびっこを発見し、その群れの中に手を入れて懐へ抱く。
「猫は夜行性だからな。ニャ〜ンズも夜になると、活発化するのかもな」
「へぇー・・・そうなのね」
「爆弾をセットしたから、ライラックたちもいったん外へ出てくれ」
「うん。危ないから、もふにゃんも一緒に行こうね」
両手いっぱいに小さな海のギャングを抱え、大佐の後についていく。
「ちょっと砂利を被せておけば、破片も飛び散りにくくなるかな?おーい、爆弾使うから外に避難してくれ」
静麻も爆弾をセットし終わり、洞窟の奥にいるグラキエスを呼ぶ。
彼は軽く頷き外へ出ると、クションのように柔らかな何かにぶつかる。
ゆっくりとそれを見上げると・・・。
「もしかして、あの時のヤツなのか?」
あそんで〜あそんで〜とぐるぐると喉を鳴らしながら、すり寄るニャ〜ンズの頭を撫でる。
「ごめんな、今は遊んでやる時間はないなんだ」
見張り用のフラワシに気を惹かせ、ワカメで作った紐をふりふりと揺らしてもらう。
“おもしろそうなおもちゃだにゃ〜”と言ったか分らないが、嬉しそうに尾ビレを振り海草紐にじゃれつく。
「主はお優しいですね」
「そうなのか?ただ・・・音に驚いたり、破片が飛んで傷ついたら可哀想だからな」
動物好きな彼にとってはごく当たり前のことだ。
しかし、2人だけの会話をあまりよく思わないもう1人のパートナーが聞いたらとしたら、アウレウスに嫉妬しそうだ。
そのベルテハイトは・・・。
「グラキエス・・・どうして私を置いていくのだ!?」
シュヴァルツで引き上げ担当してもらおうために、浜辺で待機させられている。
「私は悲しい、悲しいぞ・・・グラキエス。仕方ないこととはいえ、なぜアウレウスを連れて私をっ。普通、逆ではないのか!!?」
土木建築の知識で教えて欲しいから、ということだけだが。
「戻ってきてアウレウスとチェンジしてくれーっ!!」
それを知っていても、私が置いていかれる理由にはならない、“カムバック弟!”というふうに叫んだ。
“うるさいわね、このブラコン!”と、女子のテントの方で睡眠を妨害された芽美が怒鳴る。
だが彼女の言葉は彼の耳に届かず、真夜中にまったく空気を読まずパートナーを呼び続ける。
「ふわ〜・・・。まだ夜中じゃないか。まぁ、あれだ。頼りにして操縦を頼まれたってことじゃないか?」
「そうなのか!?グラキエスが私を頼りにしてくれているのかっ」
「うん、そうだな。頑張れ!」
「ではしばし待つとするか」
ハイラルが元気づけてやると、指示が送られるまで大人しく待つことにした。
「何ですか・・・今の声は?」
まだ眠たい目を擦り、テントに戻ってきたハイラルにレリウスが声をかける。
「あはは、問題ない。無事に解決させた。ちょっと目が覚めちまったから、向こうを手伝ってくるな」
「引き上げる時は起こしてくださいね」
「おっけー、じゃあそれまでゆっくり寝てろ」
そう言うと彼は片手を振り、工具箱を抱えて発掘現場へ向かう。
真夜中でも撮影を続けようと、仮眠から起きた刀真はナレーションを再開した。
「もの凄い爆音にニャ〜ンズが洞窟の周りに集まってきています!」
土煙が立ち込め、中の様子が見えない。
「おや、海草紐にじゃれながら離れていきますね?」
「きっと怪我をさせないための対処ね」
フラワシが揺らす紐に集まっている様子を月夜がレンズに映す。
「ご飯よ、おいで!」
かつおぶしをちらつかせた彼女は、小さなニャ〜ンズを呼び集める。
「きゃはは、くすぐったい!取り合わないでゆっくり食べるのよ」
わさっと寄って来た小さな海のギャングに、かつおぶしがついた手の平を舐められる。
「月夜、ニャ〜ンズと遊ぶのは程々に・・・」
「あっ、こら!」
にゃんにゃんと黒ビキニの紐にじゃれられ、しゅるりと外れてしまう。
ぱっと刀真の方を見ると、彼は明後日の方角へ顔を背けている。
「(あっ、うんゴメン良い物を拝見しました)」
見てないフリをするが、光精の指輪の明りでバッチリ見えていた。
土煙が消え去った後、イルカに乗って避難していた大佐は現場へ戻る。
ヘッドライト付きヘルメットの明りを頼りに、サイコキネシスでぽんぽんと瓦礫を外へ放り出す。
「(私は瓦礫の撤去をするから、細かい作業は頼んだぞ)」
「(本当に細かいところは指でやるか)」
テレパシーを送る大佐に了解、と言うと静麻は車輪の穴に詰まった砂利を指で退ける。
「連結器の下の方は、ピックで掻き出せそうだな」
さっきの爆発の影響か、崩れた石をガリガリと取り除く。
「さて、これをどうやって外そうか・・・」
「あっ!それオレがやるよ」
メモを手に夜の作業に参加しにきたハイラルが、連結器を外し始める。
「私はネジを回収するわね」
ベルテハイトの騒ぎ声でぱっちり目が覚めてしまった綾乃がビニール袋を広げる。
「まいちゃんは、簡易レールの方をお願いね」
「ふわぁ〜・・・」
舞香の方はまだ眠たいのに、彼女に起こされて連れてこられた。
「昼間作業していた人もいますね?一刻も早く、発掘を進めたいという気合からでしょうか」
休まないんでしょうかね・・・と思いつつ、明らかに眠そうな舞香の姿に刀真は首を傾げた。
「おっと、バッテリー交換してきますか」
破損しないよう耐水性のポーチに入れてきたバッテリーを取り出し、カメラのバッテリーを交換する。
現場へ戻るとグラキエスがランスバレストで、岩盤を破壊し掘り進めている。
「アウレウスを連れてきてよかったな。作業も進みやすいし」
ベルテハイトが聞いていたら、嫉妬に狂いそうな言葉だ。
「主、片側ばかり掘っていては、車体が傾いてしまいますよ」
「そうなのか?」
「えぇ、そうなっては運ぶのが難しくなりますから。後日、再び来た時のために、後部車両の発掘も進めておきましょう」
「この分だと、発掘は後1回で済みそうだな」
運び出しやすいように粉砕しながらアウレウスに言う。
「発掘メンバーの何人か、修理の方に回るとスムーズに進みそうですね」
「そうだな。ニャ〜ンズと会えるのも・・・」
「列車の発掘が終わっても、きっと会いに行ける機会もありますよ!」
寂しそうにしゅん・・・となる主を元気づけようとする。
「次の発掘の機会でもあれば、少し遊ぶ時間もあるかもしれませんし。今、手間を減らしておけば、その時間も増えますよ!」
「そうなのか・・・?じゃあ、頑張らないとな」
彼の言葉にやる気を取り戻したグラキエスは、嬉しそうに微笑すると作業を進める。
「ボールだよ、こっちで遊ぼう」
ニャ〜ンズが静麻たちの邪魔をしないように、魅音とリオが相手をしてやる。
「ねこじゃらしもあるわよ。楽しい玩具にじゃれてみたいでしょう?」
「主、羨ましいのは分かりますが、今は・・・」
「分かっている」
発掘に集中しなければいかないのは分かっているものの、ちらちらと可愛らしくはしゃぐニャ〜ンズたちを見てしまう・・・。
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