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太古の昔に埋没した魔列車…御神楽環菜&アゾート 後編

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太古の昔に埋没した魔列車…御神楽環菜&アゾート 後編
太古の昔に埋没した魔列車…御神楽環菜&アゾート 後編 太古の昔に埋没した魔列車…御神楽環菜&アゾート 後編

リアクション

 建設や燃料の加工が進む中、和泉 猛(いずみ・たける)は発生した大問題に悩み、どうしたらいいものかと両手で頭を抱えている。
 作業が終わる期間がこれ以上伸びるなら、出資家から投資の件は考えさせてもらう、と言われてしまった。
 もちろん、エリザベートやラズィーヤ、静香のことではなく、3人からはストップするとは言われていないから、金銭に関してはあまり問題はない。
「はぁ〜…皆になんて言えばいいのか…」
 だが、本当に厄介な悩みはそのことではない。
 その悩みとは…パラミタ内海で発掘作業している間に、列車の所有権をシャンバラに申請したという者が現れたことだ。
 法的に手順を踏み、権利を得たらしいが…。
 本当に利益の配分をやるかはさておき、“この計画に関わった者たちの協力なしに、事業の成功はない。利益を得たら何パーセントか、そちらに渡そう。”などと、甘い言葉をちらつかせて交渉してみる。
 出資家と名乗る者が首を立てに振ろうとした時…。
「実は環菜のために…」
 と、彼女の名前を口に出したとたんに、断られてしまった。
 いままでのツケというか、相手の逆恨みというか…。
 とにかく、どう報告したらいいのか考え込んでしまう。
 列車の修理にしているエリシアに相談してみたが、出資者の3人はその者の存在は知らないし、お金も受け取っていない、怪しいですわね…と言われた。
「―……か、環菜っ」
 そこへ、ゆっくりと歩く彼女を見つけ、小さな声音で言う。
 その横にはスケジュール表を抱えた松川 咲(まつかわ・さき)の姿もある。
「あ…あのだな…。なんて言ったらいいか…。出資家のヤツが先に列車の所有権を得たと言ってきたんだが」
「出資家?それってエリザベートたちのことかしら」
「いや、その3人のことじゃないんだ。それでだな、列車を使用させないと一方的に割れてしまった…。そんな汚い手を使うヤツだと思わなかったんだ、…すまない!」
 首を傾げる彼女に猛は別の人物のことで、問題が起きたことを伝える。
「―…そもそも、あの3人からしか出資してもらってないわよ。それに、彼女たちも他の者から一切、そういった資金を受け取っていないわ。そういった交渉をするなら、まず4人で話し合うはずよ」
「怪しげな連中が寄ってくる危険性も考えて、環菜も他の人から資金を受け取っていませんからね」
 そういった重要なことは、夫の俺にも話しが伝わるはずですし、というふに陽太が言う。
「まぁ、権利を得た…という話もウソってことになりますね」
「なっ…ウソ!?」
 彼の言葉に猛が驚いたように目を丸くした。
「すでにもう魔法学校の校長やラズィーヤさんが所有権を得ていますし」
「そ、そうだったのか…」
「よかったね、ただのウソで」
 猛が安堵した様子を見て咲もほっと息をつく。
 激怒したエリシアが通報し、その出資家を務所送りにしたのは言うまでもない。








 駅舎の1階部分や待合室、そのコテージのような建物の中央にある噴水、ライブステージが徐々に出来始めた頃。、
 ヴァイシャリーの別邸の簡易ラボでは、どっさりと機晶石が運び込まれている。
「重い物は私が運んであげるよ!」
 ケースにぎっちり詰められた機晶石を、白瀬 歩夢(しらせ・あゆむ)アゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)の代わりに運んでやる。
 彼女の細い腕だと痛めてしまうどころか、よろけて転んでしまうかもしれないからだ。
「―…たくさんあるのに大丈夫?」
「こんなの1人で平気だよ。そこ開けてくれるかな」
「うん、気をつけてね」
 ドアが閉まってしまわないようにノブを掴む。
「テーブルと床、どっちに置く?」
「床がいいね」
「分かった!」
 タイルカーペットを傷つけないように、ケースをゆっくりと下ろす。
「どれくらい必要なのかな?」
「後、5ケース分は欲しいね。列車の燃料としてだけじゃなく、駅舎の方でも少しいるみたいだから」
「なるほどね。でも、全部加工ておかなくても大丈夫?」
 また加工することになると手間だし、今片付けてしまったほうがいいのか聞く。
「ううん。この量だし、ちょっと厳しいね。使う分だけ加工しよう」
 そう言うとアゾートは小さな半球型の透明な容器に、コロンと機晶石を入れ、同じ形の物を被せてキュッと回して閉める。
「1個ずつ加工するんだね」
「だから、かなり手間がかかるんだよね」
 ビリジアン・アルジーから抽出し、熱量となる液体化させてもらったそれを、燃料となる物を入れた容器よりも少し大きめな容器の中に、3分の1くらいの量を入れる。
 器の天辺の穴から溶液を足し、その中に機晶石が入った容器ごと入れた。
「それで終わり?」
 以外と簡単に出来るものなのか、と歩夢は首を傾げる。
「まだだよ。またちょっと大きめなやつに、これを入れるんだけど…。ちょっとSPを消耗する作業なんだよね」
 とすんとタイルカーペットに膝をつき、機械のコードをつなげながら言う。
「(い、今…2人きりなんだよね!?)」
 歩夢はドキドキしながら彼女の無防備な後姿を眺める。
「なっ何か…手伝おうか?」
 そう言いつつ、さりげなくアゾートの隣に座ろうとすると…。
「あの、アゾートさんのお手伝いをさせてください!」
 エリセル・アトラナート(えりせる・あとらなーと)の声が2人だけの時間を一瞬にして破壊する。
「―…だ、誰!?なんだ、エリセルさんか」
 大きな声に驚いたアゾートが振り返り、見知った顔を見ると、ほっと息をついた。
「え、ええと…頑張ってアゾートさんのお手伝いをさせていただきますね!」
「ありがとう、人が全然いなくて困ってたんだ。今は歩夢と2人で作業しているところだよ」
「2人!?」
 狭くはないがアゾートと同じ部屋に、2人きりだなんて許せない!と思い、エリセルが声を上げる。
 ぐっと眉間に皺を寄せて歩夢を睨む。
「よかった、来てくれて助かったよ。正直、列車の燃料分すら間に合わないかと思ったからね」
 ドキドキのひとときに入り込まれたことにムッとする様子もなく、にこっとエリセルに微笑みかける。
「えーっと……。そうですね、確かにけっこう量があるみたいですし」
 素直に自分を歓迎してくれる歩夢に、声のボリュームを下げる。
「あっ、アゾートちゃんに機晶石を運ぶの頼まれていたんだっけ」
 思い出したように言うと夢歩は慌てて別室に取りに向う。
「(アゾートさんに危害をくわえるような人に見えないのに、なんで不愉快に思ってしまったんでしょうね…)」
 仲よさそうにピッタリと隣にいるといっても、彼女たちは作業しているだけなのだが。
 その光景を見た瞬間、なぜだか不愉快な気持ちになってしまった。
「ねぇ、手伝いに来たんじゃないの?」
「分かってますよ、ヴィー。今、手順を聞こうとしていたところなんですっ」
 光学ステルスで姿を隠しているトカレヴァ・ピストレット(とかれう゛ぁ・ぴすとれっと)に、小さな声音で言う。
「燃料の加工の仕方を聞きたいのですが…」
「その前にこのコードを、機晶石やアルジーの液体が入っている容器につなげてくれる?」
「後、容器が転がらないように、クランプで固定しておきますね」
 容器の蓋の小さな穴にコードをつなげると、転がらないようにクランプで固定する。
「で…後はこのモニターに手の平を当てるんだけど」
 アゾートは機械のタッチパネルを押して、送り込む冷気を調節する。
「氷系の魔法じゃなくっても、そのスキルの力が器の中に送り込めるんだよ」
「燃料として燃やすんですよね?」
 どうして氷系なのかハテナとエリセルは首を傾げた。
「えっとね、アルジーの液体を覆う氷の層と…。その上に火の層…さらに氷の層がある感じかな」
「火の部分が下の層を溶かして、アルジーを燃やすってことでしょうか」
「まぁ、そんなところだよ。運ぶ時間を考えて、層の厚みを調節するんだ」
「とりあえず、液体を覆う部分まで進めますか?」
「残りの工程は魔列車が完成してからだね」
 エリセルに軽く頷くと、容器に冷気を送る。
 青緑色の液体を覆うように水色の気体が流れ込み、だんだんと氷として固まる。
 それは水が冷えて固まったような氷でなく、アゾートの力が凝縮して固体化したような感じだ。
「コードを外してタンプラーに固定したまま、別のテーブルに置いておこうかな」
「ここまで進む前の工程を聞きたいのですけど…」
「半球型の器があるから、機晶石を入れて同じ形の器を被せて閉めてくれる?」
「いろんな大きさを用意したんですね」
「機晶石のサイズはいろいろあるからね。合わないと困るし」
「確かにそうですよね…」
「それが終わったら次は、それより大きめな容器にアルジーの液体を先に、3分の1くらい入れてから機晶石を入れた容器を入れるんだ」
 エリセルに教えようと、彼女の傍で手順を説明する。
「小さな穴があるから、そこにまた液体を足してね」
「ちょっとずつ注ぎましょうか…」
 指示通りにエリセルはアルジーの溶液を溢さないようにゆっくりと注ぎ足す。
「さっきみたいにコードをつなげていいんですよね?」
「うん、お願いね」
「そういえば…2人だけになっちゃいましたね」
 トカレヴァの存在を忘れたわけではないが、パートナーの方は姿を隠しているから、2人きりになってしまったのと同じような感じに思えた。
「歩夢さんが戻ってくるまではそうなるかな」
「―…そ、そうですね…」
 ただでさえ人がいなくて大変なのだが、戻ってきたら話す時間が減ってしまうんじゃないかと、一瞬ムッとした顔になる。
 友達としての感情しかないはずなのに、なんだか妙な気分だ。